軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おっさん、お節介を焼く

荒い息を吐きながら、ゼロスは深夜の森の中を走り抜けた。

周囲は自分を捕食する魔物ばかりで、彼等からしてみれば自分は餌でしかない。

気配を消し、息を潜め周囲を警戒しなければならない日が続いている。

「くっ……いつまで続ければいい! どうすればこの森から抜けられる…」

普段の言葉遣いが昔の若い頃に戻り、酷く憔悴した表情でありながら、まるで獣のように険しくギラついていた。

今の彼には心に余裕は無い。

周囲は隙あらば襲い掛かて来る魔物が跋扈し、食事や睡眠時も警戒し続けねばならず、精神的疲労は蓄積され続ける。

休む間もないほど戦い、敵を葬り続ける修羅の宴。

魔物自体は強くは無いが、倒すたびに血の臭いに惹かれ別の魔物が襲い掛かって来る。

種族によっては単体で、或いは集団で来るのだから消耗も激しい。

戦闘が途切れた合間に呼吸を整え、されど警戒を緩める事も無く周囲に気を配る。

少しの油断が命取りになるからだ。

「!?」

ふいに背後に感じた気配に、ゼロスはその場を飛び逃れた。

――斬!

瞬間、地面に一筋の傷が刻まれる。

何者かの攻撃によるものだが、その姿は見当たらない。

全感覚を総動員して周囲の気配や動きを探る。

(いる…。明らかに俺を見ていやがるな……)

敵の姿は見えない。

しかし、明らかに自分を狙う捕食者がいるのは確かだ。

獣は強い相手には挑まないが、相手が弱っているなら話は別である。

弱肉強食は原始的な自然の摂理。

相手を倒して喰らわねば生きては行けないのが本来の自然なのだ。

相手がどんな魔物かは分からないが、姿を隠す能力がある事だけは間違いない。

「問題はどのタイプかだが…。光学迷彩か、或いは精神攪乱型か…」

光学迷彩は光を屈折させる事で自分の姿を周りから隠す能力。

精神攪乱は特殊な波長を流す事で相手の五感を誤認させ、獲物から自身の認識を隠すタイプである。

攻撃の気配を感じた以上は後者ではあり得ない。

ならば光学迷彩である可能性が高いと判断した。

再び感じる気配にゼロスは本能のままに高く飛び跳ね、樹齢何百年になるか分からない大木の枝にワイヤーを引っ掛ける。

彼がいた場所に、再び数本の傷後が刻まれた。

明らかに斬撃による攻撃である。

だが、今度はわずかにだが相手の姿が確認できた。

正確には空間の歪みみたいなものだが、大型の魔物である事が窺える。

他の魔物が襲って来ないのは、この魔物の存在を恐れているからであろう。

「貫け、『狩猟神の矢』」

周囲に漂う塵が瞬時に凝縮し、鋼をも貫く矢となって歪みに向け放たれる。

おそらくは背部を貫通したのだろうが、姿が見えないために与えた損傷は確認できない。

――キシュアアアアアアアアアアア!!

