軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おっさん、異世界の黒歴史を知ってしまう。

アーハンの村に新設された傭兵ギルド、アーハン支部。

まだ真新しい木の香りが残るこの建物に、生き絶え絶えで駆け込む傭兵の姿があった。

彼はよほどの急いでいたのか、少しのあいだ声も出せない状態が続いた。

ダンジョンで人稼ぎをしようとこの村に来ていた多くの傭兵達は、何事かと彼に注目する。

「ハァハァ……ほ、報告……。ダンジョン内で……だ、大規模な……構造変化を確認、しました……」

「な、なんだとぉ!?」

真新しい傭兵ギルドのギルドマスターは、突然の緊急報告に驚きの声を上げた。

「規模、は……不明。現在……第一階層も……ハァハァ……。遺跡型に変化……。各階層に調査隊を含む傭兵達が取り残されたもよう」

「何たることだ……。一階層にまで変化が及ぶとは、それほど大規模に構造変化が起きた記録でも聞いたこともないぞ。」

傭兵ギルドは各国家に必ず存在する傭兵斡旋組合だが、彼らが中立を保てる大きな理由が、自然環境下などで起こる魔物の暴走現象に対し、独自で防衛する権限を持っているからだが、それ以外にもダンジョンなどの特殊な領域の調査や探索が挙げられる。

特にダンジョンは監視の目が届きにくく、魔物暴走などの前兆が読みづらい。そのため頻繁にギルド直轄の探索班が調査活動を行っている。

また、時折変化する内部構造の調査も仕事の一つに含まれているが、今回のような大規模な構造変化など今まで例がなかった事態だった。

『クソッ、数日前に探索に向かった奴らは遭難したと見るべきか……。自力で戻って来られるならよいが、最悪なのは調査隊が全滅することだ。情報が不足した今の状況では、こちらから救援は送れん』

ギルドマスターは内心で愚痴を吐く。

構造変化は今まで発見されているダンジョンでも良く起きている現象だ。

しかし、大抵の場合は上階層や比較的地上に近い領域の変化は起こりにくいと専門家の意見であり、事実大規模な構造変化は下層のほうが比較的に多かった。

今回のように一階層にまで及ぶ規模など前代未聞と言ってもよい。

ダンジョン内に残された傭兵達は自力で脱出しなくてはならず、傭兵ギルド側からも二次被害というリスクから捜索班を送り出すこともできない。取り残された傭兵達が全滅している可能性も考えられ、情報がない今の状況下では決断を下すのにためらいを覚える。

「仕方がない……。これからしばらくの間、構造変化が収まるまでダンジョンへは閉鎖する。各傭兵ギルドにも報告しておかねば……」

「第一階層……ボス部屋は……既に遺跡型ダンジョンに変化していますが、それとは別に新たなエリアも確認されています……。一階層だけでも調査しておく必要が…」

「今は駄目だ。ダンジョンが不安定な状況下で、調査隊を出すわけにはいかん。静観するしかないだろう……」

ダンジョンなどに関する研究者の著書によると、ダンジョンコアは作り出した迷宮の内部を常に移動を繰り返しており、内部で死んだ者の記憶を情報として読み取りダンジョンを強化していると考えられている。

ダンジョンが生物かどうかの審議はいまだ決着はしていないが、研究家も人間のような知的生命体から情報を得ている可能性は共通していた。その理由がトラップの存在である。

落とし穴はともかくとして、出現する宝箱や中に仕掛けられている毒矢や爆発の仕組み、魔法を利用した罠など、どう考えても専門的な知識が必要な仕掛けが使われているからである。

他にも遺跡型のような明らかに人の手が加えられた建築物など、設計士や職人のような専門知識なければ構築できるはずがない。まして発見される魔道具などの宝物に関しても、生成するには魔導士を含む多くの職人や芸術家などの知識や経験が伴わなくては作り出せないものが多く、研究家達は死者から知識を得ていると結論付けた。

つまり、救助隊を編成して送り込んでも、二次被害で遭難されてはダンジョンに力を与えることのなりかねず、変化し続けている今の状況にどのような影響が出るかも未知数だ。

被害を最小限に冴えることはギルドの仕事だが、問題は世間からの目である。

『一時閉鎖したところで、他の連中が文句つけてくるんだろうな……。厄介なことになったものだ。特に国の研究者なんかが乗り込んできたら、我らの権限で止めることはできん。あいつら、調査を名目に無茶をやらかすからなぁ……』

