軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第62話

その青年はテンジがここに来てからずっと、テンジのことだけを見定めるように観察していた。

テンジもそのことに気が付いており、不気味な人だなぁと思っている。

その青年には傷や汚れ一つ付いていないようだ。

髪は深緑色に染めているのか、あまり見ない髪色をしている。髪も男性にしては長く、肩口まで伸びており、ゆるく波のようなウェーブがかかっている。

その髪の隙間から、まるで鼠でも睨んでいるような蛇瞳がちらりと覗いていた。

肌色も日本人の黄色ではなく、白人系統の白い肌色をしていた。ただ顔立ちには日本人っぽさもあり、おそらくハーフなのだろうとテンジは推測していた。

見たことのない制服が血濡れになっており、彼の傍にはかなり歪な形をした二本の剣が置かれていた。

その青年を見て、福山が水江の問いに答え始めた。

「いや、違うよ。そもそも最終試験が始まってから、治療が必要だと判断されたチームメイトがいた場合、そのチームは失格になるからね。ここまでたどり着いたチームは、どこも最終試験が始まってから誰一人としてチームメイトを欠いていないんだ」

「ということは、あいつはたった一人で最終試験を突破したと?」

「そういうことだね。あぁ、ちなみに彼が通ってきたルートは最も最難関だったよ。確か……モンスターハウスにはニードルマウスが150体ほどいて、グフゥもいたかな?」

福山がその青年に語り掛けると、ただ無言でこくりと頷いた。

(150体にグフゥもいるモンスターハウスだって!?)

テンジだけではない、ここにいる参加者の誰もが驚いていた。

モンスターの強さも数もそうだったが、そのルートをたった一人で傷一つなく潜り抜けてきたことに驚いていたのだ。

その青年は、ここにいる中でも圧倒的に才能に恵まれた人であるということは一目瞭然であった。

(凄いなぁ……世界は広いんだね)

テンジはそんなどうでもいい感想しか思い浮かばなかった。

確かに彼は凄いかもしれないが、テンジたちも同じようなモンスターハウスを突破してきたのだ。

例えあそこにグフゥがいたとしても、テンジには余裕で突破できる自信があった。

「それで君たちが上から二番目の難易度だね。あそこにはニードルマウスが何体いたっけか? テンジくん、倒した数覚えてる?」

「はい、確か……133体ですね」

テンジは得た経験値から逆算して、おおよその倒した数を答えた。

その数を聞いて、再び参加者たちが驚きの声を上げた。

すると愛佳と累が慌てた様子でテンジの元に駆け寄り、ぱらぱたと体を触り始めたのであった。

「ちょ、ちょっと何? 二人とも」

「テンジくんがニードルマウスを133体も倒したと、突然変なことを言い出したのでつい……」

「嘘は良くないぞ、テンジ」

どうやら二人は、テンジが最終試験の過酷さに頭がおかしくなったのではないかと心配していたようだ。

そんな二人を見て、福山は「あぁ」と思い出したように声を出した。

「そういえば君たち同級生なんだっけ?」

「はい、私たちは同じクラスメイトです」

「そっか、そっか……ちょっと今の探索師高校の一年生のレベル高くないですかね? なんで一年生が最終試験に三人も残っちゃってるのかな?」

理不尽さでも目の当たりにしたのか、福山は「あれれぇ?」と頭に疑問符を浮かべた。

そんな時、水江がテンジと愛佳、累の三人へと体を向け、目を見開いた。

「一年が三人も残っただと? ……福山さん、例年だと何人がここに辿り着くんですか?」

「そうだねぇ……多くても四人くらいかな? 一人も辿り着かない年もあるくらいなんだよね、普通は。今年はちょっと多すぎる方だよね。あぁ、ちなみにだけどあの彼、 蛇門(だもん) くんも一年生だよ」

