軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

146.お祖父様と秘密の話 3

何だか大変なことになった。そう感じたのは私だけではないはず。そう思ってネイトさんを見上げると、特別困った顔はしていない。苦笑いは浮かべているけれど。

いつもならカティア将軍の暴走を止めている。でも今回に限っては止めないのだ。思わず顔を見上げると、これでいいとネイトさんはいう。

「どうして?」

「将軍をカティア家の人間だと証明する方法があるのですから、その手法を取らない理由はありません」

「カティア家の人間って証明する方法ってそんなに簡単にできるの?」

「できます。ただ……ルー嬢には難しいですが」

私には難しいといわれ、それはそうだ。と頷く。私の中にカティア家の血が流れていようとも、実際にカティア家で育ったわけではない。ラステアにいる間に習ったのは侍女の仕事だけなのだから。

「……ちなみに、それって私も頑張ればできるもの?」

「どうでしょうねえ。素地は良いと将軍も仰ってましたけど」

「素地?」

「武術の素地です」

「武術……証明する方法って、何かの武術を披露するってこと?この間の剣舞みたいに」

「いえ。もっと単純明快な方法ですよ」

「単純明快……?」

単純明快。単純明快な方法……?私はますますわけがわからず首を傾げる。そんな私を見てネイトさんはとてもいい笑顔で、グッと親指を立てた。

「千人斬りですよ」

「千人斬り!?」

なんとも物騒な答えにビックリしてしまう。そりゃあ将軍はとても強くなければなれない職業だけど。それでも千人を相手にするなんて!!

私は思わず将軍の背中を見上げる。しかし、私の心配をよそに将軍は背中からも嬉しそうな空気が醸し出ていた。

千人もの人を相手にするのに嬉しそうって何!?

「問題ありません。カティア家は龍の血が濃いといわれています。その分、体力、魔力が豊富なんですよ」

「龍の血……?」

「ラステア人は龍と人が番って生まれたといわれているんです」

「龍と人が?どうやって??」

そもそものサイズが違うのに一緒になるなんて不可能だ。そりゃあ、伝承なんてそんなものかもしれないけど……私の顔にありありとそんな疑問が浮かんでいたのか、ネイトさんは苦笑いをする。そしてそっと私に耳打ちした。

「皇龍デュシスは人の形をとることができるのですよ」

「え……?」

「大昔は皇龍デュシスと同じことができる龍が多くいたそうです」

だからこそ、龍の血がラステアの人達の中にあるのだと。今はもう人の形を取れるのは、皇龍デュシスのみとなってしまったとも教えてくれた。

だからこそ特別な存在である皇龍デュシスがラステアの王を決める。王に相応しい者が王族にいなければ、国の中から新たな王を探す。

そうやってラステアは続いてきたのだ、とも。

「この話って、私が聞いても平気なものなの?」

「ラステアでは子供でも知っている話です。まあ、他国の方に話すことはありませんがね」

龍は家族であり、仲間である。その龍達に不利益をもたらすことはラステアの者はしない。ネイトさんはハッキリと私に告げた。もちろん私だって、この話を聞いたからって他言しようとは思わない。

「ラステアはすごい国なんですね」

「そうですよ。すごくて、不思議な国です。ですがルー嬢もその一人だということをお忘れなく」

「私も?」

「ええ。先ほどの話で、カティア将軍は俄然やる気です」

先ほどの話といわれ、そういえば自分にもカティア家の、ひいては龍の血が極うっすらと流れていることに気がついた。

アレ?もしや、やる気を出した原因は私??ヒクリと頬が引き攣る。もしや、将軍は本当に私をカティア家の養女にでもする気なのではなかろうか!?

「あはははは。流石に、今すぐどうこうしようとは思ってないと思いますよ?」

「今すぐ、じゃなければ思ってるってこと!?」

「可能性はゼロではありませんね」

「いやいやいやいや!!」

「まあ、ほら。色々あったらの話ですよ。多分」

顔の前で手を左右に振って笑うネイトさん。そんな投げやりな言い方では困る!!私はファティシアの人間で、いやカティア家の血も流れてはいるけれども!!ふと、頭の中にロイ兄様の顔が浮かぶ。

ああ、これは……またしても兄様と将軍とのいい合いが始まるかもしれない。そんな未来を想像してちょっとげんなりしてしまった。

いや、そんなことよりも今は将軍を止めることの方が先決だ。ベゼルさんと話し合いが終わった将軍の服をツンツンと引っ張る。

「お、お姉様……」

「なあに?ルーちゃん」

「千人斬りを本当にするんですか?」

「だって一番手っ取り早いもの」

「話し合いとか!!」

「大丈夫よ。私は将軍職についてるのよ?千人斬りくらい問題ないってー」

本来話し合いで解決すべきことでは!?と訴えても将軍には通じなかった。将軍だから通じない、ともいえる。カティア家のお家芸的なものらしいのだ。

千人斬りなんて物騒なものがお家芸とかってどうなんだろう……いや、ひいお祖母様もきっとそうだったのだろう。だからこそこの地に千人斬りという言葉が根付いているのだから。

