軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

179.商業ギルド 2

商業ギルドは思ったよりも開けていて明るい場所だった。

ファティシア王国の商業ギルドがどんな作りなのか知らないから比べようがないけれど、三階建の建物の真ん中には中庭が作られていて一階まで光が届いている。

受付の数も多いし、受付の前だけでなく中庭にも椅子とテーブルが並べられていて職員の人と話し合う人が多く見受けられた。

「すごい広いですね」

「王都のギルドだから他よりはね」

「他のギルドはもう少し狭いのですか?」

「ええ。それにしても……何度かきたことはあるけど、前回来た時よりも立派になってるわ」

そう呟きながら、ステラさんは辺りをキョロキョロと見ている。私もつられるように周りを見ていると、受付に座っていたふくよかな男の人と目が合った。

歳の頃はカティア将軍よりも年上だろうか……?鼻の下にちょび髭があって、どことなくドエクス伯爵を思い起こさせる。あの髭あの後どうなったのかな?でもアレは失礼な態度をとった伯爵が悪いのだから仕方がない。

そんなことを考えていると、ちょび髭の男の人がこちらに近づいてきた。何かあやしまれているのだろうか?思わずステラさんの上着をキュッと掴むと、ステラさんが「どうしたの?」とこちらを見る。

「お姉様……」

「あ、ああ……」

「お客様、当ギルドのご利用は初めてですか?よろしければご案内しますよ?」

「まあ、親切にありがとうございます。私たち田舎から出てきたばかりで、不慣れなんですの」

「そうですかそうですか。ここは広いですからね」

「ええ、地元のギルドなんてこの半分以下だわ。すごく広くて働きやすそうな場所ですね」

ステラさんが褒めるとちょび髭さんは気をよくして、この建物がいつからできてどんな建築手法が使われているのか、それはそれは親切に教えてくれた。そして最近改修工事が終わったことも。

昔の技法を使うのは職人選びも大変だし、お金も余分にかかる。そう語るちょび髭さんの話を興味深く聞いていると、ちょび髭さんは「小さいお嬢さんも熱心で偉いね」と奥の部屋からお菓子まで持ってきてくれたのだ!

え、なんかとても親切……リリの話からもっと横柄な態度を取られると思っていただけに、ちょっとビックリだ。

これはやっぱりステラさんが一緒だからなのか、それともそこそこ身形が良さそうな相手には丁寧なのか、ちょっと判断に困る。

「ささ、どうぞおかけください」

「ありがとうございます。さ、ルーも座って」

「はい、お姉様」

「実はこの子の奉公先を探してますの」

「こちらのお嬢さんのですか?」

「ええ、我が家は子沢山なので……お店で教えるにしても、身内だと甘くなってしまいますでしょう?なので短期間でもいいから、王都の立派なお店を見て仕事ぶりを吸収してもらえたらと」

まるっと嘘なのだが、まるで台本でもあるかのようにスラスラと話ていく。私の仕事先を探す、という名目だが大丈夫だろうかと心配になってきた。いや、まあまるっきり嘘ではないけれど。兄弟が多いのは本当のことだし。

ちょび髭さんはステラさんの話をうんうんと頷きながら聞き、そして私に目を向けると「よそのお店ではお家と違って大変だよ?大丈夫かい?」と優しく聞いてきた。私はなるべく世間知らずな子に見えるように、モジモジとしながら話してみる。

「えっと、不安も多いですけど……勉強したい気持ちも強い、です」

「そうかそうか。お嬢さんは文字の読み書きはもう平気かな?」

「はい。あ、でも難しい言葉だと書けないかも……」

「ああ、そこまで難しいのはないと思うよ。ただ専門用語はあるから覚える必要はあるかな」

「計算もできるので、そちらでも大丈夫です」

「ああ、それは重畳!応募の幅が広がりますよ。ご実家のお店はもちろん登録済みですよね?」

「ええ、もちろん」

ステラさんの一言に、ちょび髭さんが満面の笑みを浮かべる。読み書き計算ができるとお得なのだろうか?一般的な識字率もわからなければ、このギルドが普通なのかもわからない。

一人焦る中、隣に座っているステラさんはギルド証を取り出しちょび髭さんに渡す。それを渡したら、カティアの人間だとバレるのではなかろうか?そんな心配をよそに、ちょび髭さんの態度はまるで変わらなかった。

