軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

高校生32 最後の文

苛立ちに任せての突発的な行動だったが、それは俺にとって確かな充足感を与えた。

思えば、何をするにも学校に通う時間が俺を束縛していたと今なら確信することが出来る。

体育館やグラウンドで鍛練を積むことが出来る今、他に時間を割くことも容易。周りからの目は明らかに向けられるようになったが、今更仲良しこよしをする気がない身として話しかけられても普段ならしない無視でやり過ごした。

周りからの評判は間違いなく悪くなっているだろう。だがそんなもの、残りの日数を思えばまったく問題ない。

俺自身が問題を起こさねば内申点も響かないのだ。三年までに築き上げた根暗であれど真面目な生徒という事実は短期間では早々崩れない。

過ぎていく時間は加速度的だ。毎日のルーチンワークにナイフや服を買うようなイベントが挟まると、一日が実は十二時間だったのではないかと錯覚してしまう。

特に春は一瞬で過ぎた気がした。いつの間にか季節は夏になり、夏休みに突入した俺は家族を連れて幾度となくキャンプに行っている。

名目は野宿になった場合だが、不安が蔓延る世の中で暗くなりがちな気分を吹き飛ばすにはこの定期イベントは実に効果的だった。

母親は家でニュースをよく見ている。SNSはやっていないので携帯を見る回数は少ないが、近頃は良いニュースが流れる回数自体が少ない。

テレビも穴の内容を報道した方が視聴率が取れると解っているのだろう。専門家を複数人呼んだ上での討論や、官僚達の向き合い方を頻繁に地上波に流していた。

父親の方は仕事に影響も出ている。扱えていた商品が扱えなくなっていたり、会社の存続の為に扱わざるを得なくなった商品もあるという。

具体的には保存食だ。海外製の保存食も様々な形があるそうだが、運営しているオンラインショップではやはりこの手の長期保存可能な品がよく売れている。

どちらも状況の変化に表面上は何ともなさそうではあった。俺の前でも何時も通りに過ごしてくれて、けれどストレスは普段より増していただろう。

だからこそ世俗から切り離された自然の中で時間を忘れて過ごせるのは癒しになった。

両手 で 火を起こし、手作りの椅子と机を広げて、釣りが出来れば釣りで、そうでなければ家族で揃って食材を持ち込んで調理して。

テントはあったが外でハンモックを付けて昼寝をすることも多かった。虫が多いので虫除けを使う必要はあったものの、外で寝るのは中々に寝心地が良かった。

夏休みの課題とも格闘しつつ、人生最後になるかもしれない日々に俺は終始笑いっぱなしだ。

学校で話す小森達とも深い関係ではないので遊びに誘われることもなかった。気を遣う必要がないのは非常に楽である。

「そろそろ……か」

夏休みが終わり掛けのある日。

俺の前には一枚の紙がある。過去に中国の予言をしたのと同様の手順で最後の大予言を投稿するつもりであり、書くべき内容そのものは既に黒い字で書かれていた。

後はこれをスキャンしてデータを携帯に移し、アカウントに流すだけだ。

これを投稿しても普段の投稿は終わらない。最近はあまり話題にされないものの、今でもこれを求めている層もいる。

きっちりあの日を迎えても情報が欲しい人間は数多居るだろう。今後も影響力を発揮するのであれば投稿し続けた方が良いに違いないが、しかし予定日にはきっちり消すつもりだ。