傭兵ギルドとしては登録された傭兵達の人命を第一に考えなくてはならない。

世間の評価も怖いが、国の研究機関に所属している者達である。

ダンジョンの研究を専攻している研究者の多くが貴族出身者で、国からの調査要請という名分を理由に強引に突入しかねない。彼らを護衛するのも雇われる傭兵達なのだ。

研究者の大半が命知らずな変人が多い事は有名な話で、被害を考えると研究者のダンジョン調査はこの状況下において迷惑以外の何物でもない。

しかし、周辺の貴族にも報告は出さなければならないわけで、報告すれば近いうちに研究者達はアーハンの村に押し寄せることになるだろう。

研究者の行動力は侮れないものがあるのだ。

「厄介なことになりそうだな、ギルマス……」

「情報を遅らせたところで時間の問題だろう。せめてダンジョンの様子が落ち着いてから来てほしいところだが、それも叶わぬ願いなんだろうな……。あいつら、正気とは思えんことを勢いだけでやらかすからなぁ~……」

ソリステア魔法王国は魔導士の国。

英知を求めるのは研究者の仕事であり願望で欲望、ついでに趣味であった。

人の話や忠告を聞かないアホ達が押し寄せるのは、傭兵ギルドにとっては正直勘弁してほしいところで、望まれざる来客者なのである。

実に頭の痛い問題であった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

アーハン廃坑ダンジョン三階層、湖エリア。

水中から飛び出すサハギンの水弾集中攻撃の弾雨を乗り切り、無事に湖中央の島へと辿り着いた【一条 渚】と【田辺 勝彦】は、神殿遺跡のような場所で休息をとっていた。

何しろ全力疾走しなければ集中攻撃を受けるわけで、水中のサハギンを相手に戦うわけにもいかず、戦闘は避けるしか手が無かった。

長い橋を魔力で強化した脚力で駆け抜ければ、当然息も上がるものだ。

「……ハァハァ、なんとか落ち着いてきたわ」

「ここまで……ヒィヒィ、辿り着けんのか? 絶対に……途中でやられるだろ」

橋の長さは湖の中央まで直線で500m近くはある。

走り抜けるのはいいとしても、途中からサハギンが湖面から飛び出し攻撃してくるのは先も述べたとおりだが、問題はその加速力と跳躍力だ。

サハギンは湖底から浮上速度と泳ぐ速度を加え、弾丸のように湖面から飛び出してくる。

橋という一本道しかない渚達からすれば駆け抜けるという選択しかなく、サハギン達もそれを理解しているのか先回りで前方から飛び出し、容赦なく水弾を浴びせてきた。

勇者のような特別な身体能力がなければ、この島まで続く大橋は傭兵達では突破できないだろう。今後も突破できる者が現れるかもあやしい。

「それより、これからどうするの? 予想だとこの神殿遺跡みたいな場所に下層へと続く階段か何かがあると思うけど、帰りの体力も残さないとならないし、無茶はできないわ」

「う~ん、四階層に続くなら、ボスを倒して少し探索してから戻ってこようぜ。ボス戦は上階層だから余裕だと思うし、もう少し稼ぎを増やしておきたい」

「その欲が身を亡ぼすかもしれないんだけど?」

「ここまで来て何もせずに戻ったら、何のためにあの集中攻撃を潜り抜けたのか分からないだろ。四階層を見てから考える」

渚は勝彦の言動を信用していない。

欲が絡むと絶対に無茶を言い出すと予想できてしまい、いかに目の前の馬鹿を引きずり戻るか、その手段を考え始めた。

『ロープ……まだあったかな? 面倒になったらこいつの首に縄を括って……』

「なぁ、一条……。お前の目つきがなんかヤバイものに変わっているんだけど、危ないこと考えてないよな?」

「そう思うのは、今までアンタが禄でもない事をしでかしている自覚があるからじゃないの? 内心ではいつ捨て駒にされるか怯えてるとか?」

「……今、捨て駒って。なぁ、本気でそう考えているのか? 俺を捨てようとか思ってないよな!?」

「アンタを切り捨てたいと思っているのは事実ね。そう思われても仕方がないことを何度も繰り返してるんだから」

勝彦の顔が蒼白に染まっていく。

博打で有り金を溶かしただけでなく、それ以前にも彼にはいろいろと前科があった。

今までの渚の言動から恨まれているという自覚もあり、ましてここはダンジョン。死者はダンジョンコアに吸収され死体すら残さない。

完全犯罪にはもってこいの場所だ。

「お前……まさかとは思うが、この機に乗じて俺を……」