魔物は痛みを感じたのか、光学迷彩を解除して姿を現した。

見た目は巨大なカマキリだが、その姿は異様なまでに悍ましい。

黒い外殻と異常なまでに長い鎌のような腕、巨体を支える足は長く太い。

鋭い爪は地面を抉り、複眼は深紅に輝いていた。

「デス・マンティス……」

ゲーム内では比較的簡単に倒せた魔物だが、目の前にいる存在はそれよりも遥かに強い気配を感じる。

レベルが違う事もあるが、その姿は彼の知るデス・マンティスとは大きく異なっていた。

鋭角的な突起物が無数に生え揃い、外敵から身を守る形態をしていたのだ。

「進化型か、或いは亜種。面倒な…しかし、昆虫は痛みを感じないのでは?」

素朴な疑問を感じたがここは異世界。

自分の知らない常識があるため、彼の知っている知識は絶対では無い。

何にしてもこの魔物は倒さねばならないが、昆虫型の様な外郭を覆う装甲を持つ魔物は面倒な相手であった。

堅い甲殻に魔力を流し防御力を底上げするために、此方も武器に魔力を纏わせ相手の防御力を相殺する形で戦わなくてはならない。

楽に倒せる相手ではあるが、この森がどれほど広いか分からない以上は魔力の消費は避けたい。

どれだけ魔力を保有していても、いずれは限界を迎えてしまうからだ。

過酷な環境下で魔力――魔法は命を繋ぐ生命線であるため、無駄に消費する訳には行かない。

ゼロスはデス・マンティスの懐に向けて加速する。

その動きを捕え、デス・マンティスは腕の鎌を凄まじい速さで振りかぶる。

だがゼロスの狙いはそこに在った。

巨体ゆえに動きは大振りで、速さはあるが見切れない訳では無い。

「ここだっ!!」

ショートソードが鎌の腕を繋ぐ関節部に吸い込まれる。

敵の戦力を奪うのは常套手段であるため、先ず狙ったのが巨大な鎌であった。

デス・マンティスの鎌が宙を飛び、地面に突き刺さる。

確認するまでも無くゼロスは走り、最も弱い関節部を狙って瞬時に両腕の剣で斬撃を繰り出した。

同じ個所に二撃同時に攻撃を受け、長い脚を寸断。

同様の行動を即座に繰り返し、四肢を斬り飛ばされたデス・マンティスは地面に崩れると、止めとばかりにゼロスは頭部を跳ね飛ばす。

屍となったデス・マンティスを手早く解体しインベントリーに急いで回収すると、ゼロスは再び森を抜ける為に歩き出した。一刻も早くこの場を離れねば次の魔物が襲ってくる可能性が高い。

魔物は血の臭いに敏感なのだ。

だが、此処は強力な魔物の犇き合う魔の森である。

魔物を倒しても間髪入れずに別の魔物が襲い掛かる地獄なのだ。

――ブブブブブブブブブブ……

耳に残る重低音の羽音。

ゼロスがその羽音の方向を振り返ると、そこに奴が現れる。

黒い外殻がテラテラ光る最強の生物。

地球では太古からその姿を変えずに生きている生命力溢れる昆虫。

しかも巨大。

「ぐ、グレート・ギヴリオン……」

白い猿以上に会いたくない奴が高速で飛来して来たのだ。

グレート・ギヴリオンは地面に轟音を立てて着地する。

デス・マンティスよりも遥かに巨体を誇る最強の昆虫型のモンスターであった。

長い触角を動かしつつ、餌を求めて周囲を複眼で見回し、そしてゼロスの姿を確認すると……

――ザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!

超高速で走り出した。

はっきり言ってしまえば、超気持ち悪い。

しかも砂塵を巻き上げ、木々を薙ぎ倒して迫ってくるのだ。

様々な意味でゼロスの顔は青褪める。

「No―――――s!! Oh-,My,God!! Help,Help,Meー!!」

生理的嫌悪感と動揺から彼は日本人をやめていた。

大賢者はホモも嫌いだが、Gも嫌いだった。

むしろ好きな人がいたら、色々な意味合いで生物学関係に進む事をお勧めしたい。

「なんで…、なんでGの姿だけ、元の世界と変わりないんだぁ――――――――っ!!」

そう、蟷螂ですら凶悪な突起物と云った目に見える形での変化があるのに、Gだけは元の世界と遜色が無い外見だった。

太古から姿を変えずに今まで生きてきた生物は、異世界では恐竜並みに巨大化したのである。

地球のように小さければればスリッパで必殺なのだが、全長10メートルクラスではそれも適わない。

しかも無駄にパワーがある。

更に悪い事に鑑定スキルが何故か働かず、ステータスを見る事すら出来ない。

もはや、何かの嫌がらせとしか思えない状況が連続して続いていていた。

これを境に、彼が四柱の女神を毛嫌いする理由に繋がって行く事になる。

逃げるゼロスと追うギヴリオン。

壮絶で嫌な恐怖の追いかけっこが始まり、それは早朝まで続く。

悲痛なおっさんの叫び声が広大な森にいつまでも響きわたる。

皮肉な事だが、この追かけこのおかげで、彼は街道まで近付く事が出来たのである。

ゼロスはその事実を知らない。

嫌われ者のGは、実に良い仕事をしたのであった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「―――なんて事がありましてね。おや、どうしました?」

