軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十話 大事な話

「俺に会いたいって話だったらしいが、それはどういうことだ?」

「簡単にいえば、単に冒険者として興味が湧いたというだけなんだが。そうだな……しかし、ギルドであまり大声で話したいことではない。昼食がまだなんだ、付き合ってもらえるか」

「それは構わないが……」

俺はルーチェに目線で確認しつつ、カロスへとそう答えた。

その後、カロスに連れられ、酒場へと移動することになった。

カロスの顔馴染みの店らしく、店の奥へと通してもらえた。

「師匠、そんなにこいつらのことが気になっていたのか? ……実力はまあ、オレも認めるが」

ヒルデが忌々しげに口にする。

場の流れで、そのままヒルデがついてきていた。

「……ギルドであまり話したくないことって、なんのことなんだ?」

「最近、冒険者の都ラコリナでは、妙な魔物災害が頻発しているようだ。まだできて間もない〈 夢の穴(ダンジョン) 〉から魔物が溢れ出たり……滅多に起きないはずの魔物の存在進化が続いたり……。君達にはピンとは来ないかもしれないが、これは本当に異様なことなんだ。私はこれがただの偶然なのか、何か理由あっての偏りなのか、ラコリナ中の〈 夢の穴(ダンジョン) 〉を回って独自に調査していた」

思っていた以上にとんでもない話が出てきた。

元々、本来起こり得なかったはずのデスアームドの存在進化を受け、俺はそのことをこの都市のギルドに報告していた。

A級冒険者であるカロスは、既に似た違和感を抱いており、個人で〈 夢の穴(ダンジョン) 〉のことを調べて回っていたようだ。

「冒険者ギルドの方も、最近新しい情報を掴んでいてね。何かが起きようとしているというのは、どうやら間違いないことのようだ」

「それって……まさか、〈百足坑道〉の……」

「おや、知っていたか。優秀な冒険者は耳が早い」

やはりデスアームドのことだったらしい。

「実は私がこのラコリナに戻ってきたのも、少し〈 夢の穴(ダンジョン) 〉が荒れているようだと風の噂で聞いたのが元なんだ。ここ二週間近くずっと個人での調査を行っていたんだが、ある〈 夢の穴(ダンジョン) 〉の攻略に失敗してね」

「攻略に失敗? A級冒険者が……」

土地によって、出没する〈 夢の穴(ダンジョン) 〉のレベルの範囲は限られてくる。

冒険者の都ラコリナの周囲では、A級冒険者が攻略を諦めるような難易度の〈 夢の穴(ダンジョン) 〉は本来出没しないはずだ。

そんな高難易度の〈 夢の穴(ダンジョン) 〉がぽんぽんと出没するなら、その度に都市は壊滅の危機に晒されることになる。

「 魔物溜まり(モンスタープール) が発生していた。ああなったら、ソロパーティーではどうしようもない。私は現在、ギルドの方に 大規模依頼(レイドクエスト) を出すように提案している。私がそのレイドのリーダーになる、ともな」

魔物溜まり(モンスタープール) ……典型的な魔物災害の一つである。

通常の〈 夢の穴(ダンジョン) 〉では有り得ない数の魔物が溢れ出る。

〈マジックワールド〉でも特に恐れられていた魔物災害だった。

気が付くのが少し遅れれば、適正レベルの〈 夢の穴(ダンジョン) 〉でも簡単にデスペナルティ確定盤面に追い込まれかねない。

しかし、さすがはA級冒険者。

ギルドにかなり顔が利くようだ。

カロスは提案している段階だと口にしているが、既に 大規模依頼(レイドクエスト) が出ることを確信している口振りであった。

ギルド職員より、最前線で動き回っているA級冒険者の方が情報を持っていて理解も深いのは、ある意味当然のことか。

ギルドもそれをわかっているので、A級冒険者の言葉はしっかりと聞くようにしているのだろう。

「ただの 魔物溜まり(モンスタープール) だけならここまで焦って攻略する理由もないのだが、不安なのはその〈 夢の穴(ダンジョン) 〉もまだ新しく、本来なら魔物災害が発生する条件が整っていなかった……ということだ。あそこは森奥で崖に囲まれていて、稼ぎのために自発的に向かう冒険者も少ないだろう。後回しにしていればどんどん状況が悪化しかねない。そもそもの原因もわかっていないのだし、その調査と……最悪の事態への保険の意味も兼ねて、 大規模依頼(レイドクエスト) での早期踏破の必要があると考えた」

