軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

優しい思い出 1

全ての呪いが解けてから二週間が経った、ある日の夕方。

何故か私は現在、イザベラと二人きりで薔薇の花びらが浮かぶお風呂に入っていた。

「あまり見ないでちょうだい」

「ティアナ様は恥ずかしがり屋さんですね。そんなにスタイルがいいのに」

──なぜこうなったのかというと、イザベラが明日デラルト王国に帰ることとなり「何でもお願いを聞く」と言ってしまったからだ。

その結果、今日はイザベラの望みを叶えることになり、朝食を一緒に食べ、二人で街中に買い物へ行き、昼食もお洒落なカフェで共に食べて、午後からは王城内を散歩したりお茶をして過ごし──とにかく一日中一緒にいて、今に至る。

それでもまさかお風呂まで一緒だとは思わず最初は断ったものの、どうしてもとお願いされて折れてしまった。

「ティアナ様に洗ってもらうの、気持ちいいです」

「本当? 誰かの髪を洗うのは初めてだけど、良かったわ」

「皇妃様にこんなことをしてもらうなんて、本当ならものすごーく怒られるんでしょうね」

楽しげに笑うイザベラの美しくて長い金色の髪を、丁寧に泡立てていく。

きっと二度とない経験だと思いつつ、意外と楽しくて集中してしまう。イザベラも気分が良いのか鼻歌を歌っていて、かわいいなと笑みがこぼれた。

「なんだかこうしていると、妹ができたみたいだわ」

「本当ですか!?」

何気なくそう言った途端、イザベラはぐるんと振り向く。

瞳は喜びに満ちていて「嬉しいです!」と抱きつかれた。

「ど、どうしたの?」

「ふふっ、何でもありません」

くっついてくるイザベラがくすぐったくて、身を捩らせるたびに浴槽のお湯がばしゃばしゃと床にこぼれていく。

私がくすぐったさに弱いと気付いたらしいイザベラは悪戯っぽい表情を浮かべると、今度は脇腹のあたりを両手でくすぐり始めた。

「ちょ、ちょっと、どこ触って……!」

「ティアナ様ってどこもすべすべですね」

「イザベラってば! ふふ、やだ、あははっ!」

そうして私達が上がる頃には浴槽のお湯は半分以下になっていて、二人してくしゃみをし、顔を見合わせて笑ってしまったのだった。

◇◇◇

お風呂から上がってからも、イザベラはべったりだった。

「ねえティアナ様、髪の毛を乾かしてほしいです」

「もちろん、任せて」

私もこうして甘えられるのは新鮮でかわいくて、ついつい何でも聞いてあげてしまう。

それにイザベラも外では王女、そして聖女として凛とした態度で振る舞っているし、肩の力を抜いて過ごす時間も大事だろう。

私もフェリクスの前でただの「ティアナ」として立場や身分を忘れ、自分らしく過ごす時間に救われているのだから。

夕食の時間になり、手を繋いで二人で食堂へ向かう。

今日はイザベラが帝国に滞在する最終日ということもあって、フェリクスとルフィノと四人で豪華な晩餐をすることになっていた。

既に食堂にはフェリクスとルフィノの姿があり、いつもの席につく。それからはイザベラが好きだというワインで乾杯をして、食事を始めた。

「ルフィノ様って苦手な人とかいるんですか? 誰に対しても優しくて笑顔ですし」

「声が大きな人や、誰かを悪く言うような人は苦手です」

「なるほど。何か上手く隠すコツとかあるんですか? 私、結構顔に出るので」

「コツと言ってはなんですが、僕の場合──……」

イザベラとルフィノは兄妹みたいで、とても微笑ましい。

二人の様子にほっこりしながら食事をしていると、フェリクスから視線を感じた。

「今朝とは髪型が違うんだね」

「ええ、実はもうお風呂に入ったの」

「私、ティアナ様とお風呂に入ったんですよ。たくさんくっついちゃいました」

「げほっ、ごほっ」

私達の会話を聞いていたらしいイザベラは、ワイングラスを片手にふふんと口角を上げる。

思わず咳き込む私と、苦笑いを浮かべるルフィノ。

そしてフェリクスは「は?」とあからさまに不機嫌になっていて、イザベラはより楽しげな表情を浮かべた。

「今日はずーっと一緒にいたし、夜は一緒に眠る約束もしたんです。羨ましいでしょう?」

「…………」

無表情・無言のフェリクスと、彼を嘲笑うイザベラ。

(こ、これは……もしかしなくても……)

イザベラはフェリクスに対し、マウントをとっている気がしてならない。

だんだんと雲行きが怪しくなっていき、何か別の話題をと口を開こうとしたのだけれど。

「ねえイザベラ、このパンが──」

「私、フェリクス様がいつもエルセ様を連れていくの、本当に腹立たしかったのよね」

「えっ」

「自分はエルセ様の一番弟子で最も可愛いがられていて優先されるべき、っていう気持ちが透けて見えるのも、ものすごく不愉快で仕方なかったわ」

「あ、あの……?」

突如、十七年も前のことに対して低い声でフェリクスに文句を言い始めたイザベラに、戸惑いを隠せなくなる。

とにかくイザベラに対しては落ち着くよう宥めつつ、いつも冷静なフェリクスならきっと気にせず、笑って流すだろうと思っていたのに。

「──俺もイザベラが来てから、エルセとの時間が減って不愉快だったけどね」

「えっ」

「自分の方がエルセの弟子として出来がいいと鼻にかけているところも、同性だからってわざとらしく触れているのも苛立ったよ」

「ええと、えっ……?」

まさかのまさかでフェリクスも臨戦態勢という展開に、冷や汗が流れる。