ゼロスの冒険譚を聞いていた三人の女性パーティーメンバー(イリス・レナ・ジャーネ)は、全員がテーブルに突っ伏してた。

口ぐちに『G……怖い…』だの『巨大なGの魔物……会いたくないわ…』だの、無言でブルブル震えているだのと三者三様であった。

朝食の折、熟練者の経験談を聞きたいと乞われ、記憶に新しいファーフランの大深緑地帯での経験を話したのだが、巨大なGを想像したのか一斉にメンタルブレイクを起こしたのだ。

「おじさん、何だかんだで大冒険だね…」

「ゼロスさん、良く生きて帰って来れたわね。ファーフランの大深緑地帯の魔物は凶悪過ぎて、誰も近付かないのに…」

「そんな魔の領域の魔物を倒している事も驚愕だが……巨大なG、ひうっ!」

グレート・ギブリオンは、五メートルクラスが現在確認されている最大の大きさであった。

だが大木を薙ぎ倒す巨体を誇るなど想像を絶する凶悪さである。

見た目もさる事ながら高速移動し、しかも外殻はかなり硬い。

大きさに応じて装甲も厚くなる訳で、攻城兵器でも使わないと打撃を与えられないだろう。

そんな馬鹿げた魔物に襲われたら逃げる事すら難しい。

だが、彼女達は別の意味で脅えていた。

気持ちは分からぬでもない。

「それより、早く朝食を済ませた方が良いのではないですか? 鉱山に入るのでしょうに」

「そうは言うけどぉ~……」

「巨大なG……食欲が…」

「・・・・・・・・・・(ブルブル)」

一度でも想像すれば、彼女達の思考は止まらない様だ。

その悍ましき姿が脳裏にちらつき食欲を奪う。

「これくらいで食欲を失うなら、とても傭兵など出来ないでしょう。時には人間相手に殺し合いもするんですよね? 山賊とか盗賊、たまに同じ傭兵同士で」

「おじさん、嫌な事を言わないでくれる? 私達は魔物専門よ」

「そうです。人間相手なんて出来ないわ…例え悪人でも…」

「だから二人とも捕まったのでは? 自分を害しようとする相手を殺せなくて、どうして生き延びられるのですか? 傭兵は自己責任の仕事でしょうに、それで死んでは話にもなりませんよ」