聞きながら、俺は不吉なものを感じていた。

やはりあのデスアームドの一件だけではなかったのだ。

冒険者の都ラコリナの近辺にて、魔物災害を誘発する何らかの要因があるとしか考えられない。

元々その可能性は考えていたし、ギルド長のハレインも同じ考えのようではあったが……。

いや、冒険者の都ラコリナだけならばまだいい。

「……もし今後世界規模で、魔物災害の頻度の上昇が起こるなら……この世界の人間の生息圏は、大幅に縮小することになるな」

本当にとんでもない事態だ。

俺もデスアームドの一件は警戒していたが、事態は俺が思っているより、遥かに恐ろしいことになっているのかもしれない。

俺の言葉に、ルーチェがぎょっとしたように身を引いた。

「さ、さすがに言い過ぎですよ、エルマさん。そんな……大袈裟です。に、人間の生息圏が、縮小するなんて……」

「少なくとも、この地の領主様と……それから私は、そうは考えていない。エルマと同様にね」

カロスの言葉に、ルーチェがさっと蒼褪めた。

しかし、本当に原因がさっぱりわからない。

魔物災害の頻出……それに該当するような、〈マジックワールド〉時代の仕様やイベントにも一切心当たりがなかった。

「と、少し話が逸れたが……この話を君達にしたのは、 大規模依頼(レイドクエスト) への勧誘のためだ。私が撤退した、 魔物溜まり(モンスタープール) の発生している〈 夢の穴(ダンジョン) 〉……〈嘆きの墓所〉。ここの調査と踏破に、是非力を貸してもらいたい。報酬の方はかなり期待できるはずだ」

〈嘆きの墓所〉……よりによって、アンデッド系か。

もしも大事になって都市が巻き込まれるような形になれば、本当に最悪の事態が起きかねない。

「まぁ……ここの冒険者ギルドが、ヒルデから五千万ゴルド巻き上げた君達を満足させられるだけの額を用意できるかはちょっとばかり不安だがね」

カロスがくすりと笑って、そう口にした。

ヒルデが顔を顰め、居心地悪そうに視線を落とした。

「どうしますか、エルマさん」

「普通に考えれば即決していいんだが……少し不安要素がな」

A級冒険者もついている。

あのヒルデに、ちゃんと引き際を教えられた魔剣士の師匠だ。

無茶はしないだろう。

ただ、この件は、どうにも不吉だった。

「……だが、それでも、俺は行きたいと思っている」

もし何か本当にこの世界に厄介なことが起きていれば……きっとそれを止められるのは、〈マジックワールド〉を遊び尽くした記憶を持つ俺だけだ。

俺にはそういう確信があった。

危険を遠ざけて放置していて万が一のことがあれば、取り返しの付かないことになるかもしれない。

「エルマさんがそう言うのだったら、勿論アタシも参加させていただきます!」

「ありがとう、二人共。明日、ハウルロッド侯爵様に面会することになっている。その後にまた詳しいことは話させてもらおう」

カロスが安堵したように笑みを浮かべる。

「師匠の頼みなら、オレも勿論参加する。久々だな……師匠の横で剣を振るのは」

「……ヒルデは別に、無理をしてこなくてもいいんだが」

「師匠!? オ、オレも、B級冒険者になったんだ! 外されるいわれは……!」

「今回の 大規模依頼(レイドクエスト) は慎重さが大事だから、突っ走られるとマズいことになりかねない。 魔物溜まり(モンスタープール) の対応に連携も大事になってだな……」

……実力以前に、性格として向いていない、といいたいのだろう。

師匠というだけあってヒルデのことをよくわかっている。