軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45.王都では

ウバリムル・サファガリア伯爵は王都の一室にて、娘のティガレットと共に椅子に腰掛けながら険しい顔をしていた。

「お父様、今回の件あまりにも相手の動きが不可解すぎますわ。もうここまで来たら陛下に誠心誠意真実お話するしかないですわ」

娘に言われずとも、そうするしかない事は分かっている。

今回の敵対派閥の狙いが何故ウチなのか?と言う所から分かっていないからな。

今回我等が呼ばれたのはクライムズ伯爵領での騒動が理由という所までは突き止められた。そして私と娘が呼ばれた理由についても分かっている。その騒動の原因の『白の令嬢』と呼ばれる人物と我が娘ティガレットの姿がかなり似ているという話だからだ。

ただ何故我がサファガリア家が狙われた理由が分からん。一応クライムズ家とは敵対派閥に属しているが、言ってはあれだが先代のクソ親父のせいで、今や我が家の家計は火の車。王都の勢力争いに構ってる余裕なんてなく、建て直しに奔走する毎日だ。対外的にはそんな様子は微塵も見せてはいないが、既に知られていると見ていいだろう。そんな我が家をわざわざ地竜を使って追い落とすメリットが思いつかない。それならもう少し勢いのある別の家を私なら狙う。

そして、今回のクライムズ伯の動きも不可解だ。あの家は相手に仕掛ける事はせず、仕掛けられたら返り討ちにするのが得意な家だったはずだ。代替わりすれば変わる事もあるが、次期当主はまだ若造。現当主も健在の今、戦法を変えてくる意味が分からない。

一応、ティガレットにも確認したが、クライムズ領に行った事等ないとの事だ。そもそも娘は王都までしか来た事が無い。それは王都や領の家の者にも確認済だ。黙って行くにしても王都からクライムズ領は往復10日はかかる。流石にそれだけ姿が見えなければ騒ぎにもなり、当然私に報告があるはずだが、そんな話は聞いた事無い。

そうして敵の行動が全く読めない中、遂に謁見の間に通される事になった私達。そして中に入ると驚く事に、ティガレットとよく似た見た目の女が、10人程集められていた。よく考えればそれも当然、今回王命で『王国貴族の中で金髪で長い髪をした若い女』が王都に集められたからだ。ただ、『若い』というのがどの程度かは議論の余地がある。まだ10にも満たない子は幼いと言うのではないだろうか?そして上はちょっと高すぎる気が・・・・私より年上に見える人がいるが、本人が若いと思っていればいい、とかそういうものなのだろうか?

呼ばれた連中が気になって意識していなかったが、よく見れば既に後は陛下がお越しになるのを待つだけになっている事に気付き、慌てて膝をついて頭を下げる。当然娘も同じだ。その事に貴族特有の嫌味と自慢話をしている連中は気付いているんだろうか?

・・・と、普段の私なら冷静に思えたんだが、陛下の座る椅子の脇に立つ宰相。そこから2段下には今回の元凶クライムズ伯爵が険しい顔をしていた。そしてその対面に立つ長い髭を生やした人物、メーバ国冒険者組合総組合長チェスター・ジニック。そこまではいい、たまに見るから心が乱される事は無い。ただ、チェスターの脇に立つあの得体のしれない人物は何だ?頭からフードを被りその顔は白い仮面で全て覆われ、ゆったりとしたローブを纏った怪しげな人物は!陛下の前でその恰好はとんでもない不敬になるはずだが、宰相も壁際に並び立つ親衛騎士達も何も言わない。

それどころかその謎の人物が隣に立つチェスターに何やら呟くと、チェスターが親衛騎士に指示を出し、他の令嬢をどんどん退出させていき、残ったのは私とティガレットだけとなった。

「ふむ、これなら話が早くて助かる。すぐに陛下をお呼びするから、そのまま待つように!」

そして言葉通り、膝をついて頭を下げて待つ私達。チラッと見れば、クライムズ伯爵は当然、チェスターも膝をついている。但しその隣に立つ不審な人物は腰を曲げて頭を下げているだけで膝をついていない。あれが許されるという事は、あの人物はかなり高位な爵位を持つ者という事か。

・・・・

そ、それにしては体格おかしいな。身長は高くも低くもないが妙に足が長い。というより胴が異様に短いと言った方が正しいのか?私より爵位が上であのような体形の人物はいないはずだ。

