軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

高校生18 別れの欠片

学校に通っている以上、学校行事への参加は強制である。

咲の浮気があっても、根岸の告白があっても、勿論桜の正体バレがあっても日常としてのイベントは容赦無く訪れる。

仮病でもすれば参加は避けられるかもしれない。両親に心配されるから却下だが。

それに何度もイベントを休めば流石に教師の覚えも悪い。未だ明確な問題行為を起こしていないのだからこのままごく普通のぼっち男子としての地位を明確なものにし、誰の記憶からも薄い存在のまま卒業してしまいたいのだ。

その為に出来ることとして、実力の偽装はマスト。学力の成績そのものは本気でやって中間くらいであるも、肉体的な能力はやっぱり同年代と比較すると高くなる。

運動が出来る男子は注目を受けやすい。ましてやそれが部活動に参加していないのであれば最悪勧誘が来る可能性も否めなくなる。

この教室には俺と同じくらいの立ち位置の男子もそれなりに居る。違いがあるとすれば陰キャ同士でグループを形成していることであるも、それが目立っているとは言い難い。

彼等の肉体はお世辞にも優れてはいなかった。学生生活の大半を自分の趣味に費やした結果、どうしても基本的な能力に片寄りが出てしまう。

だが俺にとっては都合が良かった。体育の授業は彼等に合わせるだけで平均を維持してこれたし、陰キャ男子がそれなりに居たお蔭で俺自身が変に目立つこともない。

このクラスは俺にとって正に理想だ。三年間クラス替えが無いのも俺にとっては嬉しいものだった。

デメリットとしては咲と同じ空間で過ごすことになってしまったことか。時折グループ学習で一緒になった時の気まずさは流石に心苦しいものがある。

「…………」

で、何故俺が唐突にこんな事を脳内でつらつらと語っているのか。

それは正に今、このぼっち男子学生の地位が揺らぐような出来事が目の前で起きていることだ。

時間は昼。皆が昼食で賑わう、恐らく最も学生生活の中で楽しい時間だ。

友人同士が机を繋げて弁当を広げ、和気藹々とした談笑と共に青春の一ページを構築する。

深まる友情、あるいは恋情。大人になってからではあまりすることの出来ない日々は、未来を知るからこそ貴重極まりない。

だけれど、今日ばかりは彼等の視線は一つに集中していた。

接続された四つの机。椅子も四脚置かれ、内の一脚に俺は座っている。

残りの三脚に座るのが全て男なら注目度も低かったろうが、そもそも俺にそんな友人は居ない。座っているのは全て女性であり、内二名は気まずい間柄であった。

自作の弁当をもそもそと食いながら目を動かす。

俺の隣には茶髪のお下げが愛らしさを与える小森。向かい側には咲と根岸が座り、この一帯のみ美の平均がとんでもないことになっている。

俺が居るお蔭で接近することすら出来ない程になってはいないものの、さりとて触れることそのものが難しい。

女の花園と呼ぶには些か綺麗過ぎる環境は、正に俺にとって毒も同然だ。

こうなった原因に俺は心当たりが無かった。いきなり三人が俺の前に集まり、無言で机を繋げて自前の弁当やコンビニ飯を広げていったのだ。

その間に会話らしい会話も無く、まるで此方から始めてほしいと言っているかのようだ。

「あの……この集まりは一体?」

仕方なし。始めなければ終わらないのだから、俺は雨の中打ち捨てられた犬の気分で会話を始めた。

途端、飯を食べる腕を止める三者。揃って停止する動作は、下手なホラー作品よりもホラーだ。

「んー、私はさっちゃんとの付き合いで来ただけなんだけどぉ……」

小森は俺に半目を送っていた。察しろと語る目は俺に何か隠し事があると見抜いているようで、しかし本当に何を語れば良いのかが此方には解らない。

