軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おっさん、猿の生態を考察する

白い体毛に覆われた男達の天敵、クレイジーエイプ。

この魔物は雄でも人間の男に襲い掛かり、いわゆる○○的な事を実行する。

何故こんな習性を持っているのは定かではないが、現時点では騎士達を含めた男達は貞操の危機であった。

「仕方がありませんね。僕が殺りましょう……嫌ですけど」

「しょ、正気か、ゼロス殿……。奴は……」

「勇者だ……ここに勇者がおられる」

「おぉ・・・・・神よ・・・・」

「あんたら、戦いなさいよ」

「それでも男なの?」

女性騎士達は、同僚の男達に冷たい視線を向けている。

だが、彼女達の意見を受け入れられるほど、彼らは勇敢では無かった。

これが山賊相手なら彼らも騎士としての矜持を貫くだろう。

しかし、相手は別の意味で危険な生物なのである。彼らが怖気づいたとしても無理は無い。

隊長であるアーレフも、クレイジーエイプには腰が引けているのだから。

「男だからと言うのは、差別だ!」

「俺達だって、怖い物はある!!」

「奴は…その極めつけだ!! お前等が戦えば良いだろ、俺は嫌だ!」

「「こ、こいつら・・・・・・」」

騎士達は別の意味で使い物にならない。

ゼロスも正直、この魔物だけは相手にしたくはないが、ここで倒さねば色々な意味で被害が拡大する事だろう。

なぜなら、クレイジーエイプのレベルが問題だった。

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クレイジーエイプ Lv204

HP 1023/1023

MP 311/311

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「キマイラよりレベルが高いですが、HPが低い……どういう事でしょうか?」

「おそらくは、奴は進化前の下位種なのでは? そこから別の個体に分派して行くのでしょう」

それはつまり、上位種になればレベルが1の状態になるという事だ。

その代わり、強さは進化前よりも遥かに強くなる。

キマイラの強さはクレイジーエイプよりも強かったため、最低でも一度は進化した事になる。

何しろ、複数で攻撃した筈なのに、HPの減り具合が極端に少なかった。

(進化があるのか……ゲームみたいな世界と思ってたけど、本当に近い摂理だったみたいだな)

以前、女神のメールに書かれていた事を、ゼロスは全面的に信じてはいなかった。

生物が突然進化するには条件があり、レベルで直ぐに進化するような世界は自然摂理から掛け離れているからだ。

大抵のゲームの世界では、進化は経験値を蓄積して条件を満たした個体が、より強力な魔物に変質する現象である。

この世界に於いて進化は、環境条件が整えば変化する可能性が高いと、ゼロスは現実を踏まえて考える。

仮にレベルが条件とした場合、この辺りには数多くの進化した魔物が居なければおかしい事になる。

何しろ、ファーフランの大深緑地帯は強力な魔物が多く生息し、壮絶な生存競争を繰り広げているからだ。

弱い個体では生き残れる筈が無いのである。

「つまり、この辺りの魔物のレベル平均は100~300の間という事ですか……」

そうなると、教え子と騎士達をそこまでレベル上げをしなければ生き残れない事になる。

とても、後四日でどうにかなる問題では無い。

更に問題は続く。

レベルアップをした弟子や騎士達は、全身に激しい倦怠感を持っていた。

これは急速なレベルアップの弊害で、得た力と体の変化がついて行かないために起きている。

レベルアップとは、魔物を倒す事によりその魂の一部を取り込み、自身の力として還元する現象である。

肉体はより強靭に変化するが、急速な変化は身体に変調をきたす。

彼らは今、身を守る事すら困難なほどに疲弊し、同時に連続強制レベルアップにより、思う様に体の自由が利かない状況なのである。

「とは言えども……」

ゼロスはクレイジーエイプ(雌)を見る。

『アハァ~ン♡ ジュルリ……』

(……泣きたい。心の底から慟哭しそう……)

