軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話(ジョセフ視点)

僕とパメラが十歳の頃、ちょっとした……いや、大変な事件が起こった。

僕の父上が、とある商人から『絶対に儲かる』という投資話を持ち掛けられたのだ。父上は少額の投資をした後、パメラの両親に『こんなうまい話は二度とない。お前たちもやった方がいいぞ』と、熱っぽく語って聞かせた。そんな父上の話を真に受けたパメラの両親は、なんと、財産の八割以上を投資してしまったのである。

……その結果は、惨憺たる有様だった。

当然だろう。『絶対に儲かる投資話』ほど、怪しいものはない。

投資は大失敗に終わり、国庫に対する税金を納められなくなったパメラの家は、貴族としての身分をはく奪された。……それ以来、僕の家は、パメラの家に対し、大変な『負い目』を感じるようになった。

その『負い目』は、今も脈々と続き、何の役にも立たないパメラがうちで三食昼寝付きの生活をしているのに、どうしても追い出すことができない。

図々しいパメラに文句を言おうと思うこともあるが、パメラはいつも絶妙なタイミングで、父上の持ちかけてきた『怪しげな投資話』によって自分の家が没落してしまったことを、僕に語り始める。

本当に、こざかしい女だ。

その話を持ち出されると、僕が何も言えなくなると知っていて、同情を誘うように、悲しげに話すのだ。……そして、こざかしい浅知恵だと知りながらも、やはり僕は、パメラを追い出すことができない。パメラの性格が、こんなふうにねじ曲がってしまったのは、子供の頃に家が没落してしまったせいかもしれないと、思うからだ。

あるいは、もっと早い段階で、一度ガツンと言ってやれば、パメラの性根もここまで腐ることはなかったのかもしれない。そう思うと、ますます、今更になってパメラを見捨てることは、罪深いことに思えた。

ふふ。

昔の僕なら、『罪深い』だなんて小難しいこと、考えはしなかっただろうな。

……二年前。

あの、嵐の日。

フェリシティアの新しい婚約者――高潔で誠実なリカルドと会話を交わして以来、こんなどうしようもない僕でも、少しは人として正しく生きてみたくなった。

同じ男として、僕も、彼のように素晴らしい人間でありたい。……そして、ただの炭鉱夫に過ぎない今の僕にできる『人として正しいおこない』は、最後までパメラの面倒を見てやることだろう。

だから僕は、パメラから与えられるストレスを我慢して、一緒に暮らしている。そうすることで、ほんの少しだが、フェリシティアを傷つけ、悩ませたことへの贖罪にもなるような気がした。

そんな僕の気持ちなど知らずに、パメラは今日も無遠慮に夕飯をおかわりする。……本当に、よく食べる女だ。こいつさえいなければ、母上と二人で、もうちょっとだけ上等なところに住むことができるのだが……いや、それは言うまい……

パメラは、テーブルの上で一番立派なパンに齧り付きながら、いかにも不満といった感じで眉を顰め、言う。

「あーあ、いっつもいっつも、安物のかったいパンばっかり。たまには、もうちょっとマシなもの食べさせてよね。炭鉱夫って、仕事がきつい分、稼ぎ自体はなかなかいいんでしょ?」

くちゃくちゃと音を立ててパンを咀嚼するパメラを、母上は横目で睨み、小さく「寄生虫がぁ……」と呟いた。固く握りしめられた母上の手の中には、テーブルナイフがギラリと光り、小刻みに揺れている。

まずい。

今日の母上は、相当にまずいぞ。

近頃、精神的に不安定だとは思っていたが、今日は完全に目がすわっている。

このままでは、テーブルナイフでパメラに襲いかかりそうだ。

なんとか、この険悪な空気を変えなくては。

そう思い、何か明るい話題を振ろうとして、僕は気がついた。

パメラの指に、見慣れない指輪がはめられていることに。

小さいながらも、深紅の宝石が妖しく光る、美しい指輪だった。

……これは、安物じゃないぞ。

どういうことだ。パメラが駄々をこねるので、少しくらいは小遣いをやっているが、とても、その小遣いで買える代物じゃない。

まさか、盗んだのか……?

僕は緊張で喉を鳴らし、いまだにぶつくさと文句を言いながらパンをかじっているパメラに問う。

「……パメラ。その指輪、どうしたんだ?」

パメラはパンを安ワインで飲み下してから、小さく息を吐いて、言う。

「どうしたって? どういう意味?」

「だから、どうしてお前が、そんな高級品を身に着けているのかと、聞いているんだ。とてもじゃないが、僕の渡している小遣いで買える金額じゃないだろう?」

パメラは、無遠慮にワインのおかわりを注ぎながら、ケラケラと笑う。

「あははは! そりゃそうよね。あんたから貰ってる小遣いで買える指輪と言ったら、子供用のおもちゃのリングくらいだわ!」

ふざけた態度に、僕はテーブルを叩いて怒った。

「パメラ! 笑い事じゃない! 僕は、真剣に聞いてるんだ! ……もしかして、盗んだのか?」

僕の怒りなど意にも介さず、パメラはワインを一口飲み、下品にげっぷをしてから答える。

「馬鹿ね、盗んでなんかいないわよ。ちゃんと買ったの。領収書だってあるわよ、見せてあげましょうか?」

「買ったって……しかし、今、お前、自分で言ったじゃないか、僕が渡してる小遣いじゃ、おもちゃの指輪くらいしか買えないって」

パメラは、困惑する僕を、まるでからかうように笑い、言う。

「私ね、最近、ギャンブルにはまってるのよ。んで、今日は大勝ちしたから、戦利品としてこの指輪を買ったってわけ。どう、盗品じゃなくて、安心した? あははっ! あんたのさっきの慌てた顔、傑作だったわ! あははははは!」