軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おっさん、ロマンを求めてギルド規約を無視する

間合いを詰めたゼロスだが、ロボの反応は予想よりも早く上部のグレネードを牽制射撃し、ゼロスの頭部スレスレを通過して後方に着弾、爆発した。

一瞬で懐に飛び込んだゼロスは円柱状のボディ目掛け剣を一閃。

『ガキン!』と甲高い金属音が響き渡る。

『硬い……。音からして装甲が薄いことは分かったが、意外にも強度がある。もしくは内部で強化魔法と魔法障壁を併用しているのかね? ここはセオリー通りに関節も狙ってみるか……』

機体の重量を支える四本の脚。

その関節部に向け剣で斬り裂こうとした一瞬、前方部小型の腕に取り付けられた銃身がゼロスに向けられた。

危険を察知し飛びのくと、即座にナットが撃ち出されるが、素早く背後へ廻るゼロス。

――Gagagagagagagagaga!!

四本脚を動かしながら射線を確保し射撃するロボットだが、ゼロスの動きが素早くて照準が合わず、攻撃目標を急遽エロムラに変更する判断を下す。

左右二本のアームに固定された銃身がエロムラに向けられた。

「うそぉ!?」

相手に狙いを定められないのであれば、弱い敵に狙いを変えるのは定石だ。

危険を察知し全力で走り回るエロムラの背後ギリギリを、ロボットから高速で撃ち出されるナットが通り過ぎてゆく。だがゼロスは助けない。

逆に背後から関節部に目掛けて斬撃を繰り出した。

しかし、関節部の付け根を狙った攻撃もあっさり弾き返された。

『関節部も予想以上に頑丈ときた……。どうしたもんかね』

ショートソードでは攻撃力に難があり、このロボットの装甲どころか関節フレームすら両断できないことが判明した。今手にしている武器では切れ味が足りないのだ。

そうなると武器を変更しなければならないのだが、このロボットの動きより弾丸の射出速度の方が早く、武器を変えている隙を狙われてしまうだろう。

武器を選んでいるあいだ誰かが囮にならなければならないわけだが……。

「……エロムラ君、少し時間を稼いでくれ。武器を交換するから」

「ちょっとぉ!? 今、俺が狙われてるんスけどぉ!? 助けてくれないのぉ!?」

「奴の周囲をグルグル回っていれば足止めできるし、攻撃も当たらないから少しだけ粘っていてくれ」

「ヒィイイイイッ!!」

損な役回りは当然エロムラしかいなかった。

時間稼ぎを有無言わさず押し付け、その隙にゼロスは柱の陰に隠れると、インベントリ内の装備品を確認し始めた。

『斬撃優先で刀を使うべきか、それとも超重量武器で力押しするべきか、悩む~』

重量武器で強引に装甲を斬り裂くなら、前に冗談で作った大剣がある。

しかし、ゼロス的にはあのロボットを破壊するのはもったいないく、ぜひとも回収して分解してみたいと考えていた。

脚さえ切り離してしまえば後の事はどうとでもなるのだが、問題はどれだけ損壊を抑えて動きを封じるかだ。

『ボルトマシンガン(?)は前部二椀に一基ずつ、上部に砲身…ランチャーかな? 弾数はさほど多くはないはず。なら、やはり脚を狙う前提として、どうやって機能停止するかだな。あの装甲だと重量武器を使ったら動力まで破壊しかねない……。装甲を剥ぎ取る……いや、機械ならメンテナンスをする必要がある。どこかにメンテ用開閉スイッチかレバーがあるはず。無いときは装甲の繋ぎ目を集中的に狙えば……』

装甲を少しずつ切り飛ばしていく方法を一時保留し観察を続行。

人の手を必要とする機械であれば必ずメンテ用に装甲を外す機能が備わっているはずと推測し、エロムラを狙い追い掛け回すロボットの姿をもう一度確認してみると、本体と脚部の付け根の少し上にわずかな隙間が機体を一周するように存在していた。

