作品タイトル不明
21.相棒を求めて⑥
「いやあ、ベイルさんがいると信じられないぐらい安値で買えるので、今後は定期的に卸して欲しいですよ!」
昨日と同じ謎液体をぶっかけられた俺は無事糸から脱出することが出来た。で、何故かご機嫌な職員に絡まれているんだ。安く買えて嬉しいのは分かるが、こっちは一生懸命やった結果なだけであって、喜ばれても嬉しくはねえんだよ。
「いや、もう次はねえよ。もしかしたら別の『○○巻き』ってのは入荷されるかもしれねえから、そっちに期待しとけ」
いや、でもそういう倒し方もありなのか?ソロだけど俺だから何とかなったが、これがパーティなら糸に絡まれた時点で助ければ『○○巻き』として売れる。この倒し方って売れるんじゃね?ははは。天才かよ!転んでもタダじゃ起きねえんだよ俺は!
・・・・・
「売れる訳ないでしょう」
組合に戻ってリリーに話したら即否定されたよ。お菓子あげたけど、まだ怒ってんのかな?
「そもそも蜘蛛もキャタピラーも糸を躱して倒せばいいだけです。何で糸攻撃をくらう必要があるんですか?その分商人ギルドに手数料として卸値を下げる必要があります。当然組合での買取額も下がりますが?」
言われてみればその通りだ。怒ってるとか全然関係なかった。いくら組合員が馬鹿ばっかりでもわざわざ買取額を下げる馬鹿はいねえわ。
「分かってくれましたか?それではこちらの話をさせてもらいます。組合長を呼んでくるので少しお待ち下さい」
何で組合長?まだ最後の一枚は踏み抜いてないはずだよな?
「全く、お前は何で昨日と同じ事やってんだ?人の性癖にとやかく言いたくねえが、そういうのは自分一人で完結できるようにしてから楽しめ」
おおい!組合長入ってくるなり、何て事言うんだ!モレリアじゃねえんだから、俺にはそんな変な性癖はねえよ。リリーが冷たい目になるから勘弁してくれよ。
「違えって!またヘマこいただけだっての!」
「また、魔物を仲間にしようとかってよく分かんねえ話か。昨日リリーから聞いたがもう一度俺にも話してみろ」
何だ?組合長が俺から事情聞くなんて珍しいな。普通は説教しかしねえんだけどな。
・・・・
「ふう。やっぱり直接聞いても理解出来んな。何で『全てに打ち勝つ』に仲間が増えたら魔物が仲間に出来るって考えになるんだ?それはお前が読んだ物語の中の話だろう?」
「だからその物語が実際に『全てに打ち勝つ』に起こってんだよ。だったら仲間になる魔物もどこかにいてもおかしくねえだろ」
「いや、まあ確かに俺も組合員歴長いが、子供を使ったいつもの手口で本物だったのは俺が知っている限り王都で一回あったぐらいか。そん時も今回と同じ貴族絡みだったな。・・・助けに行った奴は、その後貴族に罪をでっちあげられて処刑されたけどな」
最後のオチはいらねえ。ん?今回と同じ?
「でもベイルさんが読んだ話なら、その仲間になる魔物って『全てに打ち勝つ』のものですよね?」
「あほか、リリー!まだ仲間になってねえんだ。あいつらのモンじゃねえ。先に見つけたら俺のモンだ」
「・・・あほって言われた。・・・ベイルさんにあほって言われた」
「先に見つけたらって、いるかどうかも分かんねえのに、よくやるぜ。ただ、まあベイル、その魔物探し続けてるとお前の嫌いな貴族が絡んでくるかもしれねえぞ」
「何でだよ!そいつらも魔物仲間にするつもりなのか?」
マジで貴族が絡んでくる理由が分かんねえ。いや、そう言えば、あいつら謎理論で訳分かんね事してくるの得意だったな。
「違う。その前の話だ。『全てに打ち勝つ』が仲間にしたエフィルって女だ。彼女はあの見た目だ、とある貴族に気に入られて言い寄られていたんだ」
ああ、はいはい、よくある話ね。最後は無理やり連れていかれて飽きるまで楽しんだ後、ポイッされるってやつだ。
「彼女は貴族の誘いを何度も断っていたんだが、痺れを切らした貴族がついに強硬手段にでてな。彼女の育った孤児院の子供を餌に『死者の丘』まで呼び出した。それがこの間の騒ぎだ」
ああ、うん、『死者の丘』なら人気ゼロだから人も来ねえし、対策さえしっかりしていれば魔物も雑魚ばっかりだしな。
「で、そこを助けたのが『全てに打ち勝つ』の連中だ。まあ、貴族も助けたんだけどな」
「何でだよ!貴族からエフィルを助けにいって、その貴族助けるって意味分かんねえぞ?」
「馬鹿みたいな話だが、その貴族何も『死者の丘』対策してなかったんだ。当然アンデッドに襲われたんだが、そこに呼び出されたエフィルが現れて助けたらしい」
・・・・コントかな?呼び出した奴に助けてもらうなんて笑うしかねえな。しかもアンデッド対策なしで『死者の丘』って4級でもきついぞ。いや、多分行く奴は絶対いないだろうけどな。
「で、そうこうするうちに『全てに打ち勝つ』の連中も来て、何とか『死者の丘』から脱出したんだとよ」
・・・うーん。結果論だけどあの時俺が助けに行かなくてよかったかもな。俺なら絶対に貴族見殺しにしてる。で、親が口を挟んできて、面倒事に巻き込まれる。うん、定番のよくある話だ。
「それなのに何故かその貴族『全てに打ち勝つ』の連中に邪魔されたと思い込んで何やら画策していたそうだ」
おいおい、面倒事に巻き込まれる寸前じゃねえか。・・・・うん?過去形?
