軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

181.その問いに答えはなく

人が死ぬ時は、一瞬なのだろうか?

それとも時間がかかるのだろうか?

悪いことをした人はどうなのだろうか?良いことをした人は?

死の瞬間に何が見えるのだろうか?

ただ一つ言えることは、理不尽に命が奪われ、原因を究明する手段がなくなったと言うことだ。

「ーーーーそれは、でもどうしてその人だってわかったんですか?」

街で荒くれ者に襲われてから数日。

私は相変わらず王城で女官をしながらサリュー様の様子を伺っていた。サリュー様が何を考えているのかよくわからないけれど、それでもサリュー様とウィズ殿下が思い合っているのだけは側で見ていてもわかる。

サリュー様の心配事が少しでも減らせる手伝いができれば良いけれど、呪いの元がわからないのでは解呪もできないらしい。聖属性の力だけでは何ともしがたく、あっちもこっちも手をつけて中途半端。今の状況を表すならまさにコレだろう。

本当なら全部ビシッと解決して、みんなの心労を取り除いてあげたい。でもそれだけの能力も力もない。カーバニル先生からは「あまり他国のことに口を挟むのは良くない」と忠告された。確かにその通りだと思う。

中途半端に引っ掻き回して、でも何も得られるものがない。リリのことだってカティア家に任せただけで私が何かできるわけでもないし……それに商業ギルドの不正も分からずじまいだ。

どうしようかと悩みつつ女官仕事を終えカティア将軍の執務室に戻る。ひとまず着替えよう、と考えているとネイトさんが困った顔で話しかけてきた。

その困り顔に何だか胸騒ぎがする。だってネイトさんはとても優秀な人。その人が困る時は何かが起こった時だ。

「どうしたんですか?」

「実は……カティア家に憲兵達からこの間の荒くれ者達のことで連絡が来ているんです。それでその、ルー嬢にはもう一度ステラ様と一緒にお話を聞きたいと」

「なんだ、それぐらいなら別に構いませんよ?ネイトさんが困った顔してるから何か起こったのかと思っちゃいました」

「起こった、といえば起こっているんですよ。これがね」

あっさりと言われてしまい、私は驚いて目を瞬かせる。起こった?何が起こったのだろう?憲兵の詰め所まで話をしに行くことではまず無いだろうけど……

そうなると他に何が?実はちょっとした騒ぎを起こしたとランカナ様の耳に入ってしまったとか?他国で問題を起こすのはやっぱりダメだものね。怒られる覚悟をしつつ、私は恐る恐るネイトさんに話の内容を聞く。

「えっと、その……起こったこと、とは?」

「そうですね。順を追って話しましょうか。まずは着替えてからお茶でも如何です?」

「あ、はい」

言われて女官のお仕着せを着替えるべく、執務室の奥の部屋へ向かう。ちょっとした仮眠がとれる部屋には私の服を置かせてもらっているのだ。

手早く着替えてネイトさんの元へ戻ると、丸いテーブルの上にはお菓子とお茶が準備されていた。

「すぐに将軍も来られますが、その前に私から話をしておきますね」

「はい。お願いします」

「まず一つ、あの商業ギルドで不正はもう起こらないでしょう」

「どうして断言できるんですか?決定的な証拠もないし……時間が掛かるとカティア将軍も言ってましたけど」

「そうですね。決定的な証拠がなければ、難しい。それが我々の見解でした。ですが不正をした人が自首してきたんです」

「自首……?罪の意識が芽生えた、とかですか?でもそれにも原因がありますよね?罪の意識があるなら最初からしないでしょうし」

悪いことだとわかっていながら不正を行なっていたのだ。そう簡単にバレないと本人達だってわかっていたはず。だって証拠がなければ憲兵達も動けない。

リリ達の証言を集めてはいるけど、それと商業ギルドが不正していたかはまた別になる。だって商業ギルドは商家からの言い分を跳ね除けられるのだから。

リリ達のようなお金に困っている人を安くこき使ったのは商家であり、商業ギルドは正規の手続きに則って人を手配している。と言われたらどうしようもない。商業ギルドに駆け込んで来なかったので気付かなかった、と言えばそれでお終いだろう。

でもそうではなく、自首してきた。自分の罪を詳らかにする為に。何のために?そこにはちゃんとした理由があるはずだ。

「実はですね、商業ギルドの受付を担当していた男が一人……死んでいるんです」

「死んだ……?」

「ちょび髭の物腰穏やかそうな男です。覚えはありませんか?」

「もしかして……私とステラさんを接客してくれた受付の人?」

「その通りです。どうやらその男が主犯だったようなんですけど、その男が裏路地で刺されて死んだんです。場所が悪かったのか、腐敗がだいぶ……あ、申し訳ありません。女の子に聞かせる話ではなかったですねぇ」

ネイトさんはハッとした表情を浮かべると、ポリポリと頬をかいた。私は頭をゆるく左右に振る。ほんのひと時とはいえ、話をした人だ。悲しくないわけではないが、事故でも病気でもなく刺されて死んだのであれば何かしら理由があるのだろう。

