軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十七話 魔石換金

〈百足坑道〉の攻略が終わった後、俺とルーチェは冒険者の都ラコリナへと戻っていた。

ルーチェは警戒した様子で、周囲へと目を走らせていた。

ぎゅっと両手で握り拳を作っている。

すれ違った冒険者が、訝しげな目で俺達を眺めていた。

「……ルーチェ、その挙動不審はどうにかならないか?」

「きょっ、挙動不審にもなりますよぅっ! 前の〈百足坑道〉攻略で、あんなに稼いだんですもん!」

俺は苦笑してから、道の先にある冒険者ギルドの建物を眺め、目を細めた。

ひとまず魔石の換金のために向かうのだが、今回の目的はそれだけではない。

〈夢の主〉の存在進化は決して無視できる事象ではない。

〈百足坑道〉は出現して日の浅い〈 夢の穴(ダンジョン) 〉だという話だった。

だが、〈夢の主〉の存在進化は、多くの魔物や冒険者が犠牲になっていなければ、本来発生し得ないものであったはずだ。

そんな大惨事が発生していれば、ギルドで情報共有が起こっていなかったのはおかしい。

そのことは冒険者ギルドにしっかりと伝えておかなければならない。

俺とルーチェは冒険者ギルドへと入り、カウンター越しに受付嬢へと声を掛ける。

「魔石の換金を行ってもらいたい。それから、職員側の上級冒険者……できれば、ギルド長と話がしたい。とんでもないことが起きているかもしれん」

「はぁ……低レベルの都市ロンダルム出身のD級冒険者で、重騎士と道化師が、ですか」

受付嬢は、俺とルーチェの冒険者証へと交互に目をやりつつ、小馬鹿にしたようにそう零した。

「私から適当にお伝えしておきますよ。後がつっかえていますので、手短にお願いしますね」

「な、なんなんですか! そんな言い方しなくたっていいじゃないですか!」

受付嬢の態度に、ルーチェがムッと口を歪める。

「えっとですね……ここは冒険者の都ラコリナですよ。私達ギルド職員も、高名な冒険者達を輩出してきた自負がありますので」

受付嬢が呆れたように言った。

「む、むぐぅ……!」

ルーチェが頬を膨らませる。

「いや、いいんだルーチェ。俺に任せてくれ。冷静に話せば、わかってくれるはずだ」

俺は手でルーチェの反論を遮る。

「エルマさんがそう言うのなら……」

冒険者の都ラコリナの民は、自身の都市に誇りを持っており、プライドが高い。

それは俺もエドヴァン伯爵家で教えられていたことだ。

この都市を領有するハウルロッド侯爵家も、プライドが高く底意地が悪くなかなかの曲者であると、父アイザスから散々愚痴を聞かされた覚えがある。

高レベルの〈 夢の穴(ダンジョン) 〉が出るこの領地を上手く指揮して、莫大な利益を上げて地位を築いてきた傑物一族である。

「無理を言っていることはわかっている。失礼に受け取られたのであれば謝罪する。だが、まずあなたを説得する時間をもらいたい。今回の事件は複雑で、人伝てに説明して、簡単なこととして処理されることを俺は恐れている。もしかすればよくないことの予兆ではないかと……」

「我々としてはですね、気軽に田舎冒険者にギルド長を呼び付けられては、あまり気分がよくありませんね。ロンダルムの田舎ギルドと同じ規模で考えられては困ります。抱えている冒険者の数も、質も、動いている金額も、あなたが思っているよりも遥かに大きい場所なんですよ、ここは。一度の魔石換金で、数百万ゴルドを手にされるパーティーだって珍しくありません。とにかく、ギルド長は忙しい御方なので、面会の希望に応じることはできません。それは他のギルド付きの冒険者の方も同じことで……」

「べ、別に、都市ロンダルムも、エドヴァン伯爵領も、そこまで田舎ではないと思うんだが……! 確かにここがちょっとばかり発展していることは認めるが、そこまで邪険にされる覚えは……!」

俺はカウンターにずいと身を乗り出し、食い気味にそう口にした。

「落ち着いてくださいエルマさん! 別にエルマさんも、今となってはそこまであの家に愛着や未練もないのでしょう? ね? 冷静に、冷静に行きましょう!」

「わ、悪い、ルーチェ、そうだな」

いや、そもそも別に元次期当主としての愛着とか未練ではないのだが、事実としてエドヴァン伯爵領は田舎ではないのだ。

そう、別にこれは地元愛だとかではない。

ただ俺は、少し事実を口にしただけなのだ。

「先にこっちを出すべきだったな」

俺はデスアームドの魔石を、〈魔法袋〉から取り出して受付嬢の前へと置いた。

受付嬢の目の色が変わった。

「こっ、この大きさ……六十レベル……いや、もっと上の魔物の……!? こんなのB級冒険者の案件です。ほ、本当にあなた方が手に入れたのですか? とてもD級冒険者の討伐できる魔物では……」

