軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者89 現場の声

「……驚きの速さでしたね」

「流石に自分もちょっと驚いています」

榊原が責任を取る発言をして、はや一ヶ月。

リハビリ期間は想像を遥かに超える速度で短縮され、肉体は既に嘗てとまったく遜色ない。

いや、それどころか異世界の戦闘時と同じ領域まで肉体が引っ張られた。実際にレベルも上昇し、今では三十の後半だ。

正直素直に喜べない成長速度ではあるが、それでも強くなれたのだから良しと思おう。

それに、入院している間に良いことが一つあった。なんと頭は冴え渡り、関節の激痛が今はまったく感じないのだ。

神の眼の負担が消え去っている。ナラに会う前の状態に戻り、健常な肉体には感動を覚えた。

勿論、それをしたのが誰かなんて言うまでもない。レベルが上がったとはいえ自前の性能では負担を抑えきれず、今回ここまで改善したのはソアの影響があるだろう。

なんだかんだ、俺達は手を結んだ。

運命共同体となったからこそ、互いが互いに出来ることをしている。肉体の面では俺が担当し、スキル関係の管理をソアがしてくれているのだろう。

恐らく同じ魂だから出来る芸当だ。他人が真似をするのは奇跡的な確率が無ければ不可能だ。

ステータスに表示されている技能の文字化けも今は晴れた。ただ、二つあった筈の文字化けの文章が今は一つだけになっている。

名を――――『見』

まさかの漢字一文字。他にもっと良い名前がないのかとツッコんだものの、認識したこの能力は根本的に俺の知る技能のどれをも凌駕している。

これが神の眼に繋がる能力なのは間違いないが、かといって名前が違う意味が解らない。これはこれで一度ソアと話すしかないと思うものの、あの時の会話から会うことは出来ないでいる。

これはナラも一緒だ。彼女とは近い内に話す機会があると内容を整理していたのだが、退院の日を迎えても接触は無かった。

もしや内側で俺を見ていないのかと思ったが、だとしてもここまで何もしないのはいっそ不気味だ。

これが嵐の前の静けさではないことを祈りつつ、病院入口で迎えてくれた榊原の言葉に苦笑を返す。

「きっとレベルが上がった影響でしょうね。何故か三十を超えていましたから」

「あの男の撃破が肉体に影響したのでしょうか? 精神はあの人になっていましたが……」

「こればっかりは解りませんね」

手持ちの荷物も無く、榊原が持ってきた私服を着て横並びに歩く。

色は前と一緒だが、デザインが微妙に異なる服装は直ぐに自分に馴染んだ。携帯をズボンのポケットに入れ、倒れる前の荷物は現在俺の家に置かれている。

榊原には俺が倒れた後の出来事を話していない。説明が難しいのもあるが、あまりに俺の中核的な話をしていたからだ。

自分がまさか異世界の人間の魂を持っているだなんて信じられない話で、想像以上に前世の自分は大変な経験をしていそうだった。

彼の出自は明らかになっていないが、あの場所で貴族や王族が大人しく生活していたとは思えない。

そもそもオッジの話ではソアは貧民街で暮らしていた。生まれは普通よりも劣悪だったと思うべきだろう。

そんな人間が王族を呼び捨てにしている。しかも関係値も深い。

何かあるのは間違いなく、マリーザが狙っているとの台詞から即座に頭には恋愛の二字が浮かぶ。

頭ピンクになった覚えはないが、ナラも俺については奇妙な程に友好的だった。それはソアが転生したからだと考えれば頷ける話であり、同時に二人の仲が極めて良かったことを表している。

咲の一件で俺の恋愛話はもう終わりだと思っていた。

でもまだ終わりではない。今度は異世界の三人に巻き込まれる形で俺も参加することになってしまった。

いい迷惑なのはそうだが、同時にこんな関係が前世であったから俺は咲と別れたのかもしれない。

意味不明だとは思うも、因果が巡ってきたみたいなオカルトも今は無視出来ない。

病院の外に出ると、既に一台の車が止まっている。銀色のバンの後部座席に乗り込むと、運転席には一人の冒険者が座っていた。

「お久し振りです、立花さん」

「ッ、山田さんですか!」

顔だけこちらに向けた極めて筋肉質な男性は、俺に向かって小さく微笑む。

山田・哲。重戦士を目指す現在の冒険者達の纏め役だ。ネット情報そのままなら、彼もギルドの実働部隊を指揮する為に現場に多数赴いている。

注目も多く、彼を中心とした面子は非常に防御に比率を置いているらしい。攻撃よりも防御を取る姿勢は、生存第一であると簡単に解る。

当然だが、こんな場所に居て良い人材ではない。運転手が欲しいなら他の人間を宛がうことだって出来た筈だ。

「どうしたんですか? お仕事が忙しいと思いますが……」

「何を言っているんですか。立花さんが復帰するというのに、呑気に間引き作業なんてする訳がありません。私達は貴方に行くべき道を教えてもらえた生徒のようなものです」

「は、はは。それは言い過ぎですよ」

「いいえ、言い過ぎだなんてことはありません。実は冒険者になった直後は全能感で天狗になりそうだったんです。その鼻を圧し折ってくれたからこそ、堅実に攻略を組み立てられています」

「会った時から真面目だったと思いますが……」

山田の台詞に内心首を傾げる。

山田は初見時から真面目一辺倒な印象しか覚えない態度をしていた。それは俺がギルドに入社してからも変わらず、寧ろ有頂天になりそうになっていた瞬間というものを見たことがない。

雑談を交わしている間に榊原が助手席に座り、車は緩やかに発進を始めた。

俺が入院していた場所からギルドまで車で約一時間が掛かるらしい。その間に俺はギルドの実働部隊の中でトップの山田から二年間の育成結果を聞くことになった。

「先ずは立花さんに直接色々教えてもらった方々ですね。主な構成が自衛隊と皇宮警察に所属していた面々ですが、彼等が基本的には我がギルドのメイン戦力になります」

何処よりも先に冒険者活動を始めることになった彼等は、それだけに経験の数が頭一つ抜けている。

元々の荒事の経験も段違いで存在する彼等は、モンスターを倒す工程に慣れるまで然程時間は掛からなかった。

更にダンジョン攻略を進める過程で技能に目覚めたり、派生職に転換した者もこの中では一番多い。

今では新人を率いる立ち位置となっているのが殆どだ。この辺は意識を失う前の時と変わらない。

ただ、俺が寝ている前よりも彼等の需要は急激に膨れ上がっている。特に彼等の攻略スタイルが世の冒険者のトレンドになると言われた時は口を開けてしまった。

「次にギルドが始まったばかりに入った新人達についてですが、やはり狙ったお陰で活躍している者が多いです」

ギルドの開始直後に入った者達は、建前上は俺と同期となる。

元から有望株を優先して取っていたこともあり、彼等は現在積極的にダンジョンに潜ったり開発や調査を行っていた。

世間で注目されているのは、やはり戦闘に偏っている者達だ。

明確に派手な行動をするからこそ、インパクトの欲しい記者は挙って彼等を記事にする。

その中でも特に注目されている人間を山田と榊原に聞くと、彼等は暫く悩んだ後に五人の人間の名前を挙げた。

氷室(ひむろ) ・ 神那(かんな)

佐東(さとう) ・ 和沙(かずさ)

品野・咲

我妻・玲

古畑(こばた) ・ 堂山(どうざん)

「この五名は突出して有名ですし、実力も高いです。少々性格に難がある者も居ますが」

「まぁ、それは解っていたことではあります」

「はい。そして、今は彼等も散らばる形で固定メンバーを作っています。……そこで立花さんにご相談なのですが」

暫く溜めて、山田は俺に言葉を送った。

唐突な相談内容に俺の瞼は自然と開かれ、咄嗟に言葉が出てこない。

彼等の相談はギルドを運営していく上で必要なことだ。必要なことだったが、それでも病み上がりがすることではない。

車はゆっくりとギルドを目指す。到着した時、俺の次の仕事が待ち構えていた。