おそらく何かの手段を用いれば上下にボディが開くのだろうと推測できた。

この推測が正しければ、おそらくは開閉ギミックが機体に存在しているはずだと一定の推論を立てたところで、ゼロスは再度ロボットのボディを観察する。

『左背面部にパネルがあるな。それ以外は何もおかしなところは見られない。おそらくはアレが装甲の開閉用レバーがあるはず………レバーだよな? 開閉に暗証コードを打ち込む仕様じゃないよな? まぁ、試してみないことには何とも言えないが……』

やることが決まればおっさんの行動は早い。

インベントリ内にある武器閲覧から、適切な得物を選択する、はずだったが……。

『刀……52本もある。業物より上でないとあの装甲は斬り裂けない。選ぶにしても候補が24本、どれも実戦で使ってみたいところだが、どれにするべきか……』

……使用する刀の選択で悩みだしてしまった。

なぜなら、その刀には全てヤバ~イ性能を持ったものが多く、どれも未使用だった。

そして、おっさんは自分で製作した刀にもかかわらず、その性能を全て覚えているわけではない。

刀に付与した効果の特性をいちいち確認しなくてはならなくなった。

『困った……。特殊効果付きだと余波でアレを破壊してしまいかねないし、最も切れ味が良かったのはどれだっけ? 【流星】? 【日陽】? 【雲劾】? 駆逐艦名シリーズだと【暁】、【響】、【雷】、【電】。【叢雲】も捨てがたいが、渋く特殊効果のない【迅雷】でもいい』

「Help! Help、Meeeeeeeeeeeee!!」

一振りずつチェックして更に悩みを深ませるおっさんと、全力でロボットの周囲を回り続けているエロムラ。何かの童話のようにバターにならないか心配だ。

ロボットは足の爪のあいだから車輪を出し、内部のモーターを駆動させ旋回速度を上げ、エロムラに照準を合わせていた。

射出されたナットが当たらないのは、エロムラの逃げる速度が若干上回っていたからであり、もしも転倒すれば直ぐに蜂の巣にされるだろう。

死にたくないのでエロムラも必死だ。

「兄様、エロムラさんは大丈夫でしょうか? それに、あのゴーレムはもしかして……」

「おそらく魔導文明最盛期のものだな。まぁ、エロムラはあのゴーレムの周りをグルグル回っているだけだから、攻撃しなければしばらく逃げ切れるだろ」

「あの旋回性能のせいで、背後に回って攻撃すらできないようですね。アタッカーがもう一人いないときつそうですよ」

「魔導文明期のゴーレムか、俺達が知るゴーレムとは性能が圧倒的に違いすぎる。(あの武装……もしかして魔導銃か? 邪神戦争前のゴーレムには、あんなものが標準配備されてたのかよ)」

ツヴェイトは勘違いしていた。

ロボットに搭載された武器は魔導銃ではない。

空気圧を利用したナットを連続して撃ち出す、作業機械を強引に射撃武器へと改造されたものだ。弾を射出する機能という観点だけで見れば魔導銃も同じだが、威力の面では大きな差がある。

しかし魔導文明期の魔導銃を見たことのないツヴェイトには、オリジナルの威力までは分からず、自分の知識を当てはめて考察しなくてはならない。

当たらずとも遠からず、実に惜しいところは突いていた。

「ゼロスさん、早くしてぇ~~~っ!!」

「ん~、もう少し頑張って……」

「ちくしょぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉつ!!」

ゼロスの気のない返事に、エロムラは涙目。

だが、このロボットはそれなりに高性能だ。

情報収集力のみならず、地形状況を確認しつつ適切な戦闘を行う解析力。そして刻一刻と変化する状況に対応する学習力も……。

――ガガッ!

ロボットは突然地面に爪を突き立てた。

回転速度からなる慣性により急激に停止することはできず、地面を擦る音と共にロボットの足先から火花が散り、石畳が抉られる。

同時にロボットの旋回速度に急激な制動が掛けられ、強引に停止。

『ゲッ、緊急制動!? こんな真似ができ……ヤベ……』

ロボットはその場で旋回だけを続けていたが、旋回速度よりも早くエロムラは動いている。では、ロボットが突然に停止したらどうなるか?

