軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おっさん、少女の悩みを解消す

ゼロスは教本の魔法術式を展開し、余分な部分を削除し、同時に必要なものを組み込んで行く。

空中に浮かぶ魔法式は幻想的な光景を生み出し、その傍らで文字が消え、或いは継ぎ足される事で形を変えていった。

その工程は信じられないほど早く進み、セレスティーナにとっては未知の体験であり、瞳を輝かせている。

そんな孫娘を見てほくほくしている祖父のクレストンは、この出会いを内心で神に感謝していた。

もっとも、神に感謝しているなどゼロスが知ったら、この作業を真っ先に中断する可能性が高い。

何しろ彼は、神の産廃廃棄の犠牲者なのだ。

よりにもよって、デジタル世界に邪神を封じ込めたおかげで、彼は結果として邪神に殺されたのだから。

「ふむ……チェックは完了、後は使って見る事です」

「この魔法は……『トーチ』ですか?」

「そう、誰もが簡単に使える魔法を最適化した物。魔力消費を極力抑え、同時に外部魔力を取り込む事に重点を置いてみました」

「外部魔力というのは何じゃ?」

「自然界に滞留する魔力の流れの様なものです。この魔力を自身の魔力で呼び寄せ、術式の現象を引き起こすのですが…ここに記載されている術式は全て個人の魔力で行う事が限定されている様ですね」

「待ってください。魔法式とは個人の魔力で事象を変質させ、物理現象を引き起こす物では無いのですか?」

「違います。術式は飽くまで自然界の魔力を利用するための物であって、個人の魔力だけで発動すれば直ぐに枯渇しますよ?」

どうやら、この世界の魔法はゲームの設定よりも遅れているとゼロスは感じた。

魔力の総量は世界の中では常に一定であり、異なる変質を遂げたとしても僅かな時間で魔力に変わり、拡散する事になる。

現象として変化したとしても、変わったのは性質だけで魔力は変わらず存在し元に戻るのだ。

その性質変化を利用する事で敵を攻撃したり、同様に攻撃から身を守るのが魔法である。

中には精神に干渉する魔法も存在するが、体内魔力が変質し続けるだけで、いずれは解除される。

物事には変異する物質から元に戻ろうとする現象が存在するように、魔力もまた元に戻ろうとする特性が備わっているのだ。

ただ、体内魔力は外部に放出されると元に戻るのに時間が掛かるため、実際に肉体に体に変調を来す事が多い。故に外部魔力を利用するための呼び水として体内魔力の消費量を抑え、その効率を手助けするのが術式であった。

そうなると、この世界で術式を研究している魔導士がいる筈なのに、このような不完全な物を他者に教えること自体おかしい事になる。

「まぁ、偶然にしろ意図的にしろ、この術式が間違っている事は確かです」

「そこまで見て分かるなんて……凄いです」

「そこまで優秀なのに、なぜ国に仕えぬのじゃ……才能が勿体無い」

「面倒な事もありますけど、一番の理由が権力争いに利用されるだけなのが嫌ですね。用心棒的な扱いで、何故か雇い主が偉ぶるのが気に入らない」

国に仕える魔導士には、国王よりも師に絶対服従の面が強い。

いくら有効的な魔法を開発しても、師でもある人物が否定すればそれまでであり、中には研究成果を奪う痴れ者まで存在する。

そんな連中の仲間入りをするのは死んでも御免だろうが、ゼロスはこの世界で生きねばならない以上、余計な争い事からは無縁でいたかった。

「魔法の研究は趣味の範囲ですし、何よりも自己満足意識が強いですから、他人に研究成果を明け渡す気は更々無いですよ。それ以前に自分で研究して極めろと言いたい」

「確かに…そういう側面はあるのぉ。奴等は人の研究成果を派閥に所属しているからと云う理由で自分の物にして、その成果が誤りだと分かると途端に当人に責任を擦り付けよる」