「約束くらいは守りなさいよ? でないと、背中から刺すことがあるかもしれないから」

「ほ、本気じゃないよなぁ!?」

「それは、あんたの態度次第じゃないかしら?」

勝彦の反省は後に生かされることはない。

所詮はその場しのぎの言葉にすぎず、今さえ乗り越えればそのあとはどうでも良い。

今までそれを繰り返し、既に渚からは愛想をつかされていたのだと、この時になってやっと自覚した。

「俺達、仲間だよね?」

「仲間っていうのは、信頼が成り立っているからこその言葉なのよ。私、アンタに信頼なんてないから。これまでも何度も言ってるわよね?」

「………マジ?」

「本気よ♡」

これまでにない爽やかな笑みが勝彦の不安を煽る。

「休憩して息も整ったし、そろそろこの神殿遺跡を調べましょうか。何か見つかるといいわね」

「あ……あぁ……」

勝彦のメンタルは全速疾走の疲労を加え、渚の切り捨て宣言により一気に急降下。

渚としては狙ったわけではないのだが、これによって勝彦がおとなしくなったことは行幸だ。勢い任せの無茶な特攻も防げる。

『でも、一時しのぎ程度にしかならないでしょうね。どうせまた忘れるだろうし』

内心で溜息を吐きつつ、渚は神殿を見上げた。

建築様式はギリシャ風。

大理石で造られた神殿は、渚の記憶にあるものに似ていた。

「まるで、パディオム神殿ね」

「確かに、教科書で見た神殿に似ているな」

パディオム神殿は渚達のいた世界でも世界遺産として登録された遺跡で、ゼロス達の世界で言えばパルテノン神殿に当てはまる。

この場にゼロスがいたら世界線が異なることに気づいただろうが、今の二人には分からないことだった。

「崩れかけだが、まだ形が残っているな。屋根もあるし彫刻も鮮やかで色あせてない」

「これは女神像かしら? こっちは軍神? 歴史を研究していないから今一つわからないわね」

「扉の装飾もすげぇな……。金細工に宝石まで」

「宝石? これ、たぶん硝子よ。色がついているところを見ると、よほどの技術があったのね。感慨深いわ」

「硝子!? ちくしょう、盗もうと思っていたのに……。ダンジョンなんだからサービスしろよ!」

「……最低」

勝彦には歴史的な価値よりも今の現金の方が重要のようだ。

扉の金細工も、『削って溶かせば少しくらい金になるか?』などと言っており、良く言えば現実的であり悪く言えばゲスだった。

「扉の中に入る前に、隙間から奥を確かめてから入りましょう。セオリーだとここがボス部屋のような気がするわ」

「確かに……。んじゃ、慎重に行くか」

目の前にそびえる金属製の扉。

少しずつ押して隙間を作り、二人は中を覗き込む。かなり崩れているが礼拝堂のようだ。

やはりというべきか、奥には巨大な何かが存在していた。ボス部屋確定である。

「………アレ、なんだと思う? 生物にしては動いている様子がないんだけど」

「確実に生物じゃないな。考えられるのは………ゴーレムか」

「大きいわよ? 戦ったら疲れそうね」

「意外に木偶の坊なんじゃね? 俺達のレベルなら勝てる!」

「……気楽に言ってくれるわ」

勝彦が嬉々として扉を開き、礼拝堂に踏み込んでいく。

渚も後に続いた。

侵入者を感知したのか、奥の黒い影は起き上がり、重量の乗った足跡を立てながらゆっくりと前進してきた。

扉から差し込む光がその全貌を照らし出す。

「やっぱりゴーレムだったな」

「レトロゲームで見たことがあるわね。こんな敵キャラ……」

全身が白い大理石で構築された石巨人。

神殿を思わせる形の身体に、無理やり手足や頭を取り付けたような、何ともアンバランス姿が不気味だ。

なぜか頭部が存在していない。

その不気味さを強調するかのように胴体の柱部分に無数のデスマスクが浮かび上がっていおり、全ての視線がこちらを見ていた。

「……アレ、本当にガーディアン・ゴーレムなのか? なんであんな形してんだ」

「確か、試練の迷宮では皆でハンマー使って殴り倒したんだっけ」

「あの頃とは違って、俺達も随分レベルが上がってる。もう勝てるだろ」

「そうだといいわね」

勇者二人は剣を抜くと、ガーディアン・ゴーレムに向かって走り出す。

充分にレベルを上げていた二人に、ガーディアン・ゴーレムはさほど時間が掛からず倒されたのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

