軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話 意識の死角

「ルーチェさんも……ケ、ケルトさんも……!」

メアベルが蒼白とした表情で二人へ駆け寄っていく。

ルーチェもケルトもすぐに戦線に復帰できない。

俺が単身でカロスを引き付けて、その間にメアベルの白魔法で立て直してもらうしかない。

とはいえ、俺もギリギリだ。

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【エルマ・エドヴァン】

クラス:重騎士

Lv :75

HP :14/265

MP :28/109

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ただでさえ〈死線の暴竜〉で減らしたHPを、毒や衝撃の余波でジワジワと削られ続けている。

おまけにMPも〈マジックガード〉で確実にダメージを殺すために多用してきたため、もう後がない。

「ケルトを頼んだぞ!」

俺はメアベルへと叫んで、カロスへと突撃した。

「戦力が戻るまで、自分一人で耐えるつもりか? まだ闘志があるのは流石だが無謀過ぎるな」

カロスの剣を〈パリィ〉で捌いていく。

「やってみせるさ。お前自身は大したことがないからな」

俺の言葉に、カロスの額に青筋が浮かぶ。

挑発して少しでも冷静さを奪う。

普段のカロスは謙虚でクールだが、どうやら素の方は短気で傲慢らしい。

「減らず口を! 毒で動きが鈍ってるのはわかってるんだよ!」

カロスが一層苛烈に攻め立ててくる。

「じきに〈 毒竜斬撃波(ヒュドラブレイク) 〉のクールタイムも終わる……それがお前の最期だ! 今のお前に私の絶技は避けられまい!」

そう……だらだらと長引けば、またあの技が戻ってくる。

そして毒状態が入って速度が落ちた今、俺はあの技を避けられない。

あのスキルを凌ぐことを前提にするのならば、俺は一旦メアベルから〈ポイゾヒール〉を受けて立て直す必要があった。

カロスが力任せの一撃を俺へと放つ。

挑発が利いている。

僅かだが、不必要に攻勢に出ている。

ここで仕掛けるしかない。

俺は〈パリィ〉ではなく、避けつつ威力の減衰した振り切った辺りを狙い、盾で受け止めることにした。

〈マジックガード〉のMPをありったけ費やして、ダメージを帳消しにする。

「ハハハ、これで完全に後がなくなったな……!」

俺は盾を手放し、〈マジックガード〉発動前から後ろに引いて構えていた剣を、カロス目掛けて勢いよく突き出す。

瞬間、遅れて俺の意図に気が付いたカロスが、慌てて身を引いて逃れようとする。

カロスの胸部に〈死線の暴竜〉と〈不惜身命〉の一撃を叩き込んでやった。

「ぐううっ……!」

後方へ突き飛ばされたカロスが、胸部を押さえて前傾になる。

俺はすぐさまカロスへの追撃に出た。

「馬鹿め……ここを少し凌げば、私はダメージを回復できるんだよ!」

カロスが血走った目で吠える。

「そもそもここがお前の死のタイムリミットだ! 〈 毒竜斬撃波(ヒュドラブレイク) 〉のクールタイムが解けた!」

カロスが剣を空へと掲げる。

赤紫の光が走った。

「さようならだよ、エルマ。君は確かに強敵だった。その名前は覚えておいてやる!」

そのとき、カロスの肩へと一本の矢が刺さった。

「こんな木っ端の攻撃……無駄だというのに」

カロスが鼻で笑う。

そのとき、矢が白い光を放った。

カロスの刃に走っていた、赤紫の光が消え失せる。

「何が起きている? まさか……〈 魔法付与の矢(エンチャントアロー) 〉!?」

カロスの顔面が蒼白となった。

唇がわなわなと震える。

「良かったのか! タイミングはここで!」

ケルトが叫ぶ。

メアベルに身体を支えられ、弓を構えていた。

「ああ、これ以上ないくらいに完璧だ!」

〈 魔法付与の矢(エンチャントアロー) 〉は魔法を封じ込めた矢を放つ、スキルツリー〈中級弓術〉より手に入るスキルである。

矢に込められた魔法は〈ポイゾプロテクト〉。

メアベルに〈信仰の杖〉の【49】で獲得してもらったばかりの白魔法だ。

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〈ポイゾプロテクト〉【通常スキル】

対象の毒を治癒した後、一定時間毒の脅威から保護する。

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一定時間、対象が毒を受け付けなくなる効果を有する。

〈黒縄剣ゲヘナ〉を装備した魔剣士を強引に治癒できる数少ない打開策となるスキルである。

〈 毒竜斬撃波(ヒュドラブレイク) 〉は状態異常の間しか使用できない。

そのためカロスのスキルは不発に終わったのだ。

俺は元々、今回のレイドにメアベルとケルトの二人を巻き込むつもりはなかった。

だが、ハレインからもらった資料を確認して容疑者候補の中にカロスが浮上し、ヒルデへの鎌掛けでそれが濃厚になったのを確認した際、もう一つ新たな不安要素が生まれた。

それがカロスのスキル構成が、毒ゾンビ型魔剣士か、或いはそれに近い形になっている可能性だ。

これまで確認してきたこの世界の常識から、それは有り得ないとは考えていた。

しかし、カロスの二つ名の〈黒き炎刃〉だが、魔剣士には別に黒い炎や光を直接剣に纏うスキルは存在していないのだ。

せいぜい赤や赤紫の光か、黒い炎を中距離攻撃として放つ程度である。

カロスが〈黒縄剣ゲヘナ〉を振るう姿を見た人間がいたのではないかと、俺の中にそうした疑念が浮かんだのだ。

故に最悪の際の保険として、毒ゾンビ型魔剣士への強力なメタになると踏んだケルトとメアベルに声を掛けることにして、スキルの割り振りにまで口を出させてもらった。

レイドの指揮を担うカロスが黒幕の可能性があると、安易に口に出すことはできなかった。

そのためルーチェ達には真意を伝え損ねたままになっていたが、俺は言葉の節々に矛盾を交ぜて、カロスに勘づかれないように彼らに指示を飛ばしていた。

メアベルの〈ポイゾプロテクト〉がまるで存在しないかのように振る舞うことで機会が来るまで温存してもらい、重傷を負ったルーチェに言及しないことでケルトの回復を優先してもらい、射程の短い〈ポイゾプロテクト〉の欠点を補うために〈 魔法付与の矢(エンチャントアロー) 〉を使用してもらった。

「クソッ!」

カロスは〈 毒竜斬撃波(ヒュドラブレイク) 〉のために振り上げた剣を慌てて下ろして、迫りくる俺を迎撃すべく剣を構え直す。

だが、当然、その隙を見逃すつもりはない。

不完全な構えの剣を弾き、カロスの胸部へ追撃をお見舞いした。

勢いのままカロスの身体を後方へと突き飛ばす。

彼の身体がぐらりと揺れ、その場から数歩下がり、胸部を押さえながら膝を突いた。

「馬鹿な……有り得ない。この私が、レベル下の冒険者如きに、敗れるなど……」

カロスが絶望したようにそう漏らした。