軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おっさん、訝しむ ~グダグダの裏側~

【漆黒流星ギヴリオン】は、衛星軌道上にいた。

生物である以上、真空の宇宙空間では生きることはできない。だがこの不可解な生物は宇宙空間の中でも生きていた。

状況が終了し、新たな段階へとシフトするため、次なる活動の場を宇宙空間に移動したのだ。

『次の状況プロセスへとシフト、現時点を以て偽装解除へと移行する。セラフィム・コア、正常稼働を確認。ペルソナプログラム、現時刻を以て廃棄』

地上で熱い台詞を語っていた状態とは打って変わり、そこに感情は込められていない。

今のギヴリオンはまるで機械のようであった。

『聖域管理領域からの離脱完了を確認。擬態廃棄を開始します。これよりのミッションをセラフィム・コアに移譲、使徒【ルシフェル】の凍結を解除します』

正義の味方の外殻に亀裂が生じ、崩壊し破片が粒子となって消えてゆく。

消滅してゆく体の中から現れたのは、輝く球体とそれを囲む複雑な回路であった。

あえて形容するとすれば、球体を中心にして何十もの魔法陣が取り巻いていると言えば良いだろうか。魔法陣は定められた指令を実行するべくめまぐるしく稼働していた。

やがて球体に向け、宇宙空間に漂う物質を集め出す。

『ボディの形成を開始。ガーディアンプログラムの干渉は皆無。アンチプログラムの干渉も皆無。管理システムが休眠状態であると予想、第三級異界干渉による告発状項を満たしており、【観測者】による一時的な管理権の干渉を開始、同時進行でペルソナの消去を始めます』

正義の味方は別世界から送り込まれたシステムであった。

特定の条件下にでの異界干渉を可能とし、ある役割を果たすべく偽装され送り込まれたプログラム。定められたシステムは正常に稼働を開始し、球体を中心にある存在を形成してゆく。

様々な物質を取り込み再構築を繰り返すことで、やがて球体の周りには透明な人型が構築されていった。それは六対の翼を持つ少女である。

あどけなさを残しながらも、どこか人とは異なる印象を与える造形。

長くウェーブの掛かったブロンドの髪が風もなくともなびき、まるで眠っているかのような穏やかな表情を浮かべていた。

属に天使と呼ばれるそれは、広大な宇宙空間で静かに目を開く。

『……ここは。そう、無事に異界へと辿り着きましたか』

うまく外界神の管理外世界に辿り着いたことに安堵の表情を浮かべると、彼女は次なる使命を果たすべく行動を移す。

『神域へとゲートを開くことは……無理のようですね。管理権限が凍結されたままですし、これではこの世界の管理者達も神域へとアクセスはできないでしょう。【観測者】の管理コードは……なんとか使用はできるようですが、神域へと入るのは無理そうですね』

彼女は次なるプロセスへと移行する。

聖約破棄による外界神への不信任案と、連立世界の【観測者】達から与えられた権限を行使し、アカシックレコードから情報を引き出してゆく。

『この世界は、なんともおかしなことになっていますね。三等級管理者の全てが現地の生命体をベースにしているようですし、二級から上位の管理者が存在していない。管理システムが完全に管理者達から離れているのでしょうか? いえ、独立している?』

数十万の世界を一手に管理する【観測者】は、一つの世界に必ず自分の分体を残して事象を管理している。その手助けとして生み出される神々や使徒は、それぞれに与えられる役割が決められていた。

簡単に言えば火に関することは火の神といったように、管理権限が定められている。

無論複数の管理権限を持つ存在もいるが、そうした存在は各管理者達の統括者として管理業務に勤しんでいた。彼女も元の世界ではそうした権限を持つ存在の一人だ。

『管理システムは私達の世界よりも高度のようですが、管理者が恐ろしく自由ですね。下手をすれば世界を滅ぼすことも充分に考えられます。それも一つの可能性でしょうか?