消えた直後に日本には災厄が訪れる。此方を気にするのは後回しになり、一瞬だけ話題になっても他の情報に埋没していく筈だ。

いずれは全員の過去になる。次の世代ではそんなアカウントがあった事実すらも忘れ去られると考えていた。

だが、と脳裏に思う。

このアカウントもそれなりに長い。思い入れも実は少しはある。

このまま消してしまうのも何だか悲しい。どうせ無駄でも、何かを残したくもあった。

とはいえ大きなことは言えない。出来ることは精々、周りを巻き込まないで未練みたいなものを最後に吐露するくらいか。

予備の紙を取り出す。書く内容を暫く考えて、幾度か腕が止まりながらも己の心情をそこに書いた。

元々、あのアカウントを作ったのは危機を知らせて自分達で準備させようと思ってのこと。

日々の予言は信憑性を上げる目的でやってきたことで、今では別にやらなくても構わなかった。

しているのは最早義務感だ。後は心証を下げたくないからか。

兎も角、あのアカウントに俺はしっかりと感謝したかった。これがなければ何も始まらなかったかもしれない。

「有難う」

画面を見ながら呟いて、直ぐに恥ずかしくなった。

自分で自分に感謝をするなんて、まるでナルシストだ。髪を掻いて画面を消して、小銭を手にコンビニに駆け出した。

スキャンされたデータを手に、元の紙は何度も破ってゴミ箱に捨てる。これで母親が見つけても何が書いてあるのか解らない。

ついでに飲み物を幾つか買っておいて、自室で再度画面を開く。

アカウントの編集画面で先ずは一番上に表示されている画像の強調表示を解除。既に今日分の投稿は終えているので、後はこの二つ分の画像を一つに纏めて投稿する。

指はスムーズに動いてくれた。かなり覚悟のいるような内容だった筈なのに、もう色々投稿した所為で麻痺しているのかもしれない。

一度投稿すると反応は一瞬で百を超えた。

コメントも爆発的に増加していき、その全てが混乱を伴うものだ。

当たり前だが、現在でも事態は何も解決していない。にも関わらず更なる爆弾がやってくると言われたのだから、彼等の混乱は推して知るべしだ。

投稿した直後から爆発は爆発を生み、有名無名に関わらず影響は波及する。

大部分は予言の内容についてだった。新聞やテレビ各社にとっては寝耳に水であるが、直ぐに暫定でもニュースになって世の中に流れるだろう。

暫くは放置だ。向こうが勝手に動き、直ぐに打開策を模索する。俺がするのは後は日々の投稿だけだ。

「桜の奴がどんな反応をするのかが不安だな……」

現状、俺の詳細を知っているのはサンライフだけだ。

実は他にも知っている人間が居るかもしれないが、此方が把握していない以上はサンライフのみに視線を向ける他ない。

幸い、サンライフの本社は東京にはなかった。東京近郊に出現する穴とは干渉しないので会社自体が無くなることはないものの、彼等からすれば今後仕事量が増えることは想像に容易い。

大騒ぎをするのは確定であるものの、そことは間接的な繋がりしかない桜がどんな行動を取るのか。

俺の今後の決定には彼女の動きも含まれてくる。なんだかよく解らない関係性になってしまったが、理性的な行動をしてほしいものだ。

その日の夜。

夕飯を食べているとテレビのニュースで今日投稿した内容について報道がされる。

的中率ほぼ十割を誇るアカウントが最後の大予言と称した内容は、日本そのものの危機についてだった。

発生場所、発生日時、何も知らないままであった場合の被害者数。

そしてこれまでは載せることのなかった大予言の今後の影響。報道局側は最後であるという部分に注目していたお蔭で勘付かれなかったが、俺の投稿は少し日本を贔屓していた。

政府はこれから対応を考えるとのこと。その内容によっては、今の内閣が崩壊する程の批判を受けることになるだろう。

『――また、SNSでは現在該当のアカウントの最後の文面で様々な憶測が述べられております』

「ん?」

取り敢えずこんなものかと思っていた俺の耳に、予想外の内容が飛び出る。

予言が終わった後の最後の俺の吐露。その最後の一行に、何だか大量の人間が食い付いているそうだ。

そんなに慌てるようなことがあるかと考えるも、ニュースキャスターは酷く真剣な表情でその最後の一行を口にした。

『私はこの日、元の時間に戻るでしょう。後は英雄に任せたいと思います』