軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者42 原石を探せ

十九歳の年もそろそろ終わりに近付いていた。

冬の空気は鋭く、厚着をしていなければ身体が震えて碌に歩けもしない。この空の下で屋外作業をする人達は真に苦行だと思っているのだろう。

黒いジャケットも暫くはお休みだ。ベージュの上着で上半身を包み隠し、黒いズボンを穿いて最近大きくなった黒のリュックを手に掴む。

中身は薬草から回復薬になったペットボトル数本と、ナイフを五本。キャンプの小道具も一緒に放り込んでおいたので寝泊りする場所だけあれば取り敢えず一夜を過ごすことは出来る。

とはいえ今日はこんな道具には頼らないだろう。試験当日を迎えてはいるものの、俺は受験者ではなくて運営側として現場を見ることになる。

どうして俺が現場を見なければならないのかとも思うが、老人曰く原石を探してほしいとのこと。

未来で活躍していた人間が万が一受けに来たのであれば、その人物が問題児でもない限り合格にしたいらしい。

その分だけ一般合格者の枠分を潰すことになるものの、その辺は仕方がない。

今は量よりも質だ。将来的に有名な冒険者になる人間をここで取っておいた方が業務の回転率が大幅に良くなる。それに実務側が早く強くなってくれれば俺が出張る機会も少なくなるだろう。

暇になった分だけ家族と過ごす時間は約束されているので、組織の地盤を固めていくのは俺にとって急務になる。

じゃあ、と俺は家族に挨拶をして家を出た。

電車に乗って目的のギルドに到着するまでは三十分はかかる。喫茶店に出向いていた時はもっと短い上に駅前だったのだが、流石に大きな施設が欲しいとなると駅前ではほぼ有り得ない。

俺のバイトは数日前に終了になった。早めに伝えたお蔭で恙無く終わりを迎えることが出来たが、オーナーとしては離れてほしくなかったらしい。

ギルドの試験を受けるのでと言えば落ちたらまた戻ってきて良いからと言われ、なんだかんだ上からは気に入られていたのだとここで理解した。

結局従業員達とはあまり馴染めたとは言えなかったので戻ることはないだろうが、お世話になったのは事実。

事前にオーナーの好みを伯父から聞き、後は従業員の分を含めて適当な贈り物を渡して喫茶店を出た。

今後は客として来ることもあるかもしれない。そうなったら一番簡単な料理を注文することにしよう。

駅を出てギルドに向かっていると、同じ方向に足を動かす人間が見える。

数は多く、全員が年齢としては若い。彼等も目を動かして受験者達の様子を伺っていたようで、身体を鍛えていた人物は細い人間の姿を見ると勝ち誇った顔をする。

確かに肉体が恵まれている人間が有利になるのが冒険者だが、かといって筋肉ばかりの冒険者の集団で勝てるほどダンジョンは甘くない。

それが分かっていない奴は例外無く試験を落されるだろう。その辺の機微を老人が用意した試験官が見逃すとも思えない。

それに実技については俺が教えた冒険者達も参加する。ダンジョンクリアを実際に果たした人間から見て、態度に違和感のある人間を仲間内にしたくはあるまい。

公務員試験の一つになった今回の一件だが、服装の指定で実はスーツを禁止している。

これから大量に動くことになるのにスーツでなんて論外だ。動き易い服であればよっぽど変でない限り許可されており、これも冒険者の自由さを世に伝えることになるだろう。

人間、縛られるのはあまり好きではない。変態でもなければ自由にしたいのが本音のはずだ。

建物の前に到着すると、まだ正門は開かれていない。今回の試験を大々的に報じるために記者団が姿を現し、彼等を整理する警官達が壁となって受験者達への接触を阻止している。

