軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十八話 錬金術師への依頼

「キミ達の望みはわかっているよ。鎧の素材となる金属の用意、つまり先のレイドで入手した 魔虫銀(インヴェダイド) の精錬だろう? 恩人の頼みを無下にはしないさ」

カリスが落ち着きを取り戻してから、無事に 魔虫銀(インヴェダイド) の精錬を彼女へと依頼することができた。

「細かい消耗品や設備投資、設備の摩耗分、技術料を考えれば、精錬費の目安は一つ頭350万ゴルドが相場ってところかな。ただ、望みの装備が入手目前になった上級冒険者は金銭の出し惜しみをまずしない。今、対抗馬となる錬金術師も見つかっていないとなると、なかなかつり上げ甲斐のある取引になりそうだ。どうにもお客さん方、随分と羽振りがいいようだし……」

カリスは机に並べた平べったい石を弾き、計算を行っていく。

数石盤と呼ばれる、元の世界の 算盤(そろばん) に近いものだ。

〈マジックワールド〉にはなかったが、この世界が現実化するに当たって生まれた文化だといえる。

石の動きを目で追っていると、自然と冷や汗が溢れてきた。

カリスめ、俺が出せる本当にギリギリのラインを探っている。

カリスの言う通り、ここまで来てゴルドを惜しんで装備造りを後回しにするような真似は、冒険者にはなかなかできない。

装備は冒険者の命である。

優秀な装備を持っていれば当然命が助かる場面もあり、加えて魔物狩りによってレベルや金銭を稼ぐこともそれだけ容易となる。

多少足許を見られても、涙を呑むしかない。

「そうだねえ、一つ頭三千万ゴルドが、お客さんが即決で出してくれそうなラインかな?」

「さんぜんっ……!」

ルーチェの口から驚愕の声が漏れた。

俺も頭を押さえていた。

鎧の素材を準備するとなれば、最低三つの精錬を依頼することになる。

ここで一億ゴルド近く持っていかれるとは思わなかったが、とっとと装備を新調したい身としては、確かに払えなくはないラインではある。

カリスは俺とルーチェの様子を見てクスリと笑うと、盤上の石を手の甲で押し退けた。

「なんてね、恩人からはぼったくれないよ。今回のレイドでドロップした 魔虫銀(インヴェダイド) は、諸経費込みで全部無償で精錬させていただくとも」

「本当にいいのか……?」

「勿論さ。キミ達とは仲良くしておいた方がよさそうだしね。ただその分、今後ともご贔屓によろしく頼むよ」

助かった。

俺は思わず呼吸を止めて数石盤を見守っていたため、その分大きく息を吐きだした。

冷静に考えてみれば、俺達に恩を感じさせるため、わざと『こうした値段設定もできる』と意識させたのかもしれないが……。

さすがは豪商の一族、ヒーツ伯爵家の人間だ。

「ありがとうございますぅ! 優しくて天才錬金術師で〈 魔銀(ミスリル) の笛〉の影のクラン長のカリスさん!」

「感謝してくれるのは何よりだけど、取って付けたように白々しく褒めるのは止めてくれないかな!?」

ルーチェはカリスは褒められたがりだということを思い出してか、ここぞとばかりに彼女を持ち上げる。

カリスは気まずげにそれを跳ね除けた。

その後、俺は〈魔法袋〉から八つの〈 魔虫銀(インヴェダイド) の鉱石塊〉を取り出し、床へと並べた。

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〈 魔虫銀(インヴェダイド) の鉱石塊〉

【市場価値:二千六百万ゴルド】

妖しい輝きを帯びた石塊。

魔鉱石を好んで食す鉱虫が体内で生成する、 魔虫銀(インヴェダイド) を多く含有する。

強力な魔法金属であるが、不純物が多く、精製せねばまともに扱えない。

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「そ、そんなにいっぱいあるのか……こりゃ軽く見て安請け負いしちゃったかな。せいぜい二つ、三つだと思っていたよ。全部精錬するとなれば二日は掛かるか」

「とはいえ俺がほしいのは鎧の分だけだ。 魔虫銀(インヴェダイド) は二つあれば充分だ。物は相談なんだが、残りの〈 魔虫銀(インヴェダイド) の鉱石塊〉を買い取ってもらうことはできないか?」

