軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者18 知る責任

「――君は責任を感じないのか」

老人の声に鋭さが混ざる。

立ち昇る険呑な気配。老人の纏う圧は並み居る人間の比ではなく、この場において俺をなんとしてでも関与させようとしていた。

「君は未来を知ることで多くを変えた。ミヤ様が嘗てそうだったように、未来を知ると人は唐突にそれまでの思考から外れた行動を取るようになる。貧乏から裕福に、失敗を成功に、敗北を勝利に。周りにどうしてそんな行動を取るのかと思われはしても、当人は気にせずに突き進む。そして、求めた結果を手に入れて納得するのだ。これぞ理想の末路だと」

睨む眼に力が込められた。

杖を握る手は強くなり、今直ぐにでも殴り掛かってきかねない。

「当人にとっては幸福な結末だ。これを継続すれば人生が全て薔薇色になるだろう。……だが、その過程で君は将来の殺人鬼を生み出すかもしれない」

老人が言いたいことは俺には解る。

俺は求めた結果に近付いた。想像していたイメージ通りとはいかないまでも、最終的には望んだ終わりをダンジョンでは迎えてくれた。

俺の行動で死んだ人間は減った。彼等は生き残り、これからのダンジョン時代を生きていくことになっていく。

しかし、それで冒険者になった人間が誰かを殺してしまったなら。

元の未来では有望な人間が死んで、ダンジョンが詰んでしまえば未来を変えた意味はない。

いや、それどころか俺の所為で状況が余計に悪くなったのだ。

そこに俺の責任が無いとは、誰も言ってはくれないだろう。

「状況の変化はまだ極一部。全てを変えるには戦力の要がまるで足りていない。こんな有様で、じゃあ後は任せたなんて君は言うのかい?」

「では予言をどんどん使っていけと?未来を知る者がレールを敷いて、皆の導き手になれとでも?」

「そこまでの人間になれとは流石に言う気はない。だが、一度予言を使うと決めたのだ。目標を達成したから後は任せようと逃げるのを、我々は認めはしない」

老人の目は本気だった。

脅迫をしてでも共闘関係の構築を求めている。

未来を知る。そのアドバンテージを老人はよく解っていた。

単純に先回りが出来ることも含め、使い道が無限にあるのは実に魅力的で――同時に危険だ。

これを使えば犯罪行為も簡単に行える。

少なくとも冒険者になった今の俺なら、ダンジョンの良い素材を占有する行為も出来るだろう。

安定供給を望むなら俺を排除するしかなく、しかし現状ではレベルの上で勝てる見込みはない。

じゃあレベルを上げて実力で排除すれば良いとなるが、俺だってその間に能力を磨いていく。

最後は結局、職業による有利不利に持ち込む他なく、ミヤ様がそこまでの情報を明瞭に理解していないと俺が逆に潰すことになるだろう。

そして、老人の話からミヤ様はそんなにこの手の話題を得意としていない。

巷で溢れる現代ファンタジー系の内容そのものだが、相手はそこら辺に疎い可能性があった。

勿論、これがブラフである可能性もある。

しかしここまで本気の姿勢を見る限り、ミヤ様の予言はあくまでも将来的な話に活用されていると見るべきか。

「……逃げることの何が問題だ」

低い声が自然と自分の口から出た。

相手の言葉は成程、理解出来る部分が多い。

第三者の人間なら、それはそうだと首を縦にも振っていただろう。

だが、手にした当人に周りの意見なんてものは関係ない。

これを手に入れて悪行の限りを尽くしていたのなら責められても仕方ないが、俺はまだ良い結果のみを残している。

少なくとも日本そのものが無くなるかもしれない未来は阻止してみせた。

一個人でダンジョンをクリアするのは相当に難しい。

その難しい行いを無事に成功させたのだから、望むものを望んだとて文句は無い筈だ。

責任を取れ?

馬鹿を言うな。

寧ろ感謝をしろよ、俺に。

今目の前で立っていられるのも俺が頑張ったからで、本当は老人だって死んでいたかもしれない。

高潔な精神を求められても困るのだ。

俺の博愛精神は当の昔に剥れ落ちて、今では何処かその辺の路地を転げ回っている。

誰かが拾えば、その人に唐突に正義感でも芽生えるかもしれない。

「俺の夢は、もうじき果たされる。そうなればそちらの邪魔をする気は一切無いから、アンタは何も見なかったことにしてこの場を離れれば良い。後は認知症にでもなって忘れてくれれば、それで解決だ」