周りをグルグルと廻っているだけのエロムラも、当然ながら自身の速さに制動を掛けられず、自らロボットの照準内に飛び込む形となり格好の的となってしまった。

その瞬間、エロムラの視界は全てがスローモーションのようにゆっくりと動く。

『こいつ、状況を計算して……。マズイ、撃たれる!! どうする、どうする! どうするよぉ、俺ぇ!!』

ロボのナットマシンガンがエロムラに向けられ、無数のナットが射出された。

精神だけが加速する世界で、エロムラは自分に向けて放たれた凶弾がゆっくりと迫り、このままでは自分が射殺されるという未来しかないと理解する。

だが、自分に放たれたナットはまだ当たってはおらず、いくばくかの猶予がある。ならばどうするか?

『南無三!!』

エロムラは飛び上がると、空中でエビ反り後方宙返りで第一の弾を避け、第二の弾は身を捻ることにより腰アーマーで跳弾させ、第三の弾を手甲で弾き、第四の弾は足を開くことにより姿勢を崩して辛くも避け、第五の銃弾は迫る地面を手で押し返し、バク転中に身を捻ることで背中の傍を通過していき、第六と第七の弾は股間のキノコに着弾。物理的にも骨格的にもあり得ない避け方だった。

その瞬間、エロムラの鑑定スキルが勝手に発動。

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【エロムラ股間キノコの傘】×数量計測中

……しばらくお待ちください。

エロムラの股間に菌糸を張り、見事に成長したキノコの残骸。

一応だが食べることができる。

【エロムラ股間キノコの胞子】×計測中……。

エロムラの股間で成長したキノコの胞子。ナットが被弾したことで散布。

生命力が強いので瞬く間に繁殖するでしょう。

【エロムラ股間キノコの菌糸】×計測中………。

エロムラの股間で成長したキノコの菌糸。被弾したことでどこの菌糸か判別不能。

まだ生きているので、繁殖するかも?

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『こんな時にも鑑定が勝手にって、なんで俺がキノコ名にぃ!?』

埋め尽くす鑑定の表示に視界を奪われながらも、なんとかロボットの照準範囲の死角に逃れ、視界に映っていた鑑定表示も消え去ると同時に慌ててロボットのカメラに映らないよう、全力で安全圏の背後へと回りこむ。