「で、昨日その貴族は家で死んでいたそうだ」
「・・・・・・いや、何でだよ?『全てに打ち勝つ』なら分かるけど、何で色々企んでいた奴が死ぬんだ?」
「俺に聞くな。ただ、まあ一番怪しいのは『全てに打ち勝つ』の連中とエフィルになるんだが、その日は朝から全員で見習い兵士達と街壁周りの草刈りしてたから犯人じゃねえ。殺された貴族も朝生きているのは家族が確認して、昼前に死んでいるのを見つけたって話だからな」
アリバイは完璧って訳だ。そもそも『全てに打ち勝つ』は、貴族から逆恨みされている事すら知らなかっただろう。マジであいつら謎思考の持ち主だからな。
「ただ、貴族が殺されたんだ。当然、騎士団はやっきになって犯人を探している。そんな所に『エフィルが仲間になったなら仲間になる魔物もいるはずだ』とか言ってる怪しい奴がいたらどうなる?」
・・・・・・あー。そりゃあ、ちょっと話聞かせろぐらいは言ってくるだろうな。
「分かったなら、仲間探しは魔物じゃなくて人でやれ。あとリリーに迷惑かけるな」
おい、最後のが本音だろ。どうせリリーから苦情言われたから注意したって所だな。でもまあ組合長の話も嘘じゃないだろうし、貴族に絡まれるのも面倒だ。ほとぼりが冷めるまで仲間探しはお預けしとくか。
■
ほとぼりが冷めるのどれぐらいだろうなあとか考えていると、トレオンが絡んできやがった。
「よお、ベイル。お前また今日も白いのぶっかけられたんだって?」
「言い方あああ!お前!周りの人が勘違いする言い方するんじゃねえ!」
ほら見ろ。近くで飲んでた2級の女の子が離れていったじゃねえか。
で、その代わりにゲレロがにやけながら俺に寄ってきやがる。呼んでねえよ。
「おいおい、昨日と同じネバネバになる遊びしてリリー怒らせたベイルさんじゃないですか?」
「だから!言い方!ゲレロ、てめえも勘違いするような言い方するんじゃねえよ!」
全くこいつらは人の不幸は蜜の味ってのを素でやってるから性質が悪い。
・・・
良く考えたら俺も喜んでやってたわ。
■
「やあ、やあ、ベイル。二日続けて白いネバネバしたものをぶっかけられたんだって?僕とベイルの仲だってのに水くさいじゃないか、今度僕のおススメのお店を紹介してあげるよ。値段は10発1万ジェリーだ。中々良心的な値段だろ?」
「ふざけんなよ!モレリア、てめえの言っている店は特殊なプレイの店だろうが!何で俺がぶっかけられて金払わないといけねえんだよ!お前と違って男のイキ顔見ても興奮しねえよ!」
この手の話題になると一番厄介なモレリアが嬉々として俺に絡んできやがった。普段感情出すの下手な癖に、こういう時だけいい笑顔になりやがる。
「えー。そうかい?それなら5発1万ジェリーの店にするかい?ちょっと高いけど、まあ顔は良い子達が揃っているよ」
「だから!値段の話じゃねえんだよ!俺はそういう店に興味はねえって言ってんだ。今回の件もヘマしただけだっての!」
「えー」
えー。じゃねえんだよ。何で残念そうなんだよ!
