軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者95 オタク系暗殺ボーイ

予想外に強気な発言に、にわかに期待感が出てくる。

本人の内心はどうであれ、今眼前には近い実力を有した者達を潰した人間が居る。

そんな相手とこれから戦うのに、自信がないしか弱気な台詞が出てこないのは少しおかしい。

もしかすればと、密かに胸が高鳴った。この思いを抱えたまま俺達は共に向かい合い、山田はこれまで通りに開始の合図を宣言する。

今回は俺の方が先に前に出た。暗殺者は基本的に真正面からの戦闘に弱く、能力による身体能力の底上げも純戦士と比較すると少ない。

速度の上では俺は絶対に勝てる。弾かれたように飛ぶ肉体を動かし、短刀で胴体目掛けて横に放つ。

この程度で死にはしないだろうと幾分か加減しての一撃は――――けれど彼の身体をすり抜けていった。

「!?」

「……こちらです」

声が背面から聞こえる。

落ち着いた声音はこうなることを予測しての発言で、即ち絶対に先手を奪えると確信していた。

俺の耳が短刀の走る音を捉える。彼の滑るような一撃に音は少なく、戦闘中であれば聞き逃していても然程不思議ではない。

咄嗟に振り返り、刃に刃をぶつける。

甲高い金属音は無く、ただただ木同士がぶつかる鈍い音がするだけだ。

「確かに切ったと思ったのですが」

「ええ、その通りですよ」

互いが互いに短刀を弾き、勢いに合わせて後ろに下がる。

訳知り顔をすることは出来ないので疑問を口にするも、向こうはただただ同意するだけだ。

実際、あのままなら直撃していた。単純な速度でも暗殺者は速い部類で、それが持ち味の一つでもある。

逃げるにせよ追いかけるにせよ、足の速さはこの職業で命だ。

しかし今回、俺と彼の間には明確なレベル差が存在する。如何に暗殺者のステータスで俊敏が高くとも、基礎の段階から違うのであれば話にならない。

ならば回避されたのは、ステータス以外の要因。暗殺者の能力は大体把握しているので、今のレベルで回避出来る筈がないのは解っている。

つまり技能だ。そして彼は、暗殺者と相性の良い技能を有しているのを俺は知っている。

再度接近する俺に、相手は馬鹿正直に真正面から戦闘を仕掛けない。

回避していきながら足で俺の靴を踏んだり、武器がぶつかり合えば力を抜いてこちらのバランスを崩しに来る。

前面よりも背面への攻撃を重視しているのは解るが、かといってそれで後ろを警戒していると前面に刃を立てにきていた。

単純に、やり辛い。これまでの分の戦闘を確り見ていたのもあるのだろう。

こちらの動きにワンテンポ遅れながらも対処し、回避が不可能な攻撃が来るとあの技能で無効化してくる。

彼が他の面々よりも戦いが上手いのは確定だ。本人がやるかどうかはさておき、リーダーとして立ってくれれば安定感のある策を考えてくれるのではないだろうか。

「――――っふ」

全能力上昇。

久方振りの能力は、間があったにも関わらず関係無しに俺を強化する。

最初期に取得した方だけを使ったので倍率自体は低いものの、それでもリズムを狂わせる程度の強化にはなる筈だ。

加えて、抑えていたステータスの分を解放。他の三人と比較すると加減をする必要はない。

決まっては怪我は必至になるだろうが、そんなことは向こうも承知済みだ。

世界が一気に後ろに吹き飛ぶ。この部屋の距離など俺にとって全て射程圏内であり、相手の目が見開いていく様子もスローに認識していた。

短刀で胴を突く。右足で地面を蹴って左に強引に回避した。

更に詰め寄り、太腿を刺すように刃を落とす。当たったところで少し痛いで済む筈なのに、彼は何が怖いのか大袈裟に後ろに跳ねた。

だが――それは悪手だ。

「っぐッ!」

下がったところで追撃が来るだけ。何も持っていない左腕で彼の顔面を殴り、そのまま床に沈める。

だが、彼は直ぐに起き上がってみせた。鼻から血を垂れ流しながらも目は真剣なままで、なんとかこちらの動きに合わせようとしているのが肌で解る。

良いと、素直に思った。故に更なる強化を自身に施す。モンスターに向ける程の強化倍率は、既に死人を生んでもおかしくない程だ。

一歩を踏み込み。跳ねた直後には彼の顔がある。

もうこの部屋の規模では端から端まで一秒も掛からない。一応は大人数向けに設計されているのだが、それでも強くなっていけばこんな感じになってしまうのだろう。

顔面を掴み、壁に投げ飛ばす。クレーターどころか今度は壁を破壊する可能性もあった行動は、しかし望都の思いもよらない行動で被害を最小限に留めた。

短刀を投げ、それが壁に当たる。

彼はその短刀の柄に着地し、刃を潰しながら流れる衝撃を可能な限り発散させた。壁には罅が走ったものの、それでもこれまでの被害の中では最も少ない。

されど、彼の武器はこれで消失した。頼めば次の武器を山田が持ってくるだろうが、本人はそれをせずに拳を前に突き出す。

本人は実戦のつもりらしい。真剣になり過ぎていると思って、無意識で笑ってしまった。

「山田総隊長。武器をお願いしても構いませんか?」

「ええ、勿論です」

掃除道具入れのある場所の近くには大量の模擬戦用の木製武器が置かれている。

その内の一本である追加の短刀を山田は手に持ち、顔を赤くしている望都に投げ渡す。

「望都君。今回はデータ取りですよ。本気の殺し合いではありません」

「……はいぃぃ」

優しく山田は告げたものの、本人からすればそれもダメージなのだろう。

余計に顔を赤くしている様子を見るに、今日はもう真面目には出来まい。武器を出してくれたところ悪いが、これで本日の模擬戦は終了だ。

自身の短刀を地面に置いて両手を挙げる。降参の合図に山田は頷き、終了だと宣言した。

「そこまでにしましょうか。データとしては十分でしょうし、これ以上部屋を破壊されては堪りません」

「あはは……すいません」

望都を傷つけないように山田は適当な理由を言ってくれた。

そこに乗っかる形で俺は笑ってみせたのだが、榊原の半目の眼差しに即座に謝罪に移行する。

周りを見るに、クレーターが出来ている上にマットの破損が目立つ。更に四人の内三人が気絶状態となり、起きるまでに時間も掛かるだろう。

病院送りにする程ではないとは思うものの、もしも深刻なダメージがあれば回復薬を飲ませるつもりだ。

その際の費用は全て俺持ちである。そこは仕方がない。

「望都君。彼等が起きるまで立花君と様子を見ていてくれないか。私達は私達で書類と格闘しなければならないからね」

「あ、了解です」

「望都君」

家に帰るにはまだ早い。それまで望都達と交流をしろとの山田の言外の言葉に視線で了承していると、榊原が望都に声を掛ける。

ただでさえ顔の赤い表情が更に赤くなり、視線は右に左にと高速で泳いでいる。

挙動不審な反応に榊原は苦笑しつつ、そこには触れずに手を差し出した。彼女としてはこれからよろしくといった意味合いなのだろう。

「暫くは一緒の部隊だと思いますから、これからよろしくお願いします」

「あ、は、は、はい!」

吃りながらも両手で彼女の右手を包みこんで何度も頭を下げる様子は、正にアイドルを応援するファンそのものだ。

そして二人が去り、トレーニングエリアには俺と望都達が残される。

終了時間が来るまで幾分か時間はまだあるものの、彼は榊原と握手した両手を凝視していた。

「ファンなんですか?」

「ひぇ!?」

なんとなく疑問に思って質問してみたら、想像以上に変な反応を返された。

そのままどんな原理か一歩も歩く動作をせずに距離を取られる。まるでコントな光景に、なんとなく笑いたくなった。