軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

157.ダッテ、アナタガ ワルイノヨ

暗い、暗い闇の中を歩いていく。

いや。実際には足を動かしているだけで進んでいないのかもしれない。何も見えないから、同じ場所をグルグルと回ってるだけなのかもしれないし。

それでも歩いている。歩みを止めることはできない。

だって止まったら、何かに囚われてしまいそうだから。

ただそんな気がするだけなのに、延々と歩き続けている。終わりの見えない闇の中を延々と。そうしていると、人というものは余計なことを思い出すものらしい。

嫌な、とても嫌な思い出。すると真っ暗闇だったはずなのに、いつかのパーティーの場面になった。

『ご覧になって?あの方が、王太子殿下の婚約者ですって!』

『まあ!まるで血みたいな赤い髪ね!!』

『どこが良かったのかしら?家柄以外、特出して何かあるわけでもないのに……それともあの方は 番(つがい) だったの?』

『違うみたい!どうせ本当の番が現れたら直ぐに捨てられてしまうわよ』

キャラキャラ、クスクス、扇子で口元を隠しながらも彼女たちはそういって私を嘲笑った。内心では誰も彼も自分の方が相応しい、と思っている癖に。そんなことは一言も言わないのだ。

正面きって言ってくれたならどんなに気が楽だっただろう。陰湿で、ドロドロとした負の感情。それをいつも苦々しく思っていた。

だからいつもいつも、「 私(わたくし) だってどうして自分が選ばれたのかわからないわよ!」と心の内で悪態をつく。

家柄以外、特出してるものがないのも本当のこと。魔力量だってラステア人としてみれば平凡も良いところだし、武芸だってそこそこ。自らの身は守れても、対魔物戦でそこまで役に立つわけではない。

何がランカナ女王陛下の目に留まり、そしてウィズ殿下の婚約者として選ばれたのか?その理由を私は何一つ知らないのだ。

ただ、父から「お前はウィズ殿下の婚約者に決まったよ」とだけ。それだけだった。番であるとも、何かが目についたからだとも何もない。何もないから、不安になる。

何か一つでも誇れるものがあるならば!私はそれに心血を注いで磨き上げただろう。もちろん、今だってウィズ殿下の婚約者として私は努力し続けている。

殿下が笑われないように、ランカナ陛下の名を汚さぬように。

でも、それでも不安は消えない。消えないのだ。どんなに努力を続けてもいつか、いつの日か……ウィズ殿下の『番』が現れたら、私はきっと捨てられてしまう。それぐらい『番』は大切な存在。

もちろん絶対に出会えるわけではない。ランカナ陛下のように王配様とかなりの歳の差になる時だってある。それでもランカナ陛下は王配様を選ばれた。

ウィズ殿下もきっと同じ。私ではなく『番』を選ぶ。

ああ、もう立っていられない。足元からガラガラと崩れ落ちていく。暗い闇にぽっかりと穴が空いて、そのまま落ちていくのだ。

誰も私なんか見てくれない。私の、わたしは……ワタシ、ハーーーー

「ーーーー…リュー?サリュー?」

あたたかく、優しい声。ああ、この声はウィズ殿下の声。どうしてこんな近くからしているのかしら?私はまた、何かをしてしまった?

「サリュー、朝だよ。大丈夫かい?」

「……え?」

「ああ、起きたね。寝坊助さん。愛しの君。もう朝だよ」

「で、んか……?」

「まだ寝ぼけているのかな?いつもは名前で呼んでくれるのに」

優しい声が頭上から降ってくる。ああ、そうだ。私は、私はウィズ殿下と結婚したのだった。もう子供だっている。命懸けで産んだ、殿下との子供はとても愛おしい存在。

さっきまでの出来事は、出来事?あら、私は何を夢見ていた??

思考が停止する。

そしてやけに暗い部屋の中で私は殿下を手探りで探した。だって不安なのだもの。でもこんな暗い場所でも殿下が側にいてくれるならきっと平気。

そっと声のした方へ手を伸ばせば、温かな手が私の手を握る。

「サリュー?」

「ウィズ様、今日は曇っているのでしょうか?それとも侍女がまだ部屋のカーテンを開けていないのでしょうか?とても暗いのです」

「……サリュー、今日は……とても、良い天気だよ?」

「え?」

だってこんなにも暗い。それなのに良い天気だなんて……殿下は私を揶揄っているのだろうか?実は今は夜中で、先に眠ってしまった私を起こしてしまったからそんな冗談を言っているのでは??

たくさんのことが一瞬のうちに頭の中を駆け巡る。でもその中には一つとして、自分の目がおかしいだなんて発想にはならない。

それも当然だ。だって、私は眠るまで普通に見えていたのだから。我が子のことも、身の回りの世話をしてくれる者たちのことも。そしてウィズ殿下のことも。全部全部見えていた!!

「ウィズ、様……私の眼は、おかしいのでしょうか?」

「サリュー、サリュー、気をしっかり持つんだ!」

力の限り抱きしめられウィズ殿下に愛されているのだという実感と、たとえ国母となったとしても目の見えぬ私に何ができるだろう?という不安。その両方が私の心の内をぐるりと巡る。

「誰か!至急オルヘスタルを呼んできてくれ!!」

ざわりと空気が動く。

私は、私の眼は一体どうしてしまったのだろうかーーーー?