軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40話 ついに手繋がせちゃいました!(強引ですが)

なんとか無事に算数の時間が終わると、次に始まったのは工作だった。

といっても、こちらも難しいものではない。

粘土で自分の好きなものを作ろうという、創作性重視かつ易しい、三歳児向けのものだ。

そのテーマは『好きなもの』。

ジョルジュ先生は前方の教壇でそれをこねて見せて、あっさりと猫を作って見せる離れ業を披露するのだけれど、やっぱりそれも児童たちは見ていない。

それどころか配られた粘土を勝手にこね始めており、大はしゃぎだ。

たぶんジョルジュ先生はそれにいらっとしたのだろう。

「話はきちんと聞きましょうね、みなさん。さもないと、悪魔がやってきて魂を抜かれますよ」

こんな脅しをかけるのだが、三歳児たちはきょとんとしていた。

うん、それは難しすぎるよね。

おへそが取られる、とか分かりやすい言い方をしないと。

まぁとにかくそうして説明が完了して、実際の作業に移る。

そして、これは途中から保護者も参加していいルールになるらしい。

ある程度は子どもだけで考えたのちに、大人も一緒になって作業する。

子どもの自主性を育みながら、保護者との交流も生まれる、なかなかいい調整だ。

「俺はやっぱりけん玉だな」

とは、ジェフ。

あれからも腰にけん玉を差し続けているのだから、それは読めていた。

「あら、私はバラの花よ」

ビアンカちゃんも予想通りお花だ。

これで満足して、庭の花を摘まないでいてくれたら嬉しい。

そして私はといえば――

「……アイ、なんだよそれ」

「あ、これ? これは、パパとママだよ」

「ボールにしか見えないけど」

ジェフが分からないのも無理はない。

私が作ろうとしているのはなにも精巧な粘土人形じゃない。

いわば、二頭身フィギュアだ。

たぶんこの世界にそういう概念はないだろうが、前世では結構なじみ深いものだった。

レイナルトのものに関しては実際売ってたしね。

私はそれを思いかえしながら、真剣に工作を進める。

まずは髪、それから目、鼻、口元と爪先を駆使して作り上げていく。

一つ一つのパーツ自体は悪くない。

そう自分では思っていたのだけれど……うん、アンバランスだ。

ただ諦めるわけにはいかない。

少なくともリディアとレイナルトに手伝ってもらう前にある程度形にしたい。

「アイ、怖いぞ……」

「怖くないわよ。なんでも真剣になれるなんてさすがアイちゃん」

なんて二人に左右から好き勝手言われつつも、私は一心不乱に、粘土人形を練り上げる。

そうしてリディアとレイナルトとが参加する頃には、一応、大体の型はできていた。

「これは、なにを作っているのかしら?」

とリディアが聞くのに、私は待ってましたとばかりに「パパとママだよ」と答える。

一応、頭と身体だけはちゃんと作っており、少なくとも人間二人をデフォルメして作ったことは分かる状態になっていた。

そして、なによりのこだわりは、手を繋がせたことだ。

両親に仲良くあってほしいという子どもらしい願いに見せかけることで、二人が互いを意識し合ってくれればいい。

そう思っていたのだけれど、

「……なるほど、これが手か」

「ふふ、面白い発想ね」

もはや手だと認識されていなかった。

やっぱりこの世界の人には、二頭身デフォルメは通用しないのかもしれない。

私はそのことにややショックを受けつつも、そこで悪魔的なひらめきを得る。

「手つないでみて。見ながら作りたいの!」

これならば間違いなく断わりづらい。

そして、より直接的に意識せざるをえなくなるはずだ。

私の言葉に二人は顔を見合わせ、なにやら目線だけでやり取りを交わす。

リディアは頬を少しだけ赤くしていた。レイナルトはといえば、困ったように笑いながら、「どうしようか」と口にする。

「……しょうがないでしょう」

それにリディアがこう答える。

それから少しののち、私にとっては思わず叫びたくなるほど嬉しい一瞬が訪れた。

リディアがレイナルトの迷っていた手を取り、私のほうに向けて見せてくれたのだ。

「あなたの手、冷たいのね」

「……はは、すまない。この時期は冷えるんだよ」

二人がはっきりと手を繋いでいる。

どう考えても、過去最大の大進歩だ。革命が起きたと言ってもいい。

照れ臭いのを誤魔化すように喋る二人。

最高の絵面に私が密かに興奮していたら、

「おいおい、すごいことになってるなぁ」

隣で私と同じくらい、アシュレイがにやにやとしている。

完全に野次馬だ。

「……アシュレイ・クロウフォード。あとで覚えていなさい」

しかし、その視線はこう言ってリディアが睨みつけることで、すぐに剥がれる。

アシュレイは慌てたように、ジェフの手伝いに入っていた。

それで私は安心して、手を繋ぐ二人を眺める。

粘土工作ありがとう。ジョルジュ先生もありがとう。

そう思っていたら、そのジョルジュ先生の顔がすぐ近くにある。

なにかと思えば、私の作品をじっと見つめているのだ。

「……なるほど、新しいね。そういうふうに人間を捉えるのか。やはり君は異才だね」

すーっと一気に、現実に引き戻された気分だった。

まだ私のことをとんでもない天才児だと思っているらしい。

マイナスについて答えられたのは、引き算の記号をそのまま読んでみただけ! とか、言いわけは考えつくが、それを言うのも怪しいから、私はとぼけて見せるしかない。

そして悪いことには、ジョルジュ先生が来たことで、二人は手をつなぐのをやめてしまって、お互いにほっとしたように息をついている。

……前言撤回だ。ジョルジュ先生への感謝は、返してもらおう。

むしろ、とんだお邪魔虫だ。