軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第91話

パッシブスキルとアクティブスキルには大きな違いが存在する。

パッシブスキルはMPの消費がなく、身に着けているだけで効果を発揮するスキルのことだ。ただし、今のところ発動率が100%という効果のものはなく、10%や20%と低い確率が存在する系統の能力らしい。

テンジが今持つパッシブスキルは、『泥酔』と『爆破』の二つであり、どちらも攻撃時に確率次第で効果を発揮する強力な能力である。

対して、アクティブスキルにはMPの消費が存在する。

スキル『力導』は一度の使用でMPが105消費され、きっかり60秒間の攻撃力1.75倍の効果をステータスに付与できる。重複発動は不可。

もう一つのスキル『無導』は、地獄武器自体にサイキックのような力を掛け、1秒で5のMPを消費することで自由自在に武器を操作する効果を持つ。簡単に説明すると、手に持っていなくとも思いのままに空中をくるくる回せるのだ。現状、100mくらい離れていても操作できることが判明している。

普通の探索師はこれを「常時スキル」と「発動スキル」と言い分けている。

そもそもパッシブスキルやアクティブスキルという言葉は探索師界隈では使われない単語なのだ。テンジだけが、スキルの真名を知っていると言ってもいい。

上位探索師ともなると、これらのスキルを自在に組み合わせ、単体で使用するよりもさらに効果を倍増させることが簡単にできてしまうのだ。

そんな上位探索師になるために、最も重要な基礎技術というものがある。

† † †

「MP操作もだいぶ慣れてきたな……千郷ちゃんの教え方が上手くて助かった」

講義のない日曜日のお昼頃。

テンジは庭先の芝生でごろんと仰向けに寝そべりながら、手を一切触れずに頭上で赤鬼ノ短剣を 独楽(コマ) のようにくるくる回していた。

スキル『無導』の訓練、そしてMPを制御する訓練を同時に行っているのだ。

(『MPを制する者はスキルを制する』……か。千郷ちゃんの言うとおりだったね)

探索師界隈では『MPを制する者はスキルを制する』なんて格言が、第一期ダンジョン時代の名残で残っていた。

実際にその通りで、何となくで意味も解らずにMPを雑に扱うよりも、真剣に師から操作方法を学ぶことでMP供給から発動までの時間が格段に向上することが知られている。

そもそもMPとはなんなのか。

そんな疑問を持つ一般人は多く、MPというものを扱う探索師にも案外説明できない者が多かったりする。基礎というよりも、応用に近い技術なのだ。

「一般人には感じることさえできないMPは、23年前にこの惑星に混ざり込んだ異色で新種の原子だったよね。……未だに不思議な感覚だよ、僕もここ最近でようやくMP原子がなにかを感じ取れるようになってきたんだからね」

異色で新種の原子、通称MP原子。

最新の研究でさえも、MP原子と呼称されているこれについての詳しい解明はほとんど進んでいなかった。

そもそもほとんどの研究者は感じ取ることさえできないのだ。研究しようと思っても、研究できないのが難点として挙がっている。もし研究を進めるには、MP原子を感じ取れる研究者でなければ不可能だ。それか莫大な資金を投資して、探索師を雇うかだ。

莫大な資金がかかる理由は、探索師の中でもMP原子を感じ取れる人は意外に少ないからなのだ。

プロとして活動する探索師の中でも、ベテラン三級探索師以上の実力や技術を身に着けることで、ようやく僅かに冷気のように冷たいMP原子という存在を感じ取れるようになると言われている。

それ以下の探索師は、スキルは使えてもMP原子と言う存在自体を感知できないのだ。

「スキルを使える」とは言っても、MP原子を実際に感知できる者から見れば、非常に効率の悪いMPの使い方をしているため、正直使えるなんてレベルの話ではないとまで言われている。

