軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四章*悪妻、推しと逃避行をする(4)

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そうして、私たちの初めての夜がやってきた。

(結婚したとは言っても、シオン様は魔塔で生活、私は公爵家と、別居生活だったから)

もちろん、寝室が同じだったことはない。

(そもそも契約結婚だもの。一緒の寝室を使う必要性はなかったのだけれど――)

私はドーンと広がるワイドキングサイズのベッドに眩暈を感じた。

(調子に乗って、最高のベッドを用意したのが仇となったわね……)

ベッドルームの照明は暗く、無駄に雰囲気が良すぎるのも考えものだ。

チラリとシオン様を見ると、無表情でベッドに腰掛けている。

(はぅ! その無関心そうな顔!! 最高に格好良い!! そして、風呂上がりのシットリした髪に、桜色の肌……。もうすでに存在がセンシティブ……!!)

思わずゴクリと喉が鳴る。

その音に気がついたのか、シオン様が顔をあげ私を見た。

「ぅひっ! なんでもありませんよ? なんでもないです! 大丈夫ですよ~……」

ヘラヘラしながら距離を取り、両手をシオン様に突き出して振りながら、後ずさりするようして、シオン様と反対側のベッドサイドに向かう。

猛犬に警戒しながら荷物を運ぶ配達員のようである。

シオン様に背を向けるようにしてベッドのフチギリギリに腰掛けると、ミシリとスプリングがしなって心臓が飛び跳ねる。

(う……。吐きそう……推しと同室で寝るだけで恐れ多いのに、同じベッド? いや、ダメでしょ? ファンとしてダメでしょ? バチが当たらない??)

視点はグルグルとして定まらず、体がガチゴチに緊張している。

「……ルピナ」

甘い声で名を呼ばれ、私はシオン様を振り返った。パニックで目尻に涙がにじむ。そうして見るシオン様はプリズム効果で、さらに光り輝いて見える。

(あああ……神様! この美しさは神の領域です!!)

思わず拝みそうになる。

しかし、シオン様は眉根を寄せた。

「なにもしない。ただ寝るだけだ。しかし、泣くほど嫌か?」

そう問われ、ハッとした。

「誤解です! そうじゃないんです! シオン様があまりにも美しく、私なんぞが同じベッドを使って良いわけもなく、ただ安全を考慮してくれるというお気遣いの心が尊くてありがたく承りたいと思うのですがそのようなことが私に許されるのかいいや許されまいしかしお気持ちを無下にすることはできるのかそれも恐れ多いそうシオン様は夜の帝王――」

ノンブレスで怒濤のように返事をすると、シオン様は目を見開いて、私に手のひらを向けた。「ストップ」というジェスチャーだ。

「わかった、わかったから。もういい。私は先に眠るから、きちんとベッドに寝るように」

シオン様そう言うと、布団をめくってベッドに入った。

背は私に向けている。

そして、小さく噴き出した。

「……夜の……帝王……」

クスクスと笑う背中が揺れている。

私はハッと我に返った。カーッと顔が熱くなる。

思わず太ももに肘をつき、組み合わせた両手を額につけた。長いため息が出る。

(やってしまった――。オタク表現――)

ズーンと落ち込む私である。シオン様を前にすると平静でいられない自分が恨めしい。

(なんて馬鹿なの。語彙力仕事しろ!! 『夜の帝王』だなんて、ほかに言い様があるでしょう? ほら、月の女神だとか、常闇の光だとか、ニュクスの微笑みだとか――いや、全部ダメだわ)

自分の語彙力に呆れつつ、ソロソロと顔を上げシオン様を盗み見る。

するとシオン様はスヤスヤと眠りについているようだった。

(いや! 早! ……まぁ、シオン様が穏やかに眠れるならそれが一番)

私は穏やかに瞼を閉じるシオン様を見て少し怖くなる。あまりにも整いすぎた顔は、死を連想させた。

(原作での自死シーンはトラウマものだったわ……)

私は思い出しブルリと震えた。そっとベッドからおり、シオン様側のベッドサイドに回る。そして、ソーッと口元に手をかざしてみる。微かに寝息を感じてホッとする。

「……うん。ちゃんと息してる。……シオン様。今日も生きていてくれてありがとうございます」

私は私の神であるシオン様に向かって両手を合わせ拝む。

すっかり寝ている様子のシオン様をしばし見つめ、その寝姿を網膜に刻みつけた。

漂ってくる仄かな香りに眩暈がする。

「私が用意したボディーソープの香り……。どうして同じものを使っているのに、シオン様だけいい香りなのかしら?」

素朴な疑問を口にしつつ、自分の肩に鼻をつけ匂いを嗅ぐ。

「私、変態じみているわね……」

そう思いつつキョトキョトとあたりを見回す。当然だが誰もいない。

「ちょっとだけ……。ちょっとだけよ……」

私はいもしない誰かに言い訳し、大きく深呼吸をした。

(もう二度とこんなことしないので今日だけ許してください!)

シオン様の香りを肺いっぱいに詰め込むと、私は寝室を出た。

(やっぱり、同室で寝るなんて無理。ソファーで寝て、シオン様より早く起きれば一緒に寝たと思われるでしょ)

ソーッと寝室のドアを閉める。

(おやすみなさい。シオン様。良い夢を――)

私は祈る。

シオン様がいついかなるときも、幸せであるように。