「そもそもヘマしたって黄黒蜘蛛とグリーンキャタピラー相手にヘマするか?あいつら1級の獲物だろ」
「うるせえな。こっちも色々事情があんだよ。話しただろ!」
ったく、ゲレロの奴はしつけえな。
「事情ってあれだろ?魔物が今なら仲間になるってやつ。お前物語に夢見過ぎなんだよ」
「おい、トレオン。その話なんだ?俺知らねえぞ?」
・・・・
「ガハハハッ!!ベイル!お前馬鹿じゃねえのか?」
「君は実に馬鹿だねえ」
トレオンから詳しい話を聞いたゲレロは大笑いだ。モレリアも顔には出してねえが笑っているのは分かる。こいつらマジで一回殴ってやりてえ。
「うるせえな。組合長から注意されたからしばらくはしねえよ」
「おいおい、組合長からって穏やかじゃないね。どういう事だい?」
口止めされなかったから言ってもいいだろ。って事で3人に貴族絡み案件を説明した。
「マジかよ。ったく面倒くせえな」
「はあー。全く嫌になるなあ」
説明が終わると何故かゲレロとモレリアが立ち上がった。
「おいおい、まだかなり早いけどもう帰るのか?」
「いや、まだ帰らねえよ。取り敢えず今の話をクワロにして、明日の依頼を今の内に受けておくんだよ」
「その面倒くさそうな貴族からの依頼が明日ありそうだからね。今日のうちから別の依頼受けておけば、受けなくて済むからね」
ああ、そういう事か。4級はこういうのがあるから面倒くせえな。やっぱりならなくて正解だわ。
「さーて、俺もリーダーん所に行ってくるわ」
ゲレロとモレリアがそれぞれ組合の別の場所で飲んでいるクワロとシリトラの所に行くと何故かトレオンまで席を立つ。
「なんで3級のお前まで動くんだ?3級なら強制や指名はねえだろ?」
「ばーか。ティッチ達はまだ戻ってこねえ。モレリア、ゲレロの所が受けねえってなると残った4級は二つだ。あいつらも一昨日ぐらいに護衛依頼受けたから当分帰ってこねえよ。そうなると3級の俺らに何か言ってくる可能性がある。そうなったら面倒くせえからな。そうなる前にしばらく避難させてもらうぜ」
・・・そうか、言われてみればそうだな。俺も2、3日街から離れておくか
■
「って訳で俺らは明日から貴族の護衛だ。しばらく戻ってこねえからな」
「僕たちも同じで明日から護衛依頼を受けてきたよ。明日は組合に寄らずそのまま出発するからね」
ゲレロとモレリアは明日から仕事をするそうだ。面倒くさがりのこいつらにしては珍しい。まあ、それだけ今回の貴族絡み案件は嫌って事だな。俺も大嫌いだから気持ちは分かるぜ。
「トレオンの所はどうすんだ?」
「俺らはコムコムで5日ぐらいのんびりしてくるぜ」
あれ?コムコムってキングが出てなかった?すごしにくいのに何でそこに行くんだ?
「そりゃあ、組合に行けばな。俺らは立ち寄らねえから問題ない。リーダーは知らねえが俺は馬でユルビルとマーティンはコムコムの職人と話してみたいから二つ返事でOKもらえたぜ」
って事は何だ?俺だけ一人残るって事か。おいおい、これ貴族に絡まれる可能性高いんじゃねえ?・・・・・・よし、明日からフリー討伐に行こう。そうと決まれば受付に声かけておくか。
思い立ったが吉日。トレオンを置いて俺は受付に向かう。時間は日が暮れたぐらいだろう。依頼を終えた組合員が酒や飯を楽しんでいる中、受付に向かうと、珍しい組み合わせを見つけた。『全てに打ち勝つ』メンバーの獣人ザリアと『守り抜く』のカルガー、『ちょっと賢い』のミーカの組み合わせだ。
「また凄いの見つけたっすね」
「いや、本当にたまたまだよ」
「私なら即、殺していましたが・・・・うーん。こう気持ちいいと殺す事に躊躇いが出そうです」
・・・・・は?・・・・・う、嘘だろ?
ミーカの腕を這っている軟体動物・・あ、あれはスライムじゃねえか!
「あ、ベイルさん。ちーっす」
「ど、どもです」
「どうも」
三者三様の挨拶だけど俺はそんな事気にせずミーカの腕を這っているスライムに手を伸ばす。
「ちょっと!何ですか?」
俺から伸びた手を躱したミーカがすげえ嫌そうな顔で俺を睨みつける。
「い、いや、そ、それ・・・」
俺が指差したのがスライムだと分かった3人は少し得意気だ。
「これに目をつけるとはベイルさん、流石っす。このスライムなんと、人を襲わないんっすよ!」
ちょ、ちょっと待ってくれ。
「それにこのスライム肌をきれいにしてくれる超有能スライムなんですよ」
知っている。そいつが有能なのは読んだ事があるから知っているぞ。
「あ、あの私が見つけました」
・・・・生産者表示かな?
「・・・・ああ、あ・・・ああああ」
「どうしたっすか?ベイルさん?」
「え、えっと。大丈夫ですか?」
「何?どうしたの?」
俺の様子に心配した3人が声をかけてくる。
「ふ、ふざけるなあああああああ!!!!!そのスライムは俺のだ!!!!ずっと探していたんだ!そいつは俺のもんだああああああああ!!!」
「きゃあああああああああああああああああああああ!」
俺の叫びにザリアが涙目で悲鳴をあげる
「ベイルさん!やめるっす!」
すぐに俺とザリアの間に盾を構えたカルガーが飛び込んでくる。
「ベイル!やめろ!誰か!ベイルがおかしくなった!止めてくれ」
普段なら全く動かねえ組合員がこういう時だけ素早く動くのは女の子からの助けだからだろう。マジでこいつら最悪だぜ。俺を文字通り潰しにかかる大勢の組合員に負けて押し潰された俺はそこで気を失った。