軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55話 きゅんの間に挟まります

王家直属の執事でありながら、彼は事実上それに背いてまで、動いてくれた。

普通に考えて、早々できないことである。

「カイルさん、ありがと」

私はこう礼を言う。

それにレイナルトとリディアも続いて、カイルさんは首を横に振った。

「……礼を言われるような話ではございません。私が命じられているのは、王子のサポートですから」

口ではどう言い訳しても、関係ない。やってくれたことがすべてだ。

今度こそボーロを作ってもらえるようコックメイドのサラさんにお願いしなきゃ、と私は心に決める。

そうしていたら、リディアは大きく息をついたのち、ソファに深く沈みこみ腕組みしつつ、口を開いた。

「それで? あなたはどうして、ずっと王都に戻れないでいるの。クローヴィス王の命というのは分かっているわ。アイから遠ざけるため?」

「……それもあるよ」

「ここまで来たんだから、変な誤魔化しはやめてほしいわ」

「はは、怖いな。心配しなくていい。最初からそのつもりだよ。アイだけじゃない、君にも会わせたくなかったんだよ、父は」

「……なんで私まで?」

レイナルトは、答えにくそうにこめかみを掻く。

それから少し目を逸らしつつ、照れ臭そうに笑う。

「リディアと俺の距離が近づいていると思ったみたいだ。あまり一人の女性に入れ込むのはよくない。父はそういう方針だからね」

それは私にしてみても、びっくりする話だった。

が、リディアにとっては別の衝撃もあったようで、

「……そ、そう」

彼女は彼女で恥ずかしそうにして、レイナルトから目を逸らす。

……私、間に挟まってていいのかな。というか、今すぐにでもすーっと消えたいんだけど?

そう思わざるをえない甘ずっぱい空気感だった。

完全に、青春少女漫画のそれである。

私としては、最高のきゅん補充だ。

そう思っていたら、レイナルトは一つせき込んで、話を元に戻す。

「今度の建国祭では、聖女が現れるかもしれないだろう。その聖女を正妃にする可能性も考慮して、今のうちに俺をリディから切り離したかったんだ」

驚いた話であった。

原作ではたしか、主人公・エレナとくっつくことに反対していたのが、クローヴィス王だったはずだ。

そこにおいては、あまり理由などは描かれず、レイナルトは逃避行を敢行する。

それでクローヴィス王が折れる形で、ハッピーエンドを迎えたのだっけ。

それを考えれば、話が真逆になっている。

「この渉外の旅の中でも、何人もの貴族の女性と会わされている。たぶん、興味を逸らそうとしているんだ」

レイナルトはそこまで言うと、膝に肘をついて、頭を抱えるようにため息をついた。

「それは災難ね。あなたは、そういうの得意じゃないでしょうに」

「はは、その通りだよ。……父もあれで悪気があるわけじゃないんだけどね。ただ困ってはいる。彼女たちに悪意があるわけでもないから、邪険には扱えないから」

どうやら、クローヴィス王にもなにかしらの事情があるらしい。

ただそれについては具体的に言及することなく、レイナルトはソファから立ち上がる。

なおも照れ隠しかと思ったら、そうじゃない。

レイナルトは出窓のカーテンを開けたと思えば、なにかを抱え上げる。

持って出てきたものはといえば、透明なガラスの花瓶だ。そしてそこには、少し芽の出かかっている球根が植わっている。

「これは……?」

「年越しのときに、リディに渡そうと思っていたプレゼントだよ。植えていないと、腐るだろう? だから持ち歩いていたんだ」

彼はそう説明してから、私の頭を撫でる。

「アイのぶんは、帰ってから渡すよ。パレットを買ったんだ。リディと相談してね」

それも当然嬉しいけれど、今は私宛てのプレゼントについては横に置いておきたい。

プレゼントが花って、しかも球根って、センスがよすぎるよね、レイナルト。

しかもきちんと、リディアがお花好きということを踏まえたうえで、選んでいる。

「ヒヤシンスの球根……。これ、かなり高価だと聞くけど」

「輸入品だからね。そこは気にしないでくれよ」

「寒いところに置く方がよく育つ花ね。もしかして、飛ばされることを知っていたの?」

「やめてくれよ、そんなわけがない。たまたまさ」

レイナルトからリディアに、それが手渡される。

「花束じゃなくて、芽をもらったのは初めてよ」

リディアは皮肉めいて言うけれど、その顔には、それこそ小さな花が咲いたような笑みが浮かぶ。

たぶん自分では気づいていないだろうが、その表情は驚くほどに可愛い。

リディアがメインヒロインじゃないのは、この可愛さに製作陣が嫉妬したから。そう思えてしまうほどの、インパクトだ。

私がそれで人知れず悶えかけていたら、

「あなたにもあるわよ」

今度はリディアから。

彼女はヒヤシンスの花瓶を一度机に置くと、小さなカバンの中を少し探る。

そうして出てきたのは、白と青の糸で作られたツリーの刺繍が入った手袋だった。