……絶望した。

クレイジーエイプは口から流れる唾液をぬぐい、両腕を何度も交差させながら、パコン!パコン!と音を鳴らしている。

既に準備は万端なようだ。

クレイジーエイプは、ヤル気の様である。

「ハァ……嫌だなぁ~……」

言いながらも、腰に吊り下げた剣の柄に手を当て、少しずつ……次第に速度を上げクレイジーエイプに突進する。

急速に速度を上げ前進してくるゼロスに危機感を持ったのか、クレイジーエイプは種族の特性とも言える跳躍力で後方に飛び、危険な存在から距離を取ろうとする。

だが、それを見逃す積もりはゼロスには無かった。

「飛燕斬!」

空中を飛ぶ事は状況によっては有利だが、単独戦ではあまり有効とは言えない。

バックステップであったなら避けられただろう斬撃が、足場の無い空中では避けられない。

地上に降りる前に飛燕斬の斬撃が、クレイジーエイプの体を斬り裂く。

魔力を刃として放つ斬撃、それが飛燕斬だった。

クレイジーエイプは即死、大量の血液と内臓を地面に撒き散らして倒れる。

この場に留まっていた事が運の尽きであった。

「剥ぎ取りますか、少しは高値で売れると良いんですけど……」

『『『『ウオォオオオオオオオオオ!! 勇者万歳!!』』』』』

本人の心境も知らず、騎士達の拍手喝采を浴びた。

勇者と崇める程に、彼らはクレイジーエイプに恐怖していたのである。

ゼロスは、鬱な気持ちで剥ぎ取りを開始したのだった。

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【白猿の毛皮】

クレイジーエイプの毛皮であり、最高品質で高値で取引される。

主に貴族達のコートとして利用され、特に貴婦人達の間では大流行。

美しい艶のある体毛と、穢れなき白い色が特徴的で人気が高い。

商人達の間では、毛皮自体が中々手に入らず、常に品薄状態のため価格が跳ね上がっている。

一攫千金を狙った猟師が、必ず消息不明になる事で有名。

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「穢れなき白って……。毛皮の主は、穢れてるんですけど…?」