ですが、意図的にそれが行なわれているのは異常です。だからこそ異界召喚なんて真似が平然と行なわれているのでしょうけど、それは他の管理世界からしてみれば外部干渉と同義のはず。いったいこの世界の【観測者】は何を考えていたのか、理解に苦しみますね』

自分達以上の高度なシステムを使用しておきながら、管理に関しては適当すぎる。彼女の世界ではあり得ないことであった。

情報によると、この次元世界の【観測者】は階位が上がったことにより更なる広大な管理世界へと移動が決まったらしく、その移動に合わせて管理システムの一新を図ったらしい。

システム自体は彼女も驚愕するレベルなのだが、それ以外の世界管理が杜撰すぎるのだ。

管理者の数も少ないことや、その管理者の自由度が恐ろしく高い。彼女の常識では管理者が世界に干渉することなどあってはならないことだ。

だが、この次元世界では管理者は堂々と他の生命体に干渉し、好き勝手に混乱を招いている。

その騒ぎがこの世界で行なわれているだけなら構わないのだが、外界世界にまで干渉が及ぶと問題は一気に由々しき事態へと変わる。

そう、【勇者召喚】がその問題に当たるのだ。

元来異なる法則の世界に生きている生物を召喚した場合、召喚する世界とされる側の世界との間に必ず綿密な打ち合わせを行なわねば、事象にどんな影響が出るか分らない。

召喚される生物の魂は、一言で言えば高密度のエネルギーであり、事象が異なる世界を移動した場合どんな悪影響を及ぼすか未知数であった。

管理システムにバグが生じる程度ならマシなのだが、それが積み重なると次元崩壊を引き起こす危険度が高まる。一つの魂でそれほどの危険性があるのだから何度も召喚を行なえばどうなるか。

無論、他の次元世界の【観測者】達も何とかしようとはしたのだが、問題はこの世界に【観測者】が不在であることだろう。

どれだけ苦情を言ったところで、【観測者】から管理者にその要請は届かない。社長不在で会社が勝手に運営されているようなものだ。

『ハァ……何でこんな面倒な事態になっているのでしょう』

【観測者】達は、基本的に自分の管轄世界以外には無関心だった。

たとえ異界召喚が行なわれ、他の【観測者】が相談に来たとしても、『ふぅ~ん、そうなんだ。大変だね』の一言で済ませてしまう。

だが、今回においては異界召喚された世界がかなりの数に及び、召喚された者達も返ってくることがなかった。

各次元世界間において魂という物は同質ではない。召喚対象となった世界によっては、世界を構築しているシステムに多大な負荷を掛けることもある。

もし召喚された魂がこの世界に止まり、管理システム内で連鎖的にバグを引き起こした場合、最悪次元崩壊による影響によって召喚した各世界にまで被害が及ぶ。

連鎖崩壊にでもなれば笑い事では済まされない。【観測者】達は搦め手を遣い、この管理世界への干渉を試みることにしたのだ。

要は、対岸の火事が飛び火したら適わないというのが本音だろう。今までのように無関心ではいられなくなったのだ。

なによりも召喚された者達の魂を回収しなくては、歪められた事象を修正することもできない。一個人の魂でも異なる世界に放置するわけにはいかなかった。

『管理者に異界で騒ぎを起こさせ、その聖約を逆手に異界に使徒を送り込む。無断で異界召喚を行なっているのですから、【管理者】達も正当な理由で干渉できる。なぜ、こうなる前に手を打たなかったのでしょうか。無関心にも程がありますよ』