「だから後継者だけに魔法の術式を伝える習わしがあるんですね。勉強になります」

「僕の研究成果は危険な物が多いですし、迂闊に教えられるような物では無いんですよ。多分、理解すら出来ないでしょう……どんな魔法なのかすら」

それはつまり、ゼロスの魔法がソリステアの魔法よりも優れているという事になる。

何故なら炎の魔法の再極点に位置するのは蒼い炎と言われ、これはただの燃焼する空気量が変わっただけで高温に変質しただけの話だ。

きわめて単純な物理現象であり、さほど驚くべき事では無い。

例えばゼロスの魔法【黒雷弾】。

これは魔力を圧縮した為に光すら歪める重力場が発生し、貫通した瞬間に体内で重力力場をエネルギー変換させる事により、敵を内側から焼き尽す。

ほんの僅かな攻撃と瞬間的な変換により、その性質や効果が極端に変わる事で威力を得げている。魔力変質を利用した悪質で凶悪な攻撃なのだ。

術式だけでも相当の量に上り、理解するどころか解読する事すら不可能に思えるほど精緻であった。

「そんな魔法を他人に伝えたらどうなると思います? 権力欲の塊のような人達に……」

「地獄絵図しか見えぬな」

「下手をしたら、国が滅んじゃいます」

「だから僕の魔法は教えません。上に行けるだけの道は少しばかり教えますけどね」

「賢明な判断じゃな。ウチの馬鹿共に見習わせてやりたいところじゃ」

「よし、二つほど最適化が完了した。じゃあ、さっそく使って見ましょう」

「えっ?!」

教本とは言えど魔導書は外部から書き換える事は可能である。

使われているのが魔紙であるために、術式を脳内(この場合はイデアだろうか?)に保存するのには一度術式を展開しなくてはならない。その術式を顕現させられるようになっている。

そのおかげで、魔導士は簡単お手軽に術式を書き換えられる仕様になっていた。

ゼロスが書き換えた魔法術式をイデアに刻み込めば、セレスティーナもその魔法が使えるようになるのだが、使って見るのにしても馬車の中は狭すぎた。

仕える魔法は限定されるので、簡単な魔法をチョイスする。

「無論、トーチの魔法ですが、これを長時間かけて一定のまま火を燈し続ける事で魔力操作を覚えられます」

「魔力操作ですか? それはどのような物なのでしょう」

「簡単に言えば…そうですね、火球を魔法で生み出したままで一定時間その状態を維持し続ける事が可能になるんですよ」

「ほう……興味深い」

「間違った場所に撃ち込んだとしても、魔法を操れれば威力を保ったまま敵に再び向ける事が可能。範囲攻撃は無理ですがね」

「それは……放った魔法を自分の意思で自在に操れる様になる。という認識で良いんですか?」

「概ね正解ですが、魔法は長時間存在できませんよ? せめて顕現している時間帯だけの話ですがね」

「それは凄いです!」

もの凄く目をキラキラさせて、セレスティーナはゼロスに迫る。

それを見ている祖父は実に微笑ましそうに、且つゼロスに嫉妬の籠った視線を向けていた。

何とも忙しそうな祖父であった。

「じゃぁ、試しにトーチを使って見よましょう。魔力操作のレベルが上がると、無詠唱で魔法を発動できるようになるしね」

「はい! 頑張ります」

セレスティーナは力強く頷くと、さっそく修正した魔法術式を潜在意識の中に刻み込もうとする。

魔導書に手を当て魔力を流す事により術式を顕現させ、その術式を体内魔力を媒介にイデアへとに刻み込む。

外部魔力では直ぐに拡散してしまうが、生きている限り体内魔力は常に存在し、例え魔力枯渇で倒れたとしても消滅する事は無い。

生きている生物は常に魔力を生成し続け、活動する事によって細胞内に魔力を巡らせ消費する為、魔力が枯渇したとしてもあくまで魔術を使う分が減っただけで、生きるのに必要な魔力は僅かに残される。