原因を究明する為にも、悲しんでばかりはいられない。

「どうして、刺されたんですか?というか、腐敗していたのならーーーーそれは、でもどうしてその人だってわかったんですか?」

「どうしてか、と言いますと出勤してこず家族からも行方不明だと届出があったからです。そうこうしてるうちに、裏路地で遺体が発見されたわけですね」

この数日で死んだにしては妙に腐敗が進んでいたが、遺体の着ていた服や持ち物から商業ギルドの受付をしていた者ではなかろうか?となったらしい。

家族が顔を確認したそうだが、家族でも判別つかないほど腐敗が進んでいて多分そうであろうぐらいしか分からなかったそうだけど。

ただ、男の懐に奥さんが贈った根付けが入っていて、それが決め手となったらしい。その根付けは奥さん自身が作った一点物だったのだ。

「今のところ、場所が場所なので犯人もわからず……仕事もきっちりこなして職場での人望もあったようですから不思議がられてます」

「でも、不正に手を染めていたんですよね?」

「はい。最初は殺された理由が分からず困っていたそうですが、急に職場に出てこなくなったことで同じ不正に手を染めていた一人が怖気付いたようです。ちょうどルー嬢が商業ギルドに行った日に不正の証拠を処分するように言っていたようなので」

「不正の証拠を?」

「ルー嬢が、というよりステラ様が査察に来た役人ではないか?と疑っていたようです」

確かにステラさんはキビキビしているからそう見えてもおかしくない。まあ、普通に見ていれば商家の令嬢で通るだろうけど、悪いことをしている人にとってみればそうは見えなかったということか。

確かに不正の確認をしに行ったわけだけど、もしかしたらそのせいであのちょび髭の男の人が死んでしまったのではなかろうか?と思うと罪悪感が湧いてくる。

そんなつもりはなくて、ただ不正を暴くために行ったのだ。もちろん不正が暴かれれば、ちょび髭の人は罪を償うことになる。どの程度の罪になるかわからないけど、即死刑となる罪ではないはず。

でも私達が不用意に動いたことで、彼らの仲間内で何かが起こって殺されたのだとしたら……私は、どうすれば良かったのだろう?

「姫君、貴女が悪いわけではないのです」

「ネイトさん……でも、私達が不用意に動いたせいでそうなったのなら、責任の一端はあると思うの」

「いいえ、ありません。遅かれ早かれ因果応報として巡ってきたでしょう」

「そんなこと、わからないわ」

「わかりますよ。騙していた張本人です。訴えようとして商業ギルドの人間に追い返されたり、酷い扱いを受けた人もいたはずです。その人達は覚えてますよ。不正を働いた人間の顔を」

「……その人達が、殺したというの?」

「犯人はわかりません。ですが、私は違うと思います」

ネイトさんは自首してきた人間が不可解なことを言っていると教えてくれた。殺された人とは別に、もう一人確かに人が働いていたはずなのにわからない、と。

不正に関わっていない他のギルド職員に聞いても、人が一人いないはずなのに誰かわからないと言っているらしい。本来ならあり得ない発言だ。

「その誰か、が犯人ってこと?」

「殺された男は非常に勤勉で周りからの信頼も厚かったそうです。ですが、ギルド長にはなれなかった。その辺りを突かれて唆されたのでは?とギルド長自身も発言しているそうです。不正なんてしそうにない、むしろ止める側の人間だったと」

「そう……」

「我々が探すべきはその謎の男です。いたはずなのにいない。誰一人覚えていない男。何とも興味深い話です」

「でもそれって嘘ついてる可能性もあるわよね?」

「そう思うでしょう?その自首してきた男はね、少し他の者達よりもズボラだったんですよ。他の者は言われてすぐに証拠となりうる書類を破棄したのに、その男だけは破棄していなかった」

「そこに謎の男の手がかりがあるの?」

「はい。字が誰とも合わないそうです」

字というのは、人によってかなり性格が出る。几帳面な人、ちょっと雑な人、もちろん代筆業もあるので必ずしも本人が描いてるとは限らないけど。

商業ギルドの誰も当てはまらない文字。つまりは、誰か、いたはず。ただ文字の主を探すのは至難の業だろう。だって不正を働いていたちょび髭の人は死んでいて、他は覚えていないのだ。

そこで何かが引っかかった。不正を働くには、商業ギルドの人間だけでは足りない。そう、私達を襲った人達も関わっていたはず。

「その、不正を働いていたのが殺された人だとして、私達を襲った人はその人を知ってるってことですよね?だってギルドがどうとか言っていたし」

「そこでルー嬢とステラ様に詰め所に行っていただかなければ行けない話になるんですよ」

「どういうこと?」

「まあ、何と言いますか……その男達も殺されました」

「え?」

「一人残らずです。なので自首してきた、というわけです。次は自分かもしれないとね」

あの荒くれ者達はまだ詰め所に留め置かれていたはず。それなのに殺されたなんて……詰め所には憲兵達が常に詰めている。だってそういう場所だもの。それなのに殺された。誰が?何のために?

答えの出ない謎。不安だけが私の中を埋め尽くしていった。