「……あいつ、股間のキノコを」

「男として終わったな」

「つか、なんでフル●ンで……そういう性癖なのか?」

「砕け散ったのは俺の息子さんじゃないからねぇ!?」

そして様子を見ていた傭兵達に、大いに勘違いされる。

思わずツッコミを入れたエロムラだが、これがいけなかった。

ロボットはエロムラの音声に反応し、自分の背後に回ったと知るや足の駆動輪を使用。

緊急離脱のための脚部の駆動輪を高速回転させ、無理やりバック移動を実行した。

「おわぁ!?」

いきなりやられた特攻体当たりによって、エロムラが吹き飛ばされる。

石畳の回廊を転がる中、エロムラはゆっくりとロボットがこちらに向きなおす光景を見た。二丁のナットマシンガンの銃口がゆっくりとこちらに向けられている。

『ヤバイ……これ、死ぬ……』

絶体絶命。

そう思った瞬間、ロボットの四本脚に一瞬だが光が走る。

脚部が切り離されたことにより、胴体部が重量によって落ちた。

石畳を転がるロボの胴体の背後で、刀を静かに鞘へと納めるゼロス。

「………た、助かった」

「えっと、こののパネルを開いて……おぉ、良かった。暗証番号を打ち込むタイプじゃなかったよ。んで、このレバーを上げると……」

「ちょっとは心配ぐらいしてぇ~~~っ!!」

エロムラの泣き言は無視し、おっさんは淡々とロボットの機能停止を進めていた。

ちゃっかりと切り離した脚部もインベントリに回収済みだ。

「この中央の小さな円筒が動力部か? このコードが脚部に繋がっていて……」

「いやいや、分解作業は後回しでもいいでしょ!」

「何を言ってるんだい、エロムラ君。動力を停止させないと、自爆するかもしれないじゃないか」

「そんなの取り付けるのは、アンタとお仲間ぐらいなもんだろ!」

「失礼な言い方だねぇ、自爆装置にロマンを感じないのは男じゃないよ。あぁ、君の股間はもう破裂したっけ……ご愁傷様」

「だから、あのキノコは俺の息子さんじゃねぇからぁ!!」

内部の機器を調べながら、適当にいくつかの配線を切っていくおっさん。

やがてロボットは『キュゥゥゥゥゥン……』という音とともに動力を停止させた。

機能が完全に停止したところを確認したゼロスは、実に爽やかな笑みを浮かべつつ、ロボットの本体もインベントリ内に回収する。

「いや、これは凄いわ。魔導力機関とでも言うべきなのかな? 周囲から魔力を集めて増幅し、半永久的に機能する仕組みだったよ。ブラックボックスに繋がる配線を切ったらすぐに停止した。いやぁ~、これは良いものを拾ったなぁ~」

「喜んでるのはアンタだけだろ……」

死にそうな目に遭っていたエロムラは凄く不機嫌だった。

「師匠、これって魔導文明期のゴーレムだよな? 回収なんかしてどうすんだ」

「動力が発電機として使えないか、いろいろ試してみようと思っているんだが、あと何個か同じものが欲しいところだねぇ」

「あんなの他にもいたら普通に死ねるだろ。そもそも、ダンジョンになんであんな兵器が存在してるんだ」

「さぁ~? ダンジョンはとにかく謎が多いから僕にも分からんよ。仮説ならいくらでも立てられるけどさぁ~、証明するのは難しいし考えても意味ないね」

ダンジョンが成長すると空間をゆがめ、狭い空間内に広大な世界を構築する。

どのような原理が働いているのかは不明で、この自然現象の謎を解き明かせるほどの情報がない今、いくら仮説や憶測を並べたところで証明することはできない。

そんなことよりも見知った顔の勇者二人に詳しい話を聞くことの方が先決だった。

「さて、君らも無事かな?」

「助かりました、ゼロスさん」

「まさに地獄に仏だった……。俺、もう駄目かと思った」

「ゼロスさん、この二人と知り合いか?」

「どこかの宗教国家が異世界から誘拐してきた被害者さ。ところで、あのロボットはどこで見つけたんだい?」

「そ、それなんですけど……」

「俺達は巻き込まれたんだよ。あの傭兵達がアレをトレインしてきやがって……」

「ほほ~ぅ」

ゼロスはこちらの様子を窺っている傭兵達を見た。

目が合った瞬間に気まずくなったのか、三人は顔をそむける。

「おたくら、少ぉ~しばかり話を聞かせてもらえないかねぇ。あのロボ……ゴーレムをどこで発見したんだい? 他に同じヤツはいなかったかい? 別の機体でもいい! さぁ、キリキリ吐きたまえ!」

「おっ? おぉおっ!?」

おっさん、凄い勢いで傭兵達に詰め寄り、有無言わさぬ迫力で事情聴取を始めた。

むさい男達三人は、気圧されながらもその質問に答えだす。

「俺達が見たのは、アレだけだったよな?」

「ダンジョンの探索から帰還中、地鳴りがしたと思ったら来た道が塞がれて、彷徨っていたら偶然妙なエリアに入っちまって……」

「攻撃されて逃げ惑っているうちに、気づいたらこんな場所に来ていた……」

「妙なエリア?」

「森林……にしては湿気が多い妙に暑い場所でな、昆虫型の魔物がウヨウヨ生息していた。そこで明らかな人工物を発見したんだが踏査するわけにもいかず、ひときわデカい建物に侵入して上を目指したら奴が……」