ある意味、体内魔力は生命力と言い換えても良いだろう。

魔導士の中には無茶な魔法を行使して命を落す者もいるが、これは魔法術式が不完全な物と肉体を破損させるほどの無謀な行為の結果起こる現象であった。

それほどの魔力を使う以上、肉体の限界を超えるほどに魔力を絞り出し、その結果が寿命を縮めるのだ。

命があれば運が良い方で、時には廃人や肉体が消し飛ぶ被害者もいる。

現在の新魔法の開発は、こうした人体実験で行う事が多かった。

特に犯罪者などが多く実験の被検体にされ、歴史の裏で死んで行くのがこの世界の実情である。

「完了しました……では、燃えよ灯火、我が道を照らせ……『トーチ』」

セレスティーナの指先に、わずかな火が灯った。

トーチと言うには弱いが、それでも確かに魔法が発動したのである。

「やりました、御爺様! 魔法が使えましたよ♡」

「おぉ……確かに……」

「ローソク程度の火だけど、初めて発動したのだからこんな物でしょう。その火をそのままの火力で一定に保ち続けると、魔力操作を覚えられる筈です」

「やってみます! あっ?! あぁ! 火が消えちゃう」

「魔力を少しづつ送り続けるのは難しい。少しの風でも消えてしまいますから注意してください」

「今度は火が大きすぎますぅ~?! これは難しいですよっ?!」

「そういう訓練ですから。後は魔力が枯渇するまで続ける事が重要。休めば魔力は回復しますし、回復すればまた訓練が抱きますので特に問題は無いでしょう」

ゲームの世界と同様にステータスが見れるのだから、この世界の住人も自分のステータスを確認できる。

レベルを上げるにしても魔物と戦う事により格を上げ、今よりも更に強くなれるが、まだ年端もいかない少女では苦しい所であろう。

そうなるとスキルを覚えて自身を高めるのが重要になって来る。

魔力を消費する事でわずかにだが自身の魔力も上がるのだから、スキルも覚えられて一石二鳥なのである。

ついでに続けることにより、スキルレベルも上がる事となる。

「ほう…良く考えた訓練じゃが、これは毎日続ける必要があるのではないか?」

「そうですね。訓練は続ける事により効果が出て来るものですから、常に日課として身に沁み込ませる必要があります」

「やります! 魔法が使えたのですから、この程度の事など乗り越えて見せます」

「ティーナが燃えておる……。このようにやる気に満ちた表情はいつ以来か……(ハァハァ…)」

爺さんも萌えていた。

孫馬鹿にしても色々問題がありそうだ。

「身体強化魔法を自分に掛け続ければ、同様の効果と魔法耐性のスキルが覚えられますよ?」

「それも、やってみたいです!」

「そう来ると思って、二つ目の魔法は身体強化なのですが…これは、もう少し魔力の量を増やした方が良いかもしれませんねぇ」

ゼロスは鑑定を使い、彼女のステータスを覗き見ていた。

その結果出たのがこれである。

=========================

セレスティーナ・ヴァン・ソリステア レベル 5

HP 125/125

MP 121/140

職業 貴族のお嬢

スキル

火属性魔法 1/100

身体スキル

我慢 50/1000

個人スキル

忍耐 50/100

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魔力は常に消費し続けており、徐々に0に近付いている。

しかし、これが訓練なら彼女にとっては喜ぶべき試練であった。

何しろ、今まで魔法が使えなかったのだ。そこから解放された事により、彼女は嬉々としてこの訓練に挑んでいる。

今が楽しくて仕方が無いと言った所なのだろう。

(どうでも良いですが、我慢と忍耐のレベルが高いのだが…そんなに辛酸をなめてたのでしょうか?)