鑑定にツッコミを入れる。

毛皮の主である猿と、商品としての価値は別のようだ。

商人が血眼で探し続ける商品だが、商人達はこの【白猿の毛皮】がクレイジーエイプである事を知らない。

それどころか、彼ら商人は魔物が少ない土地に住んでいる事が多いため、魔物の知識が限りなく低い。

更に説明すれば、クレイジーエイプはファーフランの大深緑地帯から出て来る事は無いので、どんな魔物なのか知る機会が無いのである。

結果として、商人がこの毛皮を仕入れる為に傭兵達に依頼する事になるのだが、傭兵達が帰って来る事は無かった。

稀に商人の元に毛皮を売りに来る者達がいるが、彼等の大半は森で拾ったものが多い。

商人達は、加工するために貯えた毛皮を継ぎ足し、商品にするしか手が無かった。

そんな現実があるため、傭兵達にとって【白猿の毛皮】納品依頼は、悪魔の依頼として有名なのである。

「あの【白猿の毛皮】が……まさか、こんな魔物の物だったとは…」

「学院で、この毛皮のコートを着ていた方が自慢していましたが……、もう、羨ましいなんて思えないですね」

「傭兵達が帰ってこれない訳だ。皆、奴等に喰われたんだ……別の意味で」

「恐ろしい……騎士になって良かった…」

「全くだ。少なくとも給料は安定しているからな、傭兵みたいに収入の心配をする必要が無い」

彼らは、自分達が騎士であった事に対して安堵の息を吐く。

騎士の中には傭兵から実力で登り詰めた者達もおり、厳しい審査と学力の査定を勝ち抜いたエリート職なのだ。

もし傭兵職でこの依頼を請け負うものなら、地獄を見る可能性が充分にあった。

騎士の選抜試験に合格した事を、彼らはこれ以上に無いほど喜んだことは無い。

しかし、騎士達は忘れている。

ここが、クレイジーエイプの生息する魔の森である事を……。

「しかし、困った。食料がほとんど残されていない」

「あの猿だけで食べ切れるとは思えないですね? どこから侵入したんでしょうか?」

空腹感に耐えながらも、拠点の周囲を調べ始めた。

しばらく調査を続けると、どうやら壁の外側から穴を掘って侵入した事が分かった。

念入りに穴を埋めて証拠隠滅し、食料を持って逃亡したのだ。

間抜け面の割には頭の良い猿であった。

「奴ら、こんな穴を…。しかも、念入りに埋めている」

「群れで来たのか……。もし、出くわしていたら……お、恐ろしい…」

「それより、食料はどうすんのよ!」

「後、四日……迎えが来るまで時間があるぞ?」

「それまで、飲まず食わずか? 冗談じゃないぞ!」

「アタシに当たらないでくれない?」

彼らは二日目にして飢える事になった。

そんな騎士達の様子を見て、ゼロスは何だか嬉しそうな笑みを浮かべている。

それも、心の底から……。

「せ、先生? なぜ、そんなに嬉しそうなのですか?」

「え? そんな表情してましたか?」

「師匠……アンタ、まさかこの状況を楽しんでないか?」

「そんな事……思ってませんよ? えぇ、決して仲間ができたなんて……」

思い出すのは一月前、ゼロスはこの広大な森の中で彷徨っていた。

水はあるが食料は肉ばかり、狩りを続けなければ飢える一方のサバイバル生活。

運良く街道に出れたから良かったものの、一つ間違えれば未だにサバイバル生活を送っていた可能性が高い。

ついでに原始人に回帰する一歩手前まで、精神的に追い詰められていたのだ。

彼は仲間が出来た事が、純粋に嬉しかった。

そう、弟子二人を含めた彼ら騎士達は、最低でも四日間は肉だけの生活になる事が確定した。

彼らはまだ、その事を知らない。

「アンタ、腐ってるぞ…」

「先生……酷い」

冷たい視線がチクチク刺さる。

しかし彼は笑顔を絶やさない。

「・・・・・・・だからさぁ~、みんなで不幸を分かち合おうよ?」

『『『『『冗談だろっ!? どこまで本気だっ!!』』』』』

「アナタニモ、コノフコウ……ワケテアゲタイ」

『『『『『ヤバい……目が、マジだ!』』』』』

一週間のサバイバル生活の所為で、彼はこのように情緒不安定になる。

その当時の心理状態になるこの変貌を、数日後には【あの頃(森で一週間も彷徨っていた頃)のゼロス】と陰で呼ばれるようになる。

しかも騎士達も、ゼロスと同じ道をたどる事になるのは、既に決まっていた。

これから、皆で仲良く、サバイバル生活になるのだから……。

この日のゼロスは…これまでにない、実に良い笑顔であった。

それはもう、眩しいくらいに……。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

それから二日、騎士達は地獄を生きている。

獲物を求め森に入り、倒しては捌いて喰らう。

原始的で、それ以上に野蛮な生活が続けられた。

気を抜けば死ぬこの過酷な森の中で、彼らは四日目にして野性に目覚める事になる。

獲物を横取りしようとしたワイルドウルフを蹴散らし、女性達を襲おうとしたゴブリンを虐殺し、自分達を獲物として襲い掛かってきたオークを返り討ちにした。

彼らの目は正気では無い。

目の奥には危険な光が宿り、食料確保のためだけに戦う。

獲物をしとめた時には雄叫びを上げ、わずかな食料を仲間同士で分かち合い、炎を囲んで踊り狂う。

拠点に襲ってきた魔物に対しては、慈悲の欠片も無い過剰なまでの反撃を加えるほど、彼らは原始の本能を剥き出しにしたのである。

そうでなければ生き残れないほどに、ファーフランの大深緑地帯は危険地帯だった。

この土地に来た二日間は、運が良かっただけだと自覚するには充分なほどに、周りは捕食者に溢れていたのである。

今の騎士達の心に余裕は無い。

レベルが上がって一喜一憂するゆとりすら存在しなかった。

―――ザシュ!!