「えっ?」

「凄いよね、今年はここまで一年生が四人も辿り着いちゃった。これがいわゆる……プラチナ世代とか呼ばれるやつなのかな? いやぁ、時代を感じちゃうねぇ」

嫌だ嫌だ、と福山はけらけらと笑い始めるのであった。

同じように他のチャリオットメンバーたちも困ったように笑っていた。

今年の最終試験突破者は合計で十人だ。

その内、一年生が四人でその他が六人ということになる。

しかし、第1グループは愛佳あってのチームだったため、正直言うとここにいるのが不思議な者ばかりであった。

第2グループも累の力ありきで残ったため、もう一人の到達者はほとんど何も仕事をしていない。

実質、この場にいるのがふさわしいのは第26グループの二人だけであった。

「朝霧さんも、累も大丈夫だった?」

テンジは折角駆け寄ってきてくれたからと、二人に向かって質問をした。

朝霧は満面の笑みで「はい」と元気よく答え、累は「俺が突破できないとでも思ったか?」と相変わらずな仏頂面で答えるのであった。

いつも通りな二人に安心しつつ、テンジはなんだかんだ自分も残っちゃったなぁと考えるのであった。

「ちなみに、審査の基準を聞いても?」

そこで水江が福山へと再び質問を投げかけた。

「審査基準かい? そんなの簡単だよ。霧英団長が欲しいか欲しくないか、たったのこれだけだよ。良くも悪くも、うちは団長本位で進むギルドだからね」

「団長に好かれて、ここに辿り着けば合格になると?」

「そういうことだね。うちは団長の舵操作一本でここまで駆け上がったギルドだからね。誰も団長に逆らわないし、そもそも逆らったら殺されるよね」

福山は昔を思い出したのか、遠い目をしながら答えるのであった。

まだ参加者は誰も審査基準の質問をしていなかったのか、聞かされた自分勝手な合否基準にごくりと息を飲んだ。

と、その時だった。

「――誰が殺すって?」

福山の背後から、女性の声が響き渡ったのだ。

聞き覚えのありすぎる恐怖の声に、福山は空笑いをしながらおそるおそる後ろへと振り返った。

「いやぁ、霧英団長は綺麗だよねぇって話してただけですよ」

「お前はいつもいつも喋りすぎだ、阿呆が。とりあえず拳骨しておく」

「痛っ」

気が付けば、この空間に九条の姿があった。

いつ、どこから現れたのか参加者たちは誰も気が付かなかった。その状況に呆気にとられつつも、座っていた参加者たちは慌てて立ち上がった。

福山も冗談交じりで言葉を返しながらも、すぅっと壁際に逃げていった。

「よっ、お疲れ諸君! まぁよくもこんだけの人数が残ったもんだ」

九条は福山に拳骨をして気が済んだのか、すぐに参加者たちの姿を見渡すように話し始めた。

目の前であの九条が自分に話しかけている、その事実が否応にも彼らの心に感動を与えていた。

「では。これから全員の合否と理由を話していくぞ」

九条はそう言うと、後ろについてきていたギルドメンバーから数枚が束になった書類を渡され、その内容を読み上げようと口を開いた。

「ちょっと待ってください!」

その時だった。

テンジの隣に立っていた立華が慌てて声を上げたのだ。

「なんだ?」

「あ、あの……草津さんはどうなったのでしょうか?」

立華が気にしていたのは、第26グループで唯一最終試験前に治療のため退場した草津郷太のことであった。

彼女は福山が言った「合否はまだ決まっていない」という言葉をずっと信じていたのだ。

しかし、九条の口からは冷徹な言葉が告げられる。

「ここに来れなかった者に合格の権利はない。まぁ、目を見張る才能があれば別だが、残念ながら草津郷太は不合格だ」

「そ、そんな……」

「質問はそれだけか? 他に質問があるやつはいるか? ……ないならさっさと進めるぞ」

九条は当たり前のように言い放った。

少なくとも立華だけじゃなく、累のチームメイトと思わしき女性――浪江雪――も肩を落としてショックを受けているのがわかった。

九条に誰も反論することはなかった。

その様子を見て、九条は徐に言葉を紡いでいく。

「では、【 Chariot(チャリオット) 】入団試験の合格者を発表する」

九条の言葉一つで、この空間がぴりっと緊張感を帯びる。

ここまで辿り着いた計10名の参加者のほとんどが、祈るような表情を浮かべた。

ここで合格すれば、その者は晴れて世界で活躍する探索師になれると保証されるのだ。

一世一代のかかった重要な合格発表が今、目の前の女性から告げられる。

九条は書類を一枚捲り、合格者の欄に書いてある名前を改めて確認する。そうしてジロリと、鋭い眼光を参加者たちに向けた。

「今年の合格者は3名だ――」

10人中、たったの3人。

例え最終試験を突破したとしても、これだけ合格には人数を絞られる。

最初の試験の段階で応募者は3000人を超えていた。そこから面接を経て104名まで選別される。そして最終試験を突破したのは、たったの10名。

さらにそこから合格者は3名しか選ばれないのだ。

これが日本でトップ10に入る有名ギルドの入団試験なんだと、ここにいる全員が痛感していた。

そして――。

九条が参加者の緊張感を楽しむように見渡してから、声高らかに名前を読み始めた。

「――朝霧愛佳、 蛇門(だもん) 飛鳥(あすか) 、水江勝成……以上、3名を今年の合格者とする」