・・・いや、詮索はしない。この謁見の間であれが許されている、それだけで十分だ。探ってもこちらが潰されるだけだ。

そう思い頭を下げて待つと、足音が聞こえてきた。陛下が来たようだ。

「顔を上げよ」

陛下の声に従い顔をあげる。・・・・あれ?陛下何やら満足げな顔をしているような・・・

「ふむ、何か勘違いしていた愚か者どもは全て排除し、残ったのはサファガリア伯だけか。ハハハ。手間が省けた。チェスター。礼を言う」

「いえ、陛下、礼ならこちらの者に・・・」

チェスターの奴、陛下からのお褒めの言葉を受け取らず、隣の不審者に譲りおった!あの不審者は一体何者なのだ?しかもあの不審者!それを受けても軽く頭を下げるだけという失礼極まりない態度!アレが許されるのか?

見れば何故かクライムズ伯爵も目を丸くして驚いている。あれは演技なのだろうか。

「それで今回来てもらったのはクライムズ領に現れたという謎の女の話だ」

やはり事前に集めた情報に間違いは無かった。ただ、その事について対応を全く思いついていないというのが、困った所だ。

「その顔、サファガリア伯も知っているな。なら話は早い。単刀直入に聞こう。サファガリア伯の娘ティガレットよ。そなたが噂の『白の令嬢』か?」

問われた我が娘は困った顔でこちらを見てくる。娘も、まさか陛下から直接質問されるなんて思ってなかっただろう。ただ、こちらの対応は変わらない。正直に誠心誠意答え、今回の件と無関係であると訴えるだけだ。・・・まあ、無策とも言う。

「いいえ、違いますわ。陛下」

「武器や護身術の心得はあったりしないか?」

「強いて言えば乗馬ぐらいでしょうか」

娘のその言葉を聞いて、陛下は隣に立つ宰相に目で合図を送る。

「では、その言葉が本当か確認させてもらうぞ」

宰相の言葉と共に手を挙げると一人の女騎士が娘に近付いてきた。そして娘の腕や指を触り何かを確認している。

「指先もきれいで、手の平も柔らかく、とても鍛えているようには思えません。こちらの令嬢の言っている事は本当かと思います」

ひとしきり娘の手を触っていた女騎士は陛下に向かって報告した。まあ、本当の事だからそう報告するしかないんだが、もしかしたら、この女騎士が買収されていて、虚偽報告をする可能性も考えていた。そうなった場合は宰相か陛下に直接確認してもらうだけだが・・・クライムズ伯もこちらの対応を予想できたのか、ここでは仕掛けてこないか。

「それでは次は魔力だ。用意を!」

宰相の言葉に騎士達が慌ただしく動き何やら準備を始める。あれは恐らく魔力感知の魔道具でも準備しているんだろう。その間に女騎士が娘に説明を始めていた。

「本来であればこの謁見の間で魔法を使う事は禁止ですが、今回は特例で陛下より許可を頂いております。ですので私の合図で、ティガレット嬢は『身体強化』を使って下さい」

説明が終わると周りの準備も完了したので、女騎士の合図で娘が『身体強化』を使う。先程と違い女騎士の隣には二人の騎士が立っていて、3人で娘を見ながら話をしている。

「特に威圧感は感じないな」

「そうですね。こちらは『身体強化』無しでも制圧できそうです」

「一応、確認だけはするか」

そう言って今度は娘と女騎士が押し合いを始める。たまに女騎士が魔道具を持つ騎士に目を向けて、娘が『身体強化』を使っているか確認している。

そして、確認も終わり、騎士の出した結論は、

「魔力についても、私が『身体強化』使わなくても余裕で勝てるレベルだと思います」

まあ、当り前の結果だ。貴族令嬢は体を鍛えるなんてしないから、誰でも同じ結果になるだろう。しかしここで仕掛けてこないクライムズ伯は何を考えている?まだ、何か策があるんだろうか?それにしては余裕が無さそうな顔に見えるのは気のせいか?

「さて、これで噂の『白の令嬢』はサファガリア令嬢でもなく、王国貴族にもいないという結論になったぞ。どうするクライムズ伯?」

陛下の言葉に険しい顔を更に険しくするクライムズ伯。そして何故かこちらを忌々しそうに睨むのは何故だ?というより、もう終わり?