「ふむ……」

傭兵達の話を纏めるとジャングルのようなフィールドで、木々が生い茂った建築物やゴーレムと思しき残骸がいくつも転がっていたという。

ただ、そのゴーレムは岩や金属などの塊をくっつけただけの歪な人型などではなく、明確な用途に合わせて作られたものであったらしい。

「それ以外に気づいたことは?」

「建物はいくつもあったな……。全部を調べたわけじゃねぇが」

「ただ、構造が今のものと明らかに異なる建築様式だった」

「あえて言うなら、イーサ・ランテの建物に似ていたな。木々が繁殖していて、完全に森に飲み込まれていたが、間違いはねぇよ」

「このエリアから行けますかねぇ?」

「あぁ……この先に別の右折路があって、先に行くと洞窟がある。後は道なりにまっすぐ進むと下へと続く階段があるから、降りれば直ぐに辿りつけるはずだ」

「情報ありがとう。あぁ、第二階層もかなり構造が変わったようだから、帰りは気を付けてくれ。巨石文明の遺跡風エリアと、キノコばかり繁殖したエリアがあった」

「マジかよ……。こんな大規模なダンジョンの変化なんて、聞いたこともねぇぞ」

九死に一生を得た傭兵達だったが、ゼロスの話を聞いて頭を抱えてしまった。

彼らが今まで探索し調べていたダンジョンの構造が全て当てにできなくなり、この先も慎重に行動しながら地上を目指さなくてはならない。どのような魔物が生息しているのか分からないので、帰るには危険な冒険をしなくてはならない。

だが、彼らはまだ戻れる可能性があるだけましな方だろう。

奥まで探索に出かけた他の傭兵達は、この大規模な構造の変化によって帰れない状況にあるかもしれない。

救助を出せば二次遭難になる可能性が高く、傭兵ギルドも何もできないだろう。

「あ~、田辺君と一条さん。この傭兵さん達を地上まで護衛してくれませんかねぇ? かなり深刻な緊急事態になったようだからさ」

「緊急事態……ですか?」

「おいおい、ゼロスさん。それはないだろ。俺達はここまで一稼ぎするために来たんだぞ? たいした収穫もなしに地上へ戻れと?」

「別に、先に進みたければ止めないよ? ただねぇ、ダンジョンの構造変化に巻き込まれれば、二度と太陽を拝めなくなるかもしれないけど、危険を冒してでも先に行くのかい? いくら君達が強くても、食糧が尽きれば餓死する可能性もあるんだけど?」

「うっ………」

勝彦はレベルが傭兵達よりも高いため、力押しだけでもダンジョンで稼げると思ったからここまで来た。しかし前提条件と状況は大きく変わった。

今もダンジョンは変化を続けており、日帰り目的でアーハンのダンジョンに来た彼らでは準備が足りず、遭難したら食料不足でいずれ餓死する可能性の指摘は実に痛いところを突いていた。

金のために危険を承知で進むか、命を惜しんで引き返すかの選択が迫られる。

「……田辺、戻るわよ」

「一条!? いや、それだと俺、生活が困るんだけど……」

「アンタが娼館とカジノに行かなければ済む話でしょ。しばらく禁欲生活をしながら真面目に働きなさい」

「田辺君……。君、そこまでロクデナシに堕ちてたのか……」

「ゼロスさんっ! 男なら、女に金をかけるのは当然だろぉ! 金がなければ博打で一攫千金はロマンだろぉ!!」

「正直に言うけど、僕は共感できないわ。それに女性にお金をかけるって、娼婦に貢いでるだけでは? お店の売り上げに貢献して散財した挙句、博打で元を取ろうなんて馬鹿のすることでしょ。これで悪い病気を貰ってきていたら救いようがなくなるねぇ」

「一条と同じことを言う! そんなに言うなら彼女紹介してくれよぉ、そこに一人手頃な子が……」

「君、死にたいのかい? 公爵家の御令嬢を紹介してくれだなんて、よく言えたものだ。君がどこぞの国では勇者でも、この国ではただの一般人だからね? そこを無視して手を出したら、権力をフルに使って抹殺されると思うよ? そうなる覚悟があるとでもいうのかい?」

