軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62.『先触れ』依頼

「ブハハハ!お前誰だよ!」、「うん?ギャハハハ何だこいつ」、「『ドルーフおじさん』、『白パン令嬢』に続いて新たな有名人か?」

訓練場から組合に戻ると、ミイラ男の俺は連中から大爆笑された。

「うるせえな!カス共!絡んでねえで護衛の仕事を真面目にやってろ!」

「い、今の声、ベイルか?」

あれ?俺だって気付かれてないのか?

「ああ、そうだ」

「う、嘘だろ?お前どうしたんだ?全身猥褻物にでもなったのか?」

「やべえ、ベイルの奴、変な病気もらってやがる。誰かこいつを街の外に捨ててこい」

「何だ?今度は何の遊びなんだ?」

こいつらの誰一人『大丈夫か?』って、心配してくれる奴がいねえのはどういう事だ?組合長こいつらの教育失敗してるぞ。

「遊びじゃねえよ!さっきまで組合長と殴り合ってたんだよ!」

まだ鐘一つも経ってないのに、俺が組合長に連れていかれたのもう忘れたのか?こいつらの脳味噌の容量どうなってんだ?

「うわあ。組合長に扱かれるとこうなるのか。怒らせねえようにしよう」

「いや、あそこであんな事言った、こいつが馬鹿だろ」

「頭ベイルだから仕方ねえ」

くっそ。普段ここまで言われたら殴りつけてやるんだが、今は体が痛くて動くのも辛いから今日の所は見逃してやる。しんどいから今日は帰って寝よう。そう思っていたのに・・・・

「ベイル!ちょっとこっち来い!」

あのオーガは、まだ俺に働かせようとしやがる。信じられねえ。自分だけ一発抜いた後みたいな爽やかな顔しやがって!

「何っすかー」

「そうふてくされんな。お前は今日明日護衛依頼無しだ。宿でゆっくり休んでいろ」

ま、まじで!?

「マジっすか?何企んでいるんですか?」

「そんな警戒すんな。お前の罰が決まっただけだ」

罰?俺さっき組合長とのどつき合いって罰受けてたよな?

「そりゃあ、俺に舐めた態度とった罰だ。街をヌメヌメにした罰はまだ受けてねえだろ」

「えー」

「お?何だ?まだ運動し足りねえのか?」

「そんな訳ないじゃないっすかー。分かりましたよ。俺もモレリア達と一緒に街きれいにしてくればいいんですか?」

面倒くせえけど、無級を思い出してモップ持って掃除するかー。

「違えよ。お前水魔法そんなに使えねえだろ?」

・・・・・

使えるよ?多分この街っていうより、この国で俺以上に魔法使える奴はいねえと思う。ただなあ、俺は4属性はどれも使えるけど、水魔法は丁度いい感じの威力にすんのは苦手なんだよ。

極端な言い方すれば威力は1の飲み水か100の洪水レベルしか使えねえ。『身体強化』なんかは逆に威力30から100はある程度使い分ける事が出来る。ただ力加減を10以下にすんのが苦手だから、最近練習してるんだ。

まあ、こういうのは人によって違うからな。モレリアやシリトラなんて水魔法が得意の癖にエール冷やす魔法使えねえんだ。何かイメージが壊れるとか、良く分かんねえ事言ってた。

つまり、何が言いてえかって言うと、得意な事でもその中に苦手項目があるって事だ。だから俺が水魔法で街をきれいにするのは無理って結論になる。洪水レベルの水魔法で街をぶっ壊してもいいなら話は別だけどな。

「だからお前に一つ仕事をしてもらう」

「・・・ええー。タダ働きで強制とか嫌なんですけど・・・」

「なら貴族の護衛に回すか・・・」

「・・・一応話だけは聞いてみましょうか」

かあー。この陰湿オーガ、的確に俺の弱点狙ってきて嫌になるぜ。

「何でお前が上から目線なんだ?一応その根性は凄えって褒めておいてやる。取り敢えずお前への依頼は『先触れ』だ」

「『先触れ』?」

聞いた事ねえ仕事だな。

「早くて3日後には令嬢様達が王都に向けて出発する。その前にお前が先に出て、通る街へ連絡するのが役目だ」

「ええー。そんなん俺以外でも出来るじゃん。他の奴にやらせればいいんじゃないですか?」

領都でも嫌だったのに、貴族の巣の王都なんて絶対行きたくねえ。

「他の連中には領都までの護衛って仕事がある。お前が誰かと代わってくれるなら、そう手配してやるぞ?」

いや、それも嫌だ。それよりも組合員以外の兵士や騎士を使えよ。そっちの方が安心だろ。

「騎士団は領内の警戒に当たって手が足りない状態だ。兵士は街を離れられん。後は領外に多くの騎士を派遣するのは色々事前準備がいるらしく、今回は最低限しか連れていけないそうだ。一応、その中から一人先触れをする騎士がいるそうだが、どうしても組合員の先触れも必要なんだ」

