軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

高校生34 日本の混迷

家具が次々に無くなる。

人も続々と住んでいる地域から離れていく。

一週間が過ぎ、一ヶ月が過ぎ、更に時間は容赦無く安穏を削る。

安心は金で買えると誰かは語った。しかし実際、どれだけ安全策を講じようとも不安は次から次に湧き出て止まらない。

日本政府は該当の地域の封鎖を始めた。警察や自衛隊を動かし、穴から五十メートル離れた地点でぐるりと囲む形で緑のフェンスを張り巡らせる。

日本に発生するであろう穴は中国の約半分程度。決して囲えないサイズではないが、全てを囲むには数ヶ月単位で必要となるだろう。

住民は全員が即座に追い出され、出て行く人間は次の場所を決める時間も与えられずに少量の金を持たされた。

不満は山程に蓄積され、政治批判は過去最高だ。もう少し上手いやり方は無かったのかと散々に剣を向けられる様をネットで見るが、個人的にはそれも致し方ないように思える。

日本政府も必死だ。

出来る限界ギリギリを突き詰めていった結果として今があり、俺としては何も渡されずに無慈悲に放置されると予想していた。

数年前から解っていればもっと準備はしていただろう。それをしなかったのは何も知らなかったからで、そもそも俺がもっと前に予言しておけば時間はもう少し確保出来たかもしれない。

俺にも剣を向けられる理由はある。実際、もっと早く教えてくれとコメントで言われることはあった。

だがアカウントを動かして謝罪だけはしない。

だってそれが無ければお前達に時間的猶予も無かった。突発的災害に何の準備も出来ずに飲み込まれ、批判している何割かはそのまま穴の先でお陀仏になっていただろう。

忘れるなかれ、お前達が生きていられるのは俺が教えたからだ。その先が辛くとも、死にたいと思っていないのであれば猶予があるだけ僥倖である。

「寒い……」

学校に登校する人間は目に見えて消えていっている。

教師や関係者も居なくなり始め、自習の時間も否応無しに伸びる一方。

この調子では学校の運営そのものが難しくなり、実際近々学校そのものが停止することが決められていた。

既にプリントでその旨は伝えられている。俺の時には起きなかった学校停止は、今後の学歴に多大な影響を与えるだろう。

こうなるくらいならさっさと転校した方が学歴に穴が生まれなかったかもしれない。特に高学歴の維持を目指す家であれば今頃叫び声の一つでも上げていただろう。

季節は冬の半ばに突入していた。三年生時のイベントは、その殆どが実行されずにいる。

校外学習も、体育祭も、文化祭までも今年は無い。引率する教師が足りておらず、今は大量の人間を受け入れる余地が学校には残されていないのである。

自由な時間の方が増え、勉強が嫌いな人間は現状に満足していた。

体育館もグラウンドも監督役が居なくなり、各々が自由に過ごしている。俺も自習以外は鍛錬に時間を費やし、よく小森が一緒に居た。

別に仲良くなった訳ではない。彼女曰く、俺のやり方を真似た方がきっと良いとのこと。

だが俺よりも完成されていない彼女では息が切れるのも早い。荒い息を吐いて体育館で大の字になって横になる回数が多く、俺は彼女を放置して自身を突き詰めていた。

休憩時間になれば互いに家の状況を話し合ったり、彼女経由で根岸の話を聞いたり。正直興味も無い話も多かったが、何も話さないよりは気まずさは生まれないだろう。

大学に進学したという根岸は、今は大学へ行くことが不可能になっていた。

俺達の学校よりも件の大学は東京に近く、そもそも穴の範囲内に収まってしまっている。根岸は学校からの説明で登校は不可能だと知らされ、現在は家族揃って避難先を探していた。