「困りましたな。これではそちらの狙いがさっぱりだ」

忌々しそうに言うクライムズ伯の言葉にカチンと来た。

「ふざけるな!仕掛けてきたのはそちらだろう!陛下まで巻き込んで一体何を考えている!!この場で仕掛けてくるかと思ったが、それもない!何が狙いだ!クライムズ伯」

「それはこちらのセリフだ!数年前の『ドルーフおじさん』と似た手口。一体そちらは何がしたいんだ!」

あれ?数年前の騒ぎってこちらの派閥がやったと思われている?

「待て!二人とも!落ち着け!」

陛下の前だというのに思わず頭に血が昇ってしまった。慌てて頭を下げる。

「うーむ。困った。宰相、どう考える?」

「今回の件、クライムズ伯より調査を依頼されてこの場を設けましたが、クライムズ伯とサファガリア伯どちらも何も動きはありませんでした。もし何かの罠に嵌めようとした場合、陛下のいる今この場所で相手を罠に嵌めるのが一番効果的。なのに動かなかった。それに今の二人の態度から、どちらも今回の件に関わっていない可能性が高い。そうなると考えられるのは・・・第3者かと」

クライムズ伯は今回無関係なのか?私と同じく巻き込まれただけ・・・そう考えると派閥同士の溝を深めて一番得するのはどこだ?

「隣国か?」

「その可能性は十分高いかと」

隣国と言えばハスリアとハルツール、ディリングか。他小国もあるがこの3国がまず思い浮かぶ。ハスリアとハルツールとは同盟関係にあるが、同盟なんて机の上では握手して、下では蹴り合いしているようなものだ。当然その可能性も考えておくべきだろう。

ただ・・・・

「隣国ですか?陛下、お言葉ですが、我が領やサファガリア領は隣国に隣接してはいませんよ?」

そう、どちらも隣国まではもう一つ領を越えなければならない。当然隣国も接する領から仕掛けるはずだ。もし何かしら策があるにしても私とクライムズ伯を狙う理由が分からん。我が領に隣接している領には敵対派閥の領もあるからな。クライムズ領も同じだ。わざわざ離れた領を狙う意味が分からん。

「分かっている。ただディリングから二つ先の国では戦争の兆候が見られるそうだ。戦争が始まればどの国がどう動くか分からん。今回の件も既にこちらを狙う国からの分断工作かもしれん」

それはかなり厄介だ。相手が国となるとかなりキツイ。それに敵の狙いが分断工作だとしても何故ウチが狙われたのか理解できん。言ってはアレだが、我が家は派閥内でも影響力はほとんどないからな。

「陛下、私から一つ提案があるのですが・・・」

結局、結論は出ずに解散の空気になった所で、まさか娘が口を出してきた。

「ティー!?」

驚きすぎて思わず愛称で呼んでしまった。

「聞こう」

くっ、陛下にそう言われたらもう止められないではないか!ティーは何を考えている!

「私がその噂のコーバスに行ってみるというのはどうでしょうか?」

「馬鹿な!?」

「駄目だ!駄目だ!ティガレット!お前は何を言っている!」

娘の驚きの提案に驚くクライムズ伯。

私はすぐにその案を却下する。

「二人とも、静かに!」

「それで行ってどうする?」

「どうもしませんわ。ただ、もし今回の件が、陛下の仰られるように敵国の工作だとしたら、何かしら動きがあると思いませんか?」

「うむ、その可能性は十分考えられるな。ただ、何も起きないかもしれんぞ?」

「それならそれで構いませんわ」

くっ、止めたいが、既に注意を受けているから口を挟めない。見ればクライムズ伯が私に視線で娘を止めろと言っている。向こうも私と同じで口を挟めないからな。

「そうか。分かった。許可しよう。一応、まあ、そなたの家とクライムズ家はまあ・・・何というか・・・あまり親しくない間柄。何かトラブルがあった場合、中立な立場の者が必要だろう。なので、こちらからも一人同行させよう」

「ありがとうございます。陛下」

おおーい、何か勝手にどんどん決まっていくぞ!クライムズ伯は自分の領の事を勝手に決められていいのか?こっちを睨んでいる場合じゃない、何か言え!口を挟め!

