軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呪われた夜会 3

「ありがとう、ティアナ。無事に騒ぎも収まって全員無事だったよ。皆安心したようだ」

「良かったわ。あなたもお疲れ様」

ザラ様の呪いを無事に解き、参加者たちのフォローもした私は現在、フェリクスの部屋のソファに背を預け、ぐったりとしていた。

呪いを受けた令嬢たちもザラ様も命に別状はないらしく、ザラ様に関しては目を覚ました後に詳しく話を聞く予定だという。

流石に疲れきってしまい、一歩も動けそうにない。

「……いつもティアナばかり頑張らせてごめん」

そんな私を見て、隣に座るフェリクスは悲しげな顔をする。気遣うように優しく頭を撫でられ、小さく笑みがこぼれた。

「ううん、これが私の仕事だもの。あなたにはあなたの、聖女には聖女のすべきことがあるんだから気にしないで」

ゆっくり身体を起こした私は「それに」と続けた。

「あの呪いは故意に生み出されたものだった」

そう告げると、フェリクスは形の良い眉を寄せた。

「やはりシルヴィアが関わっているのか」

「私はそう考えているわ。シューリス侯爵家はファロン神殿と関わりがあるのかもしれない」

結局のところ、シルヴィアに直接会って調べなければ全ての確証は得られない。今回の事件に関わっていたとしても、簡単にボロを出したりはしないはず。

いずれ全ての「呪い」を解いて力を取り戻した後は、ファロン王国に戻り、シルヴィアと直接戦うことになるだろう。

「それに今回の呪いを私が解いたことで、シルヴィアも黙っていないはず」

シルヴィアは間違いなく私が何の力もないことを知っていたし、何が起きているのか調べるに違いない。今回のように誰かを使い、攻撃を仕掛けてくることもあるだろう。

厄介なことばかりだけど、実は良いこともあった。

「ルフィノとイザベラは、無事に地下遺跡の呪いを解いてくれたみたい」

「どうして分かるんだ?」

「また新たに魔力が戻っていたの」

二人はまだ遺跡から戻ってきていないものの、呪いを解くために魔力を注ぎ込む際、魔力が再び戻っていることに気付いた。後は無事に帰ってきてくれることを祈り、待とうと思う。

(……でも、今日で確信した)

現段階で戻っている分だけでも、既に全盛期のエルセよりも魔力量は多い。

それでいて、過去の知識や経験は今も私の中に残っている。

──つまり最後の一箇所であるバルトルト墳墓の「呪い」を解いて全ての魔力さえ戻れば、ティアナ・エヴァレットは大聖女エルセ・リースをも超える聖女になる。

数ヶ月前、空っぽ聖女としてこの国に来た時も、今や大聖女と呼ばれているシルヴィアに傷一つ負わせられないと思っていた。

(けれどもうすぐ、シルヴィアを追い詰められる)

私にとっても、この十五年はとても長く苦しいものだった。

ずっと孤独で寂しくて、辛くて悲しくて。終わりの見えない地獄の日々を思い返すと、目の奥が熱くなるのを感じた。

「ティアナ?」

ぽすりとフェリクスの肩に頭を預けると、不思議そうな声で名前を呼ばれる。こうして私が自ら触れたりするのは、珍しいからだろう。

「……なんだか甘えたい気分になって」

素直な気持ちを伝えると、驚いたのか少しの間が空いた後、フェリクスの手が伸びてきた。

「どうぞ、いくらでも」

そしてひどく優しい手つきで、私の頭をそっと撫でてくれる。

声音も纏う雰囲気も何もかもが優しくて温かくて、肩の力が抜けていく。

(あんなに小さくて、私がいなくては駄目だと思ってしまうくらいだったのに)

前世ではこうして誰かに甘えることなんて、一切できなかった。

(……今思うと、あの頃も常に心のどこかでは孤独や重圧を感じていたのかもしれない)

大聖女という立場では、私が弱い部分を見せれば下の者達が不安になってしまう。

人前ではいつも笑顔で明るくいるよう努め、常に「民達の心の支え」である必要があった。

本来なら、今だってそうあるべきだ。

けれど今の私にとってフェリクスは支えであり、心を許せる存在だった。

そんなことを考えていると、フェリクスが私のこめかみの辺りに唇を寄せた。どきっとしてしまいながら見上げれば、愛おしげに細められたアイスブルーの瞳と視線が絡んだ。

「ありがとう」

「えっ?」

なぜフェリクスにお礼を言われるのか、分からない。むしろお礼を言うのはこちらの方ではと思っていると、フェリクスは続けた。

「こうして甘えてもらうのが、俺の夢だったから」

「そんなことが夢なの?」

「ああ。幼い頃はいつも、早く大人になってエルセを支えたいと思っていたんだ。それにエルセはいつも、少し無理をしているように見えたから」

フェリクスは、エルセの心のうちに気が付いていたのかもしれない。

フェリクスはいつも私の側で、誰よりもまっすぐに美しい瞳を向けてくれていたから。

「そんなエルセが誰にも心から甘えようとしなかったことも知っているから、嬉しいんだ」

「…………っ」

フェリクスの言葉に、胸が温かくなっていく。本当に彼はずっと「私」を大切に思ってくれていたのだと、伝わってくる。

泣きそうになってしまって、誤魔化すように私は笑みを作った。

「フ、フェリクスって、私のことが好きすぎじゃない?」

「ああ。俺が世界で一番好きだよ、絶対に」

「…………」

冗談めかして言ったのに優しい笑顔を返され、余計にぐっときてしまう。

フェリクスは口元を緩めると、私の腰に腕を回して抱き寄せた。

「それに昔、月と星の王子様って絵本を好きだったことも知ってるよ」

「えっ」

「だから話し方だって、あの王子の真似をしてる」

「な、なな、なんで……」

本当に待ってほしい。フェリクスが言っているのは、前世の私が好きだったお姫様と王子様のこってこてのラブストーリーが描かれた絵本のことだろう。

恋愛というものが一切分からないながらも憧れ、絵本に出てくる王子様みたいな男性がいつか私にも現れるといいな、なんて思っていたのだ。

(エルセの死後、遺品はフェリクスが管理してくれたのは知っているけど、あああ……)

二十二歳で絵本の恋愛に憧れていたなんて、結構な黒歴史だろう。当時の帝国における女性の結婚適齢期は十八歳から二十歳ほどだったから、尚更だ。

そして確かに幼い頃のフェリクスは、もっと無邪気で活発な感じの話し方だった。

(今のフェリクスは穏やかで落ち着いていて、まるで王子様みたいな──……っ)

そんなところまで私を意識して変えていたなんて、どこまでも愛情を感じてしまう。

顔が熱くなって「どうして」と呟くと、フェリクスは軽く首を傾げてみせる。

「愛する女性の理想に近づきたいと思うのは、自然なことじゃないかな」

「う……!」

あまりの甘さに耐えきれなくなり、両手で顔を覆う。すると追い討ちをかけるように、フェリクスは私の耳元に唇を寄せた。

「ティアナは本当にかわいい」

「ば、馬鹿にしているでしょう! 行き遅れた上に絵本の恋愛を夢見ていたんだから」

「まさか。俺以外の男を知らないことが、何よりも嬉しいよ」

「よく次から次へとそんな恥ずかしいことを……!」

フェリクスの溺愛は底が知れず、恋愛初心者の私には早すぎると思いながらも、心の中では彼が側にいてくれる幸せを噛み締めていた。