一本の矢が、スラッシュラビットの躰を貫く。

スラッシュラビットは痙攣すると、力無く息を引き取った。

「うふふふふ……お肉、ゲットしたわ……」

「チッ! 先を越されたか……次の獲物はどこだ?」

「こっちにミートオークがいたぞ!」

「よっしゃ! ぶっ殺せや!!」

比較的安全な大深緑地帯の端でコレである。

その奥深くでサバイバルをしていたゼロスが、いかに過酷な環境であったかは、推して知るべしであろう。

極限状態に落ちた騎士達は、野生の本能を剥き出しにせねば、生き残れないと悟った。

いや、悟らざるを得なかった。

略一時間おきに飢えた魔物が襲って来るのだ。

襲って来る魔物のほとんどが食料に適さず、無駄に体力を使わせるために怒りが蓄積、ゆっくり休む暇も無く次が集団で攻めて来る。

その状況が、わずかな時間に絶え間なく繰り返されるのだ。

そして……蓄積された彼らの怒りが、一気に爆発した。

狂戦士化したのである。

「こ、怖い……皆さん、どうしちゃったんでしょうか?」

「この広大な森に適応したんです。甘さを捨て、非情にならねば生きて行けないと悟ったんですよ。ククク……」

「・・・・・アンタも、まさか・・・・」

「フフフ……所詮、この世は弱肉強食。文明に染まった人間が、過酷な大自然で生きる事なんて出来はしないんです」

「いや、アレは何か違うだろ!! どう見ても、精神が病んでるだろ!!」

「サーチ・アンド・デストロイ……。殺らねば、死にますよ? ここではね。フフフフ……」

懐かしい物を見るかのように、ゼロスは嬉しそうに笑う。

かつての自分を思い返し、文明社会に生きていた自分が、どれほど脆弱であったかを思い知らされた日々。

転生初日から続いたサバイバルは、彼の中に獰猛な獣を生み出していたのだ。

その獣が再び目を覚ましていたのである。

「隊長! こっちにクレイジーエイプ共がっ!!」

「何っ?! 良し、食料の恨みを晴らすぞ!! 皆殺しだっ!!」

アーレフも獣に成り下がった。

猿の恐怖に怯えていた彼の姿は無く、外敵を殺すだけの獣となっていたのだ。

騎士団はギラつく好戦的な意思を隠しもせず、怨敵の元へと移動を開始しする。

「さぁ、行きましょうかね。リベンジだ!」

「あぁ……人は、一皮剥けば獣なのですね・・・」

「違う……これは違う。何かが間違っている」

ツヴェイトの言葉は通じない。

この森で通じるのは純粋な暴力だけなのだ。

知恵と勇気でどうにかなる程に、この森は決して甘くは無い。

凶悪な魔物が蔓延る、純粋な本能がモノを謂う暴力の世界なのだった。

◇ ◇ ◇ ◇

クレイジーエイプは、猿なだけに岩場に住み着く。

木々の影から見る限りでは、23匹の群れであった。

ボスを中心に序列が存在し、上位に位置する者が繁殖行為が出来るのだ。

問題は……

「何か、雌が多すぎないか?」

「良く見ると、変な個体も存在しますね?」

「あぁ……オスなのか、メスなのか…判断できないな?」

……白い体毛の猿の中に、微妙な個体が存在していた。

クレイジーエイプの性別の見分け方は、第一に乳房だが、第二に頭部が若干黄色いメッシュが入っている事だろう。

雄は雌よりも体が小さくスマート体型だが、逆にメスはやけに筋肉質で巨躯であった。

しかし、正体不明の個体は雄雌中間の身体つきで、胸もあれば生殖器も雌雄別れてはいるが存在する。

何より、ボスが問題であった。

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【クイーン・アリエネコンガ】 Lv15

HP 3167/3167

MP 742/742

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ゴリラだった。

しかも、雌である。

艶のある緑色の体毛で、クレイジーエイプより大きい5メートルクラス。

恐らく進化形だと思われるが、同じ猿とは言え、その巨体は異様だった。

更に、雄のクレイジーエイプを力任せに押し倒し、繁殖行為に明け暮れている。

「あのゴリラ、異種族交配が可能なのか?!」

「ゴブリンやオークと同じかよ……。何て…悍ましい……」

「何か、人もいるみたいよ? 山賊風のおっさんだけど……」

「「「「そっちは、見たくない!!」」」」

確かに、山賊紛いの男達が数人ほど確認できたが、誰もそちらに目を向けようとはしない。

なぜなら、彼等は酷い目に遭っているからだ。

それも、前から後ろから同時にだ。

彼らの目に正気の光は無く、虚ろな表情で喘いでいるだけである。

