軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十八話 屍将のドロップアイテム

〈嘆きの墓所〉の主……ナイトボーン改め、スカルロードを倒した。

通路が大きく揺れ、床や壁に亀裂が走る。

この〈 夢の穴(ダンジョン) 〉の崩壊が始まったのだ。

俺はスカルロードの魔石を拾い上げる。

こんな状況だが、回収を忘れるわけには行かない。

「【Lv:85】の魔石なんて初めて見たぜ……いくらになるんだか」

ケルトが歩み寄って来る。

「そうだな……だいたい、一千万ゴルドには届かないくらいか?」

魔石の値段はレベルで決まる。

綺麗に比例しているわけではないが、だいたい何レベルでいくつなのかは覚えている。

「いっ、一千万……!?」

驚きのあまり、ケルトの声が裏返っていた。

「こいつだけで一人頭二百五十万ゴルドって……パッチワークの魔石も二つあるのに。 大規模依頼(レイドクエスト) の報酬が霞んじまうな。お前にしろルーチェにしろ、大金掴んで平然としやがって」

「えへへへ……」

ルーチェが誤魔化すように笑う。

正直、一千万ゴルド程度のドロップは、俺達は慣れているのだ。

本当にルーチェ様様である。

「あっ……」

崩れてほとんど粉になっていくスカルロードの死体を傍らに、盾が残っていることに気が付いた。

いや、そのままではなく、少しばかり小さくなっている。

削った骨を組んで作られ、中央に頭蓋骨の添えられた、不気味なデザインをしていた。

――――――――――――――――――――

〈屍将の盾〉《推奨装備Lv:85》

【防御力:+88】

【市場価値:五千五百万ゴルド】

屍の将軍の盾。

強い怨念を帯びており、生半可な攻撃を通さない。

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拾い上げて確認し、思わず「おっ」と声が出た。

ヒルデから巻き上げ……正当な決闘の対価としていただいた金額を、僅かに上回っている。

何なら上手く捌けば、これ一つで〈燻り狂う牙〉の〈 技能の書(スキルブック) 〉でさえ買えてしまう。

「〈夢の主〉はドロップしやすいにしろ、あっさりと出してくれやがるな……。さすが〈豪運〉持ちがいるだけはある」

「強引にトドメ刺しておけばよかったって思ってるんよ?」

ケルトの言葉に、メアベルが皮肉を刺す。

「あの化け物相手にんなもん狙ってたら、俺は今頃ここに立ってねぇよ……」

ケルトが気まずげに下唇を噛んでいた。

「だが、パッチワークのドロップも持ってったんだ。エルマには、酒くらいは奢ってもらわねぇとな」

「今確認したが、五千万ゴルドだった」

「ごごごっ、五千万ゴルドォ!?」

冗談めかして笑っていたケルトも、顔の色を変えていた。

「そっ、その悪趣味な盾っ! そんなにするんですか!?」

高額ドロップには慣れていたはずのルーチェも大慌てしている。

「できれば売りたくはないがな。さすがにレベル上過ぎて少し重いが……それでもこの防御力は魅力的だ。これで〈狂鬼の盾〉も卒業できる」

何せあちらは【防御力:+25】である。

いい加減に性能不足でせいぜい攻撃を受け流すのが限度だったが、これなら正面から受け止めてもダメージを大幅に軽減できるはずだ。

この世界では、レベルが足りない武器は重く感じ、扱い難くなる。

だが、それでもこの性能は魅力的だ。

一応ルーチェに相談はするが、できればこんなアイテム、絶対に手放したくないというのが本音だ。

「しかし、さすがに俺ばかり申し訳ないな。ラストアタックを取ったとはいえ……。いくらか分配しようか?」

「そういうの込みで回復役には手当てが出てるんよ。それにウチなんて、スカルロードとの戦いではMP不足でほぼ手助けもできなかったのに、レベルが四つも上がってしまったし……むしろ申し訳ないくらいなんよ。あの狩人さんには、恵んであげる義理なんてないし」