イリスとレナは人を殺した事が無いようで、それ故に躊躇い盗賊達に捕まった。

命の値段が軽いこの世界で生き残るには甘い考えである。

「まぁ、笑って人を殺せるような人間じゃないだけ好感は持てますがね。ですが、殺す覚悟は持っていた方が良いでしょう」

「アタシは殺した事あるけど、あまり気分の良いもんじゃ無かったぞ」

「気持ち良く人が殺せるなら、その人は精神的な病気ですよ。隔離した方が良い」

ジャーネは盗賊を殺した経験があるが、殺人に対しては良く思ってはいない。

傭兵である以上は時として犯罪者と相対する事になり、身を守るためには殺人行為も許されている。

それで殺されても自己責任なのだから嫌な商売だとゼロスは思った。

「食事が進まないのであれば、弁当を包んで貰えば良いのでは?」

「あっ、その手があった!」

「弁当? 何ですかそれ?」

「聞いた事の無い言葉だな、イリスは知っているみたいだが」

この世界に弁当は存在しなかった。

仕事をする大半が街の中で暮らし、作業する場所も自宅と兼任している事が多い。

仮に食事が作れなくとも、街へ出れば食事ができる店はいくらでもある。

また露天商なども居るので弁当を作る必要性が無かった。

「パンに軽く味付けした燻製肉や野菜を挟んで貰い、紙に包んで持ち歩くんですよ。よほど暑い時期でなければ腐る心配は無いでしょうしね」

「なるほど、荷物はイリスが運んでくれるし……」

「良い考えだ! イリス頼めるか?」

「おっけぇ~♪ それじゃ、宿のおじさんに話をつけて来るね」

軽い足取りで厨房へ向かうイリス。

アーハンの村宿は宿の店主と料理長を兼任していたようで、どこかの船宿みたいな営業をしている。

「ところで、デス・マンティスの素材ってどんな物なんですか? 装備に使える?」

「武器や防具には向いていますよ。軽くて丈夫なのですが、炎系の魔法には弱いですね」

「まぁ昆虫だからな、火は弱点だろう」

「甲殻の中の肉は絶品でしたよ。蟹か海老のような味わいでしたが」

その一言で空気が止まった。

「た、食べたんですか? デス・マンティス……」

「魔物だぞっ、正気か?!」

「そうは言いますが、オークなどの肉も普通に食べますよね。どこかおかしいですか? 何よりも食料確保が優先のサバイバル生活でしたし、毒が無ければ食べるべきでは?」

「そう…なんですけど、巨大な昆虫ですよ?」

「普通は、食おうなんて思わないよなぁ……。少なくとも、アタシは無理!」

「そんな心構えでは、いざと云う時に飢え死にしますね。生きる事は戦いなんですよ…そう、戦争と言い換えても良い……」

(目が……目が怖いんですけど…)

(恐ろしい経験をしたとは言え、これは少しヤバいんじゃ? アタシ、絶対にあの森には行かないと決めた…)

ゼロスは元の世界でイナゴの佃煮を普通に食べていた。

その所為か昆虫を食べる事にさほど抵抗は無い。

だが、Gだけは生理的に受け付けないのだ。

それはともかく二人は魔物を食べていると言う意味では同じなはずなのに、昆虫と動物を比べその間で思考の迷路に迷い込んでいた。

「お弁当、オッケ~だって…どうしたの?」

「私達が間違っているのかしら……? でも昆虫だし…」

「虫は駄目……虫は食べられない…けどオークも魔物。違いはなんだ?」

戻ってきたイリスは不思議そうに首をひねる。

そんな二人の傍でゼロスは煙草に火をつけ、食後の一服を満喫していた。

悩む二人の頭上をおっさんが作った煙の輪が静かに流れて行く。

◇ ◇ ◇ ◇

アーハンの村の背後には三峰の山が聳えている。

その一つに鉱山があり、一時期は豊富な金鉱の資源を求め工夫達で賑わいを見せていた。

だが、ある時を境に魔物が大量に現れだし、工夫達は職場を追われる事になった。

それから二百年余りたち、現在この鉱山を訪れるのはレベルアップと装備を強化するため採掘をする傭兵達であり、村の収入は彼等が落して行く宿泊料や露店で支払う食費となっていた。