「いいのかい? レイドでドロップを取り逃した身として、それはありがたい話だけれど」

店に売却すればどうしても手数料が掛かる上に、大量に同一アイテムを流せばすぐに値崩れが起きる。

であれば他の冒険者へ直接流してしまいたい。

大手クランのトップであり錬金術師である彼女であれば、アイテムの有効活用を行うこともできるだろう。

捌き切れなかったドロップアイテムを抱え気味だったので、こうしたルートが確保できたのはありがたい。

この機に今まで売りそびれていたアイテムの換金をカリスに依頼するのもいいかもしれない。

「それから……この精錬も頼みたい」

俺は続けて〈 碧き女王(クインアズル) の鉱石塊〉を取り出した。

ルストクイーンからドロップしたアイテムである。

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〈 碧き女王(クインアズル) の鉱石塊〉

【市場価値:五千五百万ゴルド】

特殊な結晶構造を持つ、高密度の 魔虫銀(インヴェダイド) 。

その輝きと完璧な美は他の追随を許さず、多くの冒険者を魅了する。

故に彼らは、この金属を〈碧き女王〉と称える。

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「ほほう、これは美しい……! 僕も初めて目にするよ。こいつはとんでもない鎧ができるだろうとも。こんなの隠して後出しするなんて、お客さんもニクいことするね。さっきの八つの 魔虫銀(インヴェダイド) だけでも随分とついていると思ったけれど、まさかこんなものまで抱えているとは。精錬後の輝きを見るのが僕も楽しみだよ」

カリスは錬金術師として価値のある素材アイテムに思うところがあるらしく、受け取った〈 碧き女王(クインアズル) の鉱石塊〉をまじまじと観察していた。

「じゃあ八つの 魔虫銀(インヴェダイド) の内、二つは精錬して、残り六つは市場価値と同額での買取。 碧き女王(クインアズル) も精錬して引き渡す。これでいいかな?」

「ああ、お願いしたい」

これで鎧の問題も無事解決できそうだ。

ようやく序盤の最コスパ装備、黒鋼シリーズともお別れである。

鎧問題が半ば解決したのはありがたいが、それ以上に腕利きの錬金術師と顔見知りになれたのも大きい。

今回のレイドは、かなり得るものの多い戦いだったといえる。

ラコリナには鍛冶師のベルガと、錬金術師のカリスがいる。

今後は素材アイテムさえ搔き集められれば、対価さえ支払えば好きなアイテムを作ってもらえるはずだ。

一気にできることの幅が広がった。

「それじゃあ鉱石の精錬と鋳造に二日ほど時間をいただけるかな? それからまたここへ……」

「すまない。やっぱりもう一つだけ頼みごとをしてもいいか? 鎧の素材の後でお願いしたい。こっちはしっかり謝礼も払わせてほしい」

「む……まだあるのかい?」

カリスが不思議そうに瞬きをする。

俺は〈魔法袋〉から、青金色のコインを取り出す。

天運のスカラベからドロップしたアイテム、〈ヘルメスのコイン〉である。

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〈ヘルメスのコイン〉《推奨装備Lv:77》

【攻撃力:+7】

【市場価値:五千五百万ゴルド】

遺失文明で用いられていたコイン。青金の輝きを帯びる。

表に掘られた青年は、幸運と富を司る天使だとされている。

稀に受けた相手がスタン状態になることがある。

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何かと使い道の多いアイテムだが、今の状況であれば錬金術で アレ(・・) にしてもらい、緊急時の保険として用いるのが一番だろう。

素材が足りないかと考えていたが、汎用素材アイテムならカリスがクランや錬金工房で保管している可能性が高い。

相応の対価を払えば、汎用素材であれば不足も補ってもらえるかもしれない。

俺はルーチェを振り返る。

ルーチェは俺の目線に対して、こくりと頷きを返した。

俺はそれを確認し、カリスへと向き直る。

「これで造ってもらいたいアイテムがあるんだが頼めるか?」

カリスは俺の差し出した〈ヘルメスのコイン〉へと顔を近づけ、まじまじと観察する。

睫毛の長い目を不思議そうに瞬かせた。

「当然のように高価なアイテムが次々に出て来るねえ。大したドロップ運のようで、羨ましい限りだよ。しかし、ふむ……珍しいアイテムだね? 僕にできることであれば、構わないけれど」