軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 〈鳥王の槍〉

「スノウお嬢様……ご無事で何よりです……。あの化け物が襲撃してきたときには、もうお終いかと思いました……」

イザベラがスノウの許へと駆け寄って涙ぐむ。

「前衛で戦っていたのは、イザベラとあの方々ではありませんか。本当に……無事でよかったです、イザベラ」

「勿体ないお言葉です、お嬢様!」

スノウが俺達の方を向く。

「御二方も、本当にありがとうございました。貴方方は命の恩人です。深く感謝しております。また日を改めて、謝礼の場を設けさせてください」

スノウは俺達の前へと出て、丁寧に頭を下げる。

「お互い様だ。俺とルーチェだけだったら、あの厄介なポタルゲは倒しきれなかった」

「元よりあの〈 王の彷徨(ワンダリング) 〉は、私達を狙い引き起こされたもの。貴方方はそこに巻き込まれただけ……」

「スノウ様、ちゃんと話せたんですね。てっきりアタシ、あがり症なのかと思っちゃってました」

スノウの言葉に、ルーチェが口を挟む。

「あ……ごめんなさい、遮ってしまって。どうぞ、スノウ様」

ルーチェがあわあわと手を振る。

「わ、私、えっと……私……じゃなくて。そ、そう、貴方方は巻き込まれただけで……えっと……」

スノウが顔を赤くして、パクパクと口を開閉する。

「お、お嬢様が喋っていただろうが! なぜ遮った小娘! せ、せっかく、止まらずに話せていたのに!」

イザベラが顔を青くしてスノウの前に出る。

「ごめんなさい、ごめんなさい! ア、アタシ、つい気になってしまって……!」

スノウがそっとイザベラの鎧籠手を掴み、彼女の背後に隠れる。

「お嬢様、大丈夫ですか? ここから立て直せますか?」

イザベラは背を屈めてスノウと顔を合わせ、彼女の肩を手で掴む。

スノウは少し呼吸を整えた後、ちらりと俺達の方へと目をやり、顔をまた赤くして顔を伏せた。

「ごめんなさい、イザベラ……」

ルーチェは気まずげな顔でスノウとイザベラのやり取りを見ていた。

まさか軽々しく口を挟んだがばかりに、こんな結果を招くとは思っていなかったのだろう。

「……しかし、お前達、〈夢の主〉の討伐に慣れているようだったが……何度目だ?」

イザベラがちらりと俺の方を向いて、そう尋ねてきた。

「これで四度目だな」

特に隠す必要はない。

〈天使の玩具箱〉のエンブリオ、〈百足坑道〉のデスアームド、〈嘆きの墓所〉のスカルロード、そして今回の〈幻獣の塔〉のポタルゲで四度目だ。

「よ、四度目だと!? 慣れているとは思っていたが、ここまでか……」

イザベラが頭に手を当てて、息を吐く。

「四度もこのような戦いを……凄い……」

スノウも口を開けて、呆気にとられたように俺とルーチェを見つめていた。

「ま、まぁ、ウチのお嬢様も三度目だがな! ……内の二回はその、二十人近く侯爵家の兵が付いていたが」

「イザベラ……恥ずかしいからやめて」

スノウが小声でイザベラをそう止める。

スノウはハウルロッド侯爵家の次期当主候補筆頭の地位を盤石にするべく、実績作りに奔走している、という話であった。

どうやらその一環らしい。

〈 夢の穴(ダンジョン) 〉を踏破して都市を魔物から守った、という功績が欲しかったのだろう。

「しかし、そうか……今回は暗殺者がお嬢様を狙って嗾けてきた〈夢の主〉を、あっさりと撃退した……という形になるのか。フフ、危なくはあったが……災い転じて福となす、だ。これで普段散々私達の陰口を叩いている、ハウルロッド侯爵家の親族連中を黙らせることができる」