無言を貫くと、小森からは溜息が送られる。なんだか失望されたような雰囲気に思わず眉が寄った。

「……この前の女の子について、聞いても良い?」

「女の子……ああ、あれですか」

根岸の静かな声。

確認をするかの如き言葉に、漸く彼女達が聞きたかった内容を理解した。

ただ理解はしたものの、そんなことを気にする理由は解らない。確かに表面上は仲の良い雰囲気作りをしたが、あんなものは客観的に見れば友達くらいの位置だろう。

「ちょっと前に助けた子ですね。足に障害があって、車椅子で街中を移動していたみたいなんですが車輪を破損してしまいまして。近くに家族が居るようだったのでそこまで背負っていったんです」

迷いなく断じたことで咲の表情は明るくなった。俺が昔に人助けをしていたからこそ彼女はこの嘘に騙され、また実際に助けられた根岸も成程と納得した。

この中で唯一微妙な表情をしたのは小森だ。彼女とは知人以上の関係になっていないので俺の人柄は今の生活の中で知っていくしかない。そして、ぼっち男子である俺が誰かを助ける人物には見えなかったのだろう。

「それ本当? 車を見た感じ、なんかお金持ちそうだったよね。あの娘」

「……流石にお金目当てで女性と付き合おうとかは思わんよ」

「どうだか。根岸先輩の告白を断ったみたいだし」

小森の棘は思ったより鋭い。

好感度なんて稼ぐ気も無かったので致し方ないかもしれないが、心外も心外である。

しかもその件に根岸の告白まで絡ませてきやがった。口止めをしていないから誰かに話が伝わっても不思議ではないと思っていたものの、俺絡みの話が解るのはこの二人だけ。

根岸のルックスは学校の世界でなくても高い部類に入る。特に悪意ある行動をされた訳でもないので、告白されればこの学校の男子の殆どは受けることだろう。

それを受けずに断ったのは、俺の理想とするところにルックスが無いと小森は考えたのかもしれない。

咲もまたその点は気にしているのか、視線を俺に固定している。浮気をした側であるのにこうまで近付いてくるのはいかがと思うも、取り敢えず今は誤解の解消に勤しむことにした。

「はぁ……。俺はそもそも女性と付き合う気が無い。将来は一人暮らしをする気だしな」

「付き合う気が無いって……」

「――――恋愛はもう懲り懲りなんだよ、マジで」

最後に疲れ切った溜息を添えて、俺は野郎特有の強がりの気配を消す。

表情も態と暗くすることで過去に恋愛でトラウマを持っているかのような雰囲気を作り上げ、小森は俺の顔を見て口を噤んだ。

俺のルックスはこの場の誰よりも劣る。それで恋愛は絶対に出来ないとは言わないが、出来る確率は極端に低いだろう。

仮に俺を好きになってくれる誰かが居たとして。付き合う過程に何も無い筈がない。

普通のカッププルですら様々なトラブルと遭遇するのだ。俺という人間であれば嘘告や、それこそ彼女が寝取られるような事態が起きても不思議じゃない。

だから小森は口を噤んだ。もう一人の根岸も目を見開き、見事な驚愕を露にしている。

咲に関しては表情を見なくても解った。彼女とは別れたものの、どうにも本人は別れる気が無いようで数回は話している。

その度に俺は気にしていない顔をしていたが、この瞬間にそれが強がりであることを咲は解ってしまった。

これで彼女が過去の男を気にしない女だったなら良かったのかもしれない。さっさと我妻に走って未来と同じ結末を迎え、俺とは無関係な関係に落ち着いてくれれば安堵も浮かべられた。

がたり、と隣に座る咲が席を立つ。

そのまま無言で彼女は小走りで教室を出て、何処かへと向かった。一瞬だけ見えた姿は背中を向けたもので、彼女の表情は伺えない。

「そういえばさっちゃんって、立花君の元カノだったよね?」

小森の何気ない確認の言葉を、俺は頷くだけで終わらせた。