彼女にしてみれば、とんだとばっちりだ。

とは言え、この世界には彼女以外にも送り込まれた刺客がいる。

半分は嫌がらせだが、彼等はこの世界に固定された魂を無事に回収するサポート的な役割もある。転生者は固定された魂を探す探索機の役割もあったのだ。

そして、幸いにも【観測者】のひな形を手に入れることができた。後は再生させ、管理権限を新たな【観測者】に譲渡するだけである。

それが最も難しい仕事でもあるが―――。

『さて、大凡の情報は引き出せました。取り敢えず定時連絡を入れましょう』

彼女はさっそく元の世界へと連絡を試みる。

この世界の防衛システムが健在であれば、異世界とおの連絡を行なうのは不可能である。

しかし幸いにもこの世界に【観測者】はいない。

正確には存在しているのだが、未だ未熟な個体であった。

彼女の目の前にモニターが出現し、上司の元へとアクセスを試みる。

そうして映し出されタ映像には、煩雑に物が積まれたアパートの一室と、なぜか背中で映る学生服の少年。

彼はくるりと振り返ると――。

『やぁ、ケモさんだよ』

――っと、昔の教育番組のように爽やかにのたまった。

彼女の背中に変な汗が流れる。

『主様……いったい、いつからスタンバイしていたんですか?』

『やだなぁ~、そんな暇なことをする分けがじゃないか。何を言っているんだい? ルシフェル』

『いえ……主様の奇行は今更ですし、なにも言うことはありません』

『つれないねぇ~。まだ昔のことを怒っているのかい? ストライキを起こした腹いせにぶっ飛ばしちゃったことは、何度も謝ったじゃないか。けどさ、もうだいぶ前の話だし、そろそろ許してくれても良いんじゃないかなぁ~。考えてみれば僕も悪かったし……』

『怒っていません……諦めているだけです』

ケモさんと名乗る少年、彼が【ルシフェル】の上司であり、彼女の知る限りでは複数存在する【観測者】の中で、最も強大な力を持つ存在であった。

ただし、彼の行動は何かがおかしい。

低レベル文明期に水晶のドクロやあり得ない貴金属の装飾品を残したり、石造建築物に高度な科学文明のレリーフを残したりと妙なことをしでかす。

後にオーパーツと呼ばれる代物を平然と地上に残すのだ。管理者としては頭が痛い。

様々なオカルト雑誌や漫画で、このオーパーツのことが取りざたされていたとき、彼は密かに『にやり』と笑っていたりする。

タチの悪い愉快犯なのだ。

【観測者】としての役割を行なっているが、時間軸を超えてまでこのような悪戯をしでかす。さすがのルシフェル達もこれには腹が立った。

何度も微妙に影響力のない地味な歴史干渉をしでかすので、後始末をさせられる彼女達は一丸となってストライキを起こしたのである。残された異物が原因で、時代にそぐわない兵器が造られたこともある。

ケモさんの行動で大規模な軍事衝突が引き起こされ、既に確定した歴史が妙な分岐を引き起こされた。管理する時間軸が増えると管理者の負担も大きくなり仕事が増えるのだ。

まぁ、聖書や神話を知っていれば分るだろうが、ストライキの結果は散々だった――。

ちなみに、ラグナロクはケモさんを含む管理者達の飲み会で、派手な喧嘩をしでかしたことが曲解された神話であったりする。

『何で私達が悪魔なんですか。アレは主様が悪いんですよね?』

『僕はなにもしてないよ? 他の管理者が神託の時に、うっかりこちらの出来事を話したんじゃないのか? それが曲解されて聖書などに書かれたと思う』

『分ってはいるのですが、時間を飛び越えて変な遊びをするのはやめて下さい。正直、管理者全員が迷惑しているんです!』

『わかっちゃいるけど、やめられねぇ~なぁ』

『帰ったら殴っていいですか? アルバイトの途中で拉致られて、強制的のこちらに送り込まれたんですけど……』

『じょ、冗談だよ……。最近は遊び場ができたし、他の【観測者】達も参加を始めたから、今更そんな悪戯をする気はないよ』

【観測者】は基本的に事象を見つめ記録するだけの存在である。

強大な力を保有しているが、それはあくまでも自分の担当領域に世界を構築、維持するためのものだ。

しかしながら、希にその力を悪用して細やかな悪戯をしでかす者も多い。その理由が『暇なんだよ』である。

【観測者】は人間が思うような【神】では決してない。実にお茶目で、日頃から暇をもてあます観察者なのである。

『……それで、神域には入れそう? 先輩のシステムは精巧だから、面倒だとは思うんだけど』

『なんとかは入れそうですが、そのためには他の【観測者】の管理規定コードが複数必要です。管理者への監督不行き届けだけでは弱いですね。複雑すぎて、直接他の観測者コードを打ち込まないと神域のゲートが開きません』