メアベルがまたばっさりとケルトを刺した。

す、少しくらいは労ってやってもいいと思うんだが……。

周囲が白い光に包まれて、壁や床が消えていく。

そろそろ外に飛ばされる時間だ。

「また分配のためにギルドで集まることにはなるけど、外に出たら、ひとまずこのパーティーはここまでなんよ。色々あったけど、お二人さんと組めてよかったんよ」

最後の最後までケルトを刺していく。

ケルトも立場上何も言えず、苦々しげな表情を浮かべていた。

「冗談なんよ。ケルトさんとも組めてよかった。もしも他の人だったら、きっと今頃スカルロードも倒し切れてなかったんよ」

メアベルがくすりと笑い、そう口にする。

「けっ、心にもねぇことを、腹黒僧侶が」

ケルトは顔を逸らし、頭を掻きながらそう口にした。

和やかな空気だが……大きな懸念点があった。

〈夢の主〉であるスカルロードを討伐し、〈嘆きの墓所〉は無事に消滅している。

〈 夢の穴(ダンジョン) 〉の異変の連続の正体も見えてきた。

だが……この事件を悪意的に仕組んだ人間が、まだ近くにいるはずなのだ。

俺達の身体も薄れていく。

気が付けば……俺達は、〈嘆きの墓所〉の入り口のあった、朽ちた墓場の跡に立っていた。

「どういうことだ……?」

「おいおい、先行して〈夢の主〉を倒しやがった奴がいるのかよ!? ルール違反だろ!」

状況を全く掴めていない冒険者がいるようだ。

「た……助かったのか? とんでもねぇ化け物が出てきて……全滅寸前まで追い込まれていたんだが。ア、アレを倒した奴がいるのか?」

血塗れの大男が、びくびくとした様子で話す。

直接スカルロードとぶつかったらしい。

俺は周囲を見回す。

六人……いなくなっている。

二十人だった冒険者が、十四人しかいない。

〈 夢の穴(ダンジョン) 〉の中で死んだ者は、外へと出て来られない。

遺体も〈 夢の穴(ダンジョン) 〉と共に消滅する。

だが、この場に増えた人間はいない。

〈 王の彷徨(ワンダリング) 〉を引き起こした人間がいれば、この場にいるはずだと考えていた。

レイドメンバーの中に紛れ込んでいるのか、スカルロード討伐前に外へ逃げてしまったのか、途中で命を落としたのか……。

「有り得ない……あの進化個体を、倒せた冒険者がいるのか……? そんな、一体誰が……」

カロスは狼狽えるように周囲を見回していた。

「俺のパーティーが倒した」

俺はカロスの背へと近づき、声を掛けた。

周囲の冒険者からどよめきが上がった。

カロスも驚いたらしく、目を見張って俺を見つめていた。

「君達が……! いや、君が、か! エルマ、君には特別なものがあるような気がしていたんだ。でも……まさか、私がどうにもできなかった魔物を、君が倒してしまうとは」

俺一人でやったような言い方はとんでもない買い被りだ。

他の三人が一人でも欠けていれば、手も足も出なかった。

「カロスもスカルロードと対峙していたのか」

「ああ……姿が見えてすぐ、他の三人ではどうにもならない相手だと踏んで、私一人で向かったんだ。ただ、恥ずかしながら、まるで敵わなくてね。逃げて他の冒険者に状況を伝えるべく動いていたんだが……急に〈嘆きの墓所〉が消えて、本当に驚いていたよ」

俺はちらりとヒルデへ目を向ける。

「師匠……本当に無事でよかった。オレ、師匠が死んだら、どうすればって……!」

「ヒルデは大袈裟だ……と言いたいけれど、今回ばかりは危ないところだった。本当にありがとう、エルマ。私の命は……いや、ここにいる全員の命は、君が救ったも同然だ」

カロスが俺の手を握る。

「今度またゆっくりと礼をさせてもらいたい。それに……君に、とても関心が湧いた」

カロスはそこまで言って、俺に顔を近づけ、声を潜めた。

「……今回の件ではっきりした。〈 夢の穴(ダンジョン) 〉災害は人為的に引き起こされたもので……ハウルロッド侯爵家が……最低でも、ギルドが関与している」

カロスはそれだけ伝えると、俺の傍から離れていった。

……これは、都市に戻ってから、またこの件について相談させてほしい、というメッセージだろう。

カロスも俺と同じ結論に到達していたらしい。

俺は改めて残ったメンバーを一瞥する。

……〈 王の彷徨(ワンダリング) 〉を悪意的に起こした人間が、この中に紛れ込んでいる可能性がある。

全体に喚起しようかと考えたが、俺は口を閉ざした。

相手のクラス、レベル……HPやMPの状態もわからないのだ。

対して、この場に残っている大半の冒険者は既に疲弊している。

この場で〈哀哭するトラペゾヘドロン〉の話を持ち出し、犯人捜しを行うのは危険すぎる。