軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15.

しばらくは警戒していたが、王太子が心配して周囲を警備してくれたらしく、教会関係者を見かけることもなくなったようだ。

リゼットも薬の服用を続け、今は、声を出したときの違和感もほとんどない。

そろそろ声を出す練習もした方が良いと言われ、最近はソフィーとも話すことができるようになってきた。

この日も、朝からソフィーとふたりで朝食の準備をしていた。

「とても上達しましたね」

料理も、ソフィーに褒めてもらえるくらいになってきた。

「アル様は忙しいと食事を忘れることが多くて、困っていたのですが……」

ソフィーはそう言って、心配そうなリゼットに微笑みかける。

「リゼット様が作りましたと言うと、ちゃんと召し上がってくださるので、助かっています」

「それは、きっと珍しいから、です」

恥ずかしくなって、俯いてそう言う。

でもアルが自分の作った料理を食べてくれるのが、とても嬉しかった。

明日はソフィーが休みの日なので、はりきって作ろうと思う。

翌日、いつもよりも少し早く起きたリゼットは、身支度を整え、朝食の準備をするために、一階に降りる。

アルはまだ眠っている様子だ。

裏口から外に出て、新鮮な野菜を収穫する。

薬草畑の隣に小さな畑があって、ソフィーはそこで野菜を育てていた。ここに来てから一度も外出していないが、庭にはよく出ていて、薬草や畑の手入れも手伝っていた。

(今日は良い天気ね)

空を見上げて、リゼットは微笑む。

最近は雨ばかりだったが、ひさしぶりに晴れたようだ。

とても良い気分だった。

こうしていると、親友だと思っていたレイナに裏切られて絶望したあの日のことさえ、遠い記憶に思える。

あのときは、もう二度と歌えないと思っていた。

もう二度と、人を信じることなどできないと思っていた。

でも今リゼットは、誰かのために料理をすることがしあわせだと感じているし、歌も歌える。

(ずっとこのまま暮らせたらいいのに……)

叶わないとわかっていても、そう願ってしまう。

ここに住まわせてもらっているのは治療のため。その治療も、もうすぐ終わってしまうだろう。

それにレイナがあんな様子では、そのうち自滅するに違いない。そのときは、この国を守るため、リゼットが聖女として歌わなくてはならない。

アルともう会えないかもしれないと思うと、胸が痛い。

その理由を、リゼットは自分でもわかっていた。

アルに、惹かれている。

もちろんリゼットにとって、初めての恋だ。

(だって……。これで好きにならないなんて、無理だもの……)

一番惹かれたのは、その人柄。

人を助けるために全力を尽くすその姿には、尊敬の念を覚える。

相手に合わせて薬の飲み方を工夫する、優しさ。

リゼットにとって、声を取り戻してくれた恩人でもある。

さらに見た目もあんなに素敵なのだから、もうどうしようもない。

でもこの国を守ることは、彼を守ることにも繋がる。

リゼットは静かに、聖女としての役目を果たす覚悟を決めていた。

そのとき、玄関の方に人の気配を感じて振り返る。壮年の男性が、慌てた様子で扉を叩いていた。

急患かもしれない。

リゼットが急いで家の中に戻ると、ちょうどアルが起きてきたところだった。

「ああ、ジェイだな」

急患かもしれないと伝えると、アルはちらりと玄関の方を見て、そう言った。

常連の客らしい。

「俺が対応するから大丈夫だ」

そう言われて、おとなしくリゼットは朝食の準備に戻ることにした。

入り口近くで交わされる会話が、ここにも聞こえてくる。

どうやら彼の妻はとても体が弱く、よく熱を出すらしい。その度に心配でたまらなくなって、こうしてどんな時間でも診療所に駆け込んでくるようだ。

「いつもの薬だ」

「ああ、すまない。熱が高くて、心配で……」

涙声でそう言う彼は、とても妻を大切にしているのだろう。

「大丈夫だ。はやく飲ませた方がいい」

聞いているだけで、リゼットも安心してしまうような優しい声。

男性は、慌てた様子で帰って行った。

「お疲れ様です」

リゼットは男性が帰ったことを確認して、そう声を掛ける。

「朝食の用意ができました」

「ありがとう。いつもすまないな」

アルが嬉しそうにそう言ってくれて、リゼットは今日も気に入ってもらえますように、と祈りながら、食事の配膳をする。

食事のあと、リゼットは二階に戻り、薬作りを手伝った。

良い天気なのでそれほど体調不良を訴える者もいないのか、今日は薬を買いに来る者もあまりいない。

こんな日は薬草畑の手入れをしたいところだが、教会関係者の姿が見えなくなったとはいえ、まだ人前に出るのは危険だということで、日中は二階で過ごすことが多かった。

今日も一日薬を作り、じっくりと時間をかけて料理をした。

(ソフィーさんに教わったトマトのスープ、思っていたよりも上手くできた。明日、報告しよう)

アルがとても気に入ってくれたのが、嬉しかった。

天気も良くて、料理も成功して。

薬もたくさん作れた。

とても良い一日になるはずだった。

けれど、真夜中過ぎ。

リゼットは、焦げ臭い匂いに気が付いて、目を覚ます。

(え、何が起きているの?)

窓が赤く染まっていることに気が付いて、慌てて駆け寄る。

家が、燃えていた。