軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者24 成長の芽

「ダンジョンを攻略したって……」

まだ模擬戦を行っていない男の一人が、驚愕に支配された言葉を吐く。

未だ、純粋な意味での人類による攻略は成されていない。秘匿していて、実はしていた可能性もなくはなかったのだが、相手の反応を見る限りは、やはりボス攻略にまで至ってはいないと確信できた。

彼等が苦戦しているのは、森に住む木々か、或いは状態異常を振り撒く植物達か。生死の数が世間体に大きく響く組織において、慎重にならざるを得ない状況では、行動を停止せねばならない。

木々を破壊する方法を実験して、毒物には解毒薬を用意して。ある程度安全な行程を作らねば、即座に進むとは判断できず、故に遅々として攻略は進まないのだろう。

挑戦に美徳があるのは、それをしても生きていられる場合だ。

死んでしまう可能性が高ければ、世間からはあまり良い評価を受けず、もっと安全な方法は無いのかと、何も知らない群衆に罵られる。

日本において、死はそれだけ重く扱われるのだ。如何に自己責任で飛び込む勇士が居たとしても、当人が自衛隊に所属していれば、組織が集中的に批判される。

だから日本人が本気になるのは遅かった。

未来で他国の人間が冒険者となって成果を出す中、あくまでも挑戦を避けた堅実な解決策を模索し続けたのである。それが正解に繋がることは殆ど無かったが。

今、日本人は血で血を洗う感覚を取り戻さなければならない。安全圏に居たがる弱腰の己を殺し、新たに自身や大切な何某を守る戦士に成長しなければならないのだ。

俺が家族を守りたいように。皆にだって、唯一無二の大切な存在が居る筈である。

「ダンジョンのボスは、既に知識での収集は終えていました。倒すのには難儀しましたが、お蔭で映像と感覚が無事に繋がりましたよ」

あのダンジョンが、俺の初の戦場だったのは言うまでもない。

これまで映像でしか知らなかった戦いを経験し、未来の自分がどんな感覚で戦っていたのかを、朧気ながら掴むことができた。

あの空間はゲームのような世界で、けれど実際に何処かの何かを参考にした、もう一つの現実。

殺されれば死に、殺せば勝つ。単純な弱肉強食によって成り立つ空間は、最も単純な人間の本能を剥き出しにさせてくる。

練習と本番の違いは解っているつもりでも、それは所詮つもりでしかなかった。だから不慮の事態に、俺は無様に困惑して足を止めた。止めたことで、死んでいたかもしれないのに。

「貴方達が今現在、所属している組織のことは全て忘れなさい。そして、殺さないように攻撃するのも止めなさい。――――本当に殺す気でいくからこそ、今回の模擬戦に意味が生まれるのです」