結局、どちらも口を挟めず、陛下と娘の間で話が決まってしまった。

「ティー!お前は何故勝手に話を進めた!」

謁見の間を退出して待合室に戻ってから即座にティガレットに真意を問い質す。

「だって、見てみたいじゃないですか?私の偽物とやらを」

「ば、馬鹿者!そんなくだらない理由で陛下と約束したのか!」

我が娘ながら恐ろしいわ。

「それもありますけど、陛下に申し上げた事も本当ですわ。それに私がクライムズ領に行く。それだけでクライムズ伯からの疑いは晴れますわ」

普通は敵対派閥の街に行く事はないもんな。王都に行く時でさえ遠回りになっても、同じ派閥か中立の領を通るからな。しかし、娘がそこまで考えていた事に驚くわ!

今後の事を頭で考えていると、扉がノックされた。

「すまない。サファガリア伯。少し話をさせてもらえないだろうか?」

ノックの主はクライムズ伯だった。どこかで話をしないといけないと思っていたら、向こうから来てくれた。わざわざ向こうから足を運んできたんだ、まずは私から謝るべきだろう。

「話の前に、我が娘が勝手に陛下とそちらの領に向かう約束を取り付けてしまい、本当に申し訳ない」

そう言って娘共々目の前に座る伯爵に頭を下げる。

「決まってしまったものは仕方ない。それにしてもサファガリア嬢はその年で陛下と動じる事無く話を出来るその胆力、恐れいる」

「お褒め頂き光栄ですわ」

褒めてない、褒めてないぞ、我が娘よ。小娘の分際で陛下と話すなんて身の程を弁えろって言ってるんだぞ。

「っ!!」

ほら、裏の意味を捉えず嬉しそうに返事したから、クライムズ伯も言葉に詰まったではないか。

「・・・と、取り合えず、こちらも今回の件、サファガリア伯を巻き込んでしまい、申し訳ない」

当然、クライムズ伯からの疑いも晴れているか。こちらもクライムズ伯の態度を見れば、今回の件に関わっていない事は分かる。

「それで、今後の予定について話を聞きたいのだが、サファガリア伯は何日程で準備が整う?」

準備かー。別に見栄を張る必要もないから馬車は一台でいいだろう。陛下が一人用意すると言っていたから馬車は全部で2台になる。そうなると護衛は20人程でいいか。王国貴族の家紋入りの馬車を襲う馬鹿はいないだろうし、無駄に護衛の数を増やしても金がかかるだけだからな。我が家は金がないのだ。

護衛20人となると、一度領に連絡して人を寄越して貰う必要があるな。そうなると、往復10日はかかる。

「恐らく準備に10日程は必要となる」

「そうか、一応こちらからも護衛を出そうか?」

クライムズ伯の提案に首を振って答える。

「いくら疑いが晴れたと言っても、我らは派閥が異なる。トラブルが起こった時に責任の押し付け合いになるから、遠慮させてもらおう」

「分かった。それならサファガリア伯の令嬢が来る事を領内に通達して、道中の街などスムーズに入れるようにし、街道の警備も強化しておこう」

それは助かる。やはり他領の者特に敵対派閥の者が街に入るには、色々確認という名の嫌がらせがあり、時間がかかるからな。

「それで、コーバスにはどの程度滞在する予定だ?知っているかもしれんが、王都から我が領都まで馬車で5日、そこからコーバスまで更に5日程度はかかるぞ」

結構遠いな。コーバスという街の名は聞いてはいたが、クライムズ領でもかなり辺鄙な所にあるんだな。

「ティガレット、どのぐらい滞在する予定だ?」

「そうですわね。もしそこに敵がいるのであれば、5日も滞在すれば動くのではないかしら」

5日か。まあ妥当な所だろう。

「分かった。それでは準備が出来たら出発前に連絡をくれ」

そう言い残してクライムズ伯は去って行った。

「ふうー」

クライムズ伯が去った後、椅子に体を投げだし深くため息を吐く。

疲れたー。疲れたが、普段は派閥の後ろで相槌うっているだけの私が、陛下やクライムズ伯相手に疑いを晴らせたので上々の結果だ。まあ、そもそも何もしてないのだが。

これで後は娘がクライムズ領に行って帰ってくれば、それでこの問題は一先ず終わりだ。

・・・・・・

この時はそう思っていたんだがなあ・・・。

陛下が動く程の騒ぎを二度も起こした辺境の街コーバス。

何故娘が行って帰ってくるだけで、こうもおかしな事になるのだ。

あの街は魔境だ。