軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

61話 たしかに変えられた!

私が残念さを紛らわせていたら、突然に人壁の奥からなにやらラッパ音が響いた。さらには、太鼓のような音が鳴り渡り始める。

それで、みんながそちらに集まっていくのだけど、私の高さからは背伸びしても見えない。

そう思っていたら、レイナルトが私を抱え上げた。

それでも見えなかったのだけど、最後には肩車までしてくれる。

たしかに音楽隊とダンスは、見えるようにはなっていた。

けれどそれよりも、私は思わず下を見る。

「パパ、大丈夫?」

「必要なら私も支えるわよ」

「……さすがになにもないところなら問題ないよ」

たしかに、ちゃんと安定感はあった。

だから私はひとまず信用することにして、その唐突に始まったイベントをしばし観覧する。

「なかなかやるわね、あのダンサー。今度、うちの夜会に呼ぼうかしら」

「それはいいかもしれないね。あとで調べておくよ」

いかにも貴族らしい会話をする二人はともかくとして、心が浮き立つ。

もちろんダンスや音楽も素晴らしいのだけど、それに魅了されているわけじゃない。

この祭りらしい時間を家族で楽しむことができているという幸せがきっとそうさせるのだ。

ただそんな時間は、あっという間に過ぎていくもので、やがてレイナルトはパレードに出るため、私たちの元を離れる。

「さてじゃあママと二人で楽しみましょうか」

もちろんリディアと二人でも十分すぎるくらい楽しいんだけどね。

たくさん食べて遊んでとしていたら、いよいよその時間が迫る。

それで私たちは貴族用の観覧席へと移った。

そこにはジェフやビアンカちゃんたちもおり、どうやらエレン爺が特別に席を用意してくれていたらしい。

わちゃわちゃと話をしたり、けん玉を披露してもらったりしていたら、ついにパレードがはじまった。

大きすぎる拍手に包まれて、まずはクローヴィス王が出てきて、第一後継者候補たるレイナルトがそれに続く。

「また、弟王はいないのか」

「ほんとどうしようもないなぁ」

なんて声があたりから漏れ聞こえる。

そう言えば、そんな存在もいたなぁ。なんて改めて思っていたら、少し間が空いたのち、エレン爺も出てくる。

毅然とした顔をしていた。

が、少し目が合うと、ふにゃりとその顔が崩れる。

まぁまたすぐに、公爵らしい厳しい顔に戻っていたが。

「……まったくあの人は」

「あはは、爺、かわいいよね」

そうして、行列は続き、その中にはアシュレイやジョルジュ先生の姿もある。

そうして全員が揃ったら、始まるのは中学の文化祭とかの開会式でよく見た、長い開会式だ。

さすがにマイクは存在しない。

大きな拡声器のようなものの前にお偉いさんが立って、一言ずつ挨拶をする時間が続く。

もはや半分睡眠導入で、ジェフなんてずっとこっくりこっくりしているが、私とリディアはそうはいかない。

そのわけはといえばーー

「この度は、今日という日を迎えられたことをまずは感謝したいです」

レイナルトの挨拶だ。

滑り出しはそれなりだった。

しかし途中で緊張方だったのだろう、言葉に詰まったり、原稿に目を落としたり、

「えー、これからの国の発展のためには、我々のみならず、市井からの突き上げる力が必要だと思案します。ここで一呼吸。……えー、一呼吸は不要でした」

挙句は、どこかの会見みたく、明らかに読んじゃいけないやつを読んでしまったり。

かなりのぐだぐだぶりで、リディアは父に対するのと同じように、「……まったくあの人は」と呟いていて、少し笑えた。

それでも一応は立ち直して、挨拶が終わり、リディアはほっと息をつく。

が、私はといえば、そうもいかない。

なんなら問題はここからだ。

クローヴィス王までの挨拶が終わると、壇上には大きな水晶玉が用意される。

「ではこれより、占術にて聖女候補者の選定を行います。該当がない場合もありますが、ご了承ください」

そう、聖女の選定式だ。

壇上には神官がゆっくりと出てきて、まずは恒例のご挨拶から。

私はその間じれったくて、もぞもそとしてしまう。

「あら、おトイレ?」

リディアがこう尋ねてくるのに首を横に振れば、

「もしかして選ばれると思ってる? ふふ、ありえるわね」

あらぬ勘違いをされた。

ただ、リディアも本気で「ありえる」と言ったわけじゃないらしい。

観衆や貴族の一部からは、「どうせ今回もいない」「聖女なんて伝承の域だろ」なんて正直な感想が聞こえてくる。

そう、聖女が現れるのは、数百年に一度だけ。

一般の認識としては、現れるわけがない。

そのはずだったのだけど。

実際に占いが行われると、神官の身体ほどの直径をした大きな水晶玉にははっきり、茶色の髪をしたボブヘアの女性、主人公・セナの顔が浮かび上がる。

これにはまず壇上がざわつき、

「こ、この方はいらっしゃいますでしょうか! どうやら、この会場内にいるらしいのですが!」

神官のこの狼狽えながらの呼びかけで、会場中が揺れる。

「本当にいるものなのね、聖女って」

リディアもこれには驚いていた。

そんななか私は一人、ゲームのまんまだと、そう思う。

そして本当にゲームの序盤と同じ流れのまま事は運び、周りに押し出される形でセナが群衆の中から出てくる。

それも、私たちのすぐ脇から。

さっき水晶玉に映っていたのと同じ、そして、ゲームでも散々見た顔だ。

服装などは平民のそれだけど、主人公らしくというべきか、その容姿は整っている。

彼女は胸に手を当てて、不安げな表情をしていた。

たしかゲームではここでレイナルトが王に命じられて、迎えに出てくるーー。

そして、その手を引いて壇上に登る。

できれば見たくない。そして、リディアにも見せたくない。

その思いから私はついリディアの目元を覆うように手を伸ばす。

「あ、アイ? どうしたの」

「ちょっと見ない方がいいかも」

「どうしたのよ」

そう言われても答えられないけれど、とにかく見せないように。

私は身を乗り出して懸命に手を伸ばしていたのだけれど、迎えに出てきたのは、アシュレイだった。

思いがけない展開に、私は手を下ろして、座席に腰を落とす。

「こちらへどうぞ」

そんななかアシュレイは戸惑うセナの手を取り、そしてメインロードを二人で歩き出す。

その様子にジェフたちが色めく中、私はといえば、その光景をしばしまじまじと眺める。

どうやら本当に、ストーリーは変わっているらしい。

ここで手を引かれたことや、のちに落とし物を拾ってもらったことからセナはレイナルトを意識するようになるのだ。

ただその前提が、アシュレイに置き換えられている。

レイナルトとリディアの関係が深まっていなかったら、たぶんこうはならなかっただろう。

仕事なら、多少嫌に思ってもやるのがレイナルトだったわけだし。

じわじわと喜びが込み上げてきて、それは胸の内をゆっくり膨らませていく。

これはたぶん達成感だ。

なにも二人を完璧にくっつけられたわけじゃないし、セナが現れたことで、今後何かしらの波乱が起こる可能性だってある。

でも、このまま進んでいけばきっとうまくいく。これからも、二人と一緒に幸せな道を歩いていくことができる!

そう思える一幕であった。

「アイ。聖女になれなくて残念ね?」

「ううん、ぜーんぜん!」