一方で、ゼロス達の状況はというと……。

『どうしたのぉ~? もしかして、私の美しさに魅了されちゃったのかしらぁ~ん』

……野太い声がボス部屋に響き渡った。

カースド・ファラオのオネェ――通称ファラオネェは、妙にクネクネした腰つきでゼロス達を誘惑アピール。

憂いの帯びたあやしげな視線《?》を、セレスティーナを除いた男達に向けていた。

明らかにヤル気だ。

「まずいぞ、ツヴェイト君……。奴は、絶対に僕達を狙っているぅ!」

「ハァ!? いやいや、いくらなんでも魔物がそっち系って、ありえないだろ!」

『あらぁ~ん。そっちのおじさまは感がいいわねぇ~。私、張り切ってサービスしちゃうわよぉ~ん♡ どう?』

「「 いや、どうと聞かれても……マジかよ 」」

ゼロスは冗談で言ったつもりだった。

しかし、その冗談に反してファラオネェは本気のようである。

「まさか、人の言葉を話せる魔物が存在していたとは驚きだが、なんでオネェなんだろうねぇ……。このダンジョンは何を目指しているんだか」

「しかも、かなりの色モノじゃねぇか! こんな奴がマジで存在しているとは……」

「それより、ファラオさんは先生とお兄様にどんなことをするんですか!? 具合的な内容を教えてください! より細かく、懇切丁寧に!」

『あら、小娘だと思っていたら、なかなかに話せるお嬢ちゃんだこと……。でも駄目よ。男と男の間には、決して言葉では語れない秘め事があるのよん。貴女がいい女になったらいずれ分かるわ』

『『 いや、オカマだろ。お前…… 』』

「干物がぁ~、干物が迫ってくるぅ~~っ。異臭、悪臭、なんのそのぉ~イヒヒヒ……」

エロムラ君、現実を直視できず心が砕けた。

彼はファラオネェの存在だけでなく、自分の周囲を囲み包囲しているマミーを見て、あることに気づいてしまったのだ。

「いやぁ~、ご機嫌だねぇ~。エロムラ君」

「楽しそうですね」

「いや、アレはどう見ても心が砕けただろ……。目が死んでるぞ」

『もう、あんなに喜ばれると我慢できなくなるじゃないの。抱きしめて食べちゃいたくなるわ♡ もちろん、性的な意味でよ? まぁ、たっぷり愛したあと仲間になってもらうけどねぇ~ん』

「いやぁああああああああああぁぁぁっ!!」

ドーム状の坑道内にエロムラの悲鳴がこだまする。

「ゼ、ゼロスさん! 早くこいつらを一掃してくれぇ、このマミー共は危険すぎるぅ!!」

「いや、君の実力なら楽勝でしょ。なんでそんなに怯えているのかねぇ?」

「ついさっきまで無双してたじゃねぇか」

「こ、こいつらの股に、干からびてるけど見慣れたものがあるんだよぉ!!」

「「 なん…だと……!? 」」

ゼロスとツヴェイトは周囲にいるマミーが女性のミイラだと思っていたが、実はファラオネェ同様にカマーだった。

マミーならぬカマミーと呼称するべきであろうか。

「ま、まさか……この周囲にいるマミー全てが!?」

「冗談……だろ……」

『ホントよぉ~ん。昔、私の王国の兵や民達を全員こっちの道に進ませたのよねぇ~ん。私がルールで、私好みの私だけの国を築いたのよ。ちなみにニュハーフ王国という名だったわん』

「「「 なんつー暴君だぁ!! 」」」

『女は追放か死刑にして、男は全てじっくりたっぷりねっとりと堕としていったわ……。ただ、そのせいで少子化になって国が亡んじゃったのよねぇ……。周囲が砂漠だったから他に国も無かったし、いい男をゲチュウできなかったのよぉ~ん』

