軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第33話『共に地上へ』

妙に畏まった様子のロヨンを見て、やはり明かすべきではなかったか?と少し逡巡するも、いや不可欠なことだったと自分を納得させた、昇降機に繋がる通路の方を見る。

「さて、ロヨン。君はこの地下空間に拘留されて久しいと思うけれど、私と共に地上に戻る気はあるかい?まだゲートの調査が未完というなら、私も共に調べ物を続けるつもりだけども」

至近距離からゲートを調査できたのはおそらく初めてのことだろう。であるならば、詳細な調査はまだまだ時間がかかるに違いない。

それを考えると、もう少しここに逗留してもいいのかもしれないが、改めて色々と知った今、この身を朽ちたままにしておく理由はますます薄いのだ。

いち早く地上に抜け、機神様の神殿か祭壇を発見し、そこで克服できる恩寵を精査せねばならないのだ。

「当然共に去るつもりですじゃ、いつまでも地下にいては、体が鈍って仕方ありませんゆえ。これでも長年旅を続けてきた身、多少の心得はありますぞ」

ロヨンはそういうと、ニヤリと微笑んだ。そのまま周囲をひっくり返し、なにやら必要そうな資料や道具を異空間へと収納していった。

このゲームをプレイして驚いたことの一つが、NPCでも普通にインベントリを使用することだ。最初に掲示板でその情報を確認した時は、驚きのあまり固まってしまったほどである。

インベントリは遍く神の恩寵に含まれる普遍の効果の一つとされているので、当然その加護を受けているこの世界の住人も使えておかしなことは一つもない。

そこで私は、人が亡くなるとそのインベントリ内に含まれていた諸々のアイテムはどうなるのかという当然の疑問が浮かんだ。

この世界の住民の話によると、死者のインベントリに遺されたアイテムや各種道具類は、一度その加護を与えた神の元に送られ、そこから改めて親族に返されたり、あるいは神の力でグレードアップした上で、それぞれの神が人類への試練として作ったダンジョンの報酬にされたりと、3Rバッチリの環境に優しいシステムである。

ゆえにロヨンがインベントリを使えるのもそういった理由からである。彼の崇める神はサクスドルフの神官一族の末裔らしく、当然我らが機神サクスザント様だ。

そんなふうに暇を潰していると、どうやら旅立ちの支度が終わったらしい。

「さて、それでは行きますぞ。あの書物の先にある開かずの間が唯一の心残りですが、そんなものはエクス・マキナ・アポカリプス様の復活に比べれば些細なこと。いち早く地上にある神殿に赴き、力を取り戻しましょうぞ」

彼がいかにもそれらしい口調で訥々と述べると、私を先導するように杖を先立て、歩いていく。その様子はどこか微笑ましく感じるが、彼の目的は怨敵の撃滅だ。

そのギャップが本当に心地良い。ロヨンと出会えてよかったことの一つが、この仮面の下に隠された溢れ出る殺意だ。彼が自らの祖国を襲った数多の使徒を誅殺することを求める限り、私はこの者と先を共にすると誓ったのだ。

「ふふふ、さあ、行こう。そういえば、ロヨンはまだ昇降機が機能する姿を見ていないのか。あれはなかなか壮観だぞ?」

「ほう。ルイス様がそうまで仰るからには、さぞ美しい様子なのでしょう。楽しみにしていますぞ」

なんとも慇懃な態度だな……

さて、そうして歩き続けること数分、私がこの地下世界に辿り着いた時に初めて目にしたあの空間に辿り着いた。相変わらず鳥籠のような形をした独特な空間で、かなりの広さがある。

その空間は通路の淡い光に照らされて僅かな輪郭を覗かせるのみで、やはり暗視機能を使わざるを得ないほどの暗闇だ。

各種機器は相変わらず沈黙していて、昇降機に刻まれた美しいサクス文字の模様に沿って弱い光が脈動するのみである。

私は徐に佇むロヨンの脇を抜け、昇降機の前まで歩いた。用があるのは昇降機本体に取り付けられた操作盤で、降ってきた時と同じように記録した操作手順書に従って弄っていく。

一通りの操作を終えると、昇降機に刻まれたサクス文字が一際強く輝き、青い光がこの鳥籠状の空間を美しく彩っていった。

「な、なんと美しい……我らが祖先の生み出した努力の結晶のなんと美しいことか。この技術を有したサクスドルフを滅ぼした挙句、外界からの侵略者に怯えて暮らすとは、神々は殊更に愚かであるなあ」

「ふはは」

ロヨンの様子を見て、思わず笑ってしまった。サクスドルフに関わることになると、一際過激になるようだ。

昇降機にサクス文字が刻まれていることからも分かる通り、これもサクス文明の遺した奇跡の一つである。これらから分かる通り、サンクティンの地下には、少なくとも生きたサクス文明由来の技術が少なくとも二つ残っていることになる。

いずれ来たるその時が訪れたら、開かずの間を調査するのと同時にこれらの遺構を詳しく調べるのも、悪くないかもしれないね。ゲートも昇降機もまだまだ詳しいことが分かっていないし、それがいいかもしれない。

「さて、そろそろ行こうか。ロヨンにとっては三年振りの地上だね。空は相変わらずの曇天だけど、きっと慣れない陽の光に目が焼かれると思うよ」

「くく、それは楽しみでございますなあ」

ロヨンが慎重な様子で昇降機に上ったのを確認すると、操作盤を再び弄っていく。上昇の命令を送る機能をオンにすると、ガクンと一度振動し、そのままゆっくりと上昇していく。

