軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十四話 エドヴァン家との決別

「アイザス伯爵、これで認めてもらえるな?」

さすがに文句の付けようがないはずだ。

正面から戦い、武器を弾き、相手を昏倒させたのだ。

これでもまだ言い掛かりを付けられては何もできない。

「……ああ、そうだな。このギルドに不正はなかったらしい。確かに……〈夢の主〉を討伐できるだけの実力はあったようだ」

アイザスは重い口を開いた。

散々冒険者ギルドと俺に言い掛かりを付けていたため、撤回するのに気が重いのだろう。

元より自尊心の高いアイザスのことだ。

酷く苦しげな表情を浮かべていた。

せめてマリスが勝てばまだ格好はつくと考えていたのかもしれないが、彼女が戦闘不能の状態であることは火を見るよりも明らかであった。

何はともあれ、これで引き下がってくれそうな様子であった。

引っ込みが付かなくなったアイザスが往生際悪くまた言い掛かりを付けてくるのではないかとも身構えていたのだが、さすがにその心配は不要だったようだ。

元々、アイザスは俺に敵意があったわけではない。

あくまでも『伯爵家の名を持ち出していた』と判断しての尋問が目的だったのだ。

マリスとは違い、最初からこの模擬戦自体に乗り気ではなかったようだった。

追い出した自分の息子とギルド職員の前で赤っ恥を掻く形になったとはいえ、さすがにこれ以上騒いで恥の上塗りをするつもりはないらしい。

アイザスはマリスの刀を拾い、気を失っている彼女を背負った。

その後、アイザスは強張った表情で俺を睨み付ける。

何か物言いたげに口を数度動かした後、ぐっと噛み締め、俺へと背を向けようとした。

「父様」

俺はアイザスを呼んだ。

アイザスが足を止め、俺を振り返る。

「……十五年間、育てていただきありがとうございました。あの日は気が動転しており、別れの言葉もロクに口にできなかったので。母様にもそうお伝えください」

俺は頭を下げた。

アイザスは目を見開き、じっと俺を見つめていた。

数秒間沈黙した後、彼は再び俺へと背を向けて歩き始めた。

返事はなかったが、これでいい。

元々期待していたわけではない。

ただ、自分の中でケリを付けておきたかった。

「あ、あのっ、待ってください、アイザス伯爵様!」

ルーチェが声を上げた。

俺はルーチェの声に驚いた。

アイザスは傲慢で冷酷で、プライドが高く、気も長い方ではない。

大人しく去ってくれているのだから、下手に声を掛けて呼び止めるべきではない。

「過去に何があったのかはアタシには知りませんけれど……エルマさんに、謝ってください! 一方的に言い掛かりを付けて、理不尽な要求を押し付けて……それで自分が間違っていたってわかったら、黙ってそのまま立ち去るんですか? どうして『ごめんなさい』の、たった一言も言えないんですか?」

アイザスの顔が険しくなる。

アイザスは親族であろうが、自分に口応えする者は一切許さなかった。

俺だって、些細なことで厳罰を受けた記憶は一度や二度ではない。

そしてアイザスは、平民に一方的に説教をされて見逃せる程寛容ではない。

身分や立場の差異に厳格な性分なのだ。

「ルーチェ、いいんだ。それ以上は……」

「赤の他人ならまだしも……だって、伯爵様は、エルマさんの実の父親なんでしょう? いくらなんでも……そんなの、冷たすぎる……何より、寂しいです。あなたを見ていると、エルマさんが、あまりに不憫です……」

ルーチェが肩を落とし、消え入りそうな声でそう漏らした。

アイザスはほんの少しの間だけ黙っていたが、すぐにルーチェへと背を向け、再びギルドの出口へと向かっていった。

「おい、小娘」

アイザスは扉に手を掛けたとき、動きを止め、俺達に背を向けたままそう口にした。

ルーチェは顔を青くし、びくりと肩を震わせた。

貴族相手に言い過ぎた自覚はあったようだ。

俺も万が一に備え、咄嗟にルーチェを庇うように彼女の前に立った。

「……エルマを、よろしく頼んだ」

絞り出すように、アイザスはそう口にした。

アイザスから、俺を気遣うような言葉が出てきたのが意外だった。

俺は呆気に取られ、彼の背を見つめていた。

あくまでもルーチェにそう伝えたのは、俺へと直接口にするのは、アイザスの立場と自尊心が許さなかったのかもしれない。

アイザスはその言葉を最後にギルドを出ていった。