「それは困るな。……なら、そうだ」

老人の笑みが深くなる。

凄味の増した顔は悪意に満ちていて、この後の話がどう足掻いても良くなることはないと証明していた。

「警察の手を動かそうではないか。我々が手綱を離せば彼等は直ぐに君の下に姿を現し、両親や共に暮らす伯父に正体を語ってくれるだろう。ついでに仲の良い外交官に世間話程度で存在を匂わせれば、もしかすると国外の人間にまで話が広まるかもしれない」

「ついに脅迫に出たな」

「君が頷かなければこちらが止める意味も無くなる。有利なのが我々なのは、何年も前から同じだ」

老人の確信の声に俺は解っていた話だと首肯で示した。

実際、こうして話していても有利不利の関係は覆らない。

俺の予言を相手が知っている限り、その正体を広めるぞと脅されればこちらは警戒しなければならなくなる。

特に俺の場合、知られてほしくない人に知られることが敗北に直通するのだ。

相手の勝利条件の方が明らかに緩いのは理不尽だろう。

これをどうにかしたいと思うなら、それこそ口封じくらいしかない。

それも相手の警戒をすり抜け、的確に封じる手段をだ。

これが通常の手段なら難しいのは言うまでもないが、冒険者となれば話が変わる。

「ならこっちも四の五の言っている場合ではないな。――――お前を殺し、お前に通じる予言者も殺す」

「……」

口角を歪ませ、足を組み、上から見下ろすように俺は老人を見る。

冒険者としての知識はこちらが今は上だ。

この段階でなら、俺がどんな話をしたとしても予言者である時点で一定の説得力が出る。

必要なのは、今後も家族に真実が露呈しない状況を作ること。

その為に、まぁ、多少の譲歩はした方が良いのかもしれない。

このまま泥沼になってしまうよりかは、互いに線引きをして味方同士ではない関係に落ち着かせるのが最善だ。

「冒険者には職業がある。これは個々人がこれまでの人生で何をしていたかで内容が変わるが、中には人を恨みながら生活している人間も居る。そういう人間が冒険者になった時、生えてくるだろう職業は一体なんだと思う?」

――呪詛師だ。

ゆっくり、少し気持ち悪く職業を言えばそれだけで老人は顔色を変えた。

そうだ、ダンジョンが現れる前であれば呪詛をどれだけ送ったって人が急に不幸になる訳がない。

けれど冒険者の職業にそれがあれば、つまり呪詛を何らかの形で出力する手段が生まれることになる。

この職業の特徴は、恨みの対象に精神及び肉体にダメージや状態異常を起こす。

その恨みが大きければ大きい程に被害者の受ける苦痛は強大になり、高レベルの呪詛師は実はボスモンスターと戦う上で結構な戦力になりやすい。

この恨みの部分だが、実は互いが合意していれば他者の恨みを引き受けることも出来る。

これを使って呪詛師として暗殺稼業に精を出す人間も居たようで、未来の情報サイトのコメントで見かけた闇バイトの中には呪詛による人殺しも存在していた。

「お前は今、ここに居る。姿は記憶したから後は俺が呪詛師を見つけて恨んでもらえば、お前を中心に多数の被害者が出て来るだろう。ああ、ちなみに恨みを伝染させるなんて方法を使えば最終的にはミヤ様とやらも死ぬだろうな」

「貴様……ッ」

俺の脅しに今度は老人の方が不利を悟った。

ちなみにこの俺の発言は嘘だ。

恨みの対象にしか被害は出ないし、伝染なんて調べた限りでは不可能。

あくまでも対象を恨み殺すことに特化しているので、これで死ぬのは老人ただ一人だ。

こんな嘘、ミヤ様がちゃんと未来を細かく調べていれば簡単に看破される。

だから、今この瞬間に互いが互いに息の根を止める手段があると対等になっておかねばならない。

脅すだけ脅して、急に真面目な顔に戻す。

脅迫はこれで十分だ。

「アンタの言いたいことは解る。だが俺にとって、責任なんてものは最初から無いも同然だ。何せ普通の暮らしが出来ればそれで良いんだからな。そんな奴に御大層な真似が出来ると思うかよ」

「だが貴様はッ、あのミヤ様と同一かそれに近い力を持っているッ!」

「特別なのは事実だ。けど力が特別なだけで、それ以外の俺って部分は凡人も凡人だ。期待するだけ無駄だと言わせてもらうよ――その上で、だ」

ミヤ様。

その存在が、一体どれだけ特別なのかを俺は知らない。

知らないからこそ、今はこれくらいかなって朧気な想像をするくらいで終わらせるしかない。

折角予言者が現れたんだ。

馴れ合う気はないが、精々今後の発展に利用させてもらうとしよう。

「ダンジョンの攻略。その手伝いを少しだけしてやる」