軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十九話 父親

冒険者達が掃けていく中、俺はアイザスと睨み合っていた。

「貴族様が俺に何の用だ」

「この俺に対し、何様のつもりだその口の利き方は?」

アイザスが眉間に皺を寄せる。

「エ、エルマさん、どうしたんですかぁ!? さっきから虫の居所が少し悪そうなのは感じていましたけれど……伯爵様相手に、その態度はよくありませんよぅ! ア、アタシも一緒に謝りますから! ほら!」

ルーチェが慌てふためきながらアイザスへと頭を下げる。

「キミ……馴れ馴れしくウロチョロしてるけど、エルマの何?」

マリスがずいと首を伸ばし、ルーチェへと顔を近づける。

「エ、エルマさんとお知り合いなんですか?」

マリスは何も答えず、ただじぃっとルーチェの顔を見つめていた。

俺は不穏なものを感じ、ルーチェの前に立った。

「ルーチェ、外に出ておいてくれ。巻き込むわけにはいかん」

ルーチェは俺の言葉を受けた後、アイザスとマリスを横目で確認し、俺へと向き直った。

「お邪魔者だっていうのなら出ていきますけど……巻き込みたくないって言われたら、アタシ、ここに残りたくなっちゃいます。だってエルマさんは、アタシが初めて本当に信頼できるって思えた仲間ですもん。アタシがいてどうこうなることじゃないのかもしれませんけれど……こういうときこそ、一緒にいてあげるのが仲間ってものだと思うんです!」

「だが、この件ばかりは……」

気持ちは嬉しいが、これはエドヴァン伯爵家の問題だ。

今更アイザスが何のつもりで俺を追って来たのか見当もつかないが、いい話ではないことだけは確かである。

もしも尾を引くような問題になれば、ルーチェまでアイザスに目を付けられかねない。

「だってエルマさん……あの御二方が来てから、ずっと辛そうな顔をしていましたもん。ここに一人残しておくことなんて、できません!」

「ルーチェ……」

俺は自分の顔を触る。

頬が強張っていることに気が付いた。

確かに俺は、二人を目にしてから冷静ではなかったかもしれない。

彼女のお陰で、少しだけ落ち着けた気がする。

「平民如きが我々の話に口出しするつもりか? 他の冒険者同様、即行立ち去るがいい小娘」

「父様、彼女は残しておきましょう。何やらエルマと親密な様子……例の話に、関係があるのかもしれません。ボロを出させるには、口が多い方がいいかと」

アイザスがルーチェを追い出そうとしたが、マリスがそれを止めた。

しかし、父様……と来たか。

「そんな小娘を残しておいても仕方がないと思うが……まあ先の様子、関係者であるのは間違いあるまい。今回のこ奴の処遇についてはマリス……お前に一任するという約束であったからな」

冒険者達を追い出していたギルド長が、俺達の許へと向かってきた。

「アイザス伯爵様……その冒険者に用があったのですか? もしや、有望な冒険者だと聞いて、私兵としての勧誘に来たのですか? いや、耳がお早い。この冒険者は礼儀正しく勇敢でして……おまけに何より、この都市のギルド史に名を刻むような破竹の活躍を既に重ねており……」

「初の 大規模依頼(レイドクエスト) でD級冒険者の補佐を行い、【Lv:40】の魔物の討伐に貢献し……例外的な速度でE級冒険者へ昇級した。そうであったか? くだらぬ、この間〈加護の儀〉を終えたばかりのガキが、そのようなことをできるはずがない」

「いえ、それだけではないのですよ、アイザス伯爵様。エルマは……そこの道化師の冒険者と共に、【Lv:50】の〈夢の主〉を討伐して、D級冒険者へと昇級したばかりでして! 伯爵家の私兵としても、充分活躍できる実力と素養を彼は有しているでしょう」

「なんだと……?」

アイザスが鷲鼻を膨らませ、俺を睨み付けた。

「フン、もしかすればただ運に恵まれただけかもしれんとも考えていたが、これで確定したな。ギルド長よ、白々しい演技は止めるがいい。既に知っておるのだろう? その男が、エドヴァン伯爵家の人間であることをな」

「ど、どういうことですか……?」

「もっとも、あくまでそれは『元』の話であり……既に次期当主でもなんでもないところまで知っておるかどうかは怪しいところだがな。どう言い包められた?」

「ま、待ってください、私は何も……。すみません、何がなんだか……わかりません」

ギルド長が真っ青になって弁解する。

「貴様でないというのか? だとしても職員の中に、そこのガキと結託しているものがおるはずだ。肩書を使って騙して抱き込み、功績作りに加担させた者がな。関与していた職員をひっ捕まえ、この場に連れて来い! 今すぐにだ!」

「そ、そのようなはずは……。い、いえ、直ちに……!」

ギルド長は慌ただしくギルドの奥へと駆けて行った。

「エルマさん……も、もしかして……アイザス伯爵様って……エルマさんの、その……」

「父親だ。認めたくはないがな」

アイザスはギルド長の背を睨んでいたが、すぐに俺へと視線を戻した。

「このエドヴァン伯爵家の恥晒しめが! この俺が貴様を放逐処分で済ませてやったのは、貴様であればそう愚かな真似はしまいと、最低限そう信じておったからだ! 俺の言葉を忘れたか? 今後エドヴァン伯爵家を名乗れば、この俺がその首を刎ねるとな!」

アイザスが怒鳴り声を上げる。

「何かと思えば、そういうことか」

要するに、都市ロンダルムに来てから上手くやり過ぎていたのだ。

俺の異例の昇級を耳にしたアイザスが、エドヴァン伯爵家の名に泥を塗られることを恐れて視察へ向かってきた、ということらしい。

それにしても本当に情報と行動が早い。

よくもまぁ、その程度のことで当主が直々に乗り込んで来たものだ。

嫌味が口から出そうになったが、ぐっと堪えることにした。

少し俺も熱くなりすぎているかもしれない。

今余計な揉め事を起こせばルーチェにも飛び火しかねない。

それに元より、アイザスを不要に怒らせても何一つ得はない。

穏便に話を進めれば、ただの誤解であることを証明するのは決して難しくないはずだ。