教本の術式の最適化作業をしながら、ゼロスはそんな事を思っていた。

彼女は妾腹の生まれである為に、上の兄弟達から良い目では見られていない。

むしろ邪魔者扱いで虐めすら受けていたのだ。

不憫な子である以上に、彼女は貴族として認めてすら貰えなかったのである。

無論、ゼロスはそんな事を知らないが、このステータスからある程度の事は察した。

「さて、二十七ページ目……『アイスランス』か」

「「早っ?!」」

元より基本魔法の術式はベースが守られているので、後は要らない部分の削除と簡単な制御術式を組み込むだけで済む。

元の世界ではプログラマーであったため、この手の作業は鼻歌交じりでこなせる。

「では、僕がこの教本の術式を改良するのが早いか、君の魔力が尽きるのが早いか競争してみましょう」

「む、負けませんよ?」

「ゼロス殿が不利な気がするが、これはこれで面白そうじゃな」

正直、この爺さんは勝負の勝敗などどうでも良かった。

単に久しぶりに見た孫娘の明るい表情に浮かれているだけなのだ。

結果はゼロスの方が早かったのだが、華を持たせるために敢えて負けてあげた。

おっさんは子供に優しい男であった。

そして、喜ぶセレスティーナを見てホクホクの爺さんであった。

こういう所は駄目な人である。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「パンだ……パンがある…」

休憩地点で野営の準備中、ゼロスはパンを見て泣いていた。

一週間もの間、広大な森を生き抜き、肉以外を口にした事の無かったゼロスは今、感無量の涙を浮かべている。

香辛料は存在していたが食料は無く、彼は肉だらけのサバイバル生活に嫌気が差していた。

毎日生肉を求め魔物を倒し、その血の臭いにつられて新たな魔物が集団で襲って来る事の繰り返し。

生きる意味すら原始的な本能に置き換わり、ただ空腹を満たすだけに獲物を狩る事に明け暮れていた。

そして今、彼の目の前には、しばらく見なかった人間らしい食事が用意されている。

これで泣かずにいられようか?

