軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おっさん、再び転生者と出会う

子供を治療した後、ゼロスとイリスは村長宅に招かれた。

そこは簡素だが使い古された家具が並び、温かみのある田舎の家という雰囲気が実に趣がある。

だが、こんな一見して穏やかな家のある村であるが、今現在において妖精の被害に悩まされていた。

床下からわずかに漂う腐臭が実に酷い。家屋の中であることがまだ救いである。

「酷いな……村すべての家にこんな悪戯をしているのだろうか?」

「そうじゃよ……儂らもほとほと参っておるんじゃ」

妖精は享楽的であり、人の話は聞かない。

慌てふためく村人を見ては、面白おかしく笑い転げているのである。

「妖精は集落を持つが、その活動範囲は広い。カラスみたいな連中ですよ」

「カラスよりも酷いよ。ゴミは漁るけど、カラスはあんな酷い事はしないし」

「はて? 巣の近くを歩く通行人を執拗に襲いますが? まぁ、繁殖期にだけですが」

「それもちょっと嫌だなぁ~」

イリスも妖精の酷さを自覚したのだろう。

まさかここまでタチが悪いとは思ってもみなかったようだ。

「それよりもじゃ……お主らに頼みたいことがあるのじゃが」

「妖精の殲滅ですか? まぁ、ここまで酷いと見過ごすわけにもいきませんしねぇ」

「すまぬ……依頼料は村の維持費のすべてでどうじゃ? さすがにこの村は貧しくてのぅ、作物の種を仕入れる予算は残したいのじゃが……」

「いえ、報酬は殲滅した妖精からいただきますよ。【妖精の翅】や【属性魔石】はそれなりに良い値段で売れますから」

「おぉ……引き受けてくださるか!」

「乗り掛かった舟ですし、素材を集めておく必要もありますから。素材屋に売ってないんですよなぁ~、妖精の素材が……」

四神教を国教としているメーティス聖法神国は、妖精を擁護しているだけでなく他国にも同様に圧力をかけていた。大国なだけに戦争を回避するべく、各小国家はできる限りの要請を引き受けることとなる。

