軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二歩 初戦の結果

戦って、戦って、戦って――焼け野原を作り上げて。

死体が生まれる。戦友が肉袋に成り果てる。上官が骸に変わり、頼りになる武器が鉄屑の塵になった。

生き残った隊員の目には赤々と燃え上がる場が陳腐であれど地獄に見える。

死んで初めて見ることが出来る世界が今目の前で出現して、既に彼等の頭にはこの光景が現実か非現実か判別不可能になっていた。

解るのは、まだ己は生きていること。そしてもう一つ、敵は地獄からの使者なのだ。

だってそうでなければ納得も出来ない。

戦友は数匹の小鬼に頭から食われ、小動物が服を剝ぎ取って皮を食む。

ウッドフェアリーは死体の肉をどんどんと吸い込み、一定まで吸収してから木々の中に己を埋めた。

それだけで木の枝が歓喜に蠢く。表情には無くとも喜んでいるのが一目で解ってしまって、吸収された人間はもう戻ってくることはないのだろう。

戦場は無数の木が出て来た時点で悪化に傾いた。

戦車の砲撃が効かない。対地攻撃が枝で作った盾で防がれる。

量が増えれば死ぬことがあれど、一体の木を倒す為に対応できる戦車の数はあまりに少なかった。

処理が追い付かない。敵によって此方の数がどんどん削られている。

作戦で覆すには相手の勢いは正に怒涛だ。人類の築く防御策の悉くを真向から破壊し、津波が如くに此方を飲み込んだ。

故に範囲内の人間は死ぬ。人間は災害に勝てないものだから。

自然の暴威の前で、人間が出来ることは逃げることだけだ。

だから、自衛隊の備えはまったくの無駄に終わるだろう。

どんな破壊的方法を採用したとて、元のダンジョンが無くならないのであればちょっとした時間稼ぎにしかならない。

笑えない話だ。

一人の隊員は思う。これまでの訓練が、これまでの努力が、まったく何の価値にもならなかった。

このまま自分も他の隊員同様に殺されて敵の養分になる。

出来れば苦しまずに死にたいものだが、残忍な敵が優しい手法を用いてくれるとは思えない。

全身が恐怖で震えている。新人もベテランも関係無く、心を支配する圧倒的な絶望で身体を動かすのも億劫だ。

手に持つ銃が重い。敵を殺せない武器をどうして後生大事に抱えているのだろう。

捨てて今直ぐ逃げ出したい。

それが無駄だと嘲笑されても、隊員は今此処でなにもかもを放り捨てて逃げてしまいたかった。

気付けば、自身の目の前に二体の幼女が居る。

悲し気で、此方を心配しているような表情でゆっくりと歩み寄る様子に嘘は微塵も感じ取れない。

この小さな子供達が隊員を多く殺したにも関わらず、その見た目は実に天使めいた純粋さを持っている。

腰が落ちた。地面に尻餅をついた状態で、幼女達は徐に小さな腕を伸ばす。

その先にあるのは隊員の顔で、それが彼の死因となるのは明白。

手で払うべき筈の明確な攻撃行動を前に隊員は絶望で何も出来ず、それどころか奇妙な程に穏やかな表情を浮かべていた。

これで終わるのだ。これが自分の人生の最後なのだ。

人生は、楽しい時間よりも苦しい時間の方が長い。

そんな時間をずっと過ごすより、さっさと諦めて死後の世界に行ってしまいたい。

幼女は救済の天使なのだ。

そんな意味不明な思考にまで至った段階で、隊員は目を閉じる――――さぁ殺せと、内心で呟いて。

「…………?」

だが、待てども待てども幼女の手は隊員の顔を触らない。

困惑した隊員がゆっくりと瞼を開くと、その先に幼女の姿は無かった。

え、と声が漏れる。慌てて周りを見渡し、初めて自分の視界の範囲内にモンスターの姿がただの一体も確認出来ないことが判明した。

どういうことだと立ち上がる。

生き残った隊員達も同様に何が起きたのかの確認に動き出し、直ぐに一体の小鬼を見つける。