それでも暮らしが豊かとは言えず、中には狼藉を働く傭兵の所為で手痛い出費を出す事が多い。

アーハンの村はある意味で風前の灯火と言えた。

「結構、人がいますね? みんな傭兵でしょうか?」

「魔物を倒せばレベルが上がるが、アタシらは命懸けの仕事だからな。序でに装備も充実せたいんだよ」

「ふむ……ですが、いかにもガラの悪そうな人たちがいますね。ほら、あそこに……」

目を向けた先には、まだ若い少年と思われる駆け出しの傭兵と、彼に絡む中年の傭兵達の姿があった。

見た目が明らかに雑魚臭が漂うが、少なくとも少年よりは強いだろう。

「良いじゃねぇか、どうせ使いこなせねぇんだろ? 俺が代わりに使ってやるよ」

「これは父さんの形見で、誰にも渡す気はありません!」

「そのオヤジさんも、お前みたいな未熟者よりは俺みたいなベテランに使って欲しいと思うぜ?」

「父さんを知らないあなたが、勝手な事を言わないでください!!」

「わかるさ、俺は熟練者だからな。その剣がどれほどの手練れが使ったくらい、見て分かるってもんさぁ~」

明らかにいちゃもんを付け、少年の剣をせしめようとしている。

周りの仲間達は下卑た笑みをで少年を嘲笑っていた。

他にも傭兵達の姿が見受けられるが、誰も少年を助けようとはしない。

「いるんですね。お約束を行う馬鹿な人達が……」

「おじさん、何とかならない?」

「何で僕に押し付けるんです? 気になるなら自分で仲裁してくださいよ」

「ゼロスさん……いい大人がそれで良いんですか?」

「僕は平穏無事がモットーです。他人のいざこざに好き好んで首は突っ込みませんよ」

「・・・・・・・最低な大人だな」

冷たい視線がゼロスに集中する。

本人としては余計な恨みを買いたくないのだが、周りそれを望んでいた。

そんな事を思っている内に状況は一変して行く。

「良いから寄越せってんだよ!」

「あっ、返して! 返してください!!」

隙を見て男は少年に剣を鞘から引き抜く形で剣を奪う。

その時ゼロスのスキル【鑑定】が発動した。

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【ミスリルの剣(劣)】

元は高名なドワーフが鍛えた最高の剣だが、剣身に亀裂在り。

弱い魔物であればしばらくは問題なく使えるが、そろそろ寿命。

最早剣としては意味を為さない老朽化を迎えている。

作り変えた方が良いと思われるが、素材が大量に必要なため赤字覚悟。

大型の魔物の一撃を受ければ砕けるほど耐久力は落ちている。

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(なぜに必要のない時に発動しますかね。実に腹立たしい……)