「もしかして…ですが、クレイジーエイプに雄はいないのでは?」

「どういう事だよ、師匠?」

「おそらくは最初は雌ばかりで、特定の状況が来れば雄に変態するのではないかと……」

「「「「ハァ?!」」」」

クレイジーエイプは雌だけの群れである。

猿であるだけに序列が存在し、上位者が繁殖行為が出来るのは先も言ったが、その上で弱い個体が雄へと変化する。

こうした習性を持つ動物は魚でも良くあるが、哺乳類系でしかも猿となると問題である。

一定のストレスが遺伝子を変質させ、性別が変化する。

クレイジーエイプの場合は、ストレスの原因が群れの上位を占めるボス達の存在であろう。

比較的に弱い立場であるため、ボスの命令は絶対であり、力では勝てないために繁殖の道具にされる。

そのストレスが弱い個体を雄のままに定着させ、元の雌に戻りたいがために人間の男を襲うのだ。

同時に雄より強い事を示せれば、クレイジーエイプは群れの上位に繰り上がる事になる。

雌雄中間の個体は、恐らく雌に戻るか、逆に雄に変化している途中経過なのだと判断できた。

早い話、女性として生まれて来たのに、境遇の所為でオネェに変貌を遂げるのだ。

人間に例えるならば、これほど恐ろしい物は無いだろう。

「つまり我々は、奴らが元に戻るために襲われるのですか?」

「そう…なりますね。群れで行動する動物にとって、序列は重要ですから……特に食料事情が」

猿は、食料を多く食べる事が出来るのは群れのボスからであり、他の猿はボスが食事を終わらせるまで食べる事は出来ない。

そこから序列が上の順に食事にありつけ、下っ端では何一つも食べる事が出来ずに飢える事になる。

過酷なファーフランの大深緑地帯では、弱い個体にとって僅かな食料は重要なのだ。

その為に、別の群れの雄や個体を執拗に狙い、自分の力を誇示するのである。

勝てば雄を連れ去り、自分達が上位に上がる事が出来る。

更に繁殖行為も出来るようになる。

山賊達は、負けたが故に序列の最底辺にされたのだ。

「それって……俺達が奴らと同類って、みなされてんのか?」

「我らを同種の生物だと思っている?」

「デショウネェ~……。マケタラ、アンナフウニナッチャウヨ?」

ゼロスが指を向けた方向には、山賊達の悲惨な姿があった。

別の意味でも、変態の真っ最中である。

「女性を襲わないのは何故ですか? 群れとみなされているなら、倒すべき敵では?」

「タブン、リスクヲサケテルンダヨォ~……オスノナカニメスガイタラ、ソレハツヨイコタイ……」

「どうでも良いが、口調が変だぞ? 師匠……」

「マサニ…ヘンタイダネェ~、ハハハハハ……タイヘンダァ~……」

ゼロスの目は死んでいた。

もし、チートでこの世界に転生していなければ、山賊達と同じ立場になっていただろう。

それが理解できてしまったがために、ゼロスの理性は目の前の現実情報と感情を停止させた。

心が拒絶する程に、受け入れ難い現実だったのである。

「我らから奪った食料は……?」

「イマゴロボスノオナカノナカサ……ヒヒヒ…ゴチソウサマァ~♡」

「完全に壊れて来てねぇか?」

「このままだと・・・先生が危険なのではないでしょうか?」

『『『『エテ公共、ブッ殺してやるぅうううううううううううううっ!!』』』』』

食い物の恨みは怖い。

戦場でも食料は必要な物であり、決められた量を適切に調理して配るために、保有する食糧の重要性は最も高い。

幾多の過酷な訓練をしてきた騎士達にとって、身に染みるほどに叩き込まれてきた最重要事項であった。

少しの贅沢が部隊を飢えに導くため、常に細かく管理されている状態である。

そんな大切な食料を、この猿達は食い散らかしたのだ。

決して許せるものでは無い。

何よりも、彼らが奪われた食料は民衆の血税なのである。

騎士達の怒りは 臨界(メルト) 突破(ダウン) した。

「周囲に展開! 各騎士達はアレを持って待機、合図したら奴等に投げ込んでやれ」

「「「「了解!!」」」」」

統率の取れた動きで、彼等は部隊を分け、数人体制のパーティーを組む。

騎士達は岩場の四方に風下から回り込み、群れの周囲に待機した。

彼等の動きは迅速だった。

ここ数日で跳ね上がった体力を駆使し、新たに獲得した戦闘スキルを使いこなして、怨敵を倒しに掛かろうとする。

「セレスティーナ様、合図を…」

「は、ハイッ! 『フラッシュ』!!」

セレスティーナの閃光魔法は群れの中心で炸裂した。

突然の光に視覚を奪われ、それを合図に騎士達が一斉に何かを投げ入れる。

黄色の煙と、紫色の煙が辺りを覆い隠す。

クレイジーエイプ達は体が痺れ、更に毒に侵される。