勝彦はエロムラ並みに馬鹿だった。

しかも勢いとはいえ紹介して欲しいと挙げた子は公爵家令嬢。

どこぞの御老人に聞かれたら容赦なく潰されることは間違いない。

「マジで? いやいや、でも俺のレベルだと簡単に殺されるようなことは……」

「高レベル者を始末する方法なんて、いくらでもあるさ。最悪、僕に依頼が来ると思うけど、そのときは仕事だと思って諦めてほしい」

「仕事で知り合いを殺せるのぉ!?」

「クズを始末するのに遠慮なんていらないさ。一条さんからもたまに話を聞いてるけど、田辺君……君って人生を舐めてきってるよね? 借りた金すら返さず、懲りずに何度も借りに来るなんて、人としてどうかしている」

「うぅ……仕方ないじゃないか。俺の稼ぎだと、Nо1娼婦なんて手が届かねぇんだし」

「それ、人に迷惑をかけてまで通い詰めるほどのものなのかい? 他人の金を当てにして、いい身分だよねぇ」

「……一条も快く貸してくれてんだけど」

「ふざけんじゃないわよ! アンタが店の前で無様に泣き喚くから、恥ずかしくて仕方なく貸してんじゃない!」

話を聞いていたツヴェイトやセレスティーナ、それと関係ない傭兵達三人の冷ややかな視線が勝彦に集中する。

それは汚物を見るかのような実に冷めきった視線だった。

そんな中、勝彦に理解を示す者が一人だけいた。エロムラだ。

「わかる……。俺も思わず奴隷ハーレムを作ろうとして訴えられた。女性と関係を持ちたいと思うことは自然の摂理だよな……」

「そ、そうだよな……。理解してくれるのか!」

「けど、俺達が思っていることは幻想なんだよ。一般奴隷は人権が認められてるし、娼婦は所詮、店にお金を入れるために様々な手管を使っているだけ。俺達みたいなやつはカモなんだ」

「わかっちゃいるんだ。けど、彼女達に話を聞いてもらえるだけで俺は癒される。嫌な現実を少しだけ忘れることができるんだ……」

「けどよ、溺れちゃダメだろ。癒されたのなら、その倍は努力しないとさ。ガンガン稼ぎを出せるようになってさ、その後で恩返しすればいいじゃないか。線引きをするべきなんだよ。それに人の金を借りてまでカジノや娼館に行くなんて、それこそ駄目人間だと思うんだ」

『『駄目人間が駄目人間を説得してる……』』

おっさんとツヴェイトの心の声が見事にシンクロしていた。

「店に貢がされているとは分かっているが、俺はどうしても彼女達と離れたくないんだ。黒猫楼のキャシーさんや、マダムスフィアのジェシー姐さん……。こんな俺でも温かく受け入れてくれて、相談も乗ってくれてさ」

「有名店ばかりじゃねぇか。それでも、カジノで金を作ろうとするのは無茶だろ。リスクが大きすぎて現実的じゃない。でも、気持ちは痛いほど分かるぞ! 俺も同じことをする自信があるほどに」

見つめ合う残念な男達と繋がる心。

二人は「「心の友よぉ!!」」と互いに抱き合い、芽生えた同情心が友情へと発展し、仲が急速に深まった。

『『いや、痛いのは心じゃなくお前ら二人だろ。そんなことに自信を持つな』』

シンクロしつつもツッコミを入れるおっさんとツヴェイト。

他の面々も『うわぁ~……こいつら駄目すぎる』と呆れてはいるが、心の声を言葉に出さないのは彼らなりの優しさなのであろうか?