用も無いのに発動するスキルが憎らしかった。

溜息とボヤキが口から出る。

「へへへ……良い剣が手に入ったぜ」

「か、返して・・・」

「うっせぇ! ガキには上等過ぎるシロモンだろうが、俺がありがたく使わせてもらうぜ」

少年を殴り飛ばし、ガラの悪い傭兵はご満悦だった。

「他人の剣を奪って喜んでいるところすみませんが、その剣は使い物に為りませんよ」

「な、何だよテメェは……」

「いえいえ、他人の事などどうでも良いんですがね。その剣は既にボロボロで、使い続けたら近い内に貴方が死にますね。別に構いはしませんけど」

ガラの悪い傭兵は仲間と顔を見合わせる。

「フカシこいてんじゃねぇぞ!」

「水があれば証拠を示す事は出来ますが、そこまでする義理はありませんけどね。ただ、僕は【鑑定】持ちですので……」

鑑定スキルはレベルに応じて物の詳細を知る事が出来る。

それは人間でも同じで、相手のレベルすら知り得る事が出来るのだが、他人のステータスを見る事は違法であった。

「偶然ですが鑑定スキルが勝手に発動しまして、詳細が知れたものですから少し忠告をと。

信じるかどうかは貴方次第ですよ? 死ぬのは貴方自身ですし、所詮は他人の命ですので、どうでも良いですから」

「なっ!? ……マジか?」

「それは、あなた自身で判断してください。言ったはずです、信じるかどうかはあなた次第。ここがボーダーラインです」

胡散臭い魔導士に死ぬと言われ訝しむが、鑑定持ちと言う事は信頼性が高い。

しかし目の前の魔導士は胡散臭過ぎて嘘を言っている可能性も高い。

二つの選択肢の間で揺れ動いてた時、男はゼロスの腰の剣に目を付ける。

第三の選択肢が現れた。

見たところ中肉中背のだらしない同年代の魔導士で、剣を使うようには思えない。

何よりも灰色ローブで、男の目にはゼロスが強そうには見えなかった。

「だったら、あんたの剣と交換でどうだ?」

「断る」

「いや、こいつはミスリ…『しつこいですね。そんな欠陥剣など要りません』…」

交渉の積もりがきっぱり断られた。

しかも欠陥品と言われて拒否されたのだから、ミスリルの剣は確かに使えない武器であると判明した。

だが目の前の魔導士の剣を見て、相手は魔導士だから力尽くで奪うと云う手段も残されているため、傭兵の男は嫌らしい舌なめずりをする。

「あんた、魔導士だろ? 剣なんか必要ねぇだろ、俺が使ってや…?!」

男は最後まで言葉を繋ぐ事は出来なかった。

なぜなら、いつの間にか彼の喉元に剣先が突き付けられていたからだ。

わずかに刺さった剣先端の喉元から赤い筋が流れる。

「僕は剣が使えない訳では無いんですよ。むしろ、こっちの方が得意でしてねぇ…で、アンタは死にたいのかい?」

「ひいっ!?」

「なんだよ。いつの間に……剣を…」

「騙された……コイツ、魔導士じゃねぇ!」

いつ剣を抜かれたのか分からないほど、ゼロスの抜剣速度は速い。

仲間の傭兵達には目の前の相手が相当の手練れであり、男が勝てる筈の無い存在である事を知る。

今傭兵の男は、目の前の魔導士に心臓を掴み取られているのと同義なのだ。

「大した実力も無いのに良い武器を欲しがるものじゃないですよ。子供ですか? 武器に頼ってるうちは三流のままなんじゃないですかねぇ~。

別におたくが死のうと知った事じゃありませんが、この時点で相手の実力を量ないのですから、長生きは出来ないと思いますよ? まぁ、三流以下ですね。何ならここで死んでみますか? どうせ碌なものじゃないのでしょうし、死んでも誰も悲しまないでしょう」

胡散臭い魔導士が、一瞬にして手練れの化け物に変わった。

静かにドスの利いた口調で、男の心をを恐怖で縛り付ける。

殺意が無いが、気分次第では殺される。その現実が男を言葉にできない恐怖の底に突き落としていた。

「僕はねぇ~正直イラついてんですよ。採掘しに来たってのに、あなた方たいなクズを相手にさせられてね……分かりますか?」

「あ…あぁ……すまねぇ…。俺が調子こいた…」

「分かればいいんですよ。さっさとその剣を返して僕の前から消えてください。これ以上、僕達の前をうろつきましたら、その時は……」

「そ、その時は……?」

「楽しい地獄旅行をプレゼントしましょう。二度と帰って来れませんけどねぇ…ククク」

傭兵達は剣を放り出して一斉に逃げ出した。

相手の実力を推し測れず、勢いだけの惰性で傭兵を続けてきた彼等は格上の相手など出来ない。

逃げ足の速さは一流の様で、凄い速さで走り去って行った。

お約束的展開に呆れながらゼロスは煙草に火をつけ煙を吐く。

「フゥ…チンピラって、あんなのが多いんですかねぇ~?」

先ほどの凄味はどこへやら、忽ちだらしなくなるおっさん。

そんなおっさんの傍に少年が歩み寄って来た。

「あ、あの…ありがとうございます」

「ん~~別に良いですよ、お礼なんて。無理矢理に仲裁させられただけですからね、僕は……」

「いえ、これは父さんの形見だから……本当にありがとうございました!」

「気にしない気にしない。今日は運が良かった、それだけの事ですよ。明日はどうなるか分からないのが傭兵家業でしょうし」

どこか少女の様な面立ちの少年で、とても傭兵をする様には見えない。

だが、彼の目には強い覚悟の様な物が見える。

(ハァ~……これはまた随分と強いか決意を秘めている様で。ここで別れて剣の所為で死んだら寝覚めが悪いしなぁ~。仕方ない、お節介を焼きますかね)

何となく少年が気になったゼロス。

インベントリーから一枚の紙を取り出すと、それを地面に広げた。

錬成魔法陣である。

「その剣を貸してください。少し修復してみます」

「えっ? だけど、この剣は寿命で……」

「だからこの鉱山に来たんでしょう? 新しい剣の素材を集めに。ですが、その剣では持たないかもしれません。少し修復しますが、僅かに寿命が延びた程度と思ってください」

「い、良いんですか? でも、どうやって」

「見ていればわかりますよ。まぁ、鉄とミスリルの複合素材では、一目で判別は難しいですが……。それは兎も角、ただのお節介を焼いたついでですから、今日は本当に運が良かったと思えば良い。気まぐれですからね?」