「この程度で泣くとは、今までどんな暮らしをしていたのじゃ?」

「森で迷い続けて一週間、魔物に追われる毎日でしたね。口にしたのも肉以外には無い……クッ…生きていて良かった」

「どこの森でそんな事に……過酷すぎます」

「さぁ、森の地名なんて知らないですし、ワイバーンが襲ってきた時は苦戦しましたねぇ~……空腹で…」

「「「「ワイヴァ―ンっ!?」」」」

傍にいた騎士二人も含め、四人が驚愕の声を上げる。

「ワイヴァ―ンなどから、どうやって逃げたんだ!」

「まさか、倒したのかっ?!」

「もしそうなら、そなたは『竜殺し』じゃぞ?」

「どのような冒険だったのか聞かせてください」

「竜殺しだなんて大袈裟な。ただの空飛ぶ蜥蜴じゃないですか」

「「「「その考えはおかしい(です)!!」」」」

ワイバーンは別名【空の悪魔】と呼ばれている。

一度、上空から発見されると執拗に追い駆けて来るのだ。

しかも飛行速度が速く、先回りするほどの高い知能を持っていた。

その上、群れで行動する事が多く、討伐依頼を受けた傭兵が幾度となく返り討ちに遭うほどだ。

ちなみに肉は最高級食材である。

「最高級食材か……七頭分あるけどいくらで売れるでしょうか? とても食べきれなくて困っているんですが」

「た…倒してやがった」

「化け物か…空の悪魔だぞ?」

「これが上位の魔導士……。個人だけで、そこまでの強さなんて…」

「肉は是非とも売って欲しい所じゃが、何なのじゃそなたの強さは……」

「ん? ベヒーモスほどじゃないでしょう? 要領よく戦えば簡単に倒せますよ?」

「「「「ベヒーモスは最悪の災厄指定モンスターだ(です)!!」」」」

やけに興味を引かれてしまったので、仕方なしに身の上話をする事にした。

無論ゲーム内での戦闘の話であり、現代日本から転生させられたとか、邪神と闘ったなどの話は省き同時に幾つかの嘘を交えて語る。

内容は――ゼロス・マーリンはどこの国で生まれたかも知らず、幼い頃から両親と旅をしながら魔導の研究に明け暮れ、魔法の理を極めようとしていた。

十代で魔物専門の傭兵となり、その後は各地を転戦。

その内に自分と同じ境遇の仲間4人と出会い、五人でパーティーを組んで魔導の極限に挑む旅を続けた。

無茶な戦いに身を投じては、自分が作り上げた魔法の実用性を実験し、再び転戦を繰り返す毎日。

そんな日々に嫌気が差したのか、仲間達は一人ずつ個人の事情で抜けて行き、また一人となってしまった。

やがて普通に暮らせる場所を望むようになり、その最中に道に迷い、森の中で彷徨う羽目になり現在に至る。

掻い摘んで話すとこんな所である。

その結果……

「戦闘経験が豊富であったか…、まさかその様な探究者がいるとは…」

「我等も鍛え方が足りない。あの程度の盗賊に後れを取ったのだからな」

「恐ろしい話じゃが、ベヒーモスを倒すなど正気では無いぞ? しかも5人でなぞ……」

「ゼロスさんの強さは、実戦で裏付けされた物だったんですね。私はまだまだ未熟です」

「ただの馬鹿が、人生を棒に振っただけの話ですよ。そこまで暗くなる話でもないでしょう」

「魔導の極限を目指すなど確かに馬鹿じゃな。この国の魔導士も少しはその気概を見せて貰いたい所じゃて」

必要以上に英雄視されてしまっていた。

まぁ、ゲーム内のデータを基に肉体を再構築されたのだから、あながち間違いと言えなくも無い。

何より圧倒的な強さで盗賊を蹴散らしたのだから、羨望の目を集める事に一役買ってしまったのである。

「そうなると、そなたのレベルはどれ位なのじゃ?」

「・・・・・・・・知らない方が良いですよ? 正気のレベルじゃありませんから・・・」

「そこまで高いのか……」

「本当か? うぅ~む……騎士団の訓練内容を見直す必要があるな」

「最高値の500はありそうですね?」

「いや・・・・(その三倍は軽くある)ボソ…」

「「「今、何て言ったぁあああああああああああああああああっ!!」」」

レベル1879はダテでは無い。

レベルは高くなるほどに成長が滞りがちになり、500で成長が止まると言われている。

だが、1000を超えた者がいるとなると、常識は覆る事になる。

そもそも邪神を倒してしまったのだから、それ位は上がるだろう。

ボーナスが多かったために、急速にレベルアップを果たしてしまったのだ。

そんな馬鹿げたアバターをベースに肉体を構築すればどうなるか……

「スキルも恐ろしい事になっておるじゃろうな。敵に回したくは無いわい」

「そうですね。閣下の御力で抑えられる様な相手では無いですよ」

「下手すれば国を滅ぼせる魔導士……」

「僕は魔導士では無く、大賢者なのですけどね」

「「「もう止めてくれっ、常識が崩れ落ちるっ!!」」」

「常識なんて簡単に崩せるものですよ? それよりも食事にしませんか?」

その日の夕食は異常なまでに静かであった。

ただ一人、泣きながらパンを食べるものを覗いてはだが。

「うぅ…久しぶりのパンが、ここまで嬉しい事だなんて…本当に生きていて良かった」

大賢者様は食に飢えていらっしゃる。

色んな意味で非常識を目の当たりにした公爵一行だった。

翌朝、セレスティーナは魔力操作を覚える為の訓練を始めていた。

今の彼女は何かの枷が外れたが如く、魔法に対して真剣に向き合っている。

実を言うと彼女は昨夜の内にゼロスが編集した魔法術式を全て叩き込み、現在使える魔法を自分の手で調べていたのだ。