これにまだ少ない受験者達が集まってくればこの地帯は人の山になるだろう。疑似的な通勤ラッシュの気分を味わうなんて勘弁願いたい。

大周りをして建物の裏手に移動する。

そちらには裏口が存在し、一人の守衛が出入りを記録していた。

マスクにサングラスを付けてカードを見せると、守衛は酷く恐縮した顔で入るのを許可する。

周りは塀に囲まれているので一度中に入ってしまえば俺の姿は外から見えない。唯一見えるとすれば正面なので、騒ぎの方向に進まずに建物の中に入り込んだ。

ギルド内は上へ下へと職員が早足で移動している。まだ準備が完全に終わっていないのか、俺を見ても走りながら頭を軽く下げて通り過ぎていく。

もっと余裕のあるスケジューリングをすれば良いのにと思ったが、こればっかりは老人にも都合があるのだろう。

「あ! お疲れ様です!」

「……お疲れ様です。 榊原さん」

一先ず老人に会うかと廊下を進んでいると、榊原を含めた数名の冒険者が丁度部屋から出てきた。

彼等は今回完全な私服姿だ。自由さを示すために制服姿ではなく、加えて職場そのものもギルドに完全移行してしまった。

冒険者の管理はギルドの仕事。そのため、自衛隊との会議を経て本人の希望制で此方に移動するのを許可されたらしい。

この辺りの話は俺は一切関与してなく、老人からのメールで教えられたことだ。

ギルドに完全移行した人数は約三十人。榊原も移動組であり、これからは自衛隊の規則ではなくギルドの命令で行動することになる。

「こっちに職場を移したと聞きましたけど、本当に大丈夫ですか?」

「はい! 最初は迷いましたけど、こちらの方がやり甲斐があると思いましたので。 ……それに、これは裏事情ですが自衛隊は組織内の冒険者の扱いをどうするかでまだ頭を抱えているみたいです」

「それはそれは……ご愁傷様な話ですね」

自衛隊は一番最初に冒険者を抱えることになった組織だが、ノウハウなんて一切無い。

最初は隔離していたと聞いている。その理由が危険だからなのは頷ける話で、様々なチェックをしながら変化した部分を調査していた。

俺からの情報で分かったことは増えたものの、じゃあそれをこうしようとは直ぐにならない訳で。

爆発的に増えてしまいそうな冒険者は既存の身体情報の全てを凌駕している。基本的な肉体性能は勿論のこと、五感の鋭さや毒に対する免疫も普通とはまったく異なってしまった。

横一列だった規格が完全に崩れてしまっている。これでは自衛隊の築いたノウハウに致命的なズレが生まれ、彼等の想定するものとは違うストレスを冒険者が受けるだろう。

その果てに暴力事件なんて起きようものなら、最終的な被害は普通の人間の範疇では収まらない。

持て余すのも必然。しかしそれで放棄をすることも彼等には出来ない。

どうしたものかと頭を抱えた中でギルドが生まれ、これ幸いと押し付けたのである。

表面上は会議をしたとされているが、実際はギルドが助けた形になった訳だ。

この恩は忘れてはいけないだろう。老人がどんな判断をするかは分からないが、効果的なタイミングで恩返しを請求するはずだ。

断ればギルドはどんな行動に出るか分からない。もしもダンジョン資源の取引をギルドが担当するとなれば、自衛隊だけ価格を上げてしまうことも可能だ。

後々を考えると悪手に見えるかもしれない。だが、俺としては良い手だと認識している。

どうせ無理なら出来る奴にやらせた方が良い。老人は態々敵を作ろうとするタイプではないので、恩返しもそこまで厳しくはならないはずだ。過度に敵を作っては組織運営にも支障が出る。

強気に出るとしたらギルドが軌道に乗った後か。まぁ、そうなるにはかなり時間が掛かるだろう。

「ははは……。 あ、ところで予言者さんはどんな用事でこちらに? 私達は実技の試験担当官としてこちらに来ましたけど、一緒に参加するんですか?」

「ああ、いえ。 今日は私は面接を見ることになりました。 有望な冒険者を一人でも見つけるために、モニター越しで相手を確認するんですよ」

「成程。 未来が見えますからね」

「そんなに遠くは無理なんですけどね」

榊原とちょっと雑談を挟み、俺は歩き去った。エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。

――――試験開始まで、残り数時間にまで迫っていた。