『先輩は僕よりも管理世界が多かったし、なによりも上位の存在だからね。システムが複雑化しているのも分るよ。それじゃ、僕を含めた【観測者】三十八名の管理規定コードを送ることにする』

『お願いします。こんな仕事、さっさと終わらせたいですから』

仮にも上司の前で、ルシフェルの態度はキツかった。

まぁ、仕事に不満を持ってストライキを起こしたら、サタンと呼ばれ悪魔の代名詞になったのだから当然だろう。

そのお詫びに彼女は長期休暇をもらったのだ。ゆえに、神話の時代からルシフェルは仕事をしていない。

随分と長い休暇である。

『以前きたときは、聖約の範囲内でしか行動できなかったからね。今回は【観測者】権限が使えるから楽だと思うよ?』

『思う……ですか? なんとも頼りない予測ですね』

『仕方がないさ、先輩の権限の方が僕よりはるかに大きい。後継者を封印して代理の管理者を野放しにするなんて、普通は思わないだろ?』

『……主様の先輩ですから、充分に考えられる展開ですね』

『それ、どう言う意味!? いくら僕でもここまで無責任ではないよ』

白い目を向けるルシフェルと、なぜかそっぽ向くケモさん。

一応怒って見せたが、自覚している証拠だろう。

『早めに他のサポート要員を送ってくださいね』

『大丈夫、ちゃんと準備は整っているよ。さて、それじゃ僕は時間移動して彼女に告白してくるよ。今度こそあの娘を落として、猫耳スクール水着を着てもらうんだ。ダメでも時間軸を繰り返せば……』

『やっぱり、スタンバイしていた!? 一秒ごとに世界線を越えるのは止めてください。どれだけ迷惑を被ると思っているんですかぁ!』

『彼女がスクール水着を着て、猫耳尻尾を装着してくれるなら、僕は悪にでもなる! なぜなら、暇をもてあます愉快な【観測者】だからだぁあああああああぁぁぁつ!!』

『うっ、仕事をきちんと片付けているだけに何も言えない。なにかあっても自分で修正しているし……』

ケモさんは筋金入りだった。そして、タチが悪かった。

趣味のためなら部下をも泣かし、その後のケアも忘れない。

『ところで、ルシフェル……』

『なんですか?』

『頭の触覚は、なに?』

『えっ?』

言われて直ぐに自分の頭を振れると、そこには黒くて長い触覚が二本生えていた。

急いで衛星軌道上に来るまでの記録情報を検索してみれば、偽装体が【グレート・ギヴリオン】を媒体に受肉した記録が確認された。触覚は取り込んだ情報の残滓である。

しかも、やけに熱いポーズを決めながら正義を執行していた記録だ。

震えながらも彼女は主人の顔を見ると、モニター越しに『ニヨニヨ』と笑うケモさん。ここでルシフェルは全てを察した。

『主様……謀ったなぁあああああああああああああああっ!!』

気づいたところで後の祭り。

彼女が目覚める前に、ケモさん監修による疑似人格が勝手に行動していたのだ。それはもう、恥ずかしいほどに――。

そして、その事実に気づいたときの反応を見てほくそ笑む。これでも彼なりの愛情表現なのだろう。

諸悪の根源は、『じゃぁ、頑張ってねぇ~』と無責任に言い残し映像を切った。

後に残されたルシフェルは一人、孤独に宇宙空間でさめざめと泣く。この触覚には妙なプログラムが内包されていたからだ。

不条理で理不尽な【神】に翻弄されるのは、人も使徒も変わらない。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ゼロス達二人がスライスト城塞に戻ってきたときには、既に日が暮れて宵闇に包まれていた。