この模擬戦は、俺が本物の予言者かを皆が知る為にある。

だが、それだけで終わらせるには勿体無い。どうせなら、少しくらいは意識を変えておきたいのが、俺の個人的な考えだ。

サブ目標とも言って良い。このまま彼等が成長していっても、結局は人間の枠内での動きしかしない。

冒険者はもっと無理が利く。オーバークロック上等な戦場ばかりになるのだから、非人的な行動を思考に混ぜておかねば、足下を掬われる。

俺の言葉に、皆が顔を見合わせた。自衛官であればそれくらいは当たり前だと思っていたのだが、どうにも踏ん切りがついていないように見える。

護衛達は、そもそも敵を殺すのは最終手段だ。制圧を第一にするからこそ、殺しを前提に動くのは二の足を踏んでしまう。

これが今の普通だ。普通に暮らしていく分にはそれで良いのだが、これでは役に立たない。しかも、俺の行動で恐怖を覚えたのか、未だ誰も出てこなかった。

仕方ないとはいえ、落胆は隠せようもない。過度に煽って怒りを優先させなければならないのかと内心で残念な気持ちになり――その瞬間に、一人の女が前に出た。

それは、最初に口を噤んだ身長の高い女だ。鮮やかな金髪はミディアムの長さで留まり、小顔で線が細いと、コンパクトに纏まっている。

本人は少し不安な顔をしていた。前に出たものの、あまり戦意を感じ取れない様子は、別に何か用があると思わせる。

「戦う気はありますか?」

「あります! あるんですが、その前に少し質問をしても良いですか?」

「私で答えられる範囲でなら」

不安な顔での質問に快く応じれば、途端に彼女は輝かんばかりの表情に変わる。

おや、と俺が疑問を覚えた。どうにも彼女は、俺のやったことで恐れている雰囲気がない。

えっと、と彼女は暫く悩み、纏まったのか舌先を俺に向ける。

「あの、私……同期の人達から、今の職に向いていないって言われたんです。今回、冒険者になれたのも、偶然弱っていた敵を最後に倒したからで、私一人で倒せた訳ではありません。本当は近い内に辞表を出して離れるつもりだったんですが、そんな自分でも冒険者になることは出来ますか?」

女の質問は、所謂向き不向きの話だった。

確かに、彼女の肉体は枯木のようだ。その内側に筋肉があっても、少々過剰なレベルで細い今のままでは、前線に出すには不安が残る。

これは冒険者になっても同じだ。ただの人間としては強くても、今の彼女は冒険者としては脆い。

性格も強気とは言えず、言葉を悪く言えば少々陰キャ寄りだ。

彼女も自分を解っているのだろう。仮にこのまま訓練をするにしても、皆に負けず劣らない冒険者になれるか、不安だった。

故に、知識だけはある俺に相談したのだ。そして俺は、彼女のその問いに、明確な解を返せる。

「答えはYESです。そもそも、貴方は勘違いをしている」

「勘違い、ですか?」

「確かに、才や経歴によって特殊な力が発現する可能性は大いにあります。そうでなくても、自身の独自解釈のみで強くなる人間もいますが、そもそもの話として、この冒険者になるシステムは所詮、外付けなのです」

女は困惑顔を浮かべた。

言われている意味が解らないのだろう。俺としても、これだけで解ってもらえるとは思っていない。

この話で重要なのは、外付けの部分だ。

「元々の肉体に、外部から力が与えられ、我々は超常的な力を使うことが出来ます。そこに差異は無く、スタートラインは皆一緒です。差が生まれるとすれば、その元々の肉体部分になりますが、この要素はダンジョン攻略をしていく過程では、ハッキリ言って誤差でしかありません」

仮に、筋骨隆々の男と、モヤシのような男が居たとしよう。

その二人が冒険者になったとして、彼等は揃って同じ力を手に入れたことになる。そして、ダンジョンをクリアしていくには、手にした力を如何に上手く使っていくかが重要になるのだ。

つまり、最初の肉体部分は、ダンジョンをクリアしていく要素としては、本当に僅かしかない。個人的には、数%程度が限界だと思っている。

とはいえ、鍛えておいて損が無いのも事実だ。肥満体型の人間が暗殺者の職業を獲得しても、柔軟に動けるようになるまでには時間が掛かり、スタートダッシュから躓くことになる。

女は、既に元々の職業の影響で身体は鍛えられていた。そこに冒険者としての力が入れば、少なくとも最初で躓く要因は無い。

強いて言えば、使い方が難しい職業を得ていれば、理解するまで時間が掛かるだろう。

「貴方が本当に使い物になるかならないかは、今この瞬間に懸かっています。己の選んだ職業を眺め、考え、実践する。これを繰り返してレベルを上げてください。そうすれば、冒険者として成功するのも夢ではありません」

「――――はい!」

忘れてはいけない。冒険者は、夢がある職業だ。

例え挫折した人間が、あの職は酷いと貶しても、成功した者が時代ごとに出てくれば、別の人間が夢を追いかける。

彼女は今、この瞬間に、夢の道を歩き出すのだ。

その先に待つのが成功か死かは解らないが、少なくとも此処に居るのであれば、無駄にするのも気分が悪い。

だから俺は、敢えて構えた。

彼女は俺の動作に直ぐに身構え、そして、いきなり吶喊する。

回避をしながら彼女の攻撃を見れば、その全てが相手の急所を狙っていた。

投げ技や関節を極める真似はせず、軽やかに動ける肉体に強化の能力を使って、手刀で心臓や首を破壊せんと挑んでくる。

女に殺意は無い。だから、本当に殺す気があるのではないのは解る。

その上で、最初から臆せず殺そうとする姿勢は、確かな可能性を感じるには十分だった。