軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十八話 賭けの対価

「ふざけるな! オレ様は中止だと言ったんだ! 勝敗はついていない!」

決闘後、案の定というかヒルデは鍛冶屋の中で大騒ぎしていた。

「キサマが止まらなかったから、仕方なく降参すると言ったんだ!」

「仕方なく言ってるじゃないか」

あそこで止まったら有耶無耶にされるからこそ、俺は鋼の意思で決闘を続行したのだ。

「……あのですね、ヒルデさん。相手のスキルを見てからマズいと思って決闘の中止を要請するのは、正当な理由だとはギルドとしては認められません。双方の合意が必要です。立会人として呼ばれた以上、従っていただけないと我々も面子を失うことになります。ギルドとしてできる限りの措置を取らせていただくことになりますよ」

マルチダがヒルデへとそう説明する。

「そ、そんなことはわかっている! 今更決闘を反故にするような、みみっちいことをオレ様が口にしていると思っているのか!」

正にそうではなかったのか。

俺が疑問に思っていると、ヒルデが俺へと勢いよく頭を下げた。

「……いいか、エルマ。オレ様は中止だと言ったんだ。その点をこう、考慮して、どうにか二千万ゴルドにならないか? 三千万ゴルドはきつすぎる。キサマも冒険者ならわかるだろう?」

「み、みみっちい……。そりゃ気持ちはわかりますけれど……」

ヒルデの小さい背を見て、ルーチェが呆れたようにそう零した。

「どうしてもオレ様は、オレ様のレベルに見合った武器を手にする必要がある。上級冒険者一人の成長は、都市の危機を救い、魔物の被害者を減らすことにも繋がる。オレ様には手段を選ばず上を目指すだけの使命がある。エルマ、キサマも冒険者ならばわかるはずだ。確かにやり口がよくなかったことは認めよう。そこの鍛冶師にも迷惑を掛けた。二度とこうした真似はしないと誓おう」

「わかればいい。レベルに見合った武器が手に入らない、焦燥や苛立ちはわかるさ。俺もいくらでも覚えがある」

俺は大きく頷いた。

〈マジックワールド〉でも、欲しい武器が手に入らない、なんてよくあることだった。

一番プレイヤーがモヤモヤする時間であり、だからこそ欲しい武器が手に入ったときが本当に楽しいのだ。

そしてこの世界でのそうした感情は、ゲーム時代の比ではない。

これも俺自身が散々体感してきたことだった。

だからまあ、その言葉はわからないわけではない。

「そこでどうにか二千万ゴルドにならないか?」

「ならない。俺も金銭が大事だから、負けたらミスリルの剣を失う覚悟で賭けに乗った。それは良し悪しやお前の反省とは全く別の話だ」

ヒルデが力なく肩を落とした。

魂の抜けたような顔をしている。

俺も麻痺して来てはいたが、三千万ゴルドはなかなか大した大金だ。

一攫千金の冒険者で大成功して成り上がってきたヒルデが、新武器のためにしばらく必死に金を貯めてようやく集まるだけの額だ。

俺もそれを丸ごともらうのは気が進まないが、元よりそういう賭けなのだ。

自分が負けたから条件を変えてくれ、なんて甘えた提案は通らない。

ヒルデは自分が勝っていれば、容赦なくミスリル剣を持って行っていただろう。

「な、なぁ、坊主よ。今言うのは少し気が引けておったんだが……」

ベルガが口を挟んできた。

「どうしたんだ?」

「いや、この剣だが……市場価値は三千万ゴルドではないぞ」

「あれ? そうなのか?」

主材料の〈ミスリルのインゴット〉が二千五百万ゴルドだったから、その辺りの値段に落ち着くはずだと思っていたのだが。

「も、もしかして、紛い物だったのか!」

途端にヒルデが活き活きとし始めてきた。

「ま、まぁ、市場価値はいくらでも確認できるから、勝手に各々が確認すればいいが……」

ベルガが店の奥へと移動し、青緑に輝く剣を両手で持って戻ってきた。

美しい刀身だ。

これが今から自分のものになると思っただけでも気分が高揚してくる。

しかし、三千万ゴルドではないとはどういうことか。

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〈ミスリルの剣〉《推奨装備Lv:70》

【攻撃力:+46】

【市場価値:五千百五十万ゴルド】

強いマナの輝きを帯びた魔法剣。

高価な稀少金属であり、ミスリル装備を有しているだけで冒険者として一目置かれること間違いなし。

また、〈破壊の 刻印石(ルーン) 〉が埋め込まれている。

――――――――――――――――――――

攻撃力の上昇値と値段がとんでもないことになっている。

そういえば〈破壊の 刻印石(ルーン) 〉の分も上乗せしなければならない。

元より、ヒルデの値段交渉を突っぱねた理由の一つが〈破壊の 刻印石(ルーン) 〉の埋め込みであった。

すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。

「うっかりしていたな。ヒルデ、五千百五十万ゴルドだった」

「ごっごごごご、五千百五十万ゴルドォ!? ふざっ、ふざけるな! 払えるわけがないだろう! なんだその馬鹿げた値段は!」

ヒルデが顔を真っ赤にして怒る。

「こんなの素直に了承できるわけがないだろうが! お願いしますどうにか四千万ゴルドにしてください!」

怒るのか下手に出るのか、どちらか片方にはできなかったのか。

「そもそも払えって言われても、無理だからな! これ……ここまで来たら! 残念だったな! いち冒険者がぽんと五千万ゴルドも出せるわけないだろ!」

「一応B級冒険者の方にでしたら、お金を貸し出すことはできますよ。充分返済能力があると認められますから。二千万ゴルドともなると、担保になるものをいただいたり、行動を制限させていただくことにもなるかもしれませんが」

マルチダの言葉にヒルデの顔が真っ青になった。

赤くなったり青くなったり、まるで重騎士だな。

「ア、アタシ、ちょっと可哀想になってきました……」

「そうだな……俺もあれこれと言ったが、正直、少しお灸を据えておいてやろうというのが一番の理由だったからな」

ヒルデの良し悪しや反省は関係ないとは言ったものの、正直あれは嘘になる。

ひとまず鍛冶屋には迷惑を掛けられなくしておこうという考えがあった。

「百五十万ゴルド負けて五千万ゴルドで手を打とう」

ヒルデはがっくりと深く項垂れた。

「エルマさん、あの、それあんまり負けてない……」

「ルーチェは感覚が麻痺してきているぞ。百五十万ゴルドは大金だ」

「いえ、あの……そうなんですけれど、それはちゃんとわかってはいるんですけれど、えっと……」

〈死神の凶手〉のためにある程度金銭を抱えておきたかったのだが、その心配はしなくてよさそうだ。

とりあえず五千万ゴルドの余裕資金があれば、〈破れた魔導書堂〉のようながめつい婆さんが相手でも、最低でも交渉の舞台には立つことができるはずだ。