そのロス率は85%以上にも上るとか。

それでもアメリカやロシアなどの大国が共同研究として莫大な資金をつぎ込み、十数年前の研究でMP原子の測定が現在では可能になっている。

ダンジョンアイテムと現代科学のハイブリッド機械と名を打って作り出したそれは、当時世界を震撼させた発明だとニュースで取り上げられたのである。

現在でも使われているそれは世界にも百数台しか数がなく、『精密MP原子測定器』という名がついている。

それを使うと様々な情報が事細かに分析できるのだ。

ダンジョンのゲートから検出されるMP原子の濃度や密度などの様々な項目を測定することで、中に潜むモンスターの等級やダンジョンの広さを調べらられたりもできる。

モンスターの瞳と等級の関連性も、この精密機械のおかげで判明した。

その他にも魔鉱石の将来性を看破したのもこれだ。石油や原子力なんかより圧倒的にコスパもエネルギー効率もよく、環境汚染を気にしないことを測定から導き出した。

MP原子のもたらす効果は判明しつつある現代だが、その大元の解明には至っていない。

これについて、世界各国では我こそはと躍起になって模索している段階だ。

「くるくるくるくる、と」

テンジはここ数日で、このMP原子の操作向上を目的とした新たな訓練を導入していた。

これもテンジのレベルが2に上昇したことでMP原子の冷気を感知できるようになったのと、新たに手に入れた地獄武器のおかげであった。

本来であれば、MP原子の操作向上訓練にはその者が所属するギルドが資金やアイテムを提供し、かなりの金額を投資して訓練するような方法が一般的に用いられている。そうしてギルド内でもベテランの師匠が新人の教育を行う。

しかしテンジは運がいいことにお金のかからない子だった。

『無導』という訓練にはうってつけなスキルを手にしたため、こうして一人の時間でも空いた時間を見つけてはくるくると武器を回すことが可能なのだ。身近には千郷もいるため、わからければいつでも質問できる環境もあった。

まさに今やらずして、いつ訓練をするのだという状況だったのだ。

だからこうして毎日のように、少しでも訓練に時間を充てるようにしていた。

「やっぱ難しいな。この技術を最初に発見した人って誰なんだろう。よくこんな結果が出るかもわからない訓練方法を編み出したよね。先人、おそるべし」

テンジがアクティブスキルを発動しようとすると、自動的に首元につけている赤鬼ネックレスが、体内からMPを吸収しようとほんのり熱を纏う。

訓練初期の頃はその流れに身を任せて、操作する感覚というのを掴む。慣れてきたら流れていくMP量を絞ってみたり、逆に多く流してみたりと、調整を試みるのだ。

そうして、いつかはネックレスのようなアクセサリーの補助なしでも、体内でMP原子を動かせるようにするらしい。これには早くても五年はかかるのだとか。

これができるようになることが、上級探索師としての登竜門的技術だと言われている。

「まぁ、千郷ちゃんは二週間くらいでマスターしたらしいけど……あれは異次元の天才だからね。聞かなかったことにしておこう」

すでにテンジはこの訓練を 一(・) か(・) 月(・) 近(・) く(・) 行っていた。

未だにネックレスの補助なしでMP原子を操作することはできていない。

それなのにこの訓練を二週間程度で完了させてしまった千郷という人間の凄さを、改めて実感するテンジであった。

テンジが真夏の空を仰ぎながら地道な訓練を重ねていた、その時であった。

不意に、庭先の外から声を掛けられる。

「今日も訓練頑張ってるね。おはよ、テンジ」

「あー、おはよう。冬喜くん」

この一か月で冬喜はテンジのことを「テンジくん」ではなく、「テンジ」と呼び捨てにするようになっていた。

これも距離が縮まった一つの証なのだろう。

「休息日にどうしたの、って顔をしてるね」

冬喜が爽やかに問いかけてきた。

テンジは会話に脳の処理を割きながらも、目の前の空中でくるくると短剣を回し続ける。

「正解、今日はだらだらするって決めてたから、戦闘狂の冬喜くんが来て心の底から動揺してる」

「あはははっ、そんなつもりはなかったんだけどね」

「どの口が言ってるのさ。会うたび会うたび、僕か千郷ちゃんに訓練を申し込んでくる癖に。僕は冬喜くんをそんな子供に育てた覚えはないです」

「違うよ、違うよ。今日は俺もオフさ」

「じゃあ、千郷ちゃんでもデートに誘いに来た?」

「千郷ちゃんというか……テンジもなんだけどね。知ってるかな?」

「たぶん知らないよ」

「まぁ、そうだよね。テンジって学校でも噂されるほどにはダンジョン狂いって言われてるからね。学校か、ダンジョンか、寝るか、食うかってね。教師も心配してるくらいにはさ」

「え? 僕ってそんな風に言われてるの? 今日みたいにここ最近は休息日も入れるようにしてるんだけどなぁ。確かに、少し前まで休息日がなかったことは否定しないけど」

「まぁ、そんなことはどうでもよくて……ドスソルパブロに日本の有名な板前がお寿司屋さんを開くらしいんだよね。それでプレオープンが今日なんだけど……招待状を貰ったんだ。一緒に行かない?」