二人が【少風亭】に辿り着くと、一階の酒場は既に多くの男達で馬鹿騒ぎの真っ最中。おそらくスライスと城塞都市防衛の祝勝会なのだろう。

酒場には多くの傭兵達が酒瓶を煽り、良い感じでできあがっていた。

「酔っ払いに絡まれたりしないよな?」

「その時は返り討ちにしておけば良いでしょう。傭兵は自己責任の仕事ですからねぇ、酔った勢いで喧嘩をふっかけても、誰の責任でもありません」

「やくざな商売だな」

妙な状況に巻き込まれた二人は、四神を始末できなかったことが悔しかったりする。

しかし、【漆黒流星ギヴリオン】を相手にするのだけは嫌だった。

何しろ相手は正義の味方、四神に攻撃していたところを見ても敵対するには得策ではない。それよりも気になることが多すぎることも確かだ。

「マスター、エールをジョッキで二つほどお願いします」

「おう! プロテインだな。待っていろ、直ぐに用意してやる」

「いや、プロテインはいらねぇよ? 何で俺達にガチムチを強要するんだ!」

「傭兵は体が資本だろ! 筋肉を鍛えないでどうするんだ」

「「傭兵じゃねぇし」」

アドは傭兵資格を持ってはいるが、傭兵活動はしていない。

ゼロスもまたSランク傭兵だが、基本的にはアルバイト生活が多かった。どちらも傭兵と言うには些か異なる立場なのである。今更筋肉を鍛える必要性がないのだ。

「リサ達がいないなぁ?」

「女性二人が、こんなケダモノのいる巣窟で食事をするとでも?」

「ないですね。酔っぱらいが口説きに来るに決まってますし」

街の治安維持が未熟な世界において、女性二人だけで行動するのは物騒である。

魔法なんて厄介な力があるこの世界で、女性が巻き込まれる犯罪はかなり多い。身を守るために夜間に行動しないことは定石であろう。

これだけでも充分に安全になるのだ。

「ほらよ……エールだ」

「「なんでがっかりしてんだ? このマスター」」

エール酒をジョッキで運んできた宿のマスター、ボービルは凄く残念そうであった。

彼がどれだけマッスルな人間を増やしたいのか、二人は聞いてはいけない気がしていた。聞いたら絶対に巻き込まれると感じたからだろう。

このマスターからは同じ『拘り』をもつ、ある種の同類のような気配が漂っているからだ。

同時に、『拘り』をもつ人間は、時として人の意思を無視し、自分の趣味を押しつける。

「とりあえず、今日はお疲れ」

「疲れましたよ。いろんな意味で……。まさか、【グレート・ギヴリオン】があんな進化をするとは思いませんでしたね」

「アレか……魂が揺さぶられるものがあったが、今思うとおかしくないかね?」

「やはり、そこが気になりますか……。俺もおかしいと思ってる」

正義の味方に対する違和感。

それを二人の賢者は気にしていた。

「やけに流暢な言葉で喋っていた。言語情報なんてどこから得たんだろうかねぇ? 僕達から学んだにしても早すぎますし、色々と不可解な点が……」

「確かに……。魔物が進化するにしても、アレはあり得ないか。【魔王ギヴロード】も言語を覚えるまで一週間近くは掛かっていたよな?」

魔物が進化するのは【ソード・アンド・ソーサリス】でも同じであるが、冷静に考えてみると異常な変質である。言語をわずかな時間で理解するのど現実的にあり得ない。

例えば食事として襲った生物の中に人間がいたとしても、脳内にある情報を理解できる知能があるとは思えない。ましてや暴食なGである。

本能的に生きる生物から理性的な思考を得るにしても、どうしても学習期間という物が必要となる。【魔王ギヴロード】は通常サイズのゴキブリを使役し、獲物のいる場所を探索する。