「「「 知りたくもねぇ黒歴史だ…… 」」」

ファラオネェは想像以上にヤバかった。

そして、そんなくだらない理由で滅んだ太古の王国があったなど、知りたくもなかった。

考古学を真面目に取り組んでいる学者が知ったら本気で自殺しかねない。

『でもいいのよ……。こうして蘇った以上、今度は失敗しないわ。ここから出て新たな王国を建国するのよぉ!!』

「「「 死んでもなお、とんでもねぇ野心を持ってやがったぁ!? 」」」

「……関係ないですけど、包帯姿の男子ってなぜか不思議と萌えますよね」

『わかるぅ~♡ ほんと、殺すには惜し小娘ねぇ。ここまで理解ある子がかつて私の傍にいてくれたら、あんなことにはならなかったのに……』

『『『 あんた、何した? 』』』

いろいろと思うところがあるが、現実問題としてファラオネェが仮に地上へ出るようなことにでもなれば、世界は別の意味で地獄になりかねない。

どんな手段を用いてもこの場で滅ぼさねばとおっさん達は決意する。

『さて、こんなイロモノだがミイラ系の魔物で、しかも上位のファラオだ。倒すのは楽かもしれないが、この手の魔物は滅びる瞬間に呪いを残していく。ツヴェイト君たちレベルだと即死するかもしれない。周囲のカマミーも毒持ちや麻痺効果のある微細粉塵を残すから、倒すなら一撃で確実に行わないと面倒だ』

マミーの上位種であるカースド・ファラオは、ゼロスの言う通り消滅時に怨念を込められた瘴気を周囲にまき散らす。状態異常だけであればなんとかなるのだが、最も恐ろしいのは即死率の高い呪詛である。

エロムラはともかくとして、魔法耐性がまだ低いツヴェイト達に耐えられるとは思えない。そうなると一撃で確実に仕留めることがベストだ。

『よし、【煉獄炎】でファラオネェを焼き尽くそう。雑魚はエロムラ君に任せても大丈夫だろう』

煉獄炎はゼロスが改造した魔法であり、瘴気を浄化しながら燃え続ける性質を持っている。

自身の魔力を呼び水に自然界の魔力に併用する通常魔法の特性を、敵の魔力を利用するというコンセプトに置き換え作り出されたもので、瘴気に変質した魔力を浄化吸収させ魔法効果として転換。アンデッド系モンスターを焼き滅ぼすことに特化した魔法だ。

アンデッドである限りこの攻撃魔法から逃れることはできない。

『このファラオネェも災難だねぇ、復活したてで滅ぼされることになるんだから……』

おっさんは心中でファラオネェに少しだけ同情する。

この場で出会ったのが他の魔導士であれば、いずれ地上に出られたかもしれないが、相手がゼロスであったがために望みは叶わない。

叶えるつもりも更々ないが……。

『う~ん。マイ・ダーリン達は食後のデザートに取っておくとしてぇ~、先ずはそこのおじさま美味しく頂こうかしらねぇ~。さぁ、おじさま~、私の愛を受け取ってぇ~~~ん♡』