「話はそこまで。一条さんたちは早くこのダンジョンから出て、傭兵ギルドに報告しておいてくれないかい? 僕らは傭兵達の言っていた建造物とやらが気になるから、確認しに行ってくるよ」

「大丈夫なんですか? 話を聞く限りだと、このダンジョンはかなり不安定で危険な状況だと思うんですけど」

「いざとなったら階層をぶち抜くさ。まぁ、これは最後の手段だけどね」

『階層をぶち抜くって……。この人を敵に回す真似は絶対にやめよう。怖すぎるから』

ダンジョンは普通、魔法程度では破壊できない。

だが、そのダンジョンの階層をぶち抜くと宣言した魔導士に、渚は底知れない恐怖を感じた。

断言したということは実際に可能ということであり、ゼロスの口ぶりでは既に実証したことがあると思わせるからだ。でなければこのような言い方はしないだろう。

「じゃぁ、私達は地上へと戻ることにしますね。ゼロスさんも気を付けてください」

「あぁ、君達もねぇ。ダンジョンの構造がかなり変わっていたけど、上階層だからなんとか戻れるでしょ」

「だと、いいんですけどね」

勇者二人は傭兵達とともに、地上を目指しこの場で別れた。

ゼロス達も傭兵から得た情報を確かめるため先を進む。

「なぁ、師匠……。なんでわざわざダンジョンの奥に行くんだ? 俺達も地上に戻る予定だったよな?」

「ちょっと気になることができたんでね、確かめに行こうと思ってる」

「確かめる? 何を……」

ゼロスは魔導文明期のロボットを見て、わずかな違和感を覚えていた。

それはエロムラがロボの注意を惹きつけていたときに感じたもので、事が済んで初めてその違和感を明確に理解した。それは戦闘用のロボットとして見ると明らかな欠陥と呼べるものだった。

「エロムラ君、あのロボットと戦闘して、何か違和感を覚えなかったかい?」

「違和感? 俺はあのとき必死だったから、細かい事なんて覚えてないぞ? 何か変なところでもあったのか?」

「変と言えば変だねぇ。あのロボット……ゴーレムと言い換えるべきか。アレは戦闘用として見た場合、あまりに馬鹿すぎる」

「「「 ハァ!? 」」」

ツヴェイト達はゼロスが何を言っているか分からない。

戦闘力として見れば、頭頂部に大型の魔導砲(ナパーム砲)を装備し、下部にはナットを撃ち出すエアマシンガン。威力という面では充分に戦闘用としての性能を持っているように思えた。

だが、ゼロスが気にしているのは火力ではなく、搭載された人工知能のほうだ。

「エロムラ君はあのゴーレムの周りを走り回り、ゴーレムは照準を合わせるために同じ場所でグルグルと廻っていただけだった。それなのに反撃行動に移すまで時間が掛かりすぎていると思わなかったかい?」

「そう言われると、確かに妙だな……。反撃する前に情報を精査していたってことだろ。あれ? じゃぁ戦闘用ロボットなのに攻撃方法がパターン化されていないってことか? 突撃程度なら、やろうと思えばいつでもできたはずだし……」

「突撃するのに、それだけ考える時間が必要だったってことですか? 先生」

「そう。おそらくは作業用の機材を無理やり戦闘用に改造したため、実戦の状況下で次の行動に迷いが出ていたんじゃないかと思う。なら、そんな機材を扱うような場所ってどんなところだと思う?」

「「えっと………」」

ロボットに対する疑問となると、さすがにツヴェイト達では答えが出せなかった。

だが、アニメなどで様々なSF作品を見てきたエロムラは、なんとなくだが思い当たる。

「工場などの民間施設を緊急的に防衛目的か、あるいは物資の供給が難しい局地も考えられるな。即席の迎撃装置ってとだろ? 元が作業用で戦闘に関するデータが少ないから、変化する状況に対応するため、無駄な情報収集と考察が必要になる。だから反撃が遅れたのか!」

「プログラムはされていたと思うよ。たぶんだけど、施設内に無断で侵入して一定範囲内に近づいた敵を迎撃する単純な命令かな。急ごしらえの改造品だったと僕は見ているけどえぇ」

