軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話(パメラ視点)

……なんなの、こいつ?

このカジノの従業員――あるいは、責任者かしら?

たぶんそうね。それっぽい、黒ずくめの格好してるもんね。

私は首を傾げ、聞き返した。

「負け分? 何それ? ……確かに、勝負には負けちゃったから、賭けたお金は戻ってこないけど、別に、それで終わりでしょ? これ以上、何を払えって言うのよ」

男は、ニコニコと微笑んだまま、まるで説明文を朗読するように、語り始めた。

「当カジノでは、短時間のギャンブルで大きな勝負ができるように、一般的なカジノよりレートが高くなっております。特に、現在のような深夜時間の場合は、『フィーバーナイトタイム』と言って、通常の五十倍の高レートで、皆さま、スリリングな勝負を楽しんでおられます」

「は、はぁ。そうなの」

いきなりつらつらと説明を始めた大男にやや圧倒され、私は生返事を返した。

……そして、少しずつだが、嫌な予感が、胸の中で膨らんでいく。

『五十倍の高レート』ということは、もしかして勝負に負けたら、単に賭けたお金が無くなるというだけではなく、その何十倍ものお金を、『負け分』として払わなければいけないということだろうか……?

男は、相変わらずニコニコ笑いながら、話し続ける。

「当カジノでは、勝負の前に、お客様に所持金の有無を確認したりはしません。ふふ、勝負事の前に『あんた、ちゃんと金持ってるか?』なんて聞くのは、無粋ですからね。しかし『負け分』は、いかなる手段を用いても回収させてもらいます。……さて、もう一度確認しますね。お嬢さん、あなた、ちゃんと現金で『負け分』を払えますか?」

私は、内心の不安をごまかすように、叫んだ。

「う、うっさいわね! 今は、その、一文無しだけど、えっと、ジョセフに頼めば、きっと、払ってくれるわよ……」

心細さで、段々と声が小さくなっていく。

気づかないうちに、私は目を伏せていた。

しばらく経っても、男が何も言葉を返さないので、私は伏せていた顔を上げた。……男は、もう笑っていなかった。まるで狼のような鋭い瞳で私を見て、今までとはまるで違う、低く、重たい声を出す。

「つまり、今、金を持ってねぇんだな。……ちょっと来い」

男は巨大な手で、文字通り私の首根っこを掴んで、事務所のようなところに引きずって行った。その、もの凄い腕力に恐怖を感じ、私は抵抗することも、叫ぶこともできなかった。……もっとも、抵抗したところで、この大男の力にかなうはずがないし、ここは闇カジノで、助けてくれる人などいないから、叫んでも無駄だったに違いない。

そして今、私は、事務所の冷たい床で、正座させられている。

男は腕組みをし、私を見下ろしながら、言う。

「さて、お嬢さん。あんたの『負け分』はかなりの高額だ。なのにあんたは、銅貨一枚すらも持っていないと言う。この落とし前、どうつける?」

うううう。

正座なんて、ほとんどしたことがないから、足が痛い。

私は涙目になりながら、弱々しく言葉を紡いでいく。

「だ、だから、さっきも言ったでしょ? 私の知り合いのジョセフに頼めば、きっと……」

「黙れ! クソ女! あと一度でもそんなことを言ったら、ぶち殺すぞ!」

もの凄い声で突然怒鳴られて、私は震えあがった。

男は、どこかから取り出したタバコに火をつけ、煙を吐いてから、言う。

「俺はなぁ、ギャンブルで負けて、親兄弟友人に、自分の負け分を払わせようとするクズが大っ嫌いなんだよ。自分のやったことくらい、自分で落とし前つけろや。それが、最低限の道理ってもんだろうが」

なんて重たい、ドスの利いた声。

聞いてるだけで、怖くて怖くて、涙が溢れてくる。

うううう。

助けてジョセフ。

助けてよぉ……

助けに来てくれたら、今度から、少しだけ良い子になるから……もうワガママも言わないし、ギャンブルもやめる。あのババア……いえ、おばさまとも、仲良くするわ。だから、だから……

その時、自分の手にきらりと光る指輪が目に入った。

そ、そうだわ。

この指輪。

そこそこ高かった高級品だから、これで、負け分を払えるはず。

私はいそいそと指輪を外し、男に差し出した。

「ほ、ほらっ、これ、この指輪っ。これで、負け分、払うわよっ。鑑定証明書つきの、高級品よ。これなら文句ないでしょ?」

男は指輪を受け取り、じっくりとチェックする。

そして、小さく頷いた。

「なるほど、なかなか良い品だな。これで、負け分の十分の一は払うことができるだろう」

私は、叫んだ。

「じゅ、十分の一!? たったの!? 嘘でしょ!?」

「それだけ、あんたの負け分が大きいということだ。なんせ、深夜の『フィーバーナイトタイム』に勝負したんだからな。勝てば大金。負ければ破滅。闇カジノの夜は、そういうもんなんだよ」

「そ、そんなぁ……でも私、『フィーバーナイトタイム』なんて、知らなかったの。本当に、知らなかったのよぉ……」

「甘ったれたこと言ってんじゃないよ。ちゃんと、説明文も書いてあったはずだぜ。知ろうと思えば知ることができた情報を知らなかったのは、あんたの怠慢さ。だいたい、大した金も持たずにふらふらと闇カジノに出入りして、危機感がなさすぎる。あんた、今までよっぽど、優しい誰かに世話を焼いてもらって、生きてきたんだな」

「ううぅ……」