何でだよ?それなら組合員の方は必要ねえよな。

「そう、不思議そうな顔すんな。これも保険だ。令嬢が狙われているって聞いただろ?先触れも可能性は低いが襲われるかもしれん。だから万が一を考えて貴族側と平民側、二つのルートで先触れを使う」

「ああ、それで保険って事なんですね。ただそれでも俺である必要なくないですか?」

「さっきはああ言ったが、これはお前が適任なんだ。そもそもお前は頭悪いが、腕は確かだ。それにずっとソロでやっているから、生き残る事に関しては、コーバスではお前が一番だろう」

えへへー。どうした組合長。いきなり俺をヨイショして。今更褒められた所で嬉しくねえぜ。でも俺の実力はやっぱり分かる奴には分かるんだな。・・・ってあれ?俺の事頭悪いって言わなかった?

「それにな、さっき貴族の護衛に回すって言ったのは冗談だ。今回のこの『先触れ』の依頼はお前じゃなきゃ出来ねえんだ」

「何でですか?」

「お前と護衛との連絡役にタロウを使うからだよ」

「タロウ?え?って事はカルガーもいるって事ですか?」

「そうだ、タロウ達は組合員じゃお前とカルガーの言う事しか聞かねえそうじゃねえか」

・・・うん?そうなの?タロウ尻軽だから肉あげれば誰にでも懐くぞ?

「何でお前が不思議そうな顔してんだよ。カルガーがイーパとミーカにも懐かせようとしたけど、駄目だったそうだ。『多分進化したのが原因っすかねえ』と言ってたぞ」

マジで?タロウ達、俺には腹見せてゴロゴロしてくるのに、進化して気位が高くなったのかな?

「そう言う事なら俺が必要なのは分かりました。カルガーが来るならゲレロ達も王都まで来るって事っすか?」

「いや、カルガーは『守り抜く』を抜けただろ。クワロ達も過去に何があったか知らねえが、あのパーティは一度抜けた奴は、どんな理由があっても再び仲間に加えないんだよ」

ああ、そう言えば何かそんな事聞いた気がするな。

「だからそれを知っているカルガーも、また仲間に入れてくれなんて言えねえ。かと言ってお前みたいにソロじゃ無理だからどうしようって困っている所に、アーリット達から誘われたんだ」

「マジで?カルガーって今あいつらの仲間なのか?」

「前から誘いは受けていたみたいだぜ。貴族から助けてもらったんだから、お礼の意味でも加入してもいいんじゃねえかって、クワロからも後押しされたそうだ」

ふーん。クワロ達パーティと後腐れなければ、何よりだ。こういうのは金や装備の扱いをしっかりルールで決めておけば、組合員は意外とさっぱりしてるからな。

逆に言えば、決めてねえ所は凄えグダグダと揉める。下手すりゃあ殺し合いになる事まである。

「そうなると、アーリット達も王都までついてくるんですか?」

「そうだ。あいつらは令嬢の命を救ったから、令嬢から是非にと誘われている。他の連中は領都までだ。そこからクライムズ領内は領都の騎士とアーリット達で護衛。他領に入ってからは連れていける騎士が減るから、その領の騎士団にも護衛を依頼するそうだ。だから、先触れがかなり重要になってくる」

「へえー。それ聞いたらやっぱり受けたくないっすね」

だって、貴族が多い領都と王都に行くのでさえ嫌なのに、『先触れ』ってその街の貴族に連絡しなきゃならねえって事だろ?貴族とは絶対に絡みたくねえんだよ。それに今回ダイソンアーリットが一緒にいねえから、擦り付けが出来ねえ。

「・・・・分かった。それなら領都と王都には寄らなくていい。領都を無視して次の街でカルガーからの連絡を待て。王都では一つ前の街で待機だ。あと先触れについても、その街の組合長に手紙を渡すだけでいい。後は組合長が代官なり貴族に掛け合うように書いておいてやる」

嫌な理由を言ったら、組合長がかなり譲歩してくれた。これなら王都手前の街までの散歩みたいなもんだ。まあ、各街の組合に寄るってのが面倒だけど、組合員に絡まれたら、ぶん殴って黙らせればいいしな。これなら喜んで受けるぜ。

「喜んでいるようだが、これは街を滅茶苦茶にした罰だからな。報酬は出ねえぞ」

・・・そうだった。喜んだけど、この依頼タダ働きじゃねえか!しかも道中の宿と飯代で金使うからマイナスかよ!途端にやる気が無くなったぞ。

「って言っても流石に王都の往復だ。色々あって戻ってくるのに20~30日はかかるだろうから、必要経費ぐらいは出してやる」

まあ、それなら少しはマシかな。観光気分で行けばいいか。しかしタロウの件があるからって言っても、組合長かなり譲歩してくれたな。他に理由があるのか?

