軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

冒険者50 貴方の価値

「一度繋がった道は不安定極まりません。 我々が一人二人通るのであれば問題は少ないですが、大人数が通るとなりますと途中で繋がりが途切れてしまうのです」

転移の弊害は長距離を移動させる際の不安定さだ。

失敗すれば地面や壁と同化することになり、ランダムで跳ぶようであれば最悪深海やマグマに着いてしまう可能性がある。

それを回避する為、冒険者をマーキングするのは合理的だ。

最低限モンスターを倒せる存在が居ることが解り、さらに彼等が継続的に生活することが出来る土地もある。

移住しても慣れる期間を短く出来れば、最初期の国民の不安感も短くなるだろう。現地の人間と協力関係を結び、共にダンジョンと化した自身の世界を管理していけば全滅を免れる。

彼女の説明は解り易く合理を取っていた。聞けば聞く程理性的であり、感情面を排すれば最適解かもしれない。

が、しかし。人類は人類である限り合理だけでは納得出来ない。

感情も理性も頷かせて初めて、人間は完全に受け入れることが出来る。

「貴方達の事情は理解しました。 ……その上で言いましょう。 貴方達は許されない行為をしたと」

「……」

山田の言葉は、此処に居る冒険者側の総意だ。

如何に異世界人が絶滅の危機に陥っていたとしても、そんなことはこちらの世界では関係無い。

彼等の勝手な転移が多くの人間を殺したのは事実。中国の事も考えれば、その被害は今も拡大している筈だ。

こちらからすれば迷惑どころではない。意思を持った災害が襲い掛かってきたようなものだ。

彼等の終末の獣が、俺達にとってのマリーザ達である。ならば、この暴挙を俺達は許容してはならない。

未来が酷い有様になったのは、大元を辿ればその獣なのだろう。同情の余地自体はある。

けれど最初のダンジョン出現時に殺された隊員の遺族からすれば、マリーザ達を受け入れるのは断固として拒否する筈だ。

それ以外にもこの件で生活するのも難しくなった人間は居る。俺の家族だって、ダンジョンを止めなければ死んでいた。

彼等の手を掴むことは出来ない。するのなら、多くの人間に恨まれるのを覚悟しなければならない。

そんなのは御免だ。どうして酷い状況にした者達を助けなければならない。寧ろ逆に、彼等を駆逐した方がこちらの世界の為にもなる。

尤も、全てを決める権限は俺達にはない。山田も己の意思を伝えたのみで、別に彼等を滅ぼすと伝えている訳でもない。

――ただ、この会談で良い方向に動くことはないだろうと誰もが確信した。

「貴方達の境遇は同情します。 しますが、そんな身勝手な行動で大多数の人間が死にました。 ……もしも国の存続が不可能な程の被害を受けていたら、我々は貴方の話を聞いた瞬間に攻撃をしていたでしょう」