基本とは言え、攻撃系は大量の魔力を必要とし、今の彼女では荷が重い。

そのため魔力消費量を減らす効果を持つ【魔力操作】のスキルと、【魔法耐性】のスキルを狙い訓練を続けていた。

二兎追う者は一兎も得ずと言う様に、両方のスキルを手に入れるには、かなりの魔力が必要となる。

その所為か、魔術師の多くは先にレベルを上げて保有量を増やし、その後から訓練を始める者が多かった。

だが、そのレベル上げはセレスティーナの様な貴族生まれには難しく、実践を行うにしても魔力が足りずに攻撃魔法が2~3回しか使えない。

レベルの高い魔物を倒せば一気にレベルは上がるが、其れに挑むにはあまりに無謀過ぎた。

「昨日始めた訓練で1程度ですが魔力が上がりました。なら、毎日続ければ1年で300近く上がる筈です」

確かにその通りなのだが、魔力が上がるに攣れて訓練には今より強力な魔法を使用しなくてはならなくなる。

魔力が増えるという事は、同時に保有魔力が減り辛くなるという事であり、大幅消費が可能な魔法を覚えなくてはならい。

もっとも効率良く行うのが攻撃魔法なのだが、攻撃魔法を無闇に撃ちまくる訳には行かないだろう。

この訓練が近い内に頓挫するのは間違いない。

「さっそく、今日から訓練ですか? セレスティーナさん」

「あっ? 先生!」

「せ、先生?」

「はい♪ 私に魔法を教えてくれましたから、先生です。いけませんか?」

「まぁ……別にかまいませんが、先生と呼ばれるほどの事はしてませんよ?」

「いいえ! 十分な事をしてくださいました。私はこれで前へ進む事が出来るんですから」

知らない内に、彼女の人生に大きな影響を与えてしまったゼロス。

多少戸惑いながらも、彼はボサボサの髪を掻きながら苦笑いを浮かべた。

「魔力操作を覚えてからが大変です。 いずれ魔力を消費する事が困難になりますから」

「それでも、やらないよりはマシですよね? 私は先生の様な魔導師になりたいんです!」

「…いや、それは少し凶悪ですって。まぁ、目標がある事は良い事ですが……なぜに僕なのですか?」

ゼロスは、自分がいかに規格外なのか今一つ良く理解してはいない。

せいぜい、『これ、チートじゃん! あんまり人に誇れないなぁ~』程度にしか考えていなかった。

だが、セレスティーナから見れば、この国の全魔導士よりも遥かに優れた賢者であり探究者。

羨望と尊敬の念を送るには充分なほどの偉大な魔法使いなのである。

何より、彼女自身の抱えていた問題をあっさりと解決し、更に欠陥を抱えた魔法術式を遊び半分で効率の良い物に書き換えた姿は、もはや尊敬すべきものであった。

セレスティーナに『魔導士はこうあるべきだ』の理想を、まざまざと見せつけてしまったのである。

そんな事になっているなど、ゼロスは気付かないでいた。

「分からない事があれば教えますが、魔法の作成には気を付けないといけませんよ? 何しろ周囲に被害が及びますから、充分なスキルとレベルが必要になります」

「まだそこまでは行けませんが、いずれはその高みに至りたいと思っています。これからの御指導、お願いします!」

「へっ? 待ってください、これから?! どういう事……」

「御爺様から聞いていらっしゃらないんですか? 私の家庭教師になって貰おうと頼んでみると言う話でしたから、てっきり御爺様から話をされていたものと……」

「聞いてませんよ……。まぁ、無職でいるよりはマシですがね」

40のおっさんが無職なのは世間体に悪い。

何より、結婚願望があるため、職を持っているに越した事はないのだ。

ただ、自分の身なりくらいは何とかしろと言いたい所だ。

傍目には、ただのだらしないおっさんにしか見えないのだから……。

「家庭教師って、期間はいつ頃までですかね?」

「だいたい…そうですね。私の夏季休暇が終わるまででしょうか? 二ヶ月したら、私は学園に戻らねばなりません……」

「学園? 魔導士の学校があるのですか?」

「はい、イストール魔法学園と言いまして、貴族の子女がそこで学び魔導士の道へ進むのです。ただ、色々と派閥がありまして……」

「面倒な学院ですね。まともに魔法を教えているのでしょうか? あの教本の魔導書を見る限りではレベルが低すぎて話になりませんよ」

「私も、先生を見た時からそう思う様になりました。あそこで学ぶ必要があるのでしょうか?」

「恐らく、貴族内での繋がりを作るための社交の場となっているのでは? 魔導士の修練は二の次で…」

子供達にまで派閥を押し付けるこの国の情勢に対し、ゼロスは軽く眩暈すら覚えた。

多感な時期に派閥のような枠組みを押し付けるのは一種の洗脳教育であり、正直あまり良い気分では無い。

当然、陰湿な虐めなどもあるだろうし、何よりも子供達の精神が歪みかねない。

「お嬢様、逃げてください!」

「ブラッド・ベアーが!」

突如話を遮り、騎士の二人が慌てて駆け寄って来る。

その後方には、漆黒の体毛を持つ巨大熊が咆哮を上げていた。

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ブラッド・ベアー レベル 15

HP 600/600

MP 103/103

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「早く避難を!」

「『鋼の縛鎖』」

―――グォオオオオッ?!