小鬼は苦しみの声を発していた。醜い呻き声で胸元を抑え、その場で転げ回っている。

やがて小鬼の口から青白い光が出て行き、残された肉体は即座に砂へと変じた。

「なんだ……?」

青白い光に目を向ける。

靄のようにも見える存在は急速にダンジョンに向かい、最後には穴の中に戻っていった。

しかも光は一つ二つではない。数えきれない程の光がモンスターの肉体から離れ、一斉に穴に向かっている。

肉体はどんな個体でも関係無しに崩れ落ち、木だけはゆっくりと砂になっている。

人類側が何かした訳ではない。

一気にモンスターを砂に変えられる兵器があるなら既に使っている筈で、広範囲にまで至るのであれば人類側もただでは済まされない。

鍵は恐らく、あの光。

光が抜けることでモンスターが死んだのなら、それは即ち光こそが弱点だ。

解らないのは抜ける過程である。弱った訳でも、何か毒物を与えた訳でもないのに死んだのであれば、もっと別の要因があると見るべきだろう。

「あっちに何かあるのか――」

穴はモンスターが持っていた光によって照らされている。

それでも底が見えない闇しかないが、全てを食らうが如くに光を飲み込んでいた。

大量の輝きは、それでも元の穴が大きいことで五分程度で全て消える。

しんと静まり返る静寂は恐ろしいまでに耳に痛く、思わず隊員は耳を手で押さえた。

司令部からは常に詳細を知らせろと命令が飛んでくる。

だが、先程の光景を一体どうやって説明しろと言うのか。

襲われていたと思えば、急に身体から光が離れてモンスターが死んだ?

その光は穴に入っていって、今の所何の変化も起きていない?

頭でもおかしくなったのかと言われるだけだ。

結局報告書を書かなくてはいけないのだから正直に記すつもりだが、一体世の中の何割がこの光景が実際に起きたと信じるだろう。

解らない、解らない、何もかも意味不明だ。

世界は何時からこうなった。世の中は、どうしてこんなに摩訶不思議になってしまったのか。

当たり前のように過ぎてくれればそれで良かったのに、人々の理解の速度を遥かに上回って非常識がやって来てしまった。

これから世界はどうなるのだろう。そんな不安が胸を占める。

絶望する必要が無くなったとて、安心するにはまだ早い。

恐らく自衛隊はこれから調査の為に内部に突入し、事態の根本を探る事に意識を集中することになる。

最初は無人機あたりでも流すだろうが、あんなにモンスターが出て来たのだ。

内部が広く、更に電波を遮られてしまえば有人による調査に即座に切り替えられる。

大量の死人が出た。ほぼ壊滅とも言って良いダメージは、回復するのに長い時間が掛かる筈だ。

上層部は穴の状況を何よりも知りたい。

こんなにも損耗しているが、あちらは一軍人が死んだとて大して感慨に耽りもしまい。

馬車馬の如くこき使われるのは見えていた。

隊員は溜息を吐き、不安と共に装備の確認を開始する。

若干の歪みがあれど武器が大丈夫であるのを確認して死んだ隊員の所まで向かい、静かにドッグタグを外した。

出来れば全員分のを回収したかったが、それは流石に難しい。

何せ小鬼や小動物が何処かに投げてしまった場合、見つかる確率は低いのだから。

事態は進まない。

停滞した穴の雰囲気は不気味で、警戒の為に距離を取って死体を弄る。

死んでいった仲間は碌な末路を辿っていない。

身体の何処彼処が無くなっているか、齧られ放題になっているか、養分となってミイラ擬きになっているか。

気分の悪くなる臭いを気合で耐えつつ、心中でこれで勝負は終わったのかと無視したい疑問を内心で口にした。

それはきっと、全隊員が思ったことだろう。

どうか終わっていてくれと願いも抱き、その日は何の変化も見せることはなかった。