「いやぁ~、僕は遠慮しておきますよ」

『遠慮はしなくいいのよぉ~ん。わ・た・し、優しくしてあげるからぁ~ん。こう見えて結構テクニシャンなんだからぁ~』

「僕は女性の方がいいんでねぇ、すみませんが出会って早々さようなら。煉獄炎」

不浄を焼き尽くす煉獄の炎が、ファラオネェに炸裂する。

ファラオと名の付くくらいに巨漢のミイラが、一瞬で松明のように燃えあがった。

『あっつ~~~~い♡ こ、こんな激しいの、初めてぇ~~~んっ♡』

「「「 なんで嬉しそうなんだぁ!? 」」」

アンデッドは人間だった頃の人格が変質の過程で歪むことは知られているが、ファラオネェは別の方向で歪んでいた。はっきり言ってキモイ。

『アッ、アァ~~~ン♡ これが、熱……情熱の炎、魂の痛み……久しく忘れていた超感覚。快・感♡ 素敵よぉ~~~ん!!』

「ゼロスさん……」

「先生……」

「師匠……」

「そんな目を向けないでくれ、これには僕も予想外だったんだから……」

三人の冷ややかな視線が痛い。

浄化の炎に身を焼かれながらも、ファラオネェは恍惚とした喜びの声を上げる。

普通のアンデッドであれば浄化の最中は苦しみ、やがて灰となって消滅する。

怨念の塊であるアンデッドにとって浄化は忌避すべき致命的な攻撃のはずだった。

しかし、自我を保っているということは、恨み辛みで他者を襲うだけの存在とは異なるようで、浄化の炎が必ずしも攻撃に該当するとは限らないようである。

精神の歪み具合によっては快感になってしまう。

なってしまった……なっちゃったのだ。

『なんて素敵すぎるのぉ~~ん。私、もう昇天しそう♡ 逝っちゃう、もう逝っちゃうぅぅぅぅん!!』

『『『 いや、ぜひ逝ってくれよ。見ていて凄く見苦しいから…… 』』』

『熱い……凄く熱いの。もう、最高♡ こ、これが……生。生きているって実感なのね……』

ファラオネェは生前、自ら言った通り欲望の赴くままに生き自分の国を滅ぼした。

その飽くなき欲望は死してなお肉体に残り続け、アンデッド化してもなお留まることを知らなかった。

同時にそれは生前に存在していた五感の消失により、鬱屈した歪んだ生の始まりでもある。

アンデッドは痛みを感じない。アンデッドは熱を感じない。

アンデッドは感触を確かめられない。

それはつまり、生前の快楽を直に味わうことができない。

この偽りの生は、ファラオネェにとって長き牢獄だ。

自分が求めた快楽を感じられない以上、魂は更に暗く深く澱んでいき、それが呪縛となって自身をこの世界に留める力となってしまう。

ゼロスの煉獄炎は、今まで感じられなかった痛みが全身を――正確には魂を駆け抜け、浄化の炎に焼かれる熱が生の実感を呼び起こし、生の喜びさえも取り戻した。

長きにわたる不死という牢獄から、魂が解放される時がようやく訪れたのだ。

『あぁ……これでようやく解放されるのね……。この長く、歪んだ偽りの生から……。死ねることがこれほどの快感だったなんて、私……知らなかったわ』

「あれ? なんか、強引にいい話に持っていこうとしているような……」

「別にいいんじゃねぇか? 昇天するなら……」

「それよりも、俺を助けてくれよぉ!! オカマのマミーを何度ぶっ飛ばしても、しつこく俺に付きまとってくるんだけどぉ!?」

エロムラ君はカマミーにたかられていた。

どうも彼はそっち系に好かれる不幸な体質のようだ。

『あぁ~ん……でも、私のハニー達をこのまま残していくのはしのびないわん……。みんな一緒に快楽のまま天国へ逝きましょうね……』

ファラオネェがそう言うと、全身に巻かれた大量の包帯を鞭のように操り、周囲のカマミーに絡ませていく。

マミーとは乾燥された死体であり、当然だが燃えやすい。

燃え盛る煉獄炎が包帯を伝いカマミーに引火、次々に炎上していく。

「し、師匠……これってやばくねぇか?」

「密閉された室内で火事か……。このまま燃え広がったら酸欠で僕達も危険かも」

「逃げましょう、先生!」

「俺を置いていかないでくれぇ!!」

ゼロス達は急ぎ元来た道を戻り、比較的狭い通路に身を隠すと熱遮断効果を持つ魔法障壁を緊急展開。遠くからファラオネェとカマミーが炎上する様子を眺め続けた。

派手な火葬である。

『逝っく~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん♡………』

聞きたくもないファラオネェ最後の叫び(?)が聞こえてきた。

「…………殺ったのか?」

「あれだけの炎に焼かれれば消滅するだろ」

「もう少し詳しい話を聞きたかったんですけどね」

「……あれが最後のファラオネェとは思えない。奴と同じ性癖の持ち主がいる限り、第二・第三のファラオネェが現れるかもしれない………」

「「嫌なことを言うなよぉ!?」」

「それはそれで楽しみですね」

「「 !? 」」

セレスティーナの眠っていた腐の嗜好が完全覚醒したようだが、今はどうでもいい。