結果として街や村に住む人間から言語情報を手に入れ、そこから急速に理解するようになる。どれだけ成長が早くとも、いきなり言葉を喋るような変化をするはずがないのだ。

「四神を真っ先に襲いかかったのも気になるねぇ。これが【ギヴロード】だったら無差別攻撃を始めていただろうし、なんか作為的な気がするなぁ~」

「サナギマンの時には無差別攻撃だったぞ?」

「あからさまに『今から攻撃しますよぉ~、避けてくださいね?』って、ポーズをとっていたじゃないですか。地球の……日本出身者なら見ただけで分りますよ」

「確かに……。あのポージングは露骨すぎるか」

某宇宙人ヒーローが行なうような光線の発射態勢。

この世界の住人であるなら、碌に警戒せず直撃を受ける可能性が高いが、異世界からきた者達には直ぐに見分けがつく。

ヒーローショーのように、オーバーリアクションであった。

「四神ですら慌てていたところを見ると、あんな生物が存在するとは思っていないようでしたし、どう考えてもイレギュラー。しかも露骨なまでに趣味的すぎる」

「オタク嗜好全開だからな。言われてみるとあやしい……で? ゼロスさんはどう思っているんだ?」

「異世界の【神】による嫌がらせ。あるいは、それにかこつけた偽装工作。何か別の目的があるように思えますよ」

「嫌がらせにしては、えらく物騒な攻撃力でしたけどね。【闇の裁き】以上の破壊力だったじゃないか。下手をしたら死んでいてもおかしくない」

「レベルがものをいうこの世界で、僕達が簡単に死ぬとは思えませんね。戦ってみた感じでは、僕達だけでも四神を簡単に倒せます」

「……俺達、人間を深刻なまでに辞めてね?」

仮にも【神】と呼ばれる存在にたいして正面から戦うできる人間。

確かに物理的な方向性はゼロス達の元いた世界と変わりない。しかし、そこにレベル成長というファクターが入ることで、人間は限界を超えて強く成長することができる。

これを成長と言って良いか分らないが、レベルという摂理はかなり物騒なものだった。

「簡単に英雄になれる世界というのも問題だねぇ。その変わり、魔物が異常なまでに強いけどね」

「まぁ、ナイフでドラゴンを倒すようなことはできないからな。その辺りはバランスがとれていると思うぞ? 大型の魔物にはその大きさに対応した武器は必要だからなぁ~」

「システム的にはバランスがとれているけど、自然的にはあり得ない。ドラゴンを相手にするときには攻城兵器が必要になる。後は圧倒的な火力」

「【スキル制】と言うのも、かなり問題があると思う。特に武器や防具に付加されるような特殊効果、狙って効果を与えられるわけではないし」

「アレはほとんどランダムだからねぇ。素材や制作過程でどんな武器になるか分らない。魔剣を造る方がよっぽど楽だなぁ~」

武器に【スキル効果】が付与されている武器は、素材や制作過程でのランダム性が高く、狙って特殊効果を与えることができない。

何度も制作していれば、ある程度の法則性が見えてくる程度であり、その法則も絶対ではない。

逆に、魔石などに組み込んだ魔法を使えるようにする【魔剣】を制作する方が、狙って効果を与えることができるので製造過程での面では実にわかりやすい。

「同じ素材を使っても、別のスキル効果が付いているなんて言うのは良くあるし、そのスキル効果次第では同じ武器でも値段が変わる。実のところ、本気で武器を製作したことがないんだよねぇ」

「俺もですよ。簡単な武器でも、この世界では破格な装備みたいだし、もの凄く感謝されるんだよなぁ~。『えっ、この程度で良いの!?』って驚くレベルだった」

「僕らが保有している武器なんて、最早神話に出てくる聖剣レベルですよ。物騒すぎて売りに出すことができないし、どうしたものか……」

ゼロスとアドはお互いに生産職でもある。

しかしながら作り出す武器や魔道具は恐ろしく高い効果を持っており、戦争などに使われれば被害はかなりのものになるだろう。それを自覚しているので、まだ本気で武器などを製作したことがない。