「「行くっ!」」

この場にはいなかったはずの千郷も美味しそうな話を嗅ぎつけて、ベランダの窓から勢いよく登場してきた。そしてテンジと完全に声をハモらせたのであった。

食欲に関しては貪欲な二人を目の前にして、冬喜は若干後ずさった。

「お寿司!? 本当に!?」

「冬喜くん! 一体、どこからそんな情報を!?」

「あははは……二人は他の先生や生徒とあんまり話さないでしょ。普通に最近は学校内でも噂になってたんだけど、二人とも暇さえあればダンジョンに籠ってるからね。知らないのも当然だよ」

テンジと千郷は何も言い返せないでいた。

あれから一か月、テンジは講義すらすっぽかしてしまうほどには、ダンジョンに籠りきりな学生生活を過ごしていたのだから。

ぐぅの音も出ないとは、まさにこのことである。

「じゃあ、行こうか」

そんな二人のことを冬喜はいつも気にして声を掛けてくれる。

本当に優しいお兄ちゃんなのだ。

「うん、今すぐ行こう……お寿司なんていつぶりだろうか」

「ちょっと待って! 着替えてくる!」

テンジが短剣を仕舞うと、それを見た千郷が自分のだらしない服装を見下ろし、慌てて二階の自室へと向かっていく。

まだパジャマのままお昼までベッドの上でぐだぐだしていたので、外に出られるような服装ではなかったのだ。

千郷のパジャマはホットパンツにキャミソールという装備が基本であるのだが、ここにいる男子二人はすでに見慣れた光景のために、目を逸らす素振りすら見せない。

「あっ、じゃあ僕も新しいTシャツに着替えてこようかな。外にずっといたから汗掻いちゃったよ」

「おっけー。じゃあ俺はここで待ってる」

自分の服装も汗でべとべとになっていたので、テンジはベランダの窓から家の中へと入っていく。

そうして二人が着替え終わると、三人で1階層の中央街にあるという極上のお寿司屋へと向かった。

(回らないお寿司かぁ……人生で初めての経験かも。楽しみ)

テンジは人生で初めての経験に、どこかふわふわした気持ちになっていた。

いや、つい数日前の出来事が原因なのかもしれない。

テンジはダンジョンに籠り切っていたおかげもあり、一か月経たずしてレベルが3に上がっていたのだ。そのまますぐに地獄クエストも攻略してしまい、テンジはさらに一段階上の階段を上っていた。

順調すぎるこのマジョルカでの学園生活を、テンジは心の底から謳歌していたのであった。

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【名 前】 天城典二

【年 齢】 16

【レベル】 3/100

【経験値】 2546/125,000

【H P】 3032(3016+16)

【M P】 3016(3000+16)

【攻撃力】 3821(3805+16)

【防御力】 3049(3033+16)

【速 さ】 3026(3010+16)

【知 力】 3053(3037+16)

【幸 運】 3045(3029+16)

【固 有】 小物浮遊(Lv.8/10)

【経験値】 13/182

【天 職】 獄獣召喚(Lv.3/100)

【スキル】 閻魔の書

【経験値】 2546/125,000

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【地獄領域】

赤鬼種: 31/31

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【地獄婆の売店】

・体力回復鬼灯 (2ポイント)

・精神力回復鬼灯 (2ポイント)

・MP回復鬼灯 (2ポイント)

・速度上昇鬼灯 (2ポイント)

・攻撃力上昇鬼灯 (2ポイント)

・三途の川の天然水(2ポイント)

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『召喚可能な地獄武器』

【赤鬼シリーズ】

・赤鬼刀――五等級――

・赤鬼ノ短剣――五等級――

<パッシブスキル:泥酔>20%の確率で、敵を泥酔状態にする。

・赤鬼グローブ――五等級――

<パッシブスキル:爆破>10%の確率で、攻撃に爆破(300%)を上乗せする。

・赤鬼ノ爪剣――五等級――

<パッシブスキル:貫通>50%の確率で、敵の防御力を無視することができる。

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『召喚可能な地獄装備品』

【赤鬼シリーズ】

・赤鬼リング――五等級――

・赤鬼バングル――五等級――

<アクティブスキル:力導>使用者の攻撃力を1.75倍にする。

・赤鬼ネックレス――五等級――

<アクティブスキル:無導>地獄武器を自在に操作する。

・赤鬼イヤリング――五等級――

<アクティブスキル:鼓導>使用者の全ステータス値を1.2倍にする。

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各ステータス値が平均で1000上昇している。

地獄領域の赤鬼種の数も増え、小鬼の数が12体から31体へと増えた。

さらに売店には『攻撃力上昇鬼灯』の項目が増え、召喚枠に『赤鬼ノ爪剣』と『赤鬼イヤリング』が新たに加わった。

テンジは着実に、力を蓄えていたのだ。