私にとっては慣れ親しんだ重力に体を引かれる体験だが、ロヨンにはそうではないだろう。目に見えて狼狽する様子を見せるロヨンがあまりにも可笑しい。

ここに昇降機があるということは、エレベーターのような技術も当然この世界に存在するのだろう。でなければ高層ビルを建てようがないからね。

ロヨンが狼狽えているのは、きっと久しく感じなかった重力をその身で実感したからだろう。

「どうだい?そろそろ地上だけど、どんな気分?」

「さあの、儂にもよく分かりませんな。……ただ、些か楽しみでもありますぞ。これから送る旅の先に続く道が、我が一族の悲願を果たすことに繋がっていることが分かっていますからな」

ロヨンはそういうと、腕を組んで目を瞑った。

三年も地下に幽閉されたなら、きっと色々と自身の中に眠る何者かと対話を深めたことだろう。それがどう転んだかは分からないが、幸いにも私にとって都合が良い方向に向かってくれたのは間違いないようだね。

上部に空間を断絶するかのように縁取られた終わりが目に入り、そろそろかと気を引き締める。これからはより加速していかなければならない。

既にこのゲームがサービスを開始して二週間ほど経過しているし、きっと私の想像もできないような力や情報を得ているプレイヤーが居てもおかしくはない。

ガコン、という衝撃と共に浮遊感が消え失せ、辺りに静寂が訪れた。私は背後に居るロヨンの気配をそのままに歩き出し、階段のあるエリアに向かう。

ロヨンがついてくる気配を感じつつ再びの扉の認証をパスし、ハンドサインで改めてついてくるように促すと、そのまま階段を登り始めた。

朽ちた銀索蜘蛛の悪臭に鼻を摘みながら保守区画を抜け、そのまま避難所から脱出するような経路を辿りながら歩き続けた。

その間にも一言二言会話のキャッチボールを行ったが、大したことは話していない。彼がなんとなく上の空であることを察したからだ。色々と考えているのだろう。

久しぶりな感覚が否めない避難所の出口を抜けると、外は土砂降りの曇天だった。クソッタレみたいな門出である。

思わず苦笑いしていると、背後から追いついたロヨンが外の様子に気付き、同じく微妙な表情を浮かべる様子が目に入る。

「ま、まあ……。これからの道程を考えれば、天の神が私たちを祝福するはずもあるまい。悪党に相応しい門出ではないか。なあ?」

私が色々と取り繕ってそう宣うと、ロヨンはあの妖しい笑身を浮かべて笑った。

「くくくく、全くもってその通りですな!いいではありませぬか、どうせ血に濡れた旅路になるのでしょう?神々が我らの行く末を祝福するはずがありませぬわい。機神様が見守って下されば、それで十分ですじゃ」

そういうと、目に見える景色全てを記憶するようにじっくりと辺りを観察し始めた。万感の思いだろう。

「それじゃあ、まずは手近な廃ビルを塒にして、作戦会議といこうか」

私は彼を先導するように歩き出す。

少し前に一度見た光景のはずが、なんとも言えない懐かしさを伴って目に入ってくる。筆舌に尽くし難い避難所から地下施設での経験が、あまりにも濃密だったからだろう。

ロヨンの様子に微笑ましさを感じていたが、なんだ、私も同じようなものじゃないか。そう自嘲していると、突然マリーから警告が発された。

《この先の十字路より発された不明瞭な機械信号を探知。過去に探知した信号と符合します。直ちに警戒・臨戦態勢をとってください》

「ロヨン、早速の試練のようだ……。どこまでも恵まれない門出だね」

私が嗤うと、ロヨンも嗤った。

「さあ、儂の力の確認にもなるはず、肩慣らしと行きましょうぞ」

そういうと、お互いに背を低く中腰の構えをとり、ゆっくり十字路へと向かう。

腰に下げていた銀牙を左手に握り、いつでも撫で切りにできるよう心構えを忘れない。かかってくるが良い、どこの誰だか知らないが、このデスマーチを止められると思わないことだな。

その気炎に触発されたのか、通路の端から怪物が顔を覗かせた。

アイツ……

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

▼基礎情報▼

♦名称:サンクティン防衛機構・警邏タイプ

♦属性:機械

♦レベル:25

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

ここで出逢うか、我が最初の苦難よ!

忘れるものか、一度は無様にも煮え湯を飲まされたな。あれは心底苦しい経験だったよ。

満足に動かない体をなんとか動かして、握りしめた鉄パイプを叩き込んでやった光景が、今でも鮮明に浮かび上がる……。

今回も同じようにいくと思わないことだ。

「ロヨン、最初は私にやらせてくれないか?アイツには覚えがあってね」

「ルイス様の望みのままにされるがよろしい」

ロヨンは鷹揚に頷くと、先を譲るように杖で警備ロボットを指した。

大丈夫、私はアップグレードを重ねたんだ。身体中のあらゆる不調を治し、多くの機構を吸収した。銀索蜘蛛という好敵手とまみえ、死闘を繰り広げたんだ。

不満足な状態での戦闘経験が浅い時分でも一太刀入れることのできた私に、勝てない道理などあろうはずがない。

私は握りしめた銀牙を深く構え、いつでも駆け出せるよう準備を済ませた。奴さんも私に気付いたのか、外敵を排除するための機構を起こし、私に向かって渾身の突撃を行うのに必要な溜めを行う。

静寂が辺りを支配する。お互いから発せられた闘気により、空間に緊張が走るのが分かった。

最初に仕掛けたのはどちらか。いや、同時かもしれない。お互いの持つ最高の技でもって、相手に致命の一撃を与えるべく駆け出した。

我らが機神に捧げる絶望の旅路、立ちはだかる者は何人たりとも赦されぬのだ!

振り上げた銀の刃が、私を弾き飛ばした触腕を豆腐のように切り裂いた。