「これは〈百足坑道〉を攻略した際、その〈夢の主〉から手に入れたものだ。あそこで妙な事態が発生していた。かなり死人が出ている可能性もある、できればギルド長に会わせてくれ」

「わ、わわ、わかりました、お話してみましょう。これはとんだ失礼を……!」

受付嬢がぺこぺこと頭を下げる。

冒険者は階級によって価値が全く異なってくる。

都市に齎す恩恵が大きく変わってくるためだ。

高レベルの〈 夢の穴(ダンジョン) 〉でアイテムや魔石といった資源をいくらでも回収してこられる上に、魔物災害への防衛にもなるためだ。

〈 夢の穴(ダンジョン) 〉によって発展してきたこのラコリナであるからこそ、上級冒険者を敬う価値観が強く根付いているのだろう。

「最初からこうすればよかったな。と……それから、こっちの換金も頼む」

俺は次々に、ミスリルゴーレムの魔石や、スマイル共の魔石を出してカウンターに並べていく。

こうして見るとかなりの量になっていた。

正直、今回は魔物討伐に躍起になり過ぎた。

強敵とのエンカウントが激しかったこともあるが。

デスアームドの魔石と合わせて、合計一千万ゴルドちょっとになる。

「な、な、な……なんですか、この量……? 本当に一度の探索で……?」

受付嬢は呆然と口を開けていた。

魔石換金だけで一度に数百万ゴルドを手にするパーティーも珍しくないと自慢げに語っていたが、さすがにこの量には驚いているらしい。

俺も本来は黒鋼装備を適当に回収して帰還する予定だったので、ここまで集めるつもりではなかった。

「金銭の準備に少し時間が掛かるかと思って、先に渡しておこうとな」

「こ、この額くらい、すぐに準備できますよ! 少々お待ちください!」

俺の言葉に、受付嬢は顔を赤くしてそう言い、そそくさと奥へと移動していった。

「ちょっと今の言葉、意趣返しが入ってませんでした?」

ルーチェがちらりと俺の顔を見る。

「そんなつもりはないんだがな」

それにルーチェを抱える俺達にとって、魔石換金の利益は二の次である。

アイテムドロップの方が莫大だ。

――――――――――――――――――――

〈毒蜈蚣の小刀〉:2800万ゴルド

〈ミスリルインゴット〉:2500万ゴルド

〈破壊の 刻印石(ルーン) 〉:2000万ゴルド

〈黒鋼ハンマー〉:460万ゴルド

〈黒鋼ソード〉:450万ゴルド

〈黒鋼ナイフ〉:430万ゴルド

〈黒鋼インゴット〉:400万ゴルド

〈デスアームドの魔石〉:420万ゴルド

〈ミスリルゴーレムの魔石〉:200万ゴルド

〈クライの魔石〉:90万ゴルド

〈スマイルの魔石〉:80万ゴルド×4

――――――――――――――――――――

今回得たアイテムの市場価値の総額である。

全て合わせると一億七十万ゴルドになる。

アイテムの方は、一部は売らずに武器として活用するつもりではあるが。

〈破壊の 刻印石(ルーン) 〉も、ひとまずは売らずに持っておくつもりである。

鍛冶師に頼んで武器を造ってもらう予定であるが、その際に埋め込んでおいてもらおう。

「すいません、魔石換金で一千万ゴルド今すぐ欲しいと仰ってる冒険者の方がいまして、準備してください!」

ギルドの奥から、先程の受付嬢の声が聞こえてくる。

「一千万ゴルド一括!? そうなると少し確認と手続きと書類の記録が……! その方、A級冒険者の有名な方ですか? でしたら略式にできますが……」

「D級冒険者です!」

「でぃっ、D級冒険者!? ちょっと、その方、この都市での活動実績はどの程度あるんですか?」

「とにかく早くしてください! ラコリナの威信が掛かってるんです!」

……何やら揉めている様子だが、大丈夫なのだろうか?

何はともあれ、魔石換金が終わったらギルド長との面会だ。