イザベラがニヤリと笑う。

た、逞しい……。

まぁ、きっとそのくらいの気概でいなければ、ハウルロッド侯爵家の次期当主候補の身としてはやっていけないのかもしれないが。

「あっ……! エルマさん、今回もありましたよぅっ!」

ルーチェがパッと表情を輝かせて、ポタルゲの遺骸へと駆けていく。

ポタルゲの遺骸はマナが分散し、肉体が既にスカスカになっていた。

その中に、一本の大きな金属の大槍が落ちている。

銀色を基調とした槍に、緑で鳥の模様が入っている。

ルーチェが大槍を掲げて俺達の許へと戻って来た。

「これっ! なんだか強そうですよ! ……残念ながらまぁ、槍なんで、アタシもエルマさんも使えないんですけれど」

さすがルーチェの〈豪運〉だ。

こんなときでも、きっちりボスドロップを逃さない。

「ドロップアイテム……? 〈夢の主〉からドロップするとは、ラッキーではないか」

イザベラが嬉しそうに口にする。

俺もルーチェの持ってきた大槍を確認する。

――――――――――――――――――――

〈鳥王の槍〉《推奨装備Lv:75》

【攻撃力:+35】

【市場価値:四千万ゴルド】

強い風の力を帯びた大槍。

武器スキル〈 嵐流槍(らんりゅうそう) 〉を持つ。

マナを込めながら振るうことで、強風を巻き起こすことができる。

――――――――――――――――――――

いい武器だが、確かに俺達には扱えない。

不慣れな武器は事故の元だ。

武器スキルが面白いので持っておくのはアリだが、わざわざこの武器と使い分けるような状況はちょっと想像が付かない。

売却用に資産として持っておく、という扱いになるだろう。

しかし、四千万ゴルドは大きい。

「……そういえば、イザベラ。あの〈死神の凶手〉……いくらだったんだ?」

俺は恐る恐ると、イザベラへと尋ねた。

ピーキーでこの世界ではあまり評価されていない、〈燻り狂う牙〉の〈 技能の書(スキルブック) 〉でも市場価値で三千万ゴルドだったのだ。

わかりやすく強く、レア物である〈死神の凶手〉の〈 技能の書(スキルブック) 〉は、いったいいくらになることか……。

それに、市場価値で取引してくれるかどうかも、スノウ達次第なのだ。

最低でも八千万ゴルド……下手したらその倍は行きかねない。

「物は相談だが、エルマ。この槍を我々に譲り、それでチャラ……というのはどうだ?」

イザベラがそう提案してきた。

「い、いいのか……? あれ、一億ゴルドくらい、下手したらしたんじゃないのか?」

「そっ、そんなにするものなんですかぁ!? ア、アタシ、使っちゃいましたよう!?」

俺の言葉に、ルーチェが顔を真っ青にする。

「ごめんなさい! その……アタシ、吐き出しますから!」

ルーチェが自身の首許を押さえる。

「いや、吐き出せるものではないんだが……」

「不本意ではあるが……お前達は、命の恩人だ。それに我々としても……〈幻獣の塔〉の〈夢の主〉を討伐した、わかりやすい証が欲しいのだ。〈鳥王の槍〉はそれにぴったりだ」

なるほど、アピールに使いたい……ということか。

「そういうことなら……それでいいか、ルーチェ?」

「は、はい! 一億の負債とかになったら、とんでもないですし……!」

……まぁ、物資で補っていいなら、一億ゴルドならどうにかなるんだがな。

この〈幻獣の塔〉で乱獲したグリムリーパーからドロップした、〈 魂刈りの大鎌(ハズレの方) 〉も四本あるのだ。

これだけで六千万ゴルド分である。

「……イザベラ、〈鳥王の槍〉は受け取らないことにしましょう」

スノウが口を挟んだ。

「お、お嬢様!? 何故ですか! この槍があれば……!」

「彼らは命の恩人……それに、侯爵家の争いに巻き込んで迷惑を掛けたのです。そこで使ったアイテムの金銭を盾にするわけにはいきませんよ。それに……私達は実績作りに拘泥して、本質を見失っていたかもしれません。まずは、私はもっと……次期当主候補として、実力を磨かなければ」

「し、しかし、次期当主の座を狙い、汚い手を使って来る者達もいます! 今回の騒動も、恐らくはその手のもの……! 綺麗ごとだけではハウルロッド侯爵家は守れませんよ!」

「イザベラ……私、冒険者の真似事や、戦いは、あまり好きではありませんでした。父様の期待に応え、母様の立場を守る……単にその手段としてしか捉えていなかった。でも……後衛として見させていただいた、エルマさんとルーチェさんのお姿……とても格好よかったです。私と同じ年頃で、あそこまで勇敢に戦える人達がいるとは思いませんでした」

「スノウお嬢様……」

「天才だのと持て囃され、実力は充分なのだろうと自惚れていました。一から自分を見直して、鍛え直したいんです。それに……汚い手口を使って来る者程度、実力で跳ね除けられないと、ハウルロッド侯爵家の次期当主は務まらないと思うんです。綺麗言だけでは政治は上手くいかないとはわかっています。でも、私は、実力で認められて次期当主になりたい。その道が決して楽でなくても」

「お嬢様のお覚悟、しかと承りました。確かに恩人から、預けたアイテムの対価を要求しようなど……お嬢様の代弁者として、私の考えが卑屈でした。お嬢様が成長なされたこと、イザベラは嬉しく思います」

イザベラはスノウへと頭を下げた後、俺達の方へと向き直った。

「……ということでだ、エルマ! その大槍、口止め料込みで我々に四千万ゴルドで売ってもらえは……痛い痛い痛いお嬢様!」

スノウがむすっとした表情で、イザベラの鎧の隙間を抓っていた。