軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十三話 逃がした魚は(side:クライン)

都市ロンダルムを歩く、二人の冒険者がいた。

クラス剣士のクラインと、クラス盗賊のリース。

ルーチェの元パーティーメンバーの二人であった。

「……やっぱ、二人じゃ無理だな、クソ。効率が一気に落ちる。準備費用引くと、今回の分は赤字になっちまった」

クラインは頭を掻きながら街道を歩く。

元々ルーチェが抜けた分、三人目を迎え入れるつもりだったのだ。

だが、ソロ活動している、問題行動のない冒険者は少ない。

いたとしても、クラスやレベル、報酬の兼ね合いで痒い所に手が届かない。

募集側のクラインはなるべく低い報酬で役に立つ人材が欲しいが、相手も相手で生活が懸かっている。

お互い自分に有利な条件ばかり目を向けるため、条件がどうしても上手く噛み合わないのだ。

なまじ可視化できてしまう分、パーティーにレベル差や装備の差があると、そこの交渉でも揉めてしまう。

お互い簡単に妥協はできないし、クラインもまた自分の損を許容できない性質であった。

そうして二人で活動していたのだが、安全に冒険者業を熟そうと思うと、普段より一回り下のレベル帯の魔物が標的となる。

魔物の魔石の価値は、その魔物のレベルに応じて指数関数的に上昇する。

故に狩り対象の魔物のレベルを落とすと、一気に報酬額の期待値を落とすことになるのだ。

「この調子じゃ、新メンバーを引き入れない限り〈 夢の穴(ダンジョン) 〉は無理ね。移動に余計な時間と経費を使い過ぎて、潜れば潜るほど損するだけよ」

リースが溜め息を漏らす。

「運が悪かったんだよ。普段は二体狩ったら何かしらドロップしてたのに、まさか何も落ちないとはな。ほぼ確定ドロップだと思ってた〈ヒール茸〉さえ、マタンゴを四体狩っても一本も落ちないなんて」

クラインが舌打ちをした。

〈ヒール茸〉はHP回復効果があり、二万ゴルドの値段で売れる他、単に自分で回復用として使ってしまってもいいありがたいアイテムである。

マタンゴ本体が弱いこともあって、クラインは楽で効率のいい金策として、余裕がないときはよくマタンゴを狩っていた。

今回も赤字分を取り返そうとマタンゴを狙ってみたのだが、見事に何も落ちなかったのだ。

「……ルーチェの〈豪運〉が利いてたんじゃないの? 他の冒険者、マタンゴをわざわざ追いかけて狩ってる奴なんていなかったみたいだし。乱獲されないように知ってる奴が黙ってるんだってクラインは言ってたけど、単に普通にやっても全然落ちなくて効率が悪いからなんじゃ……」

「チッ、偶然だろ。そりゃ多少の違いはあったかもしれねぇが、あそこまで変わるもんか」

そう言いながらも、クラインの顔には後悔の色があった。

好条件で手頃な都合の合う冒険者は、なかなか見つかるものではない。

そういう面では、安値で雑用と戦闘を熟せるルーチェはありがたかったのだ。

ルーチェはレベルは低いが、素早さだけはそれなりに高いため、戦闘面でも敵の体勢を崩したり、攻撃を引き付けたりと、最低限のことはできていた。

前回のドロップ品の報酬額を分け合ってそれなりの武器を買わせておけば、弱点の攻撃力不足も多少は補えただろう。

クラインも今回の〈 夢の穴(ダンジョン) 〉探索で、多少はルーチェの〈豪運〉によってアイテムドロップ率に変化があったらしいことは認めていた。

「アイツが〈血濡れの剣〉の分け前が欲しいなんて言い出さなきゃ置いといてやったのに」

市場価値二百万ゴルド、レアドロップ品の〈血濡れの剣〉。

一人だけレベルの低いルーチェに、この取り分を持っていかれるのはごめんだった。

「呼び戻す? どうせルーチェも、声掛けりゃ、すぐにでも戻って来るわよ。レアドロップの報酬だって、有耶無耶にできるでしょ」

「あのな、リース、俺にだってプライドがある。あそこまで言って、やっぱり戻ってこい、なんて言えるかよ。アイツに頭下げるなんて死んでもごめんだぜ? 幸い、あの剣のお陰で金に余裕はあるんだ。そう焦る必要はない。同レベルくらいの奴が欲の皮張った条件ばかり提示してくるなら、低レベルで物分かりのいい奴をゆっくり探せばいい」

クラインは言いながら、冒険者ギルドの扉に手を掛けた。

リースは冒険者ギルドの中が騒がしいことに気づき、顔を顰めた。

「誰かが高レベルの魔物でも討伐したのかしら」

二人して、騒動の中心へと目を向ける。

「い、E級に昇格したての冒険者と、F級冒険者が、推奨レベル50の〈天使の玩具箱〉の攻略を!? 確かに〈 夢の穴(ダンジョン) 〉の消滅報告は既に受けておりますが、そんな……」