そのために妖精の素材は出回らない。錬金術師や薬剤師には辛いところであった。

「何にしても、妖精の集落を探し当てないといけないかな。偵察用の使い魔でも使ってみるか」

「使い魔? おじさん、使い魔を持っているの?」

「どちらかと言えば式紙みたいなものですけどね。まぁ、魔力で生み出す疑似生物と言ったところでしょうか」

「それ、もしかしてアイテム? やだ、欲しい!」

「あげませんよ? 【魔法紙】だって馬鹿にならないんです。製作するにも結構時間が掛かるしねぇ」

「じゃあ、お金を貯めたら売って! 偵察用のアイテムって、魔導士には必須だよね」

「……イリスさん。君、だんだん遠慮がなくなってきてね?」

イリスはこの世界で魔導士として生きようとしている。

傭兵をしているのも冒険を楽しみたいだからだろうが、ゼロスにはそこが危険に思えた。

ゲーム感覚で物事を判断していては、いつか手痛い失敗をしかねない。現に以前、盗賊に捕まる失態を犯している。

この世界では時に人を殺す覚悟も必要なのだ。それをどう伝えるべきか悩みどころだ。

「ハァ~……頭が痛い問題だ」

「なに? 何でそんなに疲れた顔をしてるの? そして、何でかわいそうな子を見るような目で私を見るの?」

「楽しそうでいいですねぇ……」

「なんか、凄く馬鹿にされている気がするのは気のせい?」

さすがにおっさんも、ここまで純粋だと汚い世界を見せるのは気が引ける。

危険を避けるために人殺しを覚悟させるか、今のまま見守るか、そこが問題であった。

「そう言えば、お茶をお出ししてませんでしたな。ユイ! すまないが、お茶を用意してくれぬかのぅ」

『はぁ~い、もう少し待ってください。いま、お湯を沸かしているところなので』

若い女性の声が聞こえた。

ゼロスは村長の孫だろうと判断し、しばらく妖精被害の現状を聞いておくことにする。

デルサシス公爵に伝えておけば、政治的な材料にするだろうと判断したからである。

しばらくして、奥から一人の女性がトレイにお茶を乗せて姿を現した。その瞬間、ゼロスは驚きを隠せなかった。

方で揃えられた甘栗色の髪。おっとりした大和なでしこ風の女性だが、彼女は神官服を着ていたのだ。

それも、【ソード・アンド・ソーサリス】でビギナープレイヤーが最初に装備する神官服である。

「……なっ!?」

「えっ? どうしました? 私の顔に何か?」

「いえ……」

何よりも驚いたのが、彼女は妊婦であった。

おそらくは妊娠四~五ヶ月くらい。だが、その頃は転生者達はこの世界にいなかったはずである。

つまり、彼女は妊娠したままこの世界に来たことになるのだが、そうなると四神が転生させたという話が嘘になる。

これでは異世界転生ではなく、異世界転移だからだ。

「……おじさん」

「なんですか? イリスさん」

「さすがに、妊婦はマズいと思うよ? 旦那さんに殺されちゃう」

「君が僕をどう見ているのか、何となくわかりましたよ。人聞きの悪い……」

イリスに変な誤解を受けてしまった。

ユイと呼ばれた女性はお茶を置くと、静かに椅子に座る。

「村長、お孫さんですか? 曾孫さんが生まれそうで楽しみですね」

「そうじゃったらよかったのだが、残念なことに孫ではないよ。四ヶ月ほど前じゃったか、村の前で倒れておったのを助けたのじゃが、行く場所がないらしくてのぅ。儂のところで面倒を見ておるのじゃよ」

「そうですか……」

「おじさん……四ヶ月ほど前って」

おそらくは同類。だが、念には念を入れて更に踏み込んでみることにする。

転生者にしか分からない質問をぶつけるのが良いと即座に判断した。

「ユイさん、一つ聞きたいことが……」

「はい、なんでしょうか?」

「サ〇ヤ人と言えば?」

「えっ? ……ナッ〇でしょうか?」

空気が凍り付いた。

「な、なぜよりにもよって……おかしいですよ、カ〇ジナさん。ガッチムチが好みなんか?」

「えっ? 何となく、見た目がカワイイおじさんじゃないですか。おかしいですか?」

「さすがに……せめてベ〇ータに。ユイさん、おっさん趣味なの?」

「それ、アド君にも言われました。良いじゃないですかぁ、だって、愛嬌があるじゃないですかぁ!」

「「ごめん……こんな時、どんな顔していいか分からないわ」」

「……笑えばいいと思います。笑ってください!」

ふてくされるユイ。

だが、次の瞬間に『ハッ!?』としてゼロス達を見た。

「アド君……ひょっとして、【豚骨チャーシュー大盛り】のサブリーダーですか?」

「アド君を知っているんですか!?」

「僕は、パーティー【趣味を貫き深みに嵌る】のゼロスと言います。アド君とは、よく一緒にいパーティーを組みましたね。優秀な生産職でしたよ」

「おじさん達のパーティー、そんな名称だったんだ……【殲滅者】のほうが良いのに」

ユイが転生者であるよりも、酷いパーティー名にがっかりするイリスだった。

「なんじゃ、お主ら知り合いかのぅ。なら儂は席を外させてもらうか……つもる話もあるじゃろうて」

「あっ、お気遣いなく」

「お爺さんがいても大丈夫だよ。おじさんの間接的な知り合いだったみたいだから」

「なに、ようやく旦那の手掛かりが見つかったのじゃ、儂は奥で休ませてもらうよ。年じゃしのぅ」

村長はそういうと奥の部屋へと消えていった。

ユイもまた妊婦であるし、無理なことはさせられない。

簡単な情報を聞くだけにした方が良いと判断する。

「ユイさんの状況を教えてくれませんか? この世界に来る直前までの話で構いません」

「は、はい、わかりました……そうですね。私は――」

ユイはこと【船橋 唯香】は、幼馴染の【安藤 俊之】――アバター名【ADO】に誘われ、【ソード・アンド・ソーサリス】でデートをしていた。

それと言うのも、俊之とは五歳離れた幼馴染で、唯香とは恋人同士であった。

だが、アドは大学生であり将来の先行きが不安定。唯香もまた高校を卒業するまで清い交際をするはずだった。しかも互いの両親から仲を認められ、俊之が就職するまで結婚は認めないと言われていた。