この二日で学んだ狩りの技術であり、確実に獲物をしとめる常套手段であった。

だが、騎士の戦い方では無い。

「『ウィンド』!!」

ツヴェイトは風の魔法を操作し、麻痺と毒の霧を群れ全体に行き届かせる。

それを確認した騎士達は、一斉に剣を引き抜き飛び出す。

「死ねやぁああああああっ!!」

麻痺で動けないクレイジーエイプは、なす統べなく騎士達に殺されて行く。

集団戦に於いて、敵の戦力を奪うのは基本であり、それは群れを成す魔物とて変わりは無い。

ただし、魔物はどのような力を隠し持っているか分からない為、卑怯とも言えるこうした手段を使う事で倒すのだ。

この森では、少しの油断が命取りなのだから。

「『フレイムアロー』!!」

「『ライトニングブリット』!!」

更に確実に倒す為に、魔法攻撃で追加ダメージを狙う。

炎は体に燃え移ると消すために一時戦闘が中断し、雷は麻痺効果を更に跳ね上げる事が出来る。

人間同士の戦争では無いので、卑怯だが使える手段は徹底的に行使していた。

「確実にしとめろ! レベルは、こいつらの方が上だ!!」

「三匹目、倒したぞ!!」

「じゃぁ、七匹目か?」

レベルが上がっているとは言え、騎士達の力はまだ弱い。

しかし、そこは道具を使う事により、確実に安定した攻撃を加える事に成功していた。

まして、この地は生きるか死ぬかの危険地帯。生き残る事が最優先だった。

そこに騎士の矜持など必要は無い。

卑怯もへったくれも無いのである。

クレイジーエイプは簡単に倒されて行くが、厄介な大物がこの場には存在する。

クイーン・アリエネコンガだ。

群れを荒らされる光景を見て、アリエネコンガはドラミングで威嚇して来る。

「おい、毒が効いてねぇぞ?」

「まさか! 耐性を持っているのか?!」

跳躍したアリエネコンガは地響きを立てて着地し、無雑作に長い腕を横薙ぎに振るう。

「ぐぅああああああああっ!!」

咄嗟に盾で防御した騎士の一人は、衝撃で数メートルは軽く吹き飛ばされる。

更に近くにいた騎士に腕を振りかざし、そのまま一気に叩き付けた。

「うおっ?!」

間一髪で避けたが、衝撃波が発生して彼ごと爆風で弾き飛ばす。

「うあああああああああああっ!!」

「なんて力だ! これが上位種……」

ただ、よほど逆上しているのか、群れのクレイジーエイプごと吹き飛ばしていた。

弱っていたクレイジーエイプは防御できずに即死、酷いボスである。

アリエネコンガは、なまじ力が強いだけに頭が悪かった。

自分が吹き飛ばした仲間を見て、更に激昂する。

「攻撃を避ける事に専念しろ、一撃でも受ければ死ぬぞ!!」

むやみやたらに振り回す腕が、クレイジーエイプを薙ぎ払って行く。

騎士達が討伐するよりも早く、群れのボスが仲間を蹴散らしていた。

頭が悪いのではなく、馬鹿だった。

「こいつ、馬鹿だが手に負えんぞ!」

騎士達も反撃を試みるが、固い皮膚に阻まれて剣が通らない。

そこへアリエネコンガが拳を叩き込んで来る。

弾き飛ばされた楯が宙を飛ぶ。

巨体とは思えぬ身軽さで宙を舞うと、短い脚が山賊であった男を踏み潰した。

男は盛大に血液を撒き散らし、絶命する。

「あんな死に方、したくねぇ……」

「いろんな意味で、悲惨な死にかただ……」

クレイジーエイプに蹂躙され、ボスであるアリエネコンガに踏み潰される。

嫌な死に方だ。

被害者である山賊達は既に正気ではないため、ただその場で茫洋としていて邪魔なだけである。

そこにアリエネコンガの拳が叩き込まれ、無残な肉片へと姿を変えた。

むしろ、死んだ方が彼らにとっては救いなのか知れない。

「『光の縛鎖』」

アリエネコンガは輝く鎖に捕縛され、空中に吊り下げられる。

さながら罪を犯した咎人の如く、十字架に磔にされた様な姿であった。

「ゼロス殿か?!」

「今の内に攻撃を仕掛けてください。特殊な攻撃が在るかも知れませんから、充分に注意をして!」

「承知! 中距離攻撃の技を持つ者は全力で叩き込め、あの雌ゴリラを叩き殺せ!!」

「光魔法『神の祝福』」

広範囲ユニット強化魔法、【神の祝福】

この世界では神聖魔法と伝えられ、伝説の魔法でもあった。

効果は味方の攻撃力・防御力・回避力・魔法攻撃力・魔法防御力を大幅に強化する。

更にHP、MPをしばらくの時間、自動回復させ続け、味方の損耗を防ぐ。

ついでにアンデット系列の魔物には、最大威力の攻撃にもなる。

むろん、例外も存在するが……。

騎士団は一斉に獲物を睨み、獰猛で凶悪な笑みを浮かべたのだった。

『『『『『 これなら、殺れる!! 』』』』』

物騒な言葉を叫んで……。