ちょび髭さんは「ありがとうございます」と言うと、ステラさんにギルド証をあっさり戻す。そして応募できる仕事を探してきますねと席をたった。

「では少々お待ちください」

「はい、お願いいたします」

ステラさんがちょび髭さんに手を振ると、機嫌良さそうにちょび髭さんは奥に引っ込んでいく。その隙にステラさんがこそりと耳打ちしてきた。

「実はね、『カノーチェ』という偽名があるの」

「『カノーチェ』?」

「そう。ステラ・カノーチェ。うちの幾つかある商会の一つだけどカティアとは表向き繋がっていないの。内緒よ?」

唇に人さし指をあて、ニコリと微笑まれてしまうと頷くしかない。カティア家と繋がっていない、と見せかけているお店。ということはそれなりに理由があってしているということだろうし。

その理由を知りたいような、知ってはいけないような……いやいや、今の私の仕事は紹介してもらう仕事をきちんと見ること。

内緒というのであれば、口外はしてはいけないのだ。そもそもこの件は私のワガママからきている。本当は、王城に戻らなければいけないのだしね。

好奇心を抑えつつ、私はもう一度辺りを見回す。周りにいるのは、そこそこ身形の整った人たち。職員の対応も丁寧で横柄な態度をとるような人はいない。

「……本当に、虐げられているんでしょうか?」

「表向きはとてもまともね」

「じゃあ、そう簡単にはわからない?」

「直ぐにわかるなら、もう査察がはいっているわよ」

「そうなんですね」

つまり巧妙に隠されている?

今回来ただけじゃ解決できないとなると、これから先どうすればいいのかわからない。中途半端に手を出して、解決すらできない。そもそも私一人じゃ、どうすることもできないのだ。これからどうすればいいだろう……?

そんなことを考えていると、ちょび髭さんが紙の束を抱えて戻ってきた。

「お待たせしました。カノーチェ商会でしたら、このランクのお店からもう少し上のお店まで選べますね。あと変わり種としては、王城で宮女の募集もあります」

「宮女?侍女じゃなくて?」

「王城で働く女性は宮女、後宮の妃に仕える女性を侍女というんだ」

「へえ……すごい」

思わず口から溢れた言葉に、宮女は短期よりは長期の方が喜ばれ給金も良いよと教えてくれる。他にもカノーチェ商会が絹織物を扱っていることもあり、織物系や被服の商会を案内してくれた。

仕事の内容は、帳簿付けや書付等、私でもできそうな仕事が多い。ちゃんと選んで持ってきてくれたのが伺える。

「この書類って預かったりできます?うちの方は田舎だから平気だったけど、都会のギルドだと無理かしら?」

「ああ、大丈夫ですよ。これは応募を検討している方に差し上げてますから」

「ありがとうございます。宿に帰ってから、じっくり検討して見ますわ」

「ええ。そうしてください」

ステラさんはそういうとちょび髭さんにお礼を言う。私もそれに倣ってお礼を言った。ちょび髭さんはまたギルドに来たら気軽に声をかけてほしいと言い、私たちはそのままギルドを後にする。

書類と言う収穫はあれど、このままではリリに何も報告することができない。あの状態で査察を入れてもらうのだって不可能だ。だって彼らはきちんと仕事をしていたのだもの。

どうしようか考えていると、ステラさんが急に私の手を握り走り出した。

「え、あの!?!?」

「お願い。今は着いてきて!!」

「は、はい!」

バタバタと人の間を縫うように走っていく。何かあるのだろうか?チラリと振り向くと、人相の悪い男が私たちを追いかけてきていた。

「え?あれ……」

「全く、本当に嫌になるわね」

ステラさんはボソリと呟くと、細い路地に入っていく。こんな道に入って大丈夫なのだろうか?もし何かあったら、魔法石を投げても許される?そんなことを考えていると、行き止まりに辿り着いてしまう。

「あっ……!!」

「へっへっへ……残念だったな」

「あ、貴方たち一体誰なの!!」

ステラさんの声が恐怖に怯えて震えている。私は握られている手をギュッと掴み、ポケットに入れていた魔法石を取り出そうとした。するとステラさんに視線で止められてしまう。

「別嬪さんには別嬪さん用の仕事をさせたいってのが、うちのギルドの方針らしいぜ?」

「なんですって!?ギルドがそんなことするわけないわ!!」

「はは、本当に世間知らずだなぁ。ま、そんなことはどうでも良い。姉妹揃って売っちまえばそれでお終いよ」

下卑た笑いを浮かべながら、男たちはステラさんに手を伸ばした。

次の瞬間ーーーー

ドオンと音を立てて、男の一人が吹っ飛んだ。その瞬間を見ていた私ですら、一瞬何が起こったのか理解できなかった。それぐらい衝撃的で、残りの男たちが行動に移す前に全員地面に転がることになったのだ。

ニィと笑うステラさんはまるで将軍のようだった。