受付嬢が驚いた様子で口にしていた。

その前には、先日別れた二人……ルーチェとエルマが並んでいた。

「あ、あの二人が!?」

クラインにはとても信じられなかった。

エルマは自分同様に【Lv:20】程度であったはずだ。

ルーチェはレベルが低すぎて、〈天使の玩具箱〉攻略にはとても戦力になるとは思えない。

「攻略したわけじゃない。〈 王の彷徨(ワンダリング) 〉で〈夢の主〉から襲撃を受けたんだ。奴の魔石はあるし……疑うなら、同様に巻き込まれた冒険者を捜してもらえばいい。二人、助けてやった奴がいる」

「わかりました。〈天使の玩具箱〉は都市から攻略報酬金が出ていたため、一応確認を取らせていただきます」

都市や村に近い〈 夢の穴(ダンジョン) 〉には、攻略依頼が出てくることがある。

長らく放置された〈 夢の穴(ダンジョン) 〉からは魔物が出てきやすくなる他、周囲への魔物災害に繋がる異常事態を引き起こしやすくなるのだ。

〈 夢の穴(ダンジョン) 〉の攻略難度……推奨レベルは、土地によって傾向がある。

簡単な〈 夢の穴(ダンジョン) 〉ばかりが発生する地と、高レベル〈 夢の穴(ダンジョン) 〉が発生しやすい地は、明確に分かれているのだ。

その土地に流れるマナに起因しているだとか、〈 夢の穴(ダンジョン) 〉を生み出している眠れる神アルザロスによる偏りなので人間には解明しようがないだとか、色々な説が挙げられているが、確かなことはわかっていない。

高レベル冒険者は、危険な〈 夢の穴(ダンジョン) 〉が発生しやすい都市を中心に活動している。

その方が実入りがいいし、王国のためにもなるからだ。

そのため都市ロンダルムには〈天使の玩具箱〉の〈夢の主〉を討伐できる冒険者がおらず、このまま〈天使の玩具箱〉が放置されることを恐れた都長は、〈 夢の穴(ダンジョン) 〉攻略に報酬金を懸けたのだ。

「へえ、攻略報酬が出てたのか。縁もないと思って、調べてなかったな。いくらになるんだ?」

「一千万ゴルドです」

遠目にそれを聞いていたクラインは、額を聞いて思わず大口を開けた。

「一千万!?」

ルーチェを追い出した事件の許になった、〈血濡れの剣〉の市場価値の五倍である。

「ほう、一千万ゴルドか。ここでこの額はありがたいな」

「喜ぶべきなんでしょうけれど……ドロップ品のせいで感覚が麻痺して、どう反応すればいいのかよくわからなくなってしまいました」

ルーチェがぼそっと漏らす。

クラインはそれを聞き逃さなかった。

あの二人は、一千万ゴルドを前に全く物怖じしていない。

「ご、〈豪運〉か……? まさか、推奨レベル50の〈夢の主〉のレアドロップ品を……?」

あのエルマという男は、ルーチェが〈豪運〉持ちだと知るなり突然スカウトに出てきていた。

そしてその後にいきなり大物狩りである。

おまけに一千万ゴルドを前にしても物怖じする素振りを全く見せない。

恐らく、それより高額なドロップ品を得ているのだ。

ルーチェの影響を認めたくなかったクラインだが、さすがに認めざるを得なかった。

自分達が低レベルのマタンゴ狩りで稼いでいたようなドロップ率で、推奨レベル50の〈天使の玩具箱〉奥地でドロップ狙いの狩りを行っていれば、数百万ゴルド……いや、数千万ゴルドくらい容易に手にできていても、おかしくはない。

「調査はそう時間は掛からないはずなので、すぐに一千万ゴルドはお渡しできるでしょう。それからギルドの規定で……お二人を、D級冒険者に昇級させることになります。ルーチェさんはF級からの飛び級になりますね。……えっと、高レベルの〈夢の主〉討伐による昇級はかなりレアケースでして……私は対応したことがないので、一応細かい前例を確認させていただきますね」

受付嬢がぱらぱらと書類を捲っている。

「ルーチェが、D級……」

クラインは、最近苦労してようやくE級冒険者として認められたばかりであった。

リースに至ってはまだF級冒険者である。

特にD級冒険者の壁は厚いとされており、この都市ロンダルムにおいて、D級冒険者は十人程度しか存在しない。

充分熟練の冒険者として通用するラインである。

「な、なんかよくわかんない内にルーチェ、雲の上の存在になっちゃったわね。多少は上手くやってるのかもと思ってたけど、まさかあそこまでなんて。はぁ……こりゃ、逃がした魚は案外大きかったのかもしれないわね」

リースがそう口にしたのと同時に、クラインはダッシュで彼女達の許へと向かっていた。

「……クライン? ちょっと、どうしたの?」

「ルーチェ……俺が悪かった! 俺は心を改めたんだ、戻ってきてくれないか!? 〈血濡れの剣〉の売却額は、やっぱり三等分しよう!」

クラインは床につけるかの勢いで頭を下げ、ルーチェへとそう懇願した。

ルーチェとエルマは、冷たい目でクラインの下げた頭部を眺めている。

「行こう、ルーチェ。調査は時間が掛かるらしいからな」

「……はい」

ルーチェとエルマは、頭を下げるクラインの横を素通りしていく。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 話だけでも聞いてくれないか!?」

クラインが慌ててルーチェの後を追いかけていく。

「ええ……」

リースも思わずドン引きであった。

どうやらルーチェに頭を下げるなんて死んでもごめんだ、という言葉はなかったことになったらしい。