・・・まあ、考えても分からねえ事は、気にしても仕方ねえか。

「悪いな。集まってもらって」

そう言うとジークは机に置かれた謎の器具のボタンを押す。その動きを目ざとく見つけたユルビルが尋ねる。

「おいおい、組合長。今のは何じゃ?魔道具か?」

「そうだ。最近有名になってきた防音の魔道具だ。この部屋の中なら音が外へ漏れないのは検証済だ」

ジークの答えに思わず首を傾げるユルビル。

「それはまだ出回っていないはずじゃ、どうやって手に入れた?」

「レルコが試作品を作ったから、色々検証して欲しいって持ってきたんだ。当の本人はまだ他のアイデアがあって作るのに手一杯だって言うからな・・・後はベイルのおかげだな」

ジークの最後の一言に、今度はユルビル以外の3人も同じように首を傾げる。

「この部屋の4隅にはこの魔道具の補助具が置かれているが、この補助の魔道具使うってアイデアを出したのがベイルってだけだ。そのお礼も兼ねてるし、あいつからの意見を聞きたいそうだ」

「ベイルの奴、魔道具の知識があるのか?意外だな」

「ある訳ねえだろ。素人意見じゃねえのか?」

「ベイルにそんな知識ある訳ないじゃないかー。それよりもさっさと本題に入ってよジーク」

ロッシュに促されて、軽く肩を竦めた後、ジークは話を始める。

「トレオン、ちょっとお前の要望と違うが、ベイルを王都手前の街まで連れだす事に成功した」

その言葉にトレオンが目を見開く。

「おいおい、あの貴族嫌いをどうやって・・・いや、でも王都まで行かねえとあんまり意味ねえな」

「まあ、そう言うな。今回何も無ければ、そこまで連れ出すのは次から楽になるだろ。そうなりゃあいずれ、『王都見に行ってみるか』ってなるかもしれねえ?その為の布石だ」

「まあ、最初だし、それでもいいか。ありがとう、組合長。そうなってくると、俺もベイルについて行きてえなあ」

ぽつりと漏れたトレオンの言葉にロッシュが反対する。

「駄目だよ、トレオン。目標が動くかもってぐらいじゃ任務優先だからねー」

「騎士団の多くが街から離れている、こんなチャンス多分二度とないだろうから、今回は任務を優先するのは、仕方あるまい」

「分かってるよ。言ってみただけだっての!」

ロッシュとマーティンに言われて、ふてくされたようにトレオンが返す。

「そう言えば今回あのデカい狼使うって本当かい?」

ロッシュの問いに頷くジーク。

「そうだ、普段なら下手すりゃ討伐隊が組まれるかもしれねえが、今回は貴族の護衛だ。誰も手を出せねえ。タロウ達のお披露目にはうってつけだ。これで国中で噂になれば、あいつらも気兼ねなく外を走り回れるはずだ。そうなれば、ジャイアントウルフまでは厳しいが、ワイルドウルフが商人の護衛したり、街道警備したりして、今より街から街への移動が安全になる」

「理想は結構じゃが、そこまで辿り着くのには時間がかかるぞ?」

「分かってるよ。それでも俺は諦めるつもりはねえ」

そう熱く語るジークとは対照的にロッシュは冷ややかな顔だ。

「ジークの過去を知っているから、僕は何も言わないよ。ただ、それは僕ら『処刑人』の仕事じゃないから、良いように利用しようなんて考えないでね」

「分かってるよ。取り敢えず今回の件が無事に終わらねえと、何も動けないからな。まあ、タロウ達はカルガーがいるし大丈夫だろ。遠回りだけど同じ派閥の領を通るから、護衛もあんまり心配してねえ。・・・一番心配なのは・・・」

「ベイルかー。また何かやらかすかなー」

「ベイルじゃな」

「ベイルだ」

「あいつしかいねえよな」

ここ最近ベイルが無自覚に起こしている出来事を思い出すと、全員期待もあるが不安も浮かび何とも言えない表情になる。そして今回も当り前のように、無自覚に大きな出来事を引き起こすのだが、この時には5人は思いつけるはずも無かった。