「……分かりました。お願いします!」

ミスリルの剣を受け取ると、魔方陣の中央に置く。

魔力を流し込む事で魔法陣の魔法式が展開し、剣が空中に浮かび上がる。

周囲に半透明のパネルが浮かび上がり、剣の状態の詳細データが映し出される。

「む、鉄が30、ダマスカスが20、ミスリルが50の割合ですか。これは……破損していない状態で見て見たかったですよ」

情報を確認しながらも、見た目で判別の出来る亀裂箇所修復を、魔法式をコンソールパネルを叩きながら修復プログラムを構築し、修繕魔法式を即座に完成させると『錬成』と一言呟いた。元プログラマーはこうした仕事が早い。

展開された魔法陣の内部で高密度の魔法式が循環し輝き、その与えられた命令を実行に移す。

一見して完全修理が可能に見えるが、これは飽くまでも応急処置や単純作業にしか使えない。

一度でも破損した個所は完全に元通りには行かないのだ。

手早く一仕事を終えた彼は、一口煙草を吸い煙を吐く。

「出来ました。ただ、あくまでも剣を作るまでの繋ぎ程度ですね。過信して使い続ければ死にますよ?」

「あ、ありがとうございます! 僕もこの剣を使い続ける気なんてありませんし、自分の剣は自分で手に入れる積もりでしたから」

「なら大丈夫かな? まぁ、そのへんの鉄の剣よりはマシ程度にと思って欲しい。暫くは壊れる事は無いでしょうから……あ~、相手にもよるかなぁ~?」

「充分ですよ。これで鉄を採掘に行ける、本当にありがとうございました」

喜び勇んで駆け出す少年の背を見送りつつ、『若さって良いなぁ~……』などと呟いた。

魔方陣を片付けしインベントリーにしまうと、なぜか女性陣三人が冷たい目でゼロスを見ている事に気付く。

「何故、そんなゴミを見るような目で見るんです?」

「おじさん……お子様には興味ないって言ってたよね?」

「意外に手が早いんですね…。あんなに親切にして……」

「やっぱりナンパだ……。アタシも狙われてるんだ……」

意味が分からない。

彼は少年に余計なおせっかいを焼いただけである。

それなのにここまで蔑まれるような真似はしていない筈であった。

「おじさん、ボクっ 娘(こ) が好きなの?」

「ジャーネも男勝りのところがあるし、好みなんですか?」

「・・・・・・・・・・(ガクガク、ブルブル)」

「・・・・・・・・What,s?」

そして彼はようやく結論に至る。

彼が少年と思っていた子は、実は少女であったという事実に……。

「女の子だったんですか!?」

「おじさん、気づかなかったの?」

「あんなに可愛い男の子がいる訳…まぁ、たまにいるけど。どう見ても女の子ですよ?」

「最低だな、このおっさん……」

小さな親切をしただけなのに、何故か更に侮蔑のこもった視線を向けられる。

理不尽だった。

「ちょっと待ってください。レナさん、貴女はたまにいる美少年に何をしたのですか!?」

「なにって、それは……でぇ~へへへへへへ♡」

何を思い出したのか、美人の顔がもの凄くだらしなく歪む。

人とした駄目な方向性の残念臭が際立つ。

それ以上に怖い。

「少女を少年と間違えた僕と、未成年に手を出している彼女と、どっちが最低ですか?」

「「どっちも最低!」」

イリスとジャーネの声が綺麗にハモる。

やっぱり理不尽だった。

同列に扱われる事自体が悲しい。

それ以上に何か納得が行かない。

「些か納得できない事もありますが、さっさと採掘に向かいましょう。まぁ、僕一人でも構いませんけど」

「あっ、誤魔化した。最低よ、おじさん」

「まったくだ。ここで別れた方が良いんじゃないか? 暗闇で何されるか分からないし」

言いたい放題に言われているのを無視して、ゼロスは鉱山の入り口に向かう。

この手の話題は何を言っても無駄だと分かっていた。

気分を切り替え、ゼロスは魔物の住まう鉱山に足を踏み入れた。

その背後でレナがだらしない笑みのまま身をクネらせていたのだが、全員で無視する事に決める。

まだ思い出の中にいる様で、見ているだけで正直、気色悪い。

普段は常識人なのに、性癖があまりに残念過ぎたのだ。

彼等は身内と思われない様に、彼女との間に一定の距離を置いて坑道を進む。

それぞれの目的のために。