もっとも、そうした武器には扱えるレベルや階位が存在し、低レベルの傭兵や騎士、魔導師に至るまで装備することができない制限が発生する。

まるで主人を求めるかのように、資格のない者達を拒絶するのだ。それは職人も同様であり、高レベルの武器は同じレベルの職人スキルが必要となる。

手入れを頼まれても、職人レベルが低ければ重くて持てないなどの効果が発生し、酷いときには弾き飛ばされる。

「問題は僕達レベルだと、低レベル者にも扱える凶悪な武器が作り出せることだよねぇ。以前に低レベル者に武器を貸したんですけど、上位レベルの魔物を一撃で始末していましたよ。レベルアップで気絶したけどね」

「つまり、俺達が規格外すぎるってことか? それ、ヤバくね?」

「ヤバいねぇ~。自重するしかないんだけど、僕達は時々趣味に走るからなぁ~」

以前、低レベルであった子爵家の少女に、魔改造した誰にでも使える青竜刀を貸したことがあった。

個人のレベルはたいしたことはなかったが、武器の性能でレベル差のある【ウォーアント】を一撃で始末した。これははっきり言って異常である。

レベル差を埋めることのできる特殊スキルを保有した武器。世間に出回れば厄介なことこの上なく、ついでにそんな武器が作れるともなれば、他の職人に対して迷惑であろう。

国からは強力な武器製造を押しつけられ、他の職人達から仕事を奪いかねない。

いや、武器を作れるのは一人だから制作するにも限度というものがあるが、他の職人からは間違いなくやっかみを受ける。

これで職人達が一念発起し、仕事に意欲を燃やすのであれば構わない。しかし人はそれほど強くはないのだ。逆恨みから何をするか分らない者も間違いなく存在する。

自分の腕がたいしたことがないのに、実力者を恨む者は必ず出てくるだろう。

「面倒な話だな……ところで」

「ん?」

「いい加減にユイの居場所を教えてくれよ。子供のことも心配なんだからよぉ~……」

「おっと、忘れていた。サントールの街から南に行くと、ハサム村って場所がある。そこの村長宅にご厄介になっていますねぇ」

「……俺、その村を通ったことがあるぞ? イストール魔法学院の図書館に向かうときだけど……」

「素通りしたのかい? 妖精被害で、かなり面倒なことになっていたはずだけど……」

「やけにファンキーなノリの馬車に乗ったからなぁ……。気がつけば村を爆走して抜けていった。スレイプニールの二頭引きだったけど……」

「……【ハイスピード・ジョナサン】か。奴はどんだけ走りまくってんだろうか」

ファンキーな運送屋は、ゼロスの知らないところで大活躍していた。

荷物の運搬業から人の送迎まで、某タクシーを彷彿させる爆走ぶりが脳裏に浮かんだ。

被害者がどれだけいるのか、皆目見当も付かない。

「あいつさぁ~、走り出したらノンストップなんだよ……。振り落とされないように、しがみつくことで精一杯だった。死を覚悟したほどだ……」

「わかる……。あの速度は異常ですよ。僕なんか奴に轢かれましたし……」

「人身事故!? 良く生きてたっスね……」

この後、共通の話題から次第に酒量が増え、日にちが変わる頃まで飲み続けることとなる。

部屋に戻っても就寝前の一杯とインベントリーから酒を出し、派手に飲み明かしたまま眠りについたのであった。

この騒ぎで、隣の部屋で就寝中のリサとシャクティは叩き起こされ、苦情を言いに部屋にまで突入してきたのだが、ゼロス達にその記憶が全くなかったという。

男二人の酒盛りは大いに盛り上がっていたらしいのだが、記憶のないおっさん達にはどんな話をしていたのか覚えておらず、ただリサ達からなぜか白い目で見られたという。

酔っ払いは迷惑なものだと言うことだけが、とりあえず自覚できたのであった。