軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初恋の行方 5

まるで今の私も好きだと言っているようで、呆然としながらフェリクスを見つめ返す。

──今は見た目だって全くの別人だし、性格だって前世と全く同じわけではないのだから。

その戸惑いが顔に出てしまっていたのか、フェリクスは困ったように微笑んだ。

「……たとえエルセの生まれ変わりだと知らなかったとしても、俺はティアナを好きになっていたと思う」

そんな言葉に、また心臓が跳ねてしまう。

「舞踏会で俺以外と踊らないでほしいと言ったのも、ルフィノ様に嫉妬したからなんだ」

「えっ?」

あの時の私はてっきり円満アピールのひとつだと思っていたため、再び驚く。

「……一生エルセしか愛せないと言いながら、ティアナに惹かれてしまう自分が嫌で、怖くなったくらいには」

ぎゅっと私を抱きしめたフェリクスは、今にも消え入りそうな声でそう呟く。

(フェリクスはずっと、 私(エルセ) に縛られていたんだわ)

死んでしまった人間は彼を解放するために、背中を押してあげることもできないのだから。

「今もエルセのことが好きで大切で、絶対に一生忘れられない。彼女は俺の人生そのものなんだ。それでも俺はこの先、ティアナをそれ以上に好きになる自信がある」

「フェリクス……」

「俺は結局、何度でもあなたを好きになるんだと思う」

どこか諦めたように笑うフェリクスの瞳に映る私は、やっぱり泣きそうな顔をしていた。

彼のこれ以上ないくらいの真摯な愛の言葉に、胸を打たれてしまったのは事実で。

同時にフェリクスは今の私に好意を抱いてくれているのが伝わってきて、思わず視線を逸らしてしまう。

けれどきつく両手を握りしめ、言葉を紡ぐ。

「……私はフェリクスが今も昔も大切で、大好き。でも今まで恋愛なんてしたことはないし、あなたをそういう風に見たこともないから、正直まだよく分からないの」

フェリクスは私の言葉を、ひどく優しい声で「うん」と相槌を打ちながら、静かに聞いてくれている。

「それと今は、この国を救いたいっていう気持ちが一番だから、すぐに返事はできないかもしれない」

「うん」

「無事に呪いを解いた後は、前世でも今世でもできなかったことを、たくさんしたいと思ってる」

「……うん」

──たくさんの物に触れて、色々な人に出会って話をして、もっと外の世界を見てみたい。

それは記憶を取り戻す前の、私の願いでもあった。

「でも私は、その時にフェリクスが一緒だったらきっとすごく楽しいし、嬉しいなと思う」

頭の中はぐちゃぐちゃで、考えもまとまっていないまま口に出しているから、きっと上手く話せていない。

それでもこれが今の、正直な気持ちだった。

「……ありがとう」

やがてフェリクスはそう呟き、再び私を抱きしめた。

「今はそれで、十分すぎるくらい幸せだよ。ティアナの中で答えが出るまで、ずっと待ってる」

私のそういうところが好きだなんて言うフェリクスは私から離れると、形の良い唇で美しい弧を描いた。

「まあ俺達、もうすぐ結婚するんだけどね」

「……はっ」

そういえば、そうだった。元々フェリクスと結婚なんて違和感しかなかったけれど、余計に困惑してしまう。

(でも、どちらかに気持ちがある時点で、それはもう当初の契約婚とは全くの別物になるんじゃないかしら)

「それと明後日の結婚式は延期したから、安心して」

「えっ? 明後日!?」

「うん。あれからティアナは5日間、眠っていたんだ」

「そ、そんなに……」

やけに頭がぼうっとする上に身体が重いとは思っていたけれど、まさかそんなに時間が経っていたなんて。

流石に私がこの状態では無理だと、ひとまず1ヶ月後に延期をしてくれたらしい。

「結婚をしても、これまでと何か変わるわけじゃない。夫の立場を利用して近づいたりもしないし、ティアナにはこれまで通り好きに過ごしてほしいと思ってる」

「……うん」

「ただ、これからは俺を男として見てくれたら嬉しい」

(フェリクスは、本当に優しすぎるわ。いつだって、私のことを一番に考えてくれている)

真剣な表情で見つめられ、フェリクスは本当に今の私を好いてくれているのだということが伝わってくる。

これから先も契約結婚という形に変わりはなく、とにかく私には今の生活を満喫してほしいとのことだった。

私ばかり有利で得をする条件だと、改めて思う。

「そんな日々の中で、いつかティアナの俺へ向ける気持ちが変わったら、あの契約書は破棄させてほしい」

「……うん」

「俺はティアナと、本当の夫婦になりたいから」

フェリクスの言葉はまっすぐで、私の心臓はドキドキさせられっぱなしだった。きっと鋭い彼はそんなことだって、とっくに気が付いているのだろう。

(この子は昔から、望みのないことは言わないもの)

「好きだよ、ティアナ」

甘すぎる言葉や雰囲気に、くらくらとしてくる。

流石に私がもういっぱいいっぱいだと察したのか、フェリクスは完全に私から離れると、立ち上がった。

「この後、食事はできそう?」

実はお腹が空いていたため、こくりと頷く。するとフェリクスは、ここで二人で食べようと言ってくれた。

正直まだ体調は万全ではないし、ありがたくお言葉に甘えることにした。

「フェリクス、色々ありがとう」

「こちらこそ。ティアナのためなら、何だってするよ」

「…………っ」

(こんなフェリクス、私は知らない)

子どもの頃の彼も、帝国に来た1ヶ月前の彼も、もう思い出せなくなりそうだった。