すかさず捕縛魔法でブラッド・ベアーを捕縛する。

そしてゼロスはとんでもない無茶を言い出す。

「セレスティーナさん、攻撃魔法は覚えましたね?」

「えっ? お、覚えましたけど……何故ですか?」

「アレに試し撃ちしてみましょう。運が良ければレベルが上がるかもしれませんよ?」

「無理です! 私の魔法では全力でも3回くらいしか……」

「それだけあれば充分ですよ。『天魔の祝福』」

【天魔の祝福】は魔法攻撃を大幅に引き上げる、ゼロスオリジナルの付与魔法である。

仲間の魔導士にコレを掛ける事により、殲滅戦を繰り返してきた。

何しろ威力が10倍近く跳ね上がるのだから、その破格な効果は彼等の常識の埒外であった。

「で、では……紅蓮の焔よ、敵を焼き尽せ『ファイアーボール』!」

―――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!!

轟音が響き渡り、砂塵が吹き荒れる。

とても基本魔法の威力とは思えない凶悪な威力で、ブラッド・ベアーは炎に包まれた。

「「「えぇええええええええええええええっ?!」」」

強化された魔法の威力に驚嘆したのは、当然騎士の二人とセレスティーナであった。

「止めを刺してあげてください。今度は別の魔法で」

「は、ハイ! 風よ斬り裂け、荒ぶる刃『エアーカッター』!!」

風の魔法は本来であれば威力が弱い。

しかし、強化されたエアーカッターはブラッドベアーを真っ二つに両断した。

本来であるなら、あり得ない威力である。

レベル5のセレスティーナに、レベル15のブラッド・ベアーが倒せる訳がないのだ。

だが、その常識は非常識のおかげで覆された。

「ひぃやっ!?」

突如襲った眩暈に崩れ落ちそうになったセレスティーナを、ゼロスは咄嗟に抱える。

急激にレベルが上がった事により、耐性の無い彼女は立ちくらみを起こしたのだ。

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セレスティーナ・ヴァン・ソリステア レベル 11

HP 205/205

MP 151/211

スキル

火属性魔法 10/100

水属性魔法 1/100

風属性魔法 5/100

地属性魔法 1/100

光属性魔法 1/100

闇属性魔法 1/100

身体スキル

魔力操作 3/100

我慢 50/1000

個人スキル

忍耐 50/100

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(これは意外にレベルが上がりましたねぇ~。ボーナス効果でしょうか?)

「おめでとう。レベルが11に上がりましたよ?」

「えっ? 行き成り6も格が上がったのですか?! 信じられません」

「実戦で得たレベルアップですから、当然でしょう。何しろ格上の相手でしたからね」

「は、はぁ……?」

セレスティーナは実感が無いようである。

何しろ魔法強化魔法で威力を上げて、二回しか魔法を行使していないのだから当然だろう。

だが、彼女は確かにブラッド・ベアーを倒し、レベルを上げたのだ。

「もう一匹くらい出て来ないですかね?」

「「「やめてください!!」」」

その頃クレストンは何をしていたのかと云うと……。

「おめでとう、ティーナ……。お前はとうとう、自分の手で魔物を倒す事を成し遂げたのじゃ……」

馬車の陰で孫の成長に喜び泣いていた。

どこまでも孫娘に甘い爺さんなのである。

その後、彼等はブラッド・ベアーを解体を済ませ朝食を摂った後、再び街に向けて馬車を走らせる。

この辺りで最大の街、【サントール】へと……。