「あの威力でか?」

「私には信じられません」

戦闘用ロボットに関する知識のないツヴェイトとセレスティーナでは、今一つ理解しがたいものだったようである。それだけ脅威の戦闘能力を持っていたのだ。

だがゼロスの言い分では急ごしらえの改造品で、とても戦闘で使えるような性能ではないという風に聞こえていた。それもあながち間違いではない。

「戦場では一瞬の隙が命取りになる。広範囲を調べるセンサーと、状況を即座に理解し適切な対応をとる判断力がないと実戦では使えない。思考するのに時間が掛かりすぎる防衛兵器なんて、いったい何の役に立つというんだい?」

「火力はともかく、戦闘時に関する状況の判断力は普通のゴーレムの方が上ってことか……」

「ですが、あのゴーレムは別のエリアから傭兵さん達を追いかけてきたんですよね? 敵を認識する程度の知性は備わっているのではないでしょうか?」

セレスティーナとツヴェイトは、ロボットとゴーレムを混同していた。

まぁ、初めて相対したのだから仕方がないのだが。

「命令が『敵=追いかけて倒す』と単純なものだったんじゃないかい? ここから先は分解して調べないことには何とも言えないよ」

「あぁ~、一度敵と判断したら、息の根を止めるまでしつこく追い続けるほど融通が利かないわけか。なるほど、確かに馬鹿だわ」

『『 エ、エロムラ(さん)がまともに答えてる…… 』』

酷い思われようだった。

だが、普段の行動がこのような認識を持たれてしまう結果に繋がっているので、同情できるようなところはどこにもなかったりする。

「……けどねぇ、そんな不良品を防衛や哨戒任務用に使うかねぇ。状況を判断するAIがポンコツで、変化する戦局に対応するにはあまりにも信用性がない。適切な行動に移るまで時間が掛かりすぎて、これじゃ友軍に被害が出てしまうだろう。実戦データもないに等しい状態だったんじゃないかな」

「戦闘用ゴーレムとして使うには即断能力が低く応用性もなくて、変化する状況に対応するにも戦闘の情報を持ち合わせていないから、戦局の判断に迷いが生じるのか」

「あの……ふと思ったのですが、あのゴーレムに指示を出す別のゴーレムが存在していたとは考えられないんですか? 先生が訓練で使っていたマッド・ゴーレムのようにですが」

「おぉ、ティーナちゃん冴えてる。そのパターンもあるか!」

「そのパターン場合、指揮官機はかなり大型のものだと思うよ? 様々な戦術を計算して子機に適切な部隊配置の指示を出すだけでなく、自身も戦える兵器としか考えられないから。けど、単独で行動していたわけだし、倒したゴーレムに指揮官機が存在していたとは思えないねぇ」

「「「…………」」」

ゼロスが過程の指揮官機を大型と断言するには訳がある。

戦局を見極めて行動を判断するうえで、膨大な情報を精査するには大型のコンピューターを搭載するしかない。熱を放出するか冷却するためにジェネレーターなども必要だ。

更にそれ動かすには相応の動力源が重要で、結果的に大型だと予想できてしまう。

だが、それはあくまでも存在していたらという仮定の話だ。

「衛星軌道上に戦略兵器がいくつも浮いているから、どれかとリンクしているものがあるかも……。それなら子機に情報を探らせて戦術を練り、作戦が出来上がれば実行させられる。得られる情報が増えるほど厄介な敵になる訳で、考えただけでもヤヴァ~イ話だよねぇ~♪」

『『『 なんで嬉しそうに言うんだ。この人…… 』』』

このときおっさんは、頭部にチェーンガンを搭載したスタンディングする戦闘車両の記憶を、脳裏の奥底から思い起こしていた。

無論それはフィクションだが、膨らむ妄想と動き出したロマンは止めることはできない。

そう、この魔法というクリーンエネルギーが存在する世界で、『もしかしたら造れるかも』などと本気で考えてしまうほどに――。

ゼロスはどこまでも趣味の人なのである。