軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者53 時間稼ぎ

「はぁ……」

意識が浮上して、上体を起こした俺は溜息を吐く。

現実でも胃が重たくなるような出来事が起きたのに、非現実的な空間でもストレスが溜まってしまうような出来事が起きてしまった。

マリーザの妹。黄金国家のもう一人の姫。現状、簡単に接触可能な唯一の異世界人。

彼女は自身を幽霊と語った。誰かに殺されたと告げ、しかしその割には天真爛漫な様子だった。

彼女の本心は解らない。敵に神の眼の情報を与えれば、その力を異世界人に向けるとは思わなかったのだろうか。

見た目通りの精神年齢なら解っていなくとも不思議ではないが、王族としての教育を受けている彼女が解らないとは考え辛い。

なら、他殺から考えて復讐に走っているとも想像することは出来る。ナラが死んだのは異世界だろうし、理不尽な死を経験したのであれば対象に恨みの一つや二つ抱えていてもおかしくはない。

ただ、まぁ。そんな彼女の感情なんて今の俺には関係ない。

重要なのはこれから。俺の肉体に変な力が刻まれていると解った以上、この中身を知っておかねばどこでどんな異常が身体に及ぶか解らない。

彼女は爆散すると語っていた。なら、内側から力が溢れて破裂になるのだろうか。

デバフで何とかなれば良いが、彼女の言っていた内容を思い返すあたりその解決方法に意味はないのだろう。

十全に使えるようになる為にレベルを上げる他ないとしたら、最速で経験値を集めていかなければならない。

今の自分は十三。どれだけのレベルがあれば十分かは解らないものの、凄い力だと仮定すれば五十でも不足だ。そして現状、レベルを五十以上にする手段はこの世には存在しない。

「詰みか……」

レベルアップは単純作業では上がらない。

経験値は相手との戦闘に慣れていけばいく程に少なくなっていき、最終的には一つ上げるだけでも膨大なモンスターと戦っていかなければなるなくなる。

効率的にレベルを上げていくならば新しいダンジョンに積極的に挑戦していくべきであり、次に出て来る場所はアメリカだ。

そこからスパンを短くしてダンジョンは出て来るようになるものの、俺が知る全てが出揃うまでには何年も時間を必要とする。その間にナラが制御を放棄するのは簡単に想像出来てしまった。

今はまだ、俺自身に異常はない。動ける内に動いてしまおうと携帯を探して――唐突に青い画面が顔を出す。

『そっちが無視する気なら絶対に無視出来ないようにしてやるからね!? 泣いて謝るまで許してやらないから!!』

「お前もメッセージを飛ばせるのかよ……」

あの状態でシステム画面に干渉することまで出来るのか。

驚きがあると共に、今後も何か送ってくるような気がして気分が悪くなった。

画面を消し、携帯を開いて老人にメールを送る。異世界について新情報を手に入れたと伝えると、五分も掛からずに着信が来る。

異世界関係はどんな情報でも重要だ。加えて俺が痛い目に合う可能性が高くなっていると知れば、あちらも対策を講じなければならないと考えるだろう。

「もしもし」

『昨日の今日で早いな。 どんな情報だ?』

「ああ。 マリーザの家族情報と、どうやら神の眼が思ったよりも危険な力かもしれないって部分が判明した」

『いきなりとんでもない話が出たな。 よし、話してくれ』

予言の確認方法については説明する気が無いので、ナラについては世界同士が繋がった瞬間に俺に憑いてきた幽霊だと老人には伝える。

年齢、容姿、マリーザとの関係を伝え、少し前のシステム画面への干渉も教えると驚かれた。

幽霊が現実に存在したのもそうだが、それが俺に憑いていたのだ。悪影響がないかを確認してきたので、その流れで神の眼で解った部分も説明していく。

能力部分については全貌は一切不明だが、よほどのレベルじゃないと使えないこと。

現状、俺は神の眼を制御出来ている訳ではないこと。その所為で将来的に肉体が弾けて死ぬとまで語り、老人は俺の最後の言葉に黙った。

『解決方法は、やはりレベルを上げることか?』

「それしかないだろうな。 憑いてきた奴は自分なら抑え込めると豪語していたが、敵かもしれない相手に任せるなんて命綱を握らせるようなものだ。 間に合わないなら悪いが……」