マミーの火葬は続き、全てが完全に燃え尽きるまで、四人は足止めを食らうこととなる。

しばらくしてボス部屋を除くと、やけに仰々しい装飾が施された宝箱が部屋の中央に一つ残されていた。

「まいったねぇ。変な奴に出会ったことで、おじさんのやる気はもう0よ……」

「あんなのがダンジョンから出たら、間違いなく地上は混乱したな。別の意味でだが……」

「俺ちゃん、他のマミーがカマミーでないことを願うよ。ところで宝箱を開けなくていいのか?」

「ダンジョンで特定の魔物を倒すと、宝箱が出るって本当だったんですね。中身が凄く気になります。わくわくしますね」

ボスクラスの魔物を倒した報酬の宝箱。

ただ、相手が相手だっただけに中のアイテムに嫌な予感が拭えないおっさん。

罠の有無を確かめたあと、ゆっくりと蓋を開ける。

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

ツヴェイトとゼロスは言葉が出ない。

そして、頼んでもいないのにここで鑑定スキルが勝手に発動。

気になるその内容とは―――。

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【守りのブルマ】 【古代王の黄金仮面】

防御力+250 防御力+3

速力 +150

【特殊効果】 【特殊効果】

【魅了】【誘引】 特になし

魔導文明期のモラル崩壊時代、少女達が金銭目的で裏の店に売っていた運動用の衣装の一部。

最近、めっきり着用者がいなくなったエロスの代名詞。

伝説の衣装としても裏では有名。

現代ではどこかの国の教皇も代替わりした聖女に着用させているらしい。

古代王の黄金仮面については考古学的な価値しかない。

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『余計な説明はいらねぇ~~~~~っ!! つか、なんでブルマがこんな性能? 普通は仮面と逆なんじゃね!? それ以前に、どこかのお偉いさんの性癖を暴露してんですけどぉ!? しかも伝説って……』

おっさんは心の中で思いっきりツッコむ。

変な魔物を倒したみれば、報酬もやっぱり変だった。

「ブ、ブルマァ~~~ッ、Fooooooooooooou!!」

対するエロムラはやる気がアップ。

何かが彼の琴線に触れたようである。

「なんでエロムラの奴がヒートアップしてんだ?」

「このブルマは、一部で特殊な人の性欲を昂らせる効果がある。ダンジョンっていったい……」

「あっ、なんか納得した……」

救いようのないところまで落ちたエロムラ君。

どこまでも性欲に素直な彼は、こうして勝手に自身を貶めていく。

「これ、女性用の装備なんですか?」

「装備というか、競技用衣装の一部だね。これに上着が加わって完全になるんだが、女性の体のラインが出てしまうんだよ。青い性に目覚めたばかりの少年には目の毒だ」

「私が装備してみましょうか?」

『ティーナちゃんが、ブ、ブルマを履くだとぉ!?』

もう、行くところまで行ってしまったエロムラ君。

この時の彼に、セレスティーナも護衛対象という認識は光の速さで消え去っていた。

鼻息荒く、物凄くギラついた視線をセレスティーナに向けていることでもお分かりだろう。

「それは、やめたほうがいい。魅了と誘惑の効果がおまけで付与してあるんだ。履く前の状態でエロムラ君がここまでハイになるんだよ? セレスティーナさんが装備したら、彼は性欲を抑えきれずケダモノに変貌するかもしれない」

「欲望に忠実な奴だからな……」

「これ、そんなに凄いものなんですか?」

「エロムラ君のような人には、鼻息が荒くなるほどに魅惑的なものらしい」

「フシュ~~ッ! フシュルルルルゥ~~~ッ!!」

容赦なくエロムラを貶めるおっさんと、鼻息が荒い変質者。

ゼロスは姉がいたため、今さらブルマを含め女性下着などにも劣情を抱くことはない。

ツヴェイトやセレスティーナは文化の違いから理解できないことが救いだ。

「……装備、しない方がよさそうですね」

「そんな……それを装備すれば防御力と素早さがアップするし、戦力増強になるんじゃ……」

「そんなに言うのであれば、エロムラ君がこのブルマを装備すればいいんじゃないかねぇ。好きなんだろ?」

「恐ろしことを言うなよぉ、俺が履いたらモッコリするだろぉ!? 誰が見て喜ぶんだよぉ!!」

「ファラオネェかな? ところでモッコリする理由なのだが、履いたことにより局部が強調されるからか、あるいは性的嗜好による興奮からクルものなのか、どっちの意味でだい?」

「明らかに前者でしょ、なに言っちゃってんのぉ!?」

ゼロスは少しばかり疑惑を持った視線を向け、『エロムラ君なら、あるいは……』と呟き、それを聞いてエロムラも必死に否定している。

そんな二人を眺めながら、ツヴェイトは『いい加減に先を急ごうぜ……』と当たり前の反応。内心では彼もおっさんと同意見だったりする。

このアホな一悶着は、先を進みながらもしばらく続けられたのだった。