軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30話 三歳児もさみしくなる。

カイルさんに馬車で送ってもらってからと言うもの。

おもちゃやお菓子といった様々な誘惑に邪魔されながらも、私は少し考え込むようになっていた。

なにについてかといえば当然、リディアへのことについてだ。

リディアの過去になにがあったかは明白には分からない。

ただきっとなにか恐ろしいことが起きたせいで、彼女は人に避けられている。

そして、その影響を私に与えまいと、彼女は親たちの集まりには顔を出さないという選択を取った。

リディアらしい考え方だと思うし、それはきっと私を思ってくれているがゆえのことだ。

だから、その気持ち自体は嬉しいものでさえあるのだけれど、もやもやとはしていた。

なににかといえば、リディアが誤解をされて陰口を叩かれているのを我慢しているしかないという今の状況に対してだ。

そりゃあレイナルトに言えば、代わりにリディアを庇ってくれるかもしれないが、それではきっと表面だけに終わる。

すぐにまたレイナルトのいないところで、陰口を叩かれるだろう。

どうすれば誤解が解けるのだろう。

いっそ本人に全否定してもらうとか? いや、そもそも出てきてくれないわけで。

なんて、ごちゃごちゃと考えていたら、

「よっ、ほっ、どうだ?」

と、ジェフが声をかけてくるので、私がはっと彼を見れば、ちょうどけん玉の玉が皿に乗る瞬間だった。

私が拍手をすれば、彼は得意げな顔になる。

今度はそれを右の皿に載せ替えるなど、なかなかのテクニックを見せてくれていた。

たぶん子供用のけん玉だからとかに関係なく、かなり難しい技である。

「すごいね」と言えば、「だろ?」とジェフは分かりやすく相好を崩した。

「かなりのるようになってきたんだ」

彼はカイルさんに教えてもらってからというもの、けん玉にどハマりしていた。

こうして帰りの馬車を待つ時間は、そのほとんどをその練習に当てている。

それも実に楽しそうにやるのだから、三歳児らしくて、なかなかに可愛らしかった。

私は少しほっこりしつつ、自分もけん玉を手にする。

「おなかいたいのか?」

そこで思いがけずこう尋ねられて、私は目を何度か瞬いた。

ジェフは目を大きく開いて、私を覗き込む。

「ううん、なんで?」

「……げんきないから。昼のおやつ、かなり食べてたし、はらいたかと思った」

うっ、たしかに、たくさん食べてはしまったけども。

それは別に、なんの関係もない。

私が笑いながら首を横に振れば、

「じゃあなんだ? さみしいとか?」

まさかの発言が飛び出てきた。

「なんでそう思うの」

「……さいきんは、使用人さんが来ることもふえただろ。パパもママも来ないから」

たしかに最近はレイナルトもかなり多忙のようで、私はリディア邸の使用人さんに、こうした場所に連れてきてもらう機会が増えていた。

ただそれだけを見て、三歳児が相手が寂しいだなんて考えられるのだろうか。

そう思って、はっと気づいた。

彼も同じ境遇だ。そもそも兄であるアシュレイが面倒を見る機会が多く、私は彼の両親であるクロウフォード伯爵夫妻をまだ見ていない。

「わたしはだいじょうぶだよ。ジェフは?」

「ぜんぜん」

「ほんと?」

「……まぁちょっと。みんなは来るのに、うちは来ないから」

彼は、そっぽを向きながら、ぼそりと小さく漏らす。

前世の経験もあるから、その気持ちは痛いほどに分かった。

本当は親にも兄にも構ってほしい。できればもっと一緒にいてほしい。

ただ、それができないのはしょうがないことだと、彼は三歳にしてもうなんとなく理解しているのだ。

そして、それは私たち子どもにどうにかできる話じゃないということも。

二人、一緒にため息をつく。

ジェフはそのまま背中を丸めるけれど、私はといえば違った。すくっと立ち上がり、彼の方を振り返る。

「ジェフ、走らない?」

「なんだよ急に」

「まぁまぁ、さいきんそればっかりだし、たまにはいいじゃん」

元大人として、ここで三歳児と一緒に気落ちしているわけにはいかない。

私はにこりと笑いかけながら、彼に手を差し出す。

ジェフは少し躊躇うようにしつつも、最終的には私の手を取ってくれた。

「じゃあ今日は私がにげる!」

私たちの様子を見ていてくれた、今日お邪魔している先の使用人さんが「あんまり離れないでねー」と声をかけるのに、「うん」と答えながら、私はすぐに走り出した。

「アイ、ずるいぞ」

ジェフはすぐにそれを追いかけてきてくれた。

……けん玉を剣のように腰に刺して。

置いていけばいいのに。

なんて思っているうちにも、ジェフとの距離はどんどんと縮まる。

が、そこはきちんと考えてあった。

くねくねとうねるように道が作られた庭に誘い込んだ。

ここならばたぶん、遠くへ行く心配をされることもない。

「ちょっ、ずるいぞ」

「ずるじゃないよ」

私はジェフに追いかけられながら、くるくると庭を回り続ける。

息は切れるが、いい運動だ。

そしてなにより、

「おいまてって!」

いつのまにかジェフの顔にも、明るさが戻っていた。

やっぱりこういうときは、運動するに限る。

塞ぎ込みそうになったら、走ると切り替えられたりするのだ。

そうしてしばし、私たちは攻防を繰り広げる。

最終的にそれが終わったのは、私が石に躓いて、敷地の外周に沿うように作られた植栽に頭から突っ込んだせいだ。

どうにか柵には頭をぶつけなかったが、抜けなくなっていた。

「……アイってどんくさいよな」

「うぅ、そんなことより助けてよ」

「わかってるって」

ジェフが懸命に引っ張ってくれる間、私は情けない思いになりつつ、柵の外を見る。

そのときふと、その思いつきは降ってきた。

突飛な、でもなにもかもを解決できるかもしれない、エキセントリックな思いつきが。