「……では、我々を受け入れないと」

「解りません。 今のところ、この場に決定権を持つ人間は居ません。 全てをその人間達に伝えた上で、彼等が今後の関わり方を決める筈です」

山田はあくまでも、公人としての立場で居続けた。

他の隊員も思うところはあったが、今だけは矛を完全に晒してはいない。ここで俺が文句を言えば、公人としての彼等の活動が無駄になる。

怒りはある。あの日に死んだ者達の中には、彼等の友人も居たかもしれない。無慈悲に殺された友を思えば、彼女達に憎悪を向けるのも自然だ。

それを抑えろと俺は言えない。両親が殺されれば、俺とて復讐に走るのは間違いなく。

両者の関係は非常に悪い。いや、世界同士で関係性は悪いだろう。戦争の火種になるには十分な理由だ。

それでもだ。それでも、俺達は争いをしたいのではない。話し合いの上で向こうが自分の国に帰ってくれたのであれば、俺達も手を出す真似はしないと宣言出来る。

まぁ、こんな宣言は所詮ギルド内のみだ。政府が転移の技術を手にして別世界に関与しないとも限らない。こればっかりは厳重な管理が求められるだろう。

とにかく、この場で出せる意見は全て出した。

俺達は彼女達を認めず、彼女達は謝意を示した上でこの世界で滞在することを許してほしい。

結末はまだ不明だが、否の方に政府は話を寄せていくだろう。受けたダメージを考慮すれば、他国も否定に走る筈だ。

唯一の懸念はマリーザ側の世界で手に入る資源か。ダンジョンを戻せるのであれば、それを欲する者達が賛の方に国民を誘導しかねない。

国益の前では人の死は小事にされる。大きな世界の中で死体が一つ二つ増えたところで、彼等には何の影響もないのだから。これは他国でも一緒だろう。

「解りました。 そちらの仰ることは正しい。 私達にとってはどれだけ死活問題であっても、貴方達にとっては関係の無い話。 恨むことなどする筈もありません」

「ありがとうございます。 では、話はこれにて終わりでよろしいでしょうか?」

「勿論です――――ああ、いえ、少しよろしいですか?」

「なんでしょう?」

マリーザはこちらの姿勢を素直に受け取った。

まだ決まっていないのもあるだろう。完全な決裂を生んでいない以上、敵対的な態度をここで取っては俺達のヘイトを余計に引き出すことになる。

あくまでも、彼女達は自分も被害者だと言外に語っているのだ。それを卑怯と呼ぶか、仕方ないと呼ぶかは人それぞれだ。

だが最後、彼女は俺を見ながら告げる。山田は疑問符を付けながら言葉を返し、その瞬間に嫌な予感が脳裏を駆け抜けていった。

それを言わせてはいけないような、言ってしまえば全てが終わるような、漠然とした不安が胸を満たす。

マリーザはたっぷりと間を空けた。こちらをじっくりと眺め、碧眼の瞳が静かに輝く。

「――――神の眼。 まさか貴方に再会できるとは思いませんでした。 どうしてそちらに居るのかは定かではありませんが、どうやら私達の間には強固な縁があるようですね」

マリーザの視線は俺に集中していた。

だからか、隊員の誰もが俺に視線を向ける。一体どういうことかと皆の瞳が語るが、俺とてどうして彼女があんなことを言ったのかは解らない。

俺と彼女に面識なんて無かった筈だ。それは未来の俺でも一緒で、どれだけ記憶の海を泳いでも彼女と会っていた事実を引っ張り出せる訳がない。

「どういうことでしょうか? 私は貴方を知りませんが」

「……成程、貴方は今そういう状態なのですね。 であれば、まだ貴方は自身の本質を自覚していないのでしょう」

「何を……」

言っているのか。

そう言いそうになった時、マリーザが指を一本立てる。

「では一つ助言を。 未来を見ることだけが貴方の本領ではありませんよ」

彼女は敢えて詳しい部分を避けた。俺に漠然とした部分のみを伝え、そして信頼の宿った目で優しい声を奏でる。

「これをどう受け止めるのかは貴方の自由です。 ですが、歴代の神の眼と貴方では違うのを私は知っています。 どうか、幸いな道をお選びください」

彼女は俺に優しかった。声も瞳も、世界同士の関係などまったく無視して本音を話しているように聞こえる。

マリーザは話すべきを話し終えたのか、未だ歪んでいる空間に振り返って進んでいった。

彼女の姿が消えていき、その後に騎士達が順番に彼女の後ろを進んでいく。

俺には質問する機会を与えられなかった。きっと大声で呼び留めても彼女は振り返ってはくれないだろう。

空間の歪みが戻っていく。円が逆に回り始め、元の状態にまで戻った。

「……」

沈黙が辺りを支配する。最後の最後に落された爆弾の所為で直ぐには次の言葉を発せなかった。

ただ一つ解るのは、マリーザの登場によって俺の生活は更に普通から遠退くのだということだ。