「おはよ」

「ああ」

寒さに震えながら登校すると、既に数少ない席の一つに小森が座っている。

彼女は俺の姿を見やると相貌を僅かに緩ませ、気軽な挨拶を送ってくれた。

彼女は自分の隣の席を指で差し、苦笑して俺は隣の席に座る。暫く雑談に興じていると、今度は咲が教室に入ってきた。

「さっちゃん、おはー」

「あ、おはよう」

小森と咲の関係は、最初に会った頃よりも薄くなってしまったと思う。

別に双方で喧嘩があったとかではない。単純に咲の方が勉強に目を向け過ぎて、一緒に遊ぶ回数が激減してしまったのだ。

折角の学生生活。どうせもう遊ぶ暇は無くなるのだから、遊べる内に遊んでおけとも思う。

家族からは今も厳しくされているようだが、それで青春を灰色にするのもいかがなものか。俺は彼女が接触してこなければ後は好きにして構わないのだ。

追い詰めて追い詰めて、それで自暴自棄になられても困る。嘗ての未来通りにしたいなら、彼女は彼女らしくいてもらわねばなるまい。

俺と咲の視線が合う。申し訳なさを滲ませた笑みに、俺は頷くだけに留めた。

「……」

その様子を小森が無言で見つめているのが解る。

咲は小森の前に座り、勉強道具を机の下に仕舞って振り返った。

「盛ちゃん、今日の昼休みに時間ある?」

「ん? 勿論あるよ。最近は暇具合も加速しているからね」

「勉強はしないと駄目だよ。どうなるにせよ、私達は一応学生なんだから」

「解っちゃいるんだけどねー。それで身が入るかどうかは別問題じゃん?」

二人の会話に硬さは無い。

なんだかんだ、二人は友達同士だ。俺と居るよりも明るい調子の小森に咲も綺麗な笑みを浮かべ、まるでちょっとした百合畑があるように幻視してしまう。

未来では咲の傍に小森は居なかった。そもそも、未来で小森がどうなったのかが俺には解らない。

死んだのか、何処かで生きているのか。

少なくとも冒険者として有名になってはいなかった。一般人として何処かの会社に所属して暮らしていたのなら、行方を知るのは完全に不可能だろう。

根岸についてもそうだ。今ですら離れている彼女だが、そちらも未来情報を探っても行方は解っていない。

未来で見えているのは咲と桜の二名のみ。誰も彼もが有名になれるとは思っていないものの、それでも行方が判明していない二人の今後は少し不安だった。

俺達三人はそのまま自習と授業を行い、昼休みになれば二人が何処かに消える。

俺は上達した手製の弁当を楽しみ、脳内でダンジョン発生当日の動きを考えておく。

家族としてはさっさと避難したいだろうが、交通機関は未だに麻痺一歩手前だ。何ヶ月も経過して対応し切れていないのは、穴の範囲に駅や線路が含まれているからだろう。

範囲内は問答無用で封鎖されている。駅や線路も例外ではなく、潰された道をどうやって迂回するかを駅の経営者達は考えなければならない。

レールの変更、ダイヤの修正、そもそもの人員配置。工事もすることを考えると、素人でも大変な未来が見えてくる。

加えて、今も経済を回さなくてはならないのだ。一度ストップして修正が済むまで待ってくれとは言えず、故に避難する人間と職場に向かう人間がぶつかり合っている。

通勤ラッシュも目じゃないだろう。トラブルの頻度もこれまでの比ではない。

駅の治安は最悪に近付いている。だからこそ俺達も無理に避難することが出来ない。命を守る為に逃げるのに、逃げる道中で命の危機になんぞ会いたくもない。

だが、これが年を跨げば話も変わってくる。いよいよ断行しなければならない時、その瞬間までこの事態が改善されないのなら当日に両親と離れる手はある。

――そうだ。俺は当日、両親が心配するのも覚悟でダンジョンに向かう。

ダンジョンから敵が溢れてあちらこちらに四散してからでは遅い。それよりも早く、最速で冒険者となってダンジョンを攻略する。