「ひとまず今日は宿でも取って休みましょう?ルーちゃんも街を見て回りたいでしょう?」

「それは……そうですけど」

「明日はお姉様に任せて楽しみましょう?」

ぷにっと頬をつっつかれ、私は唸り声をあげてしまう。任せて、といわれても任せる以外に方法がない。私に同じことをしろといわれても無理だからだ。

危険だからやめて欲しいけれど、ネイトさんも止める気がないようだし。私はどうするのが正しいのかわからなくなる。

「大丈夫です。ルー嬢。全ては明日。将軍が張り切って怪我人が増えないことだけを祈りましょう」

「……一応、ポーションはあるわ」

「それは重畳!怪我した方に配りましょうかね」

「うん」

いつも使っているウエストポーチ型のマジックボックス。何かあった時の為にと、多めにポーションを入れておいて正解だった。

もしもの時は私の身分を明かすことも視野に入れなければならないだろう。私はファティシアにいないことになっているから、こっそりと会いたかったけど……背に腹は変えられない。

私の蒼い瞳はファティシアの王族特有のもの。お祖父様ならすぐにわかってくださるはず。そんなことを考えながら、ベゼルさんと意気投合している将軍に向かってこっそりとため息を吐いた。

***

翌日ーーーー

どこからこんなに人が集まったのか、続々と『闘技場』と呼ばれる場所に人が集まってくる。

なんでも年に一回、闘技場で武術大会が開かれるらしい。一番になると、次の年の税金が一年無料になるのだとか。後他にもその年によって副賞が変わるらしい。みんな楽しそうな表情をしている。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。

「ルー嬢、見てください。出店出てますよ。たった半日ですごい広がりようですねえ」

「うん。楽しそうなのは良いんだけどね……」

「ああ、大丈夫ですよ。最近、書類仕事ばかりでしたし。体が鈍るーとか騒いでましたからね」

「それは大丈夫な理由になるのかなあ?」

「ラステアの将軍職はそう簡単になれるものではありません。あの若さで将軍職についてるのですから、そう心配する必要はないんですよ」

「……やっぱりお姉様の歳で将軍職に就くのは早いの?」

「そうですよ。現在の将軍達の中で最年少です。ですが実力は上から数えた方が早いです」

上から数えた方が早い、ということは将軍よりも強い将軍がいるということ。ラステアの将軍達はどれだけ強いのだろう……?もしかしたらファティシアの騎士達じゃ、何人いても太刀打ちできないかもしれない。

「じゃあ、お姉様の心配はしないことにします」

「そうしてください。ただ一言、ルー嬢が「お姉様頑張って〜!」と応援するだけでやる気倍増ですし」

「それ、すごく危ないんじゃない?」

将軍が物凄くやる気を出したらどうなるんだろう?流石にカティア家の人間だと証明するだけで、怪我人をバンバン出したら問題にならないかな?

なんだか別の方向で心配になってきた。そんな私を置き去りに、ネイトさんは出店に買い物に行ってしまう。

私は迷子になると困るから、指定された席に座って待つことにした。

ぼんやりと闘技場の中心にいる将軍を見ていると、カツ、カツと独特な足音が聞こえてくる。私がその音の方へ顔を向けると、質素ながらも質の良い服を着たお爺さんがニコリと笑いかけてきた。

服の上からでもわかる、鍛えられた肉体。だけど、左足の膝から下は義足なのだ。先ほどのカツカツと独特な足音はこれのせいか、と見ていると「お隣、良いですか?」と問われる。

「はっ!あ、ご、ごめんなさい。どうぞ!」

初対面の人なのに足を見過ぎた!

失礼なことをしてしまったと反省しつつ、隣の席を案内する。お爺さんは特に気にする素振りもなく私の隣の席に座った。

「……カティア家の方ですな?」

「え、あ、はい。そうです」

「そうですか。儂も昔、リリア様には大変お世話になりました」

「そう、なんですね?でもごめんなさい。私はその方を存じ上げないのです」

「ははははは。それはそうだ!お嬢さんは生まれてもいないでしょう?それに、幼すぎて聞く機会もなかった」

いかにも、といった風に笑われ私は小さく頷く。そしてふと、違和感を感じた。幼すぎて聞く機会もなかった、とは?幼すぎて、なんてまるで私の子供の頃を知っているかのようだ。

『カタージュは一度、かなり酷いスタンピードに襲われているのです。その時にリリア様とヴィオレット様が……旦那様も片足を魔物に持っていかれました』

ベゼルさんは、そう語ってはいなかったか?私はお爺さんの足に視線を落とす。義足。義足だ。もしかしてーーーー

「おじい、さま?」

顔を見上げ小さな声で呟けば、お祖父様は鷹揚に頷いてみせた。