妊娠している事からわかるように、清い交際が男女の仲になってしまった。

両親は当然ながら怒り、俊之に直ぐに就職するように迫った。かなり怒涛の展開だ。

何とか必死で就職活動を始め、内定も決まると俊之は唯香のために【ドリームワークス】を購入し、【ソード・アンド・ソーサリス】でデートするようになる。

これは妊娠してあまり外に出られない彼女に対して、俊之の気配りだったのだろう。

だが、四神の仕出かした【邪神ポイ捨て】により、唯香はこの世界に転生してしまった。

いや、今となっては転生なのかあやしいところだが、おおよその事情はこんなところだ。

「その時……アド君とはぐれてしまったと」

「はい……覚えているのは黒い霧に包まれたところだけです。あの、アド君がどこにいるか分かりませんか?」

「残念だけど、まだ会ってはいないですねぇ。まぁ、彼のことだから何かしらの行動を起こすでしょう」

「おじさん、何でそんなことが言えるの? もしかしたら……」

「もしもは、なし! もしこの世界にアド君が着ていれば、彼は四神に対して疑念を持つでしょうね。僕と同じように……。そして、必ず嫌がらせを始める」

「断言できちゃうんだぁ……。仲が良かったんだね」

「ある意味で、僕の弟子と言えるかもしれませんね。戦い方も似ていますし」

ゼロスとアドは同類である。

興味本位で様々なところに首を突っ込み、欲しいものを根こそぎかっさらう。

更に、互いが気の合う趣味人だったのだ。この世界にいれば必ずアクションを起こすと踏んでいる。

「まぁ、何かあれば僕のことを探すかもしれませんねぇ。彼は勘が働きますから」

「じゃぁ、どこかで会ったら私の事を教えてくれませんか? 何となくですが、この世界にいる気がするんです」

「「あぁ~そう……お熱いことで」」

アドがこの世界にいるか分からないが、ゼロスは『会うことがあれば必ず伝えますよ』と約束を交わした。気休め程度の約束だが、ゼロスもアドがこの世界に来ていればいいと思っていた。

ユイのためもあるが、そこには別の意図も隠している。

「さて、それじゃ僕は村長からの仕事を始めようかねぇ。ボランティアだけど。あっ、イリスさんはユイさんの傍にいてください。身重なので」

「うん、わかった。じゃぁ、おじさんのお姉さんの話をしておくね。騙されたら大変だし」

「ナイス! 少しでも奴の被害者が出ないよう、徹底的に教えてあげてほしい。アレは人間の屑ですからねぇ」

「はいはぁ~い、任されたよ」

そう言い残してゼロスは村長宅から出てゆく。

その背後で、『えぇ~っ!? そんな酷い人がいるんですかぁ?』と、ユイの声が聞こえた。

ゼロスは心の中で、『いるんですよ!』と呟くのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

夕暮れ時、ゼロスは村の外れを歩いている。

のどかな村のはずなのに、漂うのは腐敗臭。妖精の被害が酷すぎる。

「この辺で良いか?」

そう呟くと、インベントリーから三枚の【アルカナ】を取り出した。

一枚は使い魔を形成するためのもので、二枚目視覚を共有して捜査するための物。三枚目は使い魔が見たものを【魔法紙】に記録として残すためのもので、大きさは画用紙ほどある。

ゼロスは【アルカナ】に魔力を流すと、フクロウ型の使い魔が顕現した。魔石を三個用意し、そのフクロウに食わせる。

これはいわば電池のようなもので、ゼロスが吹き込んだ魔力が尽きる前に魔石が変わりの魔力を補充する。これにより長時間の運用が可能になるのだ。

「んじゃ、いってこい」

フクロウは大空を舞い上がり、しばらくの間上空を旋回する。

ゼロスは二枚目の【アルカナ】に意識を集中させ、妖精の集落がどこにあるのかを探索し始めた。目指す場所は【魔力溜まり】だ。

妖精は精霊種であり、魔力の濃度が高い場所あら生まれてくる。

妖精と精霊の違いは人格が希薄なことであり、精霊は自分の属性に忠実で住処も異なる。例えば火の精霊なら火山、風なら大気中を漂うのだ。

だが、妖精は濃度の高い【魔力溜まり】に定着し、魔力を補充しては各地に移動して騒ぎを引き起こす。

体内の魔力が少なくなると戻り、しばらく魔力を補充してから再び行動するのだ。

そして、【魔力溜まり】は澱んでいることが多い。要は、【綺麗な魔力溜まり】から精霊が、【少しでも濁った魔力溜まり】から妖精が生まれると思って良いだろう。

【魔力溜まり】の澱みが濃くなると瘴気になり、やがては自然界を汚染し始める。下手をすると【悪魔】が生まれることもあり危険なのだ。

そんな訳で、ゼロスは使い魔を通して魔力が異常に高い場所を探す。

『……北東? 山間の方か……』

探知した魔力を察知し、その方向に使い魔を動かす。

空を飛ぶと実に速く、すぐさま目的の場所に辿り着いた。

だが――。

「ゲッ!?」

――思わず声が出るほど凄惨な場所であった。

いたる所に獣の屍が散乱し、そこで何が行われたのか理解した。

妖精たちの遊び場――生物を生きたまま解体する地獄である。

『コレは酷い……R18指定だな。イリスさんには見せられないねぇ……教育に悪い』

そこいらに臓物が転がり、腐り果てていた。

だが、目的地はさらに奥、そこを目指して使い魔を移動させる。

『うっわ、想像以上だ……吐きそう。オェ……!』

そこは無数に飛び交う妖精の群れ。

一見して幻想的な光景に見えるが、妖精の光が照らし出すのは数多くの獣の屍であり、辺り一面が血で染まっていた。

そして、今も妖精たちが無邪気な笑顔で小動物を解体している。こんな生物を神聖視するなど気が触れているとしか思えない。

中でもおぞましいのは、今も嬉々として内臓を引きずり出すアゲハチョウのような美しい翅を持つ赤い髪の少女、妖精の姫【フェアリー・ロゼ】だ。

被害者はおそらく山賊だろうか、あまりにも惨い姿であり、そんな姿にされながらも死ぬ事が許されずに行かされていた。

『皮を剝ぎ、目を抉るか……おぞましいの言葉が生易しいな。これはどう見ても悪魔だろ』

【妖精の狂宴】。【フェアリー・ロゼ】の特殊能力で、一定の領域の魂を固定してしまう。

妖精が酷いことは知っていたが、【ソード・アンド・ソーサリス】でもここまで凄惨ではない。現実は想像以上の悪夢だったのである。

『記録もしておくか……だが、これを人に見せても良いものか。こんなものを持っていたら正気を疑われるぞ』

そう言いながらも三枚目の【魔法紙】に今起きている現場を転写した。

だが、それで【フェアリー・ロゼ】に気づかれた。画像を転写する時、わずかにだが魔力が漏れるのだ。

そのわずかな魔力が、魔力の塊である妖精は敏感に察知してしまうようである。

猛スピードで【フェアリー・ロゼ】が目の前に迫る。

『マズい、自爆!』

その瞬間、ゼロスの視覚はブラックアウトした。

ゆっくりと目を開くと、そこは農村が広がっている。

「ふぅ……これは心臓に悪いな。にしても……」

ゼロスは三枚目の【魔法紙】に転写された絵を見て溜息を吐いた。

おっさんは悩む、この絵を村人に見せてよいものかどうかと。

どう考えても悲劇しか起こらない気がした。