軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19話 格好よかった。

油ものまみれでしっかり胃がもたれる昼食を終え、少し休んだのち。

「こんなものを持ってきたわ」

こうリディアが荷物のなかから取り出したのは、サッカーボールくらいの大きさをした、布製の球体だった。

「それはどう使うんだい、リディ」

「蹴って遊ぶことで足を鍛えられるらしいわ」

どうやらリディアは今日のために、かなり準備をしてきてくれていたようだ。

このボールは、子どもが蹴ったり当たったりしても、万が一にも怪我しないよう、わざわざ特注して作ってもらったらしい。

遊びのなかで、しっかり運動もさせて成長を促す。

母親の鑑みたいな行動であるが……正直にいえば、私は昔から運動が得意じゃない。とくに球技はてんでだめだ。

まったくできないわけでもないが、苦手意識があった。

「どう? やってみる?」

ただ、しゃがんだリディアに顔を覗き込まれてこう尋ねられたら、ついつい頷いてしまう。

やっぱり母の期待には応えたくなるのが、娘というものらしい。

「アイがやるなら、俺もやるよ」

「爺ちゃんもやるかなぁ。しかし、球蹴りかぁ。なかなかいいじゃないか。昔、皮で作った玉でよくやったなぁ」

レイナルトだけでなく、エレン爺も参加を表明する。

さすがにカイルさんはといえば、首を横に振ったが、そればかりはしょうがない。

そうして四人で輪を作っての、軽いパス回しが始まったのだけれど……

それはすぐに三人に変わった。

なぜかといえばーーーー

「も、もう無理だ……。爺ちゃんは見学に回るとするよ」

たった一回蹴ったところで、エレン爺が離脱したからだ。

腰に手をやり、左足を引き摺りながらベンチの方へと下がっていく。

急に動くとあぁなりがちだよね……。

前世では、私もやったことがある。

電車に乗り遅れそうになっていきなり走ったところ、自分のイメージと実際の動きとが違いすぎて腰を痛め、電車も乗り損ねたっけ。

とにもかくにも、そうして三人となって。

エレン爺からの最後のパスを受けたリディアは、スカートであるにもかかわらず、綺麗にボールを浮かせて蹴り上げる。

かなりの運動神経だ。

そう思っていたら、一方のレイナルトの動きは辿々しい。

どうにかボールを止めてから、彼はほっと一息をつく。

「情けないわね」

と、勝ち誇ったように笑うリディアに対して、レイナルトは苦笑する。

「あんまり得意じゃないんだよ。ほら行くよ、アイ」

こう言いながらも、ボールを私の方に優しく蹴ってくれた。

地面をころころと転がったそれは、大きく逸れていき、しかも途中で止まる。

そういえば彼も、運動は苦手なんだったっけ。

私はとりあえずボールのところまで行って、その前で立ち止まる。

どっちの足で蹴ろうかと思っていたら、

「アイ、こうよ」

なにをするのか分かってないと思われたのだろう。

リディアが蹴る素振りをして教えてくれる。

私はそれに大きく頷いてから、右足で蹴り出した。

前世とは違う身体だ。

もしかすると運動神経もよくなってるかも!

そんな淡い期待をしていたのだけれど、ボールはあらぬ方向へと転がっていってしまった。

どうやら体が変わっても、下手なものは下手なようだ。

だというのに、

「おぉ、なかなかうまいなぁ、アイ」

「えぇ。はじめてなのに、すごくよかったわ」

二人は大絶賛で、ベンチに下がったエレン爺も、拍手を送ってくる。

ちなみにカイルさんはと振り向けば、真顔で視線を送ってきていた。

うん、たぶんそれが普通の反応だ。

三人が特別に甘すぎるのである。

そうしてしばらく、私たちは順番を変えるなどして、軽いパス回しを続ける。

そんな折、レイナルトの蹴ったボールは、やっぱりあらぬ方向へと転がっていく。

「……あなたねぇ」

「本当に苦手なんだよ」

「まぁ、アイが歩く練習になるからいいけれど」

二人の会話を聞きつつ、私はそれを追いかけていく。

けれど、転がり続けたボールは悪いことに傾斜に差し掛かって……

勢いをつけて転がっていってしまう。

「アイ! 行かなくていいわ」

「あぁ、パパが取ってくるからそこにいてくれ」

と二人は言うのだけれど、私の足も勢いを止められなくなっていた。

どんどんと坂を下っていく。

どうにか転けないよう、私は足に力を入れるが、止まれない。

「わ」

しかも、そんなうちに、すぐ目の前に見るからにトゲのたくさんある植物が迫っていて……

私は覚悟をして目を瞑る。

と、そのときだ。

腹の底の方からじわりとなにかが湧き起こってくる感覚があった。

これは、この間、魔法を発動しようとしたときのそれと同じだ。

気絶はしたくないが、このまま突っ込むのも避けたい。

だから、どうにかなって! と私が念じたところ、足の指先に不思議なくらいの力が入る。もしかしてなにかの魔法使えた?

そう思ったすぐあと、ふわっと身体が浮く感覚があった。

なにかと目を開ければ、私は宙を浮いていて、すぐ後ろまで来ていたレイナルトが抱え上げてくれる。

「……パパ、まほ?」

「うん、まぁね。王家の人間は、色々な魔法を使えるんだよ。とりあえず、なにも起きなくてよかった」

どうやら私の魔法ではなかったらしい。

いや、でもたしかにちょっと魔力を使ったような感覚があるような……いや、気のせいかもしれないし、もし使うことができたとしても、私の魔法だけで身体を浮き上がらせることなんてまずできなかっただろう。

「ありあと」

「いいや、お礼を言うのはパパの方だよ。本当に怪我をしなくてよかった」

レイナルトはそう言いながら、坂の上にいるリディアに手を挙げて応える。

その横には、エレン爺、それからカイルさんもいた。

どうやら、かなり大事だと思わせてしまったらしい。

レイナルトはリディアの元まで戻る。

子どものピンチを救ったのだ。

さすがに格好良く見えてたりして! 私はそう心を躍らせるのだけど

「ズルね」

リディアから出てきたのは、こんな言葉だ。

「えぇっと?」

「自分で蒔いた種を自分で回収しただけじゃない」

いやまぁ、そういう見方もできるけど!

あえて言う必要あったかな、それ……。

でもズバズバ言っちゃうのが、彼女らしさでもあるんだけど。

「たしかにそうだね。反省してる」

「まったく……、少しは言い返しなさいよ。でも、ありがとう。格好よかった。そう言っておくわ」

「はは、リディアにそう言ってもらえるなら嬉しいね。ありがたく貰い受けるよ」

まぁ、少しずつ、でも間違いなく前進はしている。

格好よかった、そうリディアがレイナルトを褒めることなんてこれまではなかったのだ。

積み重ねれば、二人の距離もきっともっと縮まる。

そう確信できるピクニックの一幕だった。