『解っている。 ……しかし、レベルの問題は難しいな』

複数のシステム画面が開かれる。

その悉くが子供染みた文句ばかり。死んだ時点で精神年齢が固定化されているのか、あの時に見た姿に相応しい罵詈雑言が視覚に入り込んでいる。

顔を逸らしても画面が回り込んできてしまい、瞼を閉じなければこの五月蠅さは消えないだろう。

「一応、稼ぎに使える場所はある」

『それは私も考えていた。 丁度相手からも打診が来ているし、一石二鳥ではあるな。 ……だが、良いのかね』

「なりふり構ってはいられないだろう。 利用出来るものは何でも利用した方が良い。 少しでも遅れて死んでしまったでは、家族に顔向け出来ない」

『――よし、では中国に行く手配をしておこう。 準備が済むまでに入社式があるから、それが終わり次第向かってもらうぞ』

「ああ、解った」

通話が切れる。

携帯のカレンダーで入社式の日取りを確認すると、まだ少し間があった。

神の眼をナラ以外の方法で抑えるなら、やはり方法はレベル上げだ。適性レベルが判明するまでダンジョンで経験値を稼ぎ、一気に基礎能力の底上げを狙う。

中国のダンジョンは高難度ではないが、日本のダンジョンよりは難度は高い。加えて中国全土に今はモンスターが広がっている状況なので、道中で経験値を稼ぐ機会も多くなるだろう。

ただ、中国から日本に救助の打診は来ている。いや、打診どころか最早要請だ。恥も外聞も捨てて助けを求める姿は、今この状況でなければ嘲笑ものだったろう。

自衛隊も派遣される筈なので、実際の戦闘回数は多くはないと個人的には想定している。

本番は中国ダンジョン。そこの内部は完全にギルドが攻略を担当するだろう。中国側も今この瞬間に甘い汁を吸おうとすれば国際批判の対象になるし、少なくとも馬鹿な真似は謹んでくれる筈だ。

懸念があるとすれば、中国の冒険者か。あれが純粋に協力を結んでくれるなら兎も角、反日に傾いているようでは望み薄だ。

最悪は殺人も考慮に含めなければならない。その時実際にやるのは誰になるかと聞かれれば、きっとギルドのメンバー達だ。

「――――?」

不意に、視界がブレた。

物が二重に見え、頭に重く響くような頭痛が襲い掛かる。

先程まではまったくの健康体だったのに、こんな風に突然おかしくなるのは変だ。

「……お前か」

前方のシステム画面を睨む。新しく開かれた青い画面には一行のみの文が書かれ、少し負荷を掛けただけでこんな状態だよ?と煽られる。

立ち上がってみるが、ブレた視界で身体のバランスを保つのは難しい。

平衡感覚が崩れ、少しでも気を抜けば直ぐに倒れてしまいそうだ。頭痛も動けなくなる程ではないが、かといって無視出来ない程度には酷い。

およそ不快感を得やすい形で負荷を与えてきたナラに殺意が湧く。殺す気は今のところ無いようだが、俺がずっと拒否をしていたら負荷はますます酷くなっていくだろう。

『少しは僕と話をする気になった?』

「黙れと言っている。 敵と会話を楽しむ趣味はない」

『だから僕は――――』

「お前の意見はどうでもいい」

青い画面が文章を表示していくのを途中で止めさせる。

相手はどうやら本当に俺と会話をしたいだけみたいだが、その要望をどうして聞かなければならないのか。

ナラは勘違いをしているのだろうか。子供の姿で必死に訴えれば少しは耳を傾けてくれるだろうと。

もしもそんな風に考えているのなら、見当違いも甚だしい。

「俺が、ギルドが、お前達を敵だと認識している。 それを覆せる判断材料が見つからない限り、対話を求めたって意味が無い。 ……お前の言葉には価値が無いんだよ」

そうだ。有益な情報はやはりどうしても欲しい。

しかし、それが敵から齎されたとしたら真実であるかどうかを先ず疑わなければならない。

供給された情報を鵜呑みにするなど言語道断であるし、真実の証明が成されなければ敵の言葉は虚言に成り下がる。

故に、話をしたって意味が無い。価値が無い。今のナラに存在理由は